簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と髪飾り

 休日。普段なら学園でISの訓練か勉強、もしくは簪とまったり過ごすのが恒例。

 でも今日は違う。たまの息抜きとして一夏と二人で昼、レゾナンスにある焼肉店で焼肉の食べ放題を食べに行っていた。今はその帰り道。

 

「いや~食った食った~。美味かったな」

 

 その言葉に頷きながら、満足そうに腹をさする一夏を連れて道を歩く。

 どうせ学園の外に出るのなら簪や本音を連れ来てもよかったが、今日はたまの息抜き。

 こういうのは男同士の方が気兼ねないというもので、恋人と来る時はまた違った楽しさがある。実際、俺も楽しかった。

 都会、それも駅前にある店だったので地元の店や一般的な店と比べると食べ放題の割りには割高だった気がしなくはないが、美味しかったことには変わりない。

 俺もそんな満足感を感じながら歩いていると、様々な店が多く並ぶ店通りでとある店が目に止まった。

 

「どうした? ああ、あれか」

 

 俺達の目に止まったのはアクセサリーショップ。

 見たところ、百貨店とかによくある女性向けの店といった感じ。

 

「入るか?」

 

 そんな問いを平然としてくる一夏に呆れてしまった。

 そんなわけないだろう。俺達は男二人連れなのに、女性向けの店に入るなんて普通そう簡単には出来ない。目に止まったのは単に他の店よりもなんというかきらびやかで目を引かれただけのこと。

 それに自分から入りたいって思うほどの興味もなければ、何か買いたいものがあるわけでもない。

 足を止めて悪かった。そう言いながら再び歩き出そうとしていると、そのアクセサリーショップの女性店員と目が合ってしまった。明らか俺達をロックオンした店員はニコニコと笑顔を浮かべながら近寄ってきて、話しかけてきた。

 

「よかったら、店内で見ていきませんか?」

 

「えぇっ!?」

 

 流石のって言っていいのか分からないけど、一夏も実際に声をかけられて驚いている。

 困った顔を俺に向けるのはやめてくれ。俺だってどうしたらいいのか分からない。逃げようにも逃げられないこの雰囲気嫌いだ。

 困惑していると店員は相変わらず、ニコニコとした笑みを浮かべて更に言った。

 

「男性のお客様もいらっしゃいますので遠慮なさらずにどうぞ!」

 

 確かにチラっと見れば恋人連れでぽいけど、男性客はいる。

 それに遠慮しているわけでもない。どうしたものか。

 

「えっと……あ、はい」

 

 空気に呑まれて一夏は頷き言ってしまっていた。

 もう入るしかないな、これは。仕方ない。急いで帰る必要は特にないし、見るだけならいいか。男二人で女性向けのアクセサリーショップってのはとても変な気分だが。俺と一夏は言われるがまま、店に入った。

 店内もよくある女性向けの店といった感じ。眩く光るアクセサリーの数々を見てると、目がチカチカする。そんな中、目に止まったのがヘアアクセサリー。それも何か特集をしているようで、日本の伝統的な髪飾りとして簪、髪挿しがピックアップされていた。

 

 簪、髪挿し……彼女である簪と同じ名前。

 日本の伝統的な髪飾りとして紹介されているが現代風にアレンジして作られているのかいろいろなデザインのものがある。その中でも目に止まったのが水色の花柄の平打簪と呼ばれる髪挿し。

 男なのでこういうヘアアクセサリーについて疎く感覚でしかものを言えないが、いいデザインだと思う。

 この髪挿しを何となく見ていると、頭の中でふとこれをつけた簪の姿が思い浮かんだ。

 とてもよく似合いそうだ。

 

「それ気に入りましたか?」

 

 先程とは別の店員だが、急に声をかけられビックリした。

 気に入りはしたが買うつもりはない。

 というか、ショートカットでも髪挿しはつけられるものなんだろうか。髪挿し=長い髪の女性がつけている印象が強い。

 

「渡す相手はショートカットの女性ですか? それなら大丈夫ですよ。ショートカットの女性の方でもつけられる方法はありますから。ほら、これです」

 

 そう言って店員から掌ほどの小さな冊子を渡してきた。

 中を見てみれば、髪挿しを使った様々な髪型の結び方などが割りと丁寧に紹介されていた。そして店員の言った通り、ショートカットでも結べる髪の結び方も紹介されていた。

 こんな風に結ぶのか……これなら簪の髪の毛の量でも簡単に出来そうだ。方法自体も見た感じ、そこまで難しそうに見えない。

 

「いかがなさいますか?」

 

 どうしようか。

 お土産……と言ったら変な感じだけど、プレゼントするのには丁度よさそう。リーズナブル値段だし、これを一つ買って帰るか。

 

「お買い上げありがとうございます」

 

 店員にとびっきりの営業スマイルで言われてしまった

 この笑顔を見ていると何だか上手く乗せられた気がしなくはないが、押し付けられて無理やり買わされた訳ではないから、いい買い物したことには間違いない。

 もっとも、簪が本当に喜んでくれたらいいんだけど……。

 

 

 

 

 買い物を済ませてからは店員に捕まるということはなく、一夏と真っ直ぐ学生寮に帰ってこれた。

 

「おりむー達おっかえりなさ~い~!」

 

「お帰りなさい」

 

 寮のロビーに入ると出迎えてくれた本音と簪の二人。

 特にこれから予定はなくそのまま一夏達と別れ、俺の自室で簪と過すことになった。

 帰宅したから洗面所で外着から部屋着に着替えながら、ある不安が頭を過ぎった。

 はたして本当にあの髪挿しを本当に喜んでもらえるのだろうか。

 いくら彼氏からプレゼントされたからと言って、使わない、いらないものを渡されたって困るだけの話。

 困らせたくはない。買った時は不安はなかったけど、いざ簪を前にすると不安を感じてしまう。

 だけど、ここでこのまま渡さず腐らせるのも勿体無い。

 悩むのはらしくない。当たって砕けるつもりはないが、まずは行動。

 そう決心して、洗面所を後にし、ベットに寝転がってスマホを弄りながら暇を潰している簪に髪挿しの入った箱を渡した。

 

「これは……?」

 

 中に何が入っているか知らない簪は、体を起して不思議そうに箱を見つめる。

 何が入っているのかは開けてからのお楽しみ。とりあえず、あけて欲しい。

 俺の言葉に簪は変わらず不思議そうにしながらも頷き箱を開けた。

 

「これって……」

 

 箱の中から髪挿しを取り出した簪はそれを見つめ驚いている。

 

「でもどうして」

 

 不思議そうにしながら髪挿しと俺を交互に見る簪。

 予想の範囲内の反応だ。無理もない。今日は誕生日でなければ、特別何か記念日だったするわけでもない。だから、簪にしたら渡される理由がない。

 なのでアクセサリーショップでの出来事や、似合うと思って買ったことを説明した。

 すると簪は、頷いていた。

 

「……うん」

 

 何がうんなのか気になる。

 やっぱり、突然プレゼントしたのは迷惑だったのだろうか。

 

「もう、違うってば。……ありがとう、嬉しい」

 

 簪は嬉しそうにぎゅっと箱を抱きしめ、喜んでくれていた。

 それを見て俺はホッと胸を撫で下ろす。よかった。喜んでくれたし、それに気に入ってくれたようだ。

 

「でも、これって……私の髪でも、つけられるの?」

 

 それなら大丈夫だ。

 あの時貰った手の平サイズのあの小冊子を簪に見せた。 

 

「見た感じ簡単そう……これなら私の髪でも出来そう」

 

 冊子の内容を感心しながら簪は読む。

 これなら髪挿しを持て余すことなく、本来の用途として使えるはずだ。

 それに男の自分がこれなら簡単に出来そうだと思えたんだ。髪に触り慣れている女子の簪なら、もっと簡単につけれるはず。

 早くこの髪挿しをつけている簪を見たみたい。

 

「んー……だったら、あなたにつけて欲しいな」

 

 俺が?

 この髪挿しをつけるということは、結ぶということ。

 俺に出来るのだろうか。そりゃ冊子には結び方が紹介されてはいるけど、人の髪の毛、女子の髪の毛を結ぶなんて初めてのこと。不安だ。

 それに俺が簪の髪の毛、弄り回してもいいのだろうか。

 

「今更だよ……それは。いっつも……あれだけ私の髪、楽しそうに触ってるのに」

 

 飽きたように簪は小さく笑い言った。

 うっ……それを言われると返す言葉がない。

 やってみるか。

 

「ん」

 

 ベットに上がり、端に座っているの後ろへ行き、座る。

 格好としては後ろから簪を抱きしめるよう。

 後ろからの方がやりやすい。

 じゃあ、失礼して。

 

「どうぞ」

 

 人の髪の毛、ましてや女子の髪の毛を結ぶなんて初めてのこと、何だか緊張する。

 しかし、緊張していても何も始まらない。

 今の何もしてないままじゃつけられないので、髪挿しがつけられるようまず始めに土台を冊子を見ながら作り始めた。

 髪の毛を適量取り片方、上からきつめに編みこみを作る。この時、平たく編むことで、小顔効果も期待できるとか何とか。

 やってることは簡単なはずなのに、初めてだからなのか少し難しく感じる。でも、初めてにはしては中々上手く編みこめた気がする。

 どうなんだろう。簪の反応が気になって、簪が手に持つ手鏡を覗き込むと、そこに映った簪とふいに目があった。

 

「……っ」

 

 照れくさくて二人して思わず目をそらす。

 付き合ったばかりのカップルかよ、俺達は。

 だけど、簪の後ろに座っているおかげか、耳が真っ赤なのがよく見える。

 それが何だか面白くて笑ってしまった。可愛いな、まったく。

 

「な、何笑ってるの」

 

 別に。

 耳まで編んだので、耳後ろでアメピンを使いしっかりと固定する。

 これで土台は出来た。書いてある通りちゃんと出来たはずだから、解かない限りはそう簡単に崩れたりはしないはずだ。痛かったり、苦しかったりはしないだろか不安ではあるが。

 

「大丈夫……何ともない」

 

 なら、大丈夫か。

 最後に編みこんだ髪に髪挿しを挿して、完成だ。

 

「ん、ありがとう。それで……どうかな?」

 

 俺の膝の上に横向きで座りなおし、顔をこちらに向けて簪が聞いてくる。

 髪挿しをつけた簪。

 やっぱり思った通り、とてもよく似合っている。ああ、凄く綺麗だ。

 今まで"可愛い"と思う時は何度もあったのだが、それと比べて"綺麗"と思う事は少なかったのでじーっと、簪に見惚れていた。

 

「よかった」

 

 くすりと嬉しそうに簪は微笑む。

 本当に買って、プレゼント出来てよかった。

 それに普段、簪は髪を結ばないし、髪飾りらしい髪飾りをつけることもない。だから、余計に今の簪は何というか新鮮に見える。

 たまにこんな簪もいいものだ。

 




※この話では人物名の簪と、髪飾りの簪が混同しないように髪飾りの簪は「髪挿し」と表記しました。
誤字ではないのであしからず。
ちなみに髪挿しはかんざしの由来になった言葉です。

今回楽しんでいただければ幸いです。
髪挿しつけた簪も可愛い。
最初は未来設定でロングヘアーになった簪に髪挿しをつけてもらおうと思いましたが
それは何か違うとなったので、こんなお話に。
ショートヘアーでも髪挿しつけれるんですね……

今回『【恋姫†無双】黒龍の剣』や『ラウラとの日々』の作者である盟友ふろうものさんからのクリエストにお答えしました。
氏の作品、オススメなのでどうぞ!

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは
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