無事二年生に進級することができ新学期である1学期も後1ヶ月ぐらいで終わる。
進級した2年生の生活にも俺は大分慣れてきた。慣れが必要なほど劇的な変化はなかったが。
クラスは持ち上がりな為クラスメイト全員知った人達ばかりで、勉強もこれまでの積み重ねが生きてきているのか、思ったよりも難しくはない。
正直一年生、このIS学園に入学した時と比べれば、とても穏やかな日々を送れている。慣れは恐ろしいとよく言うけど、今は偉大だと感じる。
そんな平穏な日々を送れているが、忙しい日々でもある。
来年に向けての受験勉強をしたりだとか、以前と変らずISの訓練をしたりと、毎日やることが山積みだ。暇なんて言っている暇さえないほどに。忙しいが、忙しいからこそ余計に毎日が充実としていると感じられる。
その一番の理由は、恋人である簪の存在が一番大きい。簪も忙しいのに、忙しい日々の合間を縫ったデートに付き合ってくれたり、ほぼ毎日二人だけの時間を共にしてくれては、愛してくれる。
そして何より、献身的に俺のことを支えてくれている。それが嬉しくて幸せ。
国家代表になるという目標に向けて頑張っている簪の姿は眩しいくらいに輝いていて、だからこそ俺もより一層頑張ろうと思えて、頑張れる。高め合える恋人がいるというのはこの上なく幸せなことだ。
一緒にいればいるほど、前よりも更に簪に惹かれていく毎日。簪への愛情が増していくのを自分でも恥ずかしくなるくらい分かる。正直、怖いぐらい毎日が充実していると素直に実感できる。そんな日々を送れている俺達は幸せ者だ。
二年生になって変ったことと言えば、やっぱり後輩のことになるだろうか。
学年が上がって新一年生が入学してきたのだからそれは当たり前のことで、今まで通っていた学校でも当然後輩はいた。仲のよかった後輩のは男の方が多かったが、仲のよかった女子の後輩もいるにはいたし。
だが、IS学園での後輩は全員女子。俺や一夏という例外を除いて女子ばかりの女子校で、言うなれば女の花園だ。だから、後輩が全員女子なのはここでは当たり前のことで、変なのは男である俺と一夏の方。
なので当然、俺達男二人とあまり親しくない多くの後輩達は戸惑った様子の子が多い。女子校同然だと思って入学してきた子達の多くは、女子校上がりらしいし無理もない。
それでも比較的友好的な感じを築かせてくれているのはありがたい限りだ。おかげで今のところは特にこれといった問題もなく新一年生達とも上手くやれているとは思う。
特に一夏が当然の如く上手くやっている。相変わらずと言ってもいいのかもれない。一あの人間たらしオーラ全開で、まだ一学期だというのに凄い人気。
「織斑先輩、本当カッコイイよね~! 優しくて、男らしくて、オマケにイケメンとか素敵~! 惚れちゃいそう」
「ね~! 千冬様と姉弟で二人揃って美形だもん。付き合えたらいいのになぁ~」
「無理無理。彼女持ちだよ? 織斑先輩。彼女も美女だったじゃん。住んでる世界が違うって」
「あーね……でも、本当織斑先輩いいなぁ~」
なんていう噂話を聞くのは最近では当たり前になりつつある。
どこに行ってもどんな相手でも一夏の人気は本物だ。やっぱり、一夏はそこにいるだけで良くも悪くも人をひきつけ、魅了する。自然体で沢山の人と上手く付き合っていける。まるで太陽のような存在。一夏の様になりたいとは流石に思わないが、羨ましいとは思う。
一夏の噂話だけで済んでくれたら一番良かったんだけど、そうは問屋が卸さないというか何と言うか俺も当然の如く噂話をされているようで、嫌でも耳に入ってしまう。
「もう一人の男の先輩はどうよ?」
「ああ、あの人。えーと、名前なんだったっけ……?」
「うーん、男前で織斑先輩みたいに優しいけど、なんと言うか……」
「暗いってわけじゃないけど、織斑先輩よりかは花みたいなものがなくて地味だよね」
「そうそう。地味だね」
といった具合。
この噂を聞いた時、運悪く一緒に聞いていた簪が物凄く何か言いたそうにしていたことのほうが俺の中では噂話より印象強い。
実際、簪は散々な言われようとか言っていたけど、彼女達の言っていることは当てはまっており、反論する気は特にない。花がないというか地味だという自覚はあるし、一夏と比べられるとそう言われても仕方ない。
だから、別に悪口ってことのほどじゃないのでそこまで気にもしない。ただのガールズトーク的なもののだろうし、好きな言わせとおけばいい。
そんなことを気にするよりももっと気にするべきことに俺は、俺達は直面していた。
「先輩~!」
「先輩!」
周りには沢山の後輩達。
夜、 夕食や風呂を済ませて俺達にわざわざ会いに来てくれたらしい。そして俺達を上手く捕まえて、この現状。
こういう状況は今まで何度か、それこそ俺達が一年生だった時にも似たようなのを経験したし、新一年生の子達に囲まれるのだって何度か経験している。
だけど、何度経験しても慣れない。こういう囲まれてワーキャー騒がれるのは得意じゃない。そう思っているのは俺だけのようで、同じ様に後輩達に話しかけられている一夏は普通に楽しそうだった。
「織斑先輩! 今度、私にISの実技教えてください!」
「あっ~! ズルイ! 私も私も!」
「俺に教わるのもいいけど、ちゃんと先生やちゃんとした上級生の先輩に教わった方がもっといいぞ」
なんてことを笑みを浮かべながら言える余裕があるらしい。凄い女子受けがよく、俺よりも沢山の子達に囲まれている
もう流石としか言いようがない。一夏も何度も経験しているから、嫌でも慣れたってことなんだろうけど、それでもここまで出来るのは本当に一夏らしい。
「織斑先輩もいいけど、私は先輩にも教わりたいな」
「私も~!」
逃がさないと言わんばかりに、次々と話しかけられる。
一夏よりも人数が少ないのがせめてもの救いだけど、どう接したらいいのかよく分からず、思わず困り顔をしてしまう。相槌打つのが精一杯で、一夏みたいに上手く会話をすることが出来ない。
だからと言って折角、夜も遅い時間に来てくれたから邪険にするわけにもいかない。慕ってくれているようだし尚更。だが、流石に辛い。
速く部屋に戻って、簪と勉強したいんだけどな。
横目で簪達のいるほうに少し目をやる。すると、簪は凄い顔をしてこっちを見ていた。
「じーっ」
本当に怖い顔をしているわけじゃない。普段通りの表情。
しかしそれが今の俺には怖い顔に見える。簪には悪いけど、凄く怖い。黒いオーラのようなものが見えそうなぐらい。怒らせてはないとは思うが、流石に嫌な気持ちにはさせてしまったに違いにない。
待たせてしまっていることは勿論、後輩といえ沢山の女子に囲まれているんだ。逆の立場……もしも、簪が後輩の男子達にこんな風に話しかけられていたら俺だって嫌な気持ちになるだろうし、あんな顔されても仕方ない。上手くキリをつけてさっさと抜け出せない俺が悪い。
怖い顔しているのは隣にいる本音にも分かったらしく、何やらこそこそと話しをしていた。
そして、簪はバツの悪そうな顔をしていた簪とふと目があった。
「……ふんっ」
目が合った瞬間、とっさにムッとした簪に目を背けられてしまった。
簪の機嫌がどんどん悪くなっている。そんな気がするというレベルではないほどに。
これはあれこれ思考を巡らすよりも早くこの状況から抜け出さないといけない。
・
・
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それから後輩達に解放されたのは数分後のことだった。
慕ってもらえるのは嬉しいけど、これからは上手くやらないと。
簪はと言うと、共に俺の部屋へ来た今終始無言。
「……」
黙々と勉強をしている。
無言なんてことはよくあることで簪は普段から口数の少ないほうだけど、さっきあんなに機嫌が悪かったから、気になってしまう。
何か声をかけるべきなんだろうか。いや、変に心配するようなことを言ったり、したりすると簪は気にそうだ。おそらくだけど、機嫌悪いこと自覚していて、それを少しでも外へ出ないように努めているだろうから、今はそっとしておくのが一番いい。
今夜は無理でも寝て明日になったら、簪の機嫌はよくなっているはずだ。そう願いたい。
気になってしまう無言の雰囲気だけど、仕方ない。
俺も勉強に専念しよう。
「……ねぇ」
勉強を始めて数十分、ようやく簪が口を開いた。
凄い躊躇って言った簪の視線の先には、小さめの紙袋が一つ。
「……一つ聞いていい? それ……後輩の子から……?」
頷いて答える。
この紙袋はさっきいた後輩の子から貰ったもの。
中身は簡単な手作りのお菓子らしいけど。
「そう……よかったね」
お菓子までくれるなんてよっぽど慕ってくれていることなんだろうから、よかったんだけど簪の言葉に毒を感じるのは何故なんだろうか。声色は普段通りのもので、俺にやましい気持ちとかがあるからそう思ってしまうのかもしれない。
確かによくないよな。彼女がいるというのにこういうの他の女子から貰うってのは。だがしかし、これは下心とか打算抜きでただ慕ってくれたものだし、無碍にすることも出来ない。でもな……。
自分では答えの出ない思考に囚われる。何だか愚痴っぽくなってきた。よくない。
「……」
簪は再び黙々と勉強をしているが、さっき以上に無言なのが気になってしまう。
流石に何か言わないといけないような気がする。でないとこの間を保てそうにない。
しかし、いい言葉が浮かばない。何を言っても、簪を怒らせてしまいそうな気がしてならない。
唯一言えた言葉は、すまない。そんな謝罪の言葉でしかなかった。
「……何で」
震えた様子で言う簪。上手く聞き取れず聞き返してしまった。
「……何でそっちが謝るの? あなたは悪くないのに……どうして」
キッと睨まれながら、簪に怒られてしまった。
そうだよな。俺が悪いと思っただけで、簪にしたら理由がない謝られられても困らせるだけでしかない。結局、怒らせてしまった。何も言わなかった方がよかった。
「ずるいよ……いつもいつも」
そう簪に言い責められ、俺は何も言うことが出来ない。
本当、ずるいと思う。こんなことを言うなんて。
だから、何を言われても甘んじて受けるしかない。
「……こっちへ来て」
呼ばれて大人しく簪の前へと行く。
目の前まで行くと簪が怒っているのが改めてよく分かる。普段こんなことないからつい身構えてしまう。
「……」
俺を見て、思いつめた表情をする簪。
何事かと思っていると。
「んっ、ちゅっ……!」
俺は、簪に押し倒され、キスをされていた。
簪が強引に唇を押し当ててくる。それだけ終わることはなく、驚いた拍子に空いた隙間へと簪は器用に舌を差し込んで、舌と舌を絡めてくる。
「……んんッ、んっちゅっ……んちゅッ、ちゅっ、ちゅっ、んんっ、ちゅゅっ……んんッ!」
文字通り貪るような深いキス。
それ自体は何も初めてのことじゃない。だが、ここまで激しく、一方的なのは初めて。だからなのか、始めて見る俺の知らない簪の姿に俺はただただ戸惑うばかり。
そんな俺を他所に簪は舌を絡めながら、俺の上へと馬乗りになっていた。
「ん、んん……ちゅっ、ちゅゅゅっ……んはぁっ、ぢゅぅっ、ちゅゅぅっ……ちゅっ、ちゅっ、あむ、ちゅゅっ、んちゅっ、ちゅっ、あむちゅっ……ちゅゅっ、んんっ! ぢゅぅっちゅっ!」
簪は、ただひたすら貪るような激しキスをしてくる。
それに俺は必死に応じるしかなかった。やはり、簪がこんなことしてくるなんて、よっぽど怒らせてしまったに違いないのだから。
しかし、突然押し倒されてからのキスだったので辛い体勢で、身を捩じらせ姿勢を楽にしようとする。その時、反射的に簪を抱きしめようとした。
だが、その行動が読まれていたかのように抱きしめようとした手をつかまれ、元に位置に戻される。
そして、キッと睨むように見つめて簪は言った。
「大人しくしてて。それと、さっきごめんなさいって……悪いと思ったから言ったんでしょう? だったら……悪い子には沢山お仕置きしないとね」
小悪魔でも連想させるような意地悪な微笑を浮かべる簪。
そんな簪の艶めかしい笑みに思わず、ゾクっとするものを感じた。
すると簪は、ゆっくりと下半身の方に手を伸ばしてきた。
「……ここ、こんなに固くして。まったく……えっちなんだから」
簪が言えた事じゃないだろと思ったが、反論の言葉を言うことも、抵抗することも許さないかのように、簪は再び口付けてくる。
下半身の方をまさぐり、そして――。
・
・
・
「はぁ……」
ベットの上で体育座りした簪は、顔を伏せて深い溜息をついて、物凄く落ち込んでいた。
部屋は明るいのに、簪の周りだけどんより暗いオーラみたいなものが漂っている気がするのは気のせいか。
「……最低だ、私。物凄いことを、それどころかとっても酷いことしちゃった……。はぁ……八つ当たりだなんて……本当最低。あんないやらしい意地悪なことまでして……ううっ、穴があったら埋まって二度と出てきたくない」
ぶつぶつといろんなことを言う簪。
俺は簪の隣へに腰を降ろし、肩を抱くようにして少しでも簪の気分が落ち着くようにする。
まあ実際、今夜の簪は凄かったのは否定しようのない事実。いつもは俺がするばかりだけど、最初から最後まであんな小悪魔的に意地悪っぽく簪に責められるのは初めてだった。耳の穴まで舐められたし。
だからこそ、簪の新しい一面、Sっ気むき出しなのを見れたのは、何だか斬新でよかったんだけど。
「うぅっ……そんなこ言ったって……八つ当たりしたのも、後輩にみっともなく焼きもち焼いたのも事実。明日も学校なのに」
そうだったな。
しかも、時間は日付が変った夜の十二時過ぎ。部屋からの外出禁止時間なんてとっくに越えていて、今更簪を帰すことはできない。休みでもないのにそれを破ってしまった。簪は変に真面目だから、余計に簪は自己嫌悪に陥っているのだろう。
しかし、俺だって同罪だ。そう思い謝りかけようとすると簪に言われてしまった。
「謝らないでよ。というか……謝ったら、私次はもっと怒るから」
そう言われて黙るしかない。それもそうだ。
俺に今許されるのは少しでも早く簪の気持ちが落ち着くようにこうしてよしよしと背中をさすってあげるぐらい。
「もう、自分が嫌。めんどくさくて、すごい焼きもち妬き……こんじゃ、あなたに幻滅されてしまう……」
時間が経てば経つほど簪の自己嫌悪は悪化していっている。
ってかやっぱり、さっきのは焼きもちからだったんだ。
「やっぱり、幻滅された……。そう、だよね……あの子達のこと知らないから万が一あなたのことを好きになったらって考えたらどうしようもなくて……自分が嫌になる。後輩、しかも年下の子に焼きもち妬くなんてみっともない女だよね……」
幻滅なんてしない。
というか、そんなこと思ったこともなかった。
思ったことと言えば、嬉しいという思いぐらいなもの。
「嬉しいって……」
怒っていた理由が分かって。
焼きもちから、あんな激しくて意地悪なことをしたんだと分かると、簪が可愛くて仕方ない。
一方的だったけど、何処かではちゃんと俺のことを思って行動なんだと俺にはそう思えて、嬉しい。
いいように解釈しているってことは分かっているけど、それでもだ。
それとまたずるい言い方になるだろうけど、そんなに自己嫌悪に陥られると、俺は結局謝ることしかできない。それはお互い嫌なことだ。
だから、少しでいいから顔を上げて欲しい。
「本当に……幻滅しない……? 嫌いになったり……?」
伏せていた顔をゆっくりと上げ、不安そうな表情をする簪。
幻滅はもちろん、嫌いになるだなんてとんでもない。今夜のことで簪の新しい一面を知れて、更に好きになった。
それにこのぐらい感情的な簪を受け止めるのが、男としての甲斐性だと俺は思う。なので、そんなにもう自己嫌悪しないでほしい。
「男の甲斐性って……何それ。ふふっ」
ようやく簪が笑ってくれた。
「ごめんなさい。酷いことして……痛いところとかない……?」
全然。
焦らされて辛いものはあったがむしろ、何度も言うがあんな風に簪に一方的に攻められるのは斬新で、気持ちよかった。
「変態……」
じとっとした目で簪が言う。
簪が言えたことではないと思うがな。簪も変態だ。
「ぅぅ……そうかも。私達、変態カップル……になるのかな」
多分な。
そう言って二人で笑いあった。
今夜のことは忘れられそうにない。
簪のあんな凄い姿が今でも脳裏に鮮明に焼きついている。
「やだっ……! 忘れてよ……!」
頬を赤く染め恥ずかしそうに俯く簪。
忘れろだなんて難しい相談だ。
あんな可愛い簪を忘れだなんて酷だともう。
「もうっ、馬鹿なんだから……っ。……はい」
突然、簪が両手を広げていた。
まるでそれは抱きついてこいと言わんばかり。
「酷いことしたのは事実だから……ぎゅっとしてたくさん癒してあげたい。それに今日はもうお泊りするしかないから、今はもちろん、寝ている時も起きた時もたくさん私に癒させて……?」
と小首をかしげて簪が言う。
上目遣いなのはわざったなんだろうか。そんな可愛らしく聞かれれば、頼むしかない。
俺は、お言葉に甘え抱きつかせてもらった。
そして、そのまま二人一緒にベットへと横になる。
「ふふっ……心地いい。幸せ……」
ベットの那賀で二人寄り添いあいゆっくりとまどろむ。
気持ちのいい暖かさ。
これなら疲れも相まって、ぐっすり眠れそうだ。
…
ミカドン様のリクエストで「簪の嫉妬。可能ならR18で」書かせて頂きました。
リクエストをいただいたミカドン様はもちろん、他に読んでいただいた方にも嫉妬した簪さんとのやりとりを楽しんでいただけば幸いです。
読んでいたら分かると思いますが、簪さん達は進級しています。
何か思うところがあっても、適当に流してください。
この話から進級した簪さん達の話をやっていきます
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。
それでは