簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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前回の話の簪視点となります。ご了承を


嫌な私を受け入れてくれる素敵な恋人

 二年生になり、新学年度が始まって、早いものでもう一年の半分が終わろうとしている。

 進級した二年生の生活にも大分慣れてきた。もっともクラスは持ち上がりで、彼や本音達とは変わらず別のクラスのまま。授業内容については二年生用のものになっただけで、普段の生活は特に変化はない。

 だからといって忙しくないわけじゃない。来年に向けての受験勉強をしたりだとか、私更識簪が日本国の正式なIS操縦者国家代表になる為の訓練とかすることは山済み。

 忙しいけど、大切な愛しい恋人である彼とのお付き合いはとても順調。忙しい日々の合間を縫ってデートをしてくれたり、彼も同じくらい忙しいのにほとんど毎日二人だけの時間を作ってくれては、愛してくれる。

 それが嬉しくて幸せ。一緒にいればいるほどどんどん彼に惹かれていく。正直、怖いぐらい毎日が充実していると素直に実感できる。そんな日々を私達は送っている。

 

 あえて変化を一つあげるとすれば、後輩が出来た。

 学年が上がって新一年生が入学してきたのだからそれは当たり前のことで、今まで通っていた学校でも当然後輩はいた。本当にただ下の学年ってだけで大した関係も関わりもなかったけど。

 新一年生の中には顔と名前ぐらいは何となく知っている専用機持ちでないけど、同じ日本の代表候補生の子もちらほらいた。

 

 IS学園を彼の言葉を借りて一言で表すのなら、女の花園。

 そう思って入学してきた一年生もいるらしく、そんな女だけの学校に織斑や彼のような男子がいるというのは普通に考えてみるとおかしい。まあ、二人は事情が特殊だから仕方ない面はあるけど。

 それに私達や上の先輩達は、一年間以上も一緒に学校生活を送ってある意味慣れてしまった。だから今更、男二人がいることについて何か思ったりはしないけど、そうではない新一年生の子達の多くはまだ戸惑っていることが多い。

 それでも何だかんだで世渡り上手な二人。特にこれといって問題を起すことも巻き込まれることもなく、一年生とも上手くやっている様子。

 特に織斑は……何というか相変わらず。女たらしならぬ人間たらしオーラ全開でまだ一学期だというのにも関わらず、一年生にも大人気。

 

「織斑先輩、本当カッコイイよね~! 優しくて、男らしくて、オマケにイケメンとか素敵~! 惚れちゃいそう」

 

「ね~! 千冬様と姉弟で二人揃って美形だもん。付き合えたらいいのになぁ~」

 

「無理無理。彼女持ちだよ? 織斑先輩。彼女も美女だったじゃん。住んでる世界が違うって」

 

「あーね……でも、本当織斑先輩いいなぁ~」

 

 なんていう噂話は日常茶飯事。どこに行っても似たような噂話を聞くから最早聞きなれてしまった。

 だからこそ、織斑の人気は本物なんだと嫌でも分かる。正直、お姉ちゃん以上の人気があるかもしれない。

 いいことなのは確かだけど、ここまで人気だと本音が気の毒。

 

 いや、私も他人事じゃないけど。

 彼も織斑と同じくああいった噂話みたいなものはされる。

 その内容は悪い噂話ではないけど、織斑と比べてしまうとある意味対照的と言えなくはない。

 

「もう一人の男の先輩はどうよ?」

 

「ああ、あの人。えーと、名前なんだったっけ……?」

 

「うーん、男前で織斑先輩みたいに優しいけど、なんと言うか……」

 

「暗いってわけじゃないけど、織斑先輩よりかは花みたいなものがなくて地味だよね」

 

「そうそう。地味だね」

 

 といった感じ。

 花がないとか、地味だとか、散々な言われよう。私が思うに織斑がただ単に目立ちすぎな気がする。いい意味でも、悪い意味でも。

 この噂話について思うことは当然あるけど、彼女達がそう感じたことを否定は私に否定することはできない。それは自分のことを棚上げしているようなもの。付き合う前、まだ彼のことを全然知らない時、私も彼のことを花がないとか、地味だとか似たようなことを感じていたから。

 それにこの噂話のことを彼はちゃんと知っている。花がない、地味という自覚はあるらしい。でも、彼はこんな噂話は気にしてない。

 だから、私が一人勝手に彼女達何か言ったりするといったことはできない。彼が気にしないのだから、私も気にしない。

 これはこれでいい。これでいい……はずなのにそれよりも私に気になってしまうことがある。

 

「織斑先輩! 今度、私にISの実技教えてください!」

 

「あっ~! ズルイ! 私も私も!」

 

「俺に教わるのもいいけど、ちゃんと先生や上級生の先輩に教わった方がもっといいぞ」

 

「私は織斑先輩もいいけど、先輩にも教わりたいな」

 

「私も~!」

 

 夜。ついさっきまで夕食だったりやお風呂だったにも関わらず、態々二年生の寮まで来ている一年生の子達。お目当ては言わずもがな織斑と彼の二人。彼女達に囲まれ、騒がしく話しかけられている二人の様子は対照的だった。

 沢山の一年生に囲まれている織斑は、慣れたもので愛想よくいつものあの感じで一年生達とやりとりして、相変わらず女子受けがいい。

 数人の一年生に囲まれている彼はと言うと、いつになっても慣れないといった感じで困った様子ながらも一応無難に応じてはいる。その困り顔が一年生達にいいらしく若干黄色い声が上がっている。

 

 こんな光景もある意味では見慣れてしまったもの。

 私達が一年生だった時にも似たような光景は何度も見たし、今みたいに新一年生に囲まれる光景も今回が初めてじゃない。今更、気にする必要はない。

 でも、何だか落ち着かない。ううん、きっと勘違い。

 

「夜でもすっごい人気者~いいね~」

 

 隣にいる本音は、のんきなことを言っている。

 

 私達はというと、離れたところで二人の様子を見守っている。

 早く部屋に行きたいから、本当なら見てるんじゃなくて助けに行くべきなのかもしれないけど、今私達が入ったらややこしいことになりそうな気がする。

 彼女達は、おそらく多少の下心はあるだろうけど、二人が私達それぞれと付き合っていることは知っているみたいで、普通に先輩後輩の付き合いをしているだけ。それなのに彼女とは言え、こんな時でも私達が一々しゃしゃり出るってのはどうなんだろうと思わないこともない。

 それに本音が言うように人気者なのはいいこと。男子である二人がIS学園で生活していくなら、嫌われていたらいけない。人気がないよりかはあったほうがいい。

 今彼は後輩達と仲良く話をしてる。ただそれだけのこと。

 

 だというのになんだろうこの感じ。落ち着かなくて、凄いモヤモヤとした感覚。

 正体が何なのかは分かっている。ただ言葉にしてまうと、とても嫌な気分になってしまうそんな私の嫌いな気持ち。

 

「かんちゃん、顔怖いよ~?」

 

「……うっ」

 

 引きつった顔で言う本音を見て、私はバツが悪くて何も言い返すことが出来ない。

 

 気をつけていたのに、気づかないうちに顔に出てしまっていたみたい。情けない。

 認めたくはないけど、この落ち着かなくて、凄いモヤモヤとした感覚は焼きもち。更にあえて言うのなら、私は嫉妬している。おそらく彼女達に。

 先輩後輩の付き合いなんてことのないありふれたいつものことで、今更嫉妬するほどのことじゃないって分かっているのにどうして私はこうなんだろう。 私ってこんな感じだったかな。

 

「彼氏君がこっち見てるよ、かんちゃん」

 

 その言葉に釣られて、視線を彼のいる方へやると、運悪く目が合ってしまった。

 怖い顔している私に気づいてしまったのかと思ったけど、それだけじゃないらしく、助けを求めているような目をしていた。

 彼の気持ちは分かるけど、だからって私も助けを求められても困る。助けあげたいけど、そんなことしたらやっぱり厄介なことになりそうな気がする。酷い話なのはわかってるけど、自分でどうにかしてほしい。

 

「……ふんっ」

 

 ムッとした私は、とっさに顔を背けてしまった。

 やってしまった。いくらなんでもこれは無愛想過ぎた気がする。

 でも、やってしまったことには変えられない。

 

 いつもみたいにどんと構えていればいいのに、本当に情けない。

 どんといつも構えていたけど、自分では気づかないうちに溜め込んでしまっていたのだろうか。だから、今こんな風になってしまった気がしてきた。

 しかし、そうだとしても顔に出てしまうなんてみっともなくて自分で自分が嫌になる。こんなことじゃ、本音どころか彼にまで要らぬ心配されてしまう。

 こんな嫌な私なんて、本当大嫌い。

 本音も思うものはあるだろうけど、私から見て本当に普段と変らない様子だから尚更、自分が惨めに思えてくる。

 

「何か怒ってる?」

 

「……そうかも。だから、ごめん……本音、ちょっとそっとしといて」

 

「う、うん」

 

 本音を怯えさせてしまったけど、これ以上気にしてられない。

 モヤモヤがどんどん強くっていくのが嫌でも分かってしまう。

 このままはよくない。このままだと彼に酷い八つ当たりをしてしまいそうで怖い。

 どうにかして少しでも早く気持ちを切り替えてしまわないと。

 

 

 

 

 あれから彼が後輩達に解放されるのに数分の時間を要した。

 その後、再び彼が後輩に捕まるということはなかった。むしろ、そうならないように彼は気をつけていたようで、すんなり二人一緒に彼の部屋へと来ることが出来た。

 そして、いつも通りお互い黙々と自分の勉強をする。会話はない。お互い終始無言。あるのは沈黙のみ。

 

「……」

 

 向かい側にいる彼は黙々と勉強をしている。

 だけど、その内心では私の様子を気遣うように伺ってくれていることは私には痛いほど分かる。モヤモヤとしたのを何とか内でどうにかしようとしているけど、多分表に出てしまっているんだろうな。

 結局、彼に心配されて情けない気持ち一杯で彼には悪いけど、もう少し無言のままでいてさせてほしい。でないと本当に八つ当たりしてしまいそう。

 そうして無言のまま勉強を無理やり続けていると、ふと顔を上げた時、小さめの紙袋が一つ目に止まった。

 あれって確か彼が帰り側からずっと持っていたもの。誰から送られたものなのかはちゃんとは分からないけど、何となく察しがつく。ついてしまう。確認するまでもないけど、今は確認せずにはいられなかった。

 

「ねぇ」

 

 私の呼びかけに顔を上げた彼に聞いた。

 

「……一つ聞いていい? それ……後輩の子から……?」

 

 そうだと頷いて彼は答えてくれた。

 やっぱり……。ちなみに中身は簡単なお菓子らしい。それも予想の範囲内。

 別に彼が他の女子から何かを貰うのは嫌じゃないはず。後輩からということは彼を慕ってくれてのことだとは私でも分かる。これは慕ってくる好意を明確に示すもの。

 だけど、態々お菓子なんて渡すかな? 織斑にも渡してたのならまだいいけど、もし彼にだけ渡してたらと思うと何だかいい気はしない。そもそもこのお菓子、手作りなんじゃ……確証はないけど、勘みたいなものがそうだと告げている。

 ううん、よくないよくない。これはただの好意なのにいくらなんでも勘ぐり過ぎ。そう思っても、一度そう考えてしまったからなのか、その考えが離れない。何だかまたモヤモヤとしてきた。我慢しないと。

 

「そう……よかったね」

 

 そう言った自分が心底嫌になった。

 愛想がなさ過ぎる。それどころか、こんなんじゃ毒づいてるのと変らない。

 どうしよう。流石の彼も私の言葉を聞いて驚いてる。

 酷い言い方したから謝らないといけないのは分かっているけど、今何か言おうとしたらこのモヤモヤを彼にぶつけて八つ当たりしてしまう。

 とりあえず、気持ちが落ち着くまで勉強に集中しよう。そうすれば、きっといつもの私の戻れるから。

 私はそう決めたけど、それは私が勝手に決めたこと。先に彼は、申し訳なさそうにして謝ってきた。

 

「……何で」

 

 声が震えてしまう。

 

「……何でそっちが謝るの? あなたは悪くないのに……どうして」

 

 本当は何で謝ったかなんて聞くまでもない。

 生真面目な彼のこと。この場を手っ取り早く収める為にとりあえずで、謝ったわけじゃないことは嫌でも分かる。私の様子を見て、自分に非があるんじゃないかと考え、結論にたどり着いての心からの謝罪。

 でも、例え彼が自分に非があるという結論に辿りついても彼が悪くないことには変わりない。謝られたって困る。悪いのは私なんだから。あの後輩達に焼きもち焼いて拗ねている私が一番悪い。

 

「ずるいよ……いつもいつも」

 

 私が機嫌が悪い時、いつも謝って折れてくれるのは彼のほう。今回もそうなってしまった。

 こんな風に謝られてしまったら、本当は私の方が謝らないといけないのに、ますます謝りにくい。本当にずるい。

 そして何より、こんな風に自己中心的にしか考えられない私が一番ずるい。卑怯者。

 

 ふと彼を見る。

 やっぱり、自分に非があって、自分の方が悪いと思っている彼は、何を言われても甘んじて受けようとしている。相変わらず、生真面目すぎるほど生真面目。そこが彼の素敵なところ。彼の好きなところであるんだけど、その様子が今の私の癇に障った。

 そういう態度を取るのなら、こっちにも考えがある。

 

「……こっちへ来て」

 

 呼びかけに彼は素直に応じてくれる。

 私が怒っていると思っているみたいで、彼は私の前に来てくれたけど、身構えている。

 実際怒っているのは間違いじゃないけど、いくらなんでもそんな風に身構えられたら傷つく。

 というか、余計に癪に障る。だから、私は思いきって行動に出た。

 

「んっ、ちゅっ……!」

 

 私は彼を押し倒して、キスをする。

 かなり強引に自分の唇を彼の唇へと押し当てる。それだけでは終わらない。突然のことに驚き彼の口が開いたのが分かると、そこへとっさに舌を差し入れ、舌と舌を絡める。

 

「……んんッ、んっちゅっ……んちゅッ、ちゅっ、ちゅっ、んんっ、ちゅゅっ……んんッ!」

 

 熱に浮かされたように私は彼へと深く激しいキスを何度もする。

 こんな激しいキスをするのは初めてかもしれない。まるで何かに取り憑かれたよう。最早、唾液で口の周りがベトベト。

 しかし、それでもやめない。やめようとも思わない。それほどまでに粘膜同士が擦れる感覚が、ひどく気持ちいい。彼の唾液もまた、まるでご褒美のように美味。

 それに戸惑う彼が珍しくて、そんな彼の姿が私の興奮を高ぶらせる。

 いつしか私は彼の上へと馬乗りになるように上がり、キスを続けていた。

 

「ん、んん……ちゅっ、ちゅゅゅっ……んはぁっ、ぢゅぅっ、ちゅゅぅっ……ちゅっ、ちゅっ、あむ、ちゅゅっ、んちゅっ、ちゅっ、あむちゅっ……ちゅゅっ、んんっ! ぢゅぅっちゅっ!」

 

 まるで私は貪るかのように彼へとキスを続ける。

 彼は相変わらず甘んじて受け入れる気持ちは変わってないようで、受け入れては必死に応じてくれている。

 突然、私に押し倒されて体勢が辛かったみたいで上にいる私を気遣いながら、身を捩じらせ姿勢を楽にしようとする。

 その時、何となくにだけど彼が抱きしめてくるのが分かった。らしいといえばらしいけど、何だか往生際が悪い。甘んじて受け入れるのなら、大人しくしててほしい。

 抱きしめようと伸びてきた彼の手を掴んで元の位置へと戻すと、私は諭すように彼に言った。

 

「大人しくしてて。それと、さっきごめんなさいって……悪いと思ったから言ったんでしょう? だったら……悪い子には沢山お仕置きしないとね」

 

 自分でもとんでもないことを言っている気はするけど……今はいい。

 ただ今は困惑している彼の様子が可愛く思えて、そんな姿を私にだから見せてくれているのだと思うととても気分がいい。

 

 苛めるように彼の身体を触れていると、彼の下半身……とある場所がその存在を強く主張していた。

 責められているって分かっているのに、こんなになっているなんて。まったく、仕方ない人。

 

「……ここ、こんなに固くして。まったく……えっちなんだから」

 

 何だか彼は反論したそうな表情をしていたけど、ダメ。許さない。

 私は再び、彼へと口づけする。

 そのままゆっくりと下半身のほうを触れ、そして――。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 もう何度目のなのか分からない深い溜息を私はつく。

 溜息ついていたら余計に気持ちが沈むだけなのは分かっているけど、こうしてベットの上で体育座りしているほうがまだマシ。

 というか、彼に対してバツが悪くて、顔が上げられない。

 

「……最低だ、私。物凄いことを、それどころかとっても酷いことしちゃった……。はぁ……八つ当たりだなんて……本当最低。あんないやらしい意地悪なことまでして……ううっ、穴があったら埋まって二度と出てきたくない」

 

 今更言っても仕方のないことが愚痴となってとめどなく溢れてくる。

 夜の営み(・・・・)をして彼の部屋のシャワーで汗とかを流すと、熱に浮かされていた頭がだんだんと冷えてきて、我に返った。そして、自己嫌悪に陥っている今へ至る。

 

 とんでもないことをしてしまった。

 いつもは彼にしてもらってばかりなのに、今夜は最初から最後まで私がしてしまった。ただ最初から最後まで私がしてあげられたのならまだよかった。

 でも、今夜は苛めて辱めるように責めてしまった。こんなの八つ当たり以外の何もでもない。

 耳の穴を舐めてみたりとか今考えると変態プレイでしかない。

 

 彼はというと隣に腰を降ろして、肩を抱いて少しでも私の気分が落ち着くように慰めてくれる。

 私のしたことを彼は特に気にしてない様子。私の新しい一面、Sっ気むき出しなのか新鮮でよかったなんて言ってくれているけど、それでも私の自己嫌悪は止まらない。

 

「うぅっ……そんなこ言ったって……八つ当たりしたのも、後輩にみっともなく焼きもち焼いたのも事実。明日も学校なのに」

 

 休みならまだしも明日も一日学校がある普通の日。

 オマケに今の時間はもう部屋からの外出禁止時間なんてとっくに越えている。今更帰ることなんて出来ない。休みでもないのにそれを破ってしまった。彼に余計な迷惑をかけてしまった。

 それでも相変わらず彼は気にしてない。それどころかまた自分も悪いと思っているようで、謝ろうとしているのが分かった。

 

「謝らないでよ。というか……謝ったら、私次はもっと怒るから」

 

 私の気持ちを察してくれたようで、彼は口を紡ぐ。

 

 今謝られたら、益々気が滅入ってしまう。

 だって、焼きもち妬いて我を忘れていたとは言え、本当にとんでもない馬鹿なことをしてしまったのだから。

 やったことは今更変えようのない事実。思い返せば思い返すほど、自分の馬鹿さ加減、みっともなさを改めて思いさせられる。

 

「もう、自分が嫌。めんどくさくて、すごい焼きもち妬き……こんなんじゃ、あなたに幻滅されてしまう……」

 

 自分勝手で八つ当たりしてしまうような女なんて彼に幻滅されても仕方ない。

 それに焼きもち焼いてたと白状すると、彼は納得したなことをぽつりと言っていた。

 私にはそれが幻滅されたように聞こえて凹む。

 

「やっぱり、幻滅された……。そう、だよね……あの子達のこと知らないから万が一あなたのことを好きになったらって考えたらどうしようもなくて……自分が嫌になる。後輩、しかも年下の子に焼きもち焼くなんてみっともない女だよね……」

 

 同年代にすら普段焼きもちなんて焼かないのに年下に焼きもち焼いた自分がみっともない。

 後輩達のことを同年代ほど知らないからってのは分かっているけど、それでもみっともない。

 

 だけど、彼は嬉しかったらしい。

 私のした事が、焼きもち焼いたことが。

 

「嬉しいって……」

 

 建前や嘘で言っているわけじゃないことは分かる。彼はそういうこと言う人じゃない。これは彼の本心からの言葉。

 顔をあげるように言われ、私は恐る恐る顔を上げた。

 

「本当に……幻滅しない……? 嫌いになったり……?」

 

 正直、今だって彼の顔を見るのが怖い。

 だから、恐くてこんなずるいことを聞いてしまう。

 そんな私の不安を打ち消してくれるかのように彼は冗談交じりなことを言った。

 

「男の甲斐性って……何それ。ふふっ」

 

 彼曰く、こんな私を受け止めてみせるのが男の解消って奴らしい。

 何だかおかしくて私はつい笑ってしまった。

 私が笑うと、彼もホッとした様子。私もホッとしたし、いつしかあのモヤモヤはなくなっていた。

 

 「ごめんなさい。酷いことして……痛いところとかない……?」

 

 傷や跡が出来るような本当に酷いことは流石にしないけど、万が一ってことがある。強く握ったりしちゃったわけだし……。

 手首とか見せてもらったけど、傷や痕はない。綺麗なまま。

 よかったんだけど、私にあんな風に攻められるのも斬新で気持ちよかったって……。

 

「変態……」

 

 彼ってたまにこんな変態チックなことをさらっという時があるから、ビックリする。

 でも……たまになら、今日みたいに彼を攻めるのもいいかもしれない。喜んでくれるみたいだし、本当たまにならだけど。

 そんなことを考えていると、私も変態だと言い返されてしまった。

 

「ぅぅ……そうかも。私達、変態カップル……になるのかな」

 

 言い返したいけど言い返せない。

 私達とは言ったけど、変態なのは私の方。

 むっつりすけべだと言われても仕方ない、耳舐めなんていう変態プレイまでしちゃったから。

 

 正直、今夜のことは忘れてしまいたい。

 なのに、彼は楽しそうにあの時のことを言ってくる。

 

「やだっ……! 忘れてよ……!」

 

 恥ずかしくては私は彼から顔を背けて、そっぽを向く。

 

 可愛いから忘れられないとか馬鹿じゃないの。

 そりゃ嬉しいけど、今は恥ずかしさの方が勝って、嬉しさを誤魔化すようなことしか言えない。

 

「もうっ、馬鹿なんだから……っ。……はい」

 

 誤魔化し続けに、私は両手を広げていた。

 

「酷いことしたのは事実だから……ぎゅっとしてたくさん癒してあげたい。それに今日はもうお泊りするしかないから、今はもちろん、寝ている時も起きた時もたくさん私に癒させて……?」

 

 都合のいいことばっかり言っているのは分かっている。

 でも、今日はたくさん彼に酷いことをしちゃったから、そのお詫びがしたい。

 それに彼に何かしてあげたい気持ちは今も変わらない。するならするであんな酷いことじゃなくて、たくさん癒してあげたりしたい。

 

 私のお願いに彼は、素直に甘えくれて抱きついてくれる。

 感じるずっしりとした彼の重み。やっぱりってのは変だけど、男の人なんだなって思う。

 体温もエッチの時とは感じ方が違う。優しい暖かさに今私が癒しているはずなのに、私の方が癒されて、彼へと溶けてしまいそうになる。

 

 そして、そのまま二人一緒にベットへと横になる。

 

「ふふっ……心地いい。幸せ……」

 

 腕の中で彼が気持ちよさそうにまどろんでいるのがよく見える。

 そういえば、休みでもないのに起きたら真っ先に彼と会える。

 そう思ったら、こんな日も悪くはないかな。

 

 

 

 

 遠くのほうで聞き馴れない音が聞こえる。

 でも、何の音なのか分かる。これは朝が来たことを告げる目覚ましの音。

 意識はおぼろげながらも起きてきたけど、眠気でまだ完全には冴えず、いつもスマホを置いてある場所に手を伸ばす。

 

「……あれ……?」

 

 でも、触れられない。何度そこに手をやってもスマホには触れられず、仕方なく目を開け、体を起す。

 スホマはすぐ見つかった。やっぱり、いつもとは違う位置にあった。

 スマホの画面を見ていると更に目が覚めてきて、まず始めに衣服の違いに気がついた。

 激しい乱れはない。ただ、いつものパジャマではなく、下着の上に薄いワイシャツを羽織っただけ。

 

「……これって」

 

 しかも、女物ではなく男物。オマケに辺りを見渡すとここは私の部屋じゃない。

 隣で寝ているはずの本音の姿はおろか、ベットすらない。

 

 ここはどこなんだろう。記憶を遡る。

 すると、頭が完全に覚めたおかげかすぐ答えにたどり着くことが出来た。

 そうだった……ここは彼の部屋。昨日の出来事があって泊まらせてもらったんだった。

 そして、これは彼のワイシャツ。今は履いている前に置いていった下着同様、ちゃんと綺麗に洗濯したなものだといわれた記憶はあるけど、衝動的にって言ったらいいのか、思わず匂いを嗅いでいた。

 

「……ん」

 

 鼻をクンクンさせる。

 当然の如く、柔軟剤とかの匂いがするばかり。でも、私にはそれ以外にも匂いが、彼の匂いを感じて、ドキドキしてしまう。

 学校の朝はいつも忙しくてゆっくりしている暇はないんだけど、ワイシャツをクンクンしていると、安心してまどろんでしまう。

 それほどまでに安心できる暖かないい匂い。

 

「―-っ!」 

 

 ふと、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。

 すぐさま我に返り、音がした方向を向く。すると、そこには彼がいた。制服に着替えていて、髪がほんの少し濡れている。先に身支度でも終わらせたのかな。

 悪いことはしてないはず。今更恥ずかしがることもないんだけど、心臓がバクバクしてる。これは急なことにビックリしたからだけのこと。私は至って平静な態度をした。

 

「……おはよう。早いね、何時に起きたの……?」

 

 平静を装う私に彼はくすりと微笑んでから、答えてくれた。

 うっ……多分、いろいろバレた。

 聞けば、今の時間よりも三十分以上も早く起きたらしい。

 起きた今の時間はいつも起きる時間で遅くはないけど、彼は凄い早起き。本当にいつも早い時間に起きてるんだ。

 でも、彼が日課にしているトレーニングした様子はない。早起きしてたら、当然今の時間まで余裕が出来る。今まで何してたんだろう?

 

「なっ……!」

 

 聞いて思わず変な声が出てしまった。

 ついさっきまで私の寝顔を眺めてたって。

 恥ずかしい。というかそれ、私がしたかったのに……。

 

「……もうっ」

 

 恥ずかしがっている私を楽しそうに嬉しそうに見ている彼。

 どうせ、可愛いだとか変なこと思ってるんでしょう。

 別に嬉しくないわけじゃないけど。

 

「あ……」

 

 ふいに頬を触れられる。

 瞬間、何をされるのか分かった。私は、静かに目を閉じそれ(・・)を待つ。

 

「……ん」

 

 触れあう唇と唇。

 ただそれだけのことだけど、今はこれで充分。

 これ以上のことをすると、もっとしたくなっちゃう。

 

「……別にこんなことされても……誤魔化されないんだから」

 

 もちろんそういうのじゃないことは分かっている。

 嬉しいからこそ何だか恥ずかしくてつい照れ隠しでこんなことを言ってしまう。

 それは彼には案の定お見通しのようで、もう一度キスしてもらえた。

 

「んっ……ふふっ」

 

 つい嬉しくて小さな笑い声がこぼれてしまう。

 暖かなもので胸が満たされていくのが分かる素敵な朝。

 今日は一体どんな一日になるのか楽しみ。彼となら今日も素敵に一日なるはず。きっと……。

 




前回同様ミカドン様のリクエストで「簪の嫉妬。可能ならR18で」を簪視点で書かせていただきました。

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは
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