簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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夏の終わりは簪とまったりと

 

 今朝も訓練を終えた。夏は早朝が特に涼しく特自主練がしやすい。それに今はまだ夏休みだからなのか、ISの稼動訓練をする為のアリーナが比較的押さえやすかった。

 スマートフォンで時間を確認すれば、そろそろお昼時になろうとしている頃。簪からメッセージが来てないってことはこの時間ならまだ整備室にいるか。俺が早朝から自主訓練していたように、簪は早朝から整備室で打鉄弐式の調整をしていると言っていたから。

 それなら少し様子でも見に行くか。行って忙しそうだったらさっさ帰ればいい。ただ行くにしても黙って行くのはよくはない。メッセージで行っても大丈夫かと聞いてみた。ついでに差し入れとして飲み物を持って行きたいのでそこに何人いるのかを、も。

 

『大丈夫。五人いる』

 

 そんなに忙しいわけじゃないのかすぐに返事が返ってきた。簪らしい簡潔なメッセージ。俺もいつものように簡潔な返事を返しておいた。

 五人か……それならまだ全然買っていける数で持ち運びも簡単に出来る。整備室に向かう途中にあった自動販売機で適当に人気の高そうなジュースを買い、整備室へと向かった。

 

 整備室に着き、一声かけながら中へ入る。

 するとそこには、メッセージあった通り簪合わせて五人の整備科の子達がいた。

 

「いらっしゃい」

 

「あっ、それもしかして差し入れ?」

 

「マジ? いや~助かるわ~」

 

「ありがとう~!」

 

 簪は出迎えてくれたが、他の人らは差し入れを見つけるなり、そっちに意識が集中していた。

 差し入れを振る舞い、ふと室内を見渡してみる。

 部屋の中心には機体展開された状態で待機している打鉄弐式があり、沢山のコードで様々な機械やモニターと繋がっていた。

 だからなのか、この部屋は暑い。そう感じるのは俺がこの整備室に来たばかりだからなのだろうか。簪や整備科の子達は慣れているようで平気そうだ。

 

「うん。私達は慣れた。でも……普通に暑い」

 

「ねー、一応エアコンつけてるから耐えられなくはないんだけどあそこ開けっ放しだから」

 

 整備科の子があそこと指した方を見ると、この整備室のアリーナへと続く扉が文字通り開けっ放しだった。

 この整備室は調整した機体をすぐ試運転できるよう、アリーナと一体化するように隣接されている。だから、すぐ出られるよう扉は開けっ放しになっている。

 冷房の空調はちゃんと機能はしているが、これなら外の熱い空気が入ってきて暑くなるのも無理はない。

 

 暑さを少しでもマシにする為に、簪を始めとする子達は皆、上半身タンクトップで下つなぎの作業着姿。

 夏場の整備室では当たり前の格好。今まで何度も見てきた光景。見慣れたといえば、見慣れたと言えなくはないが、あまり見ていていいものではない。嫌とか見たくないとかそうのではなく。

 思い出せば一年生の頃()はよく情欲的なポーズを取られたりして、よくからかわれた。あれはあれで辛いものが、男である俺がいることに慣れられて今みたいに無防備なのもこれはこれで困る。

 今の方がふとした瞬間、ドキっとすることはやはりある。

 例えば今の簪の姿とかがそうだ。

 

「?」

 

 ぱたぱたと手で顔を仰ぎながら不思議そうな顔をする簪。

 汗でタンクトップが肌に張り付き、額や顔、二の腕の滲み出ている輝く汗が滴り落ちる姿が艶っぽい。頑張る女性という感じが伝わってくる。

 

 見てて飽きない。見ていた姿だけど、見すぎるのもよくはないので視線を逸らす。

 すると、そろそろ休憩が終わりそうな気配だった。

 

「あっつ」

 

「熱いけどもう少し頑張ろう。お願いします」

 

「言われなくても、だよ。更識さん。差し入れ貰ったし頑張りますか~!」

 

「おっ~!」

 

 再び作業に戻る一同。

 調整、後どれくらい時間がかかるのだろうか。

 まあ、知ったところで手伝えることなんて雑用とかに限られてくる。むしろ、いるほうが邪魔になるかもしれない。

 差し入れ無事渡せたことだし、帰ろう。部屋に戻ることを簪に伝えた。

 

「分かった。作業、まだもう少しだけ時間かかるから終わったら連絡する」

 

 その簪の言葉を聞いて、俺は皆に別れの言葉を告げ、部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 ベットの上で一人寝返り打ちながらスマホを弄る。見ているのはSNSやネット。

 そこからの情報によれば、今外の昼間の気温は30℃以上とのこと。今日も相変わらずの暑さ。朝の涼しさが嘘のようだ。

 午後訓練しなくて正解だった。したところでどうせ、室内の訓練施設は満員だろうし、今日の訓練は朝やったからこのままゴロゴロしてよう。

 

 しばらくスマホで遊んでいると昼食食べた後だからか、こうしてエアコンの効いた部屋でゴロゴロしているとうつらうつらとして眠くなってくる。昼寝には丁度いい時間。このまま寝てしまいそうだ。

 そんなことを思っていると簪からメッセージが届いた。

 

『落ち着いたから今からそっち行ってもいい? 部屋だよね?』

 

 部屋にいるということ。いつも通り、渡してる合鍵のカードキーで勝手に入ってきてほしいことを返事で伝えた。

 すると、いよいよ本格的に眠くなってきた。簪が来るのだから、起きてないといけないけだけど、眠気がそれを拒む。もっとも、部屋には勝手に入ってきてくれるだろうし、今更昼寝していても怒られるようなこともないだろう。そう思いながら眠気に身を任せた。

 

 

 

 

 誰かに頭を撫でられている。

 今だ眠気は強いが、それに気づいてゆっくりと目を開けた。

 

「おはよう」

 

 目を覚ますと、すぐ隣にはベットに腰掛けながら、俺の頭を撫でている部屋着姿の簪がいた。

 手に持っていたスマホを見てみると寝る前に最後見た時間から約十五分ほど経っている。

 簪は一体いつごろ来たんだろうか。

 

「じゅ、十分前だった……かな」

 

 割りと前だ。

 すぐ起してくれてもよかったものを。

 というか、何故そんなに歯切れ悪いんだ。

 俺が起きるまで何をしていたのかと思えば。

 

「えっと、その……気持ちよそうに寝てたから寝顔見つめながら頭撫でてた。それで中々起せなくて」

 

 そうだったのか。

 別にそんなオドオドしながら言わなくても何もしない。寝顔を見られた恥ずかしさこそはあるけど、嫌じゃない。簪に撫でてもらえるのは好きだ。

 

「よかった。……疲れてる?」

 

 そういうわけじゃない。

 純粋に昼の陽気みたいなもので眠くなって寝ていた。それに十五分ほど寝れたおかげで眠気はマシになった感じはする。

 

「確かにこの時間は眠くなるね。……隣いい?」

 

 頷いて答えると、簪がベットの上へと上がってきた。

 横に詰め、二人してベットの上でうつ伏せになって横になる。

 何だか今日はこのままゴロゴロとしていそうだ。

 

「ん……外暑いし、私も今日はゆっくりしてたい……」

 

 確かにな。外の暑さは尋常なものではない。

 外に出かけるにしてもいろいろと準備がいって、正直めんどくさい。

 俺も今日はこのまま部屋で簪とゆっくりしていたい。

 

 そういえば、本音達は今頃ちゃんとやっているのだろうか。

 大した理由はないがそんなことが気になった。

 

「……本音、まだ何も言ってこないし、多分大丈夫、なはず。……本当、夏休み最後になってまだ課題終わってないだなんて」

 

 簪は呆れたように言った。気持ちは分からなくはないが。

 本音と一夏は朝から夏休みの課題を片付けているらしく今日まだ姿は見てない。夏休み最後になっても課題をやっているなんてご苦労様だ。そんなことなりたくなったから、俺と簪は八月になる前に全て終わらせた。

 もっとも、一夏達の残っている課題の量は一日あれば終わるほどらしい。俺の方も一夏からまだ何も言われなかったし、このまま何もなく終わっていてほしい。

 

「何言われても絶対に手伝わない……自業自得」

 

 手厳しい簪の言葉に苦笑いしつつも頷く。

 ふいに隣の簪を見た。簪は、何やらスマートフォンの画面を見ながら、一人懐かしむように笑っていた。嬉しそうにニヤついているようにも見える。

 

「ほら、これ」

 

 見せてもらった画面には、毎年やっている特撮物の映画を見に行った時に二人で撮った写真や夏祭りの時の写真などが映っていた。

 どれもこの夏休みにあった大切な出来事。この一ヶ月間のことだが、写真を見ていると昔のことの様に懐かしい気分になる。

 

「こうして見るといろいろなところ行ったんだね、私達」

 

 画面には簪と俺が二人だけで写った写真だけではなく、一夏達や楯無会長と撮った写真も映し出されていた。

 映画を始め、夏祭りやお互いの実家。更識家の避暑地なんかにも行った。場所の数としては数箇所になるが、どれも思い出深い。

 特に今見ている避暑地での写真。ここではいろいろあった。本当にいろいろと。

 

「……そう、だったね」

 

 あの日のことを簪は思い出してしまったのか、恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 何を想像したのか大体察しはつく。だが、そこをツッコむのは野暮ってものか。

 こうして写真を見ながら振り返っていると、その時のことがより鮮明に思い出せる。それこそ昨日の事のように。

 

「……だから、こんな風に部屋でゴロゴロするのって久しぶり、じゃない……?」

 

 そう言われればそうだ。

 この夏休みはさっきあげたいろいろなところ以外にも、倉持といったIS関係の場所にも簪の用事で行ったりしていて、学園に居た日は少ない。

 ずっと学園に居た一年生(去年)の夏休みとは正反対だ。外でもゆっくりできなかったわけじゃないが、外でゆっくりするのとこうして部屋でゆっくりするのとでは感じ違う。外ではこんな風に密着することも基本しなかったわけだし。

 だからと言うべきなんだろうか。スマートフォンを仕舞って、簪はうつ伏せで寝ている俺の背中の上へと乗ってきた。

 

「んしょ……」

 

 背中の上に乗ってきた簪は、自分の体を預けるようにぎゅっと抱きついてくる。

 甘えてくれているのは分かる。

 けれど、重……苦しい。

 

「……重いって言いかけたでしょう」

 

 拗ねるように言う簪の声が上から聞こえる。

 おそらく、表情もそうなんだろう。

 言いかけたことは悪かった。しかし、あれは条件反射的なもので……と言ったところで言い訳のようなことを言っていることにしかならない。他に言うことも見つからず、誤魔化すようにただ黙っているほかなかった。

 一方で、その沈黙は肯定するようなものでもあった。

 

「……やっぱり、降りる」

 

 むすっとした声色。

 言葉足らずというか。ただ黙っているだけでは不安を煽るのは当たり前だ。

 申し訳なさを感じながら簪を止めた。

 

「いいの……? 重いよ……?」

 

 重みは当然あるが、改めて重いっていうほどじゃない。丁度いい重さ。むしろ、ちゃんと食べているのか心配になる。

 

「ん……無理はしないで。苦しくなったら言って……退くから」

 

 勿論だ。今も別に無理しているわけじゃない。

 背中から感じる簪の丁度いい重みが心地いい。それに背中にいろいろと柔らかいものが当たって気持ちいい。役得だ。

 

「んー……」

 

 幸せそうな声をこぼしながら簪が首筋に頬を当て頬擦りしてくる。くすぐったい。

 クンクンされている気もする。何となくだが。

 簪は時々、こんな風に抱きついてくることがある。好きなんだろうな。

 

「……うん、安心するから。前から抱きつくのも好きだけど、それだと恥ずかしい時もあって。に、匂いも嗅げるし……それに……」

 

 一瞬、簪は言い躊躇ったが、ゆっくりと言った。

 

「こうして背中の上に乗ってるとね……何だかあなたを征服している感じがして楽しい」

 

 思わず、聞き返してしまった。

 俺の反応が簪の思った通りの反応だったからなのか、簪は楽しげに笑っていた。

 

「ふふふ」

 

 わざとらしく不適に笑う簪が怖い。

 それに心なし背中から掛かる重みが増している気が。今も重いというほど重くはないし、苦しくもない。ただ、動きづらい。征服って言っていたから……そういうつもりで簪はしているつもりなのだろうことは分かるが。

 

「動いちゃダメ……じっとして……」

 

 首筋にふぅと優しく息を吹きかけられる。

 ぞくっとする感覚に、思わず変な声が漏れそうになるのを何とか我慢する。

 

「可愛い……」

 

 愛でる様に簪は言ってくる。

 やめてくれ。くすぐったくて仕方ないし、何だか恥ずかしい。

 こうして愛でられていると本当に征服されているかのようだ。

 

「ん……ちゅ、っ……ちゅ」

 

 首筋に口づけしては、再び頬擦りしてくる簪。

 それは艶っぽく攻め立てるようなものではなく、甘えるよう。まるで子猫が親猫に甘えているのを彷彿とさせられる。

 だが、同時に攻め誘われている気分にもなっていた。何だか避暑地でいろいろあったときのことを思いださせられる。あの時も確か攻め誘われていた。

 

 愛でられるのも嫌じゃないし、悪くもないがされっぱなしというのは釈然としない。

 やっぱり、愛でられる側よりも愛でる側でありたい。そう思うのは男の性というよりかは、ただの我侭なのだろう。

 

「……え」

 

 俺の下にいる簪は、何が起こったのか分からないという表情をしていた。

 

 それは一瞬のこと。俺と簪は反転してたのだ。

 先ほどとは逆の俺が簪を征服する姿勢。背中の上に乗っていた簪は下となり、そんな簪を俺は押し倒すような姿勢へとなっていた。

 

「……」

 

 自分の姿や自分が置かれている状況を簪は理解している様子だった。

 頬を赤く染め恥ずかしそうにしているが取り乱すことはない。それどころか、恥ずかしそうに潤んだ瞳でこちらを見つめては離さない。簪が何を期待しているのか。それは熱の篭った目がまざまざと語っていた。

 

 そんな簪の様子があまりにも愛おしすぎて、つい笑みをこぼしてしまった。

 

「……笑った。……どうせ、私はえっち……だもん」

 

 拗ねてしまった。それでも視線を離さないのがおもしろい。

 言わなくても馬鹿にした笑みではないことは簪にも分かっているだろうし、簪の言う事は何というか……今更だ。

 

 宥め、期待に答えるように艶やかな唇へと優しく口づけする。

 

「ん、ふぅ……っ、ん」

 

 それだけで、甘い吐息が聞こえた。

 触れるだけのキス。それを何度も愛撫するように繰り返す。

 しばらくそうしていると、いつしか誘う雰囲気は姿を隠し、すっかり受け身の様子な簪。

 

 もしかしなくても、この状況すらも簪の思惑通りなんだろう。

 すっかり手の平の上だ。

 

 「嬉しい……でも、物足りない……証が、欲しい……。だから……もっと、して」

 

 切なそうな声でつぶやく。

 彼女にこう言われて、応えないなんて男が廃るというもの。

 ただ応え、求め合うだけ。一つへと交わっていく。

 

「ん……」

 

 こうして俺達の夏休み、夏はもうじき終わる。

 だが、夏の暑さが持つ独特の気持ちを昂ぶらすこの熱はもう少しだけ冷めそうにはない。

 





今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは
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