簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と夏の避暑

 蝉の鳴き声が遠くで聞こえた。耳にしただけでしみじみと夏を感じる。

 空いた窓から入ってくる風は、夏の昼間らしからぬ涼しげな風であり、午後からも過しやすそうだ。

 外へ出かけるには丁度いい。折角、いつもと違う特別なところにいるのだから。

 だというのに――。

 

「……」

 

 ソファに腰掛け、お互いに無言でスマホを弄りながらダラダラと過す簪と俺。

 普段、部屋にいる時と変らない怠惰な過し方。別に悪くはないのだが、勿体無さは感じる。

 折角、避暑地に来ているのだから尚更。

 

 更識家の盆の行事が終わった夏休みも終盤になった今日。俺と簪は楯無さんの勧めで更識家所有の別荘に来ていた。

 目的は避暑。勿論、二人で。

 ちなみにだが、ここに来たのは昨日の夜。ここ最近、いろいろと忙しくてゆっくり寝ることすら出来なかったから、昨日は着くなり早く眠り、二人揃ってぐっすり寝てしまった。そして、今日起きたのがついさっき。真昼間。

 朝昼兼用で食事を済ませたが寝すぎて疲れが取れきってないのか、二人ともダラダラしてしまっているのが現状だ。

 だがしかし、流石にこうしているのは勿体無い。

 

 そうだ。確か、この別荘の近くにはひまわり畑があると言っていた。

 こうしてだらだらしているほうが返って疲れが増すばかり。

 気分転換にひまわり畑に散歩するというのはどうだろう。

 

「嫌」

 

 スマホでなにやらずっと調べごとをしている簪。

 誘ってみたがたった一言で即答されてしまった。

 言うと思ったし、別にそんなショックでもないが、そう言われると立つ瀬がなくなる。

 避暑地にいるのだから、それらしいことはしたい。明日の昼頃には帰るわけだし。

 

「動きたくない。ゆっくりしていたい……ここ最近、忙しかったから」

 

 と簪はスマホを弄りながらダレている。

 この夏休みは簪の代表候補生評価会から始まり、倉持技研に行ったり、俺の実家へ帰省、簪の実家へ帰省。そして更識家の盆行事へ参加したりと目まぐるしい忙しさだった。

 充実こそしていたが落ち着くに落ち着けなかった。簪が言うことはもっともだ。ここでならゆっくり出来る。避暑地とはその為にもあるものだから。

 故に無理強いは出来ない。だが、俺としては外に出たい。正直なところ、こうダラダラしているのが辛くなってきた。簪には悪いが、一人で外の空気を吸いに出かけよう。

 一声かけ、出かけようとした時だった。

 

「……待って」

 

 服の裾を握られ、簪に呼び止められた。

 やっぱり、一人残して出かけるなということなんだろうか。

 

「そうじゃない。その、気持ちが変ったの……やっぱり、私も行く。用意するから待ってて」

 

 そう言うと簪は着替えに行った。

 顔には出てないが、折れてくれたということなんだろうと察した。

 ゆっくりしていたいだろうにすまないことをしたという気持ちがなくはないが、ここは簪の気持ちに素直に甘えさせてもらおう。

 そして、俺も外に出る用意をすること数分。

 

「ん……」

 

 目の前に現れた身支度を済ませた簪。

 その身には薄手で淡い水色の半袖膝丈のワンピースを着て、頭には麦わら帽子を被っている。

 今日の簪も可愛い。清涼感みたいなものが感じられていい。

 

「ありがとう……じゃあ、行こう」

 

 口角を嬉しそうに緩める簪を連れ、ひまわり畑へと向かった。

 ひまわり畑へと続く舗装された野道を二人並んで手を繋ぎながら歩く。隣にいる簪はもう暑そうにしていた。

 

「……暑い」

 

 隣でそう言い零す簪に思わず苦笑いした。風はあるが確かに暑い。お互い額にはじっとりとした汗が輝く。

 帽子を被り、冷却スプレーで暑さ対策。日焼け止め等で日焼け対策はしているが、それでも暑さは暑い。だが、ここは避暑地だけあって他のところと比べて涼しいほうだ。簪に無理をさせるつもりは勿論ないが、これならよほどのことがない限りは大丈夫だろう。

 

「頑張る」

 

 そう言ってくれる簪に感謝の意を示すように手を握りなおし歩くこと数分。目的の場所であるひまわり畑へと着いた。

 

「わぁ……凄い……」

 

 瞳を輝かせ、感心した声をもらす。喜んでくれているみたいだ。よかった。

 まあ、こんな壮大な光景を見たら喜ばずにはいられない。それほどのひまわり畑が俺達の目の前には広がっている。壮観だ。

 華々しく咲いた沢山のひまわりをのんびり眺めながら俺達はひまわり畑の中を歩く。更識家の避暑地だけあって俺達以外に人はおらず、静かでいい。まぶしいぐらい黄色に輝くひまわりを見ているだけで何だか元気をもらえているのを感じる。

 暑い中、歩いているのだから当然体力的には疲れるが、新鮮の外の空気を吸えてダルい気分は一新でき気持ちがいい。

 

「だね……正直、最初は乗り気じゃなかったけど……来てよかった。何だか、気分がすっきりして……元気でた。誘ってくれてありがとう」

 

 簪は嬉しそうに微笑みながらそう言ってくれた。

 わざわざ感謝されるほどのことでもないがどういたしましてと素直に返した。

 本当に喜んでくれているみたいでよかった。誘った甲斐があるというもの。この絶景も相まっていい思い出になった。

 

「思い出……」

 

 何か考えるように小さく呟くと、ちょいちょいと服の袖を引っ張ってきた。

 

「ね……折角だから、ここで写真取らない……? その……いつもみたいに夏の思い出と記念に」

 

 今年の夏休み、簪と俺は写真をよく撮るようにしていた。

 取り決めがあったというわけではない。どちらからともなく自然とこの夏休みにあった嬉しい出来事や楽しい出来事、幸せな出来事などを写真で残すようになっていた。

 もっともスマホのカメラだが、そうすることでいい思い出をより鮮明に振り返ることが出来る。

 

 俺が頷くと簪は持っていた手提げ鞄からスマホと自撮り棒を取り出し、セットするとひまわり畑を背景に写真を撮った。

 

「……いい感じ」

 

 嬉しそうな声色で言う簪。

 二人でスマホを覗き、今さっき撮ったばかりの写真の出来を二人で確認する。

 太陽に向かって元気よく咲く綺麗なひまわりをちゃんと背景に入れることができ、その前では頬が合わさりあうぐらい寄り添いあいながら笑顔を浮かべている簪と俺がバッチリ写っていた。照れくさいがいい写真だ。

 

 まだ大丈夫だろうが、時間が経ったことで太陽は更に登っており、暑さは来た時よりも増していた。

 この辺で記念の写真も取れたことだし、そろそろ戻るとしようか。いつまでもこうしているわけにはいかない。

 

「うん」

 

 俺達は元来たひまわり畑の道を帰っていく。

 

「あ……」

 

 何か思い出したような声を簪がもらした。

 し忘れたことでもあったりしたのか。

 

「ううん、そうじゃない。その……凄いつまらないことなんだけど……」

 

 簪はもじもじとして口ごもる。

 その頬は微かに赤い。

 つまらないこと……無論、それが何か分からないが気になってきた。

 

「笑わないでね……絶対。……ひまわりの花言葉って知ってる……?」

 

 確か『私はあなただけを見つめる』とかだったような気がする。

 すると、簪は帰る足を止め正解と言ってから俺の目を見つめて更に言った。

 

「私もね……ひまわりのように、あなただけを見つめてる……」

 

 突然のことに反応できなかった。

 嬉しいが、簪はこんなこと言ってくるなんて。

 

「……って言いたかったの。っ、う……だ、黙られる方が困るんだけど……もうっ、言わなきゃよかった……」

 

 頬を薄っすら赤く染めながらも後悔する表情を浮かべる簪を見て、とっさに謝った。

 言ってもらったのに固まるなんてよくない。それに嬉しいのは確かだから安心してほしい。

 簪からこんな素敵な言葉を聞けるなんて、改めてひまわり畑に来てよかったと心から感じる。

 

 俺だって、いつどんな時でも簪をだけを見つめる。太陽の光みたいに輝くひまわりのような情熱を捧げる。

 臭い台詞だが、詰まることなく素直な気持ちですらっと返すことが出来た。

 

「う、っ……ぁ、相変わらず恥ずかしいことをよく言えるね……まったく」

 

 口調は飽きれていたが、満更でもない様で嬉しそうには簪はにかんでいた。

 お互い様だろ、それは。

 オマケにまだ、簪の頬は赤い。

 

「……暑いから」

 

 ポーカーフェイスを纏う簪ではあるが、被っている麦わら帽子を深くして、歩く速度は心なしか早かった。

 

 

 

 

 ひまわり畑から戻った後、シャワーで汗を流し、また部屋で二人揃ってダラダラしてしまっていた。

 隣の簪は調べ物を再開したのかまたスマホを弄っており、俺は適当な電子書籍で読書している。

 出かける前と変らない怠惰な過し方であるが、先ほど散歩程度に体を動かしたし、不健康過ぎるというわけでないはずだ。ここ最近は忙しかったから、ゆっくりしていてもいいだろう。

 

 ここはゆっくり過しやすい。

 冷房などの空調はつけていなくても、網戸から入ってくる夏の風だけで充分涼しい。丁度いいくらいだ。

 オマケに昼間の陽気が相まって、涼しさと気持ちさに包まれているせいか、うつらうつらとして眠くなってきた。

 このまま昼寝するのもありかもしれない。そう思っていると、うつ伏せで寝転んでいる俺の上に簪が同じようにうつ伏せで寝転がるように乗ってきた。

 もう調べ物は済んだか飽きたかして、甘えてくれにきたといったところか。

 

「……そんなところ。……き、気にしないで」

 

 ならいいが。

 重みを感じこそするが、邪魔とかではないので言われたように気にせず、読書を続ける。

 

「……ん」

 

 気にせず読書を続けている間、まるで子犬か子猫が甘えるかのように、簪は俺のうなじ辺りにスリスリと頬ずりをしていた。

 あからさまなのでじゃれて甘えてくれているのは分かる。読書をやめて、構った方がいいな、これは。

 だが、それだけではなかった。

 

「んっ、んん……ん、ちゅ、ちゅ、んちゅっ……ちゅ、ちゅ、ちゅっ」

 

 先ほど頬ずりしていたうなじ辺りに今度簪は啄むようなキスを何度もしてくる。

 これもじゃれて甘えているといっても無理はないが、もっと別の意味合いがあると感じた。

 もしかして簪は誘っているのか。

 

「……う、うん」

 

 恥ずかしそうな声が上から聞こえた。

 体勢的に顔を見ることは出来ないが、恥ずかしそうにしているのは顔を見なくても分かる。

 

「ほら……最近、いろいろありすぎてずっと出来なかったでしょう……? 折角、今は本当に二人っきりで邪魔が入らないわけだし……その、ね……」

 

 簪はその単語をはっきり言葉にしないが、俺も言葉にしない。それはあえてであり、簪が何を言いたいのは分かった。

 簪の言う通りだ。最近、簪としてない。最後にしたのは夏休みに入る一ヶ月以上前。随分と久しい。

 

「それに……あんなこと言われたら、胸がきゅってなってぽかぽかして……つい我慢できなくなった」

 

 あんなこととはさっきのひまわり畑でのことなんだろう。それほどまで喜んでくれていたとは嬉しい。

 ああだから、それでずっと誘っていたというわけか。何とも健気な簪。その健気な様子がたまらなく愛しい。

 

 こんなにも可愛らしく誘われて、その気にならならいわけがない。

 というかより、ここで何もしなかったら男が廃るというもの。

 正直、俺も簪としたい。

 

「よかった……あ、あの、今日は……は、裸のままでゆっくりイチャイチャしたいなぁって思ってるんだけど……」

 

 ゆっくり……それって具体的にどんな……。

 

「それはね……」

 

 

 

 

 心身共に全体的な気だるさを感じながらベットの上で目が覚めた。

 

「ん……んゅ……」

 

 隣にはシーツを一つかぶっだけーの一糸まとわぬ姿の簪が幸せそうな顔して眠っている。

 そうだった。あの後、疲れて二人で寝てしまったんだった。

 窓の外、辺りは暗い。寝る前は確か夕方頃。まだ明るかった。

 今は何時なんだろうと枕元に手をやりスマホを探し当てた。時間を確認すれば、夜もいい時間。

 まあ、昼頃から夕方までたっぷり時間を使ってゆっくりとしていたから、これは暗くなっていても仕方ない。

 

「んん……おはよう」

 

 簪が起きた。

 まだ眠そうにしている。

 体のほうは大丈夫だったりするんだろうか。

 

「大丈夫……ちょっとダルいけど……一回に二時間以上かけたの初めてだから……」

 

 照れくさそうにそう簪は言う。

 確かにそうだ。あんなにたっぷり時間を使ってゆっくりしたのは初めてのこと。いつもと一味違う快感を体験した。

 だがおかげで、愛し合うことは勿論、お互いに癒しあうことが出来た。体の疲れは当然ながらあるが、胸の内は満たされ、元気になったように感じる。

 

「だね……何だかまだ、ぼーっする……それにまだここに、あなたの熱が残ってるみたいで幸せ」

 

 簪はまだ余韻が長続きしているようで幸せそうに微笑みながら、下腹部を大切そうに撫でていた。

 暗がりでもその仕草は何で色っぽく見えた。

 本当に、怖いぐらい充実していて幸せだ。すると、簪が寄り添うように抱きついてきた。

 

「……もう少しだけでいいからこのまま……ぎゅってして……?」

 

 少しと言わず、いくらでも。 

 互いに感じる幸せを噛み締めるかのように、俺は簪を抱き寄せた。

 大好きだ、簪。

 

「私も大好き……ん」

 

 簪からそっと触れるだけのキスをされる。

 お返しと言わんばかりに次は俺からキスを返すと、簪は蕩けたように幸せそうな笑みをほころばせていた。

 

 久しぶりに何もなく、二人でゆっくりと過す幸せな時間。

 もうしばらく二人一緒にまどろんでいた。

 




もう夏はとっくの昔に終わっていますが、間にあわなかったのでここで。
美少女×麦わら帽子×ワンピース=至高。
ひまわりを見て笑顔を浮かべる簪を見つめていたい人生だった……

ここには乗せられない情事についてはこっちの『ゆっくり簪と交わって』をよろしければぜひ

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは~
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