簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪との学園祭 一

 秋深まる頃。二学期も半ばに差し掛かる。

 今日も今日とて俺達は生徒会室で仕事に追われる。来週に控えた学園祭の為他ならない。

 去年一度経験したおかげなのか、勝手が分かってクラスの準備は順調。学園祭運営の準備の方も順調だ。大分前から少しずつ準備を進めた甲斐もあって、間近になってバタバタ慌てることもない。

 後はこのまま残った雑務を処理していけば、無事学園祭は迎えられるだろう。

 

「暇ね~」

 

 真面目な空気を破ったのは楯無さんだった。

 相変わらず、この人は暇そうだ。こんなところで何してるんだか。

 

「え~後任の一夏君やあなた達後輩がしっかりやれてるか見守っているのよ」

 

「何、もっともらしいこと言っているの。それは言い訳」

 

「あら手厳しい」

 

 楯無さんは全然気にしてない。むしろ、楽しんでいる節がある。

 簪は、いつも通りただ飽きれていた。

 

 まあ、楯無さんが言っていることは嘘ではない。嘘では。

 学園祭運営は一夏を中心とした俺達新生徒会でやっているが、今回楯無さんにいろいろとアドバイスをしてもらったり、ちょっとした手助けをしてもらった。

 だから、そう簡単に邪険には出来ない。隣で暇暇言われるのは邪魔だが、物理的に邪魔をされてないからもう少しだけ放って置くしかないのが現状だ。

 

「でも、楯無さん本当にいいんですか? こんなところで油売ってて。クラスの準備とかは……」

 

 一夏がもっともなことを言った。

 暇暇言っているが、この人にもクラスの準備があるはずだ。こんなところで油売っていて言い分けないだろう。

 そうじゃなくてもこの人の学年は忙しい時期。本当に暇って訳じゃないはずだ。

 

「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ。この更識楯無がいてまだ準備が終わってないなんてことはないわ!」

 

 と力強く言う楯無さんの口元を隠す扇には『準備万端』と書かれていた。

 冷たいようだが、全員楯無さんに対して『あっそう』と思っていた。

 本当にそうだとしてもこんなところで油売っていていい理由にはやはりならない。

 

「簪ちゃんといい弟君といい手厳しいわね、まったく。休憩ぐらいさせてよ」

 

「ここは休憩所じゃない」

 

 まったく簪の言う通りだ。

 特に気にする様子もなく、楯無さんはあることを言った。

 

「あ、そう言えば、一夏君達のクラスは去年と同じもの出すんだ」

 

「ええ、まあ」

 

 学園祭で配るパンフレットの見本を見て言う楯無さんの言葉に一夏が頷く。

 

「去年やった執事・メイド喫茶、大反響だったからクラス全員満場一致でまたやることになったの~」

 

「ああ、なるほど。確かに去年凄い人気だったわね」

 

 納得している楯無さんに同意せざるほど、確かに凄い人気だった。

 だからこそ、今年も俺達のクラスは執事・メイド喫茶をクラスの出し物とすることになった。

 去年と見てくれは変らないが、一度経験を経て内容はグレードアップしているから、今年は去年よりも更に成功すること間違いない。

 

「本当、何で今年もなんだよ……」

 

 愚痴垂れながら遠い目を一夏はしている。

 まあ、分からんでもない。去年、一夏は本当に大変だったからな。あれが今年もとなると気が参る。

 しかし、俺ら男がいればなってある意味当然だ。その分、利益は大きいのだから一夏には頑張ってほしいところだ。

 

「お前な、他人事みたいなこと言ってるけど、お前も道連れだからな」

 

 言われなくても分かっているし、覚悟もしている。一夏一人だけにはしない。

 

「だよな! お前って奴は本当に……!」

 

 一夏が一人が感極まっているが放っておこう。

 第一、クラスで一つの意見として決まったのだから愚痴たれず真面目にしっかりやる。ただけそれだけ。

 

「何言ってるの。単に何も考えないようにして思考停止してるだけでしょう」

 

「あっ……そういう。まったく相変わらずだな、お前」

 

 簪には痛いところをつかれ、一夏には呆れられてしまった。

 うるさい。仕方なくはないが、仕方ないだろう。こればっかりは。

 

「そういえば、かんちゃんのクラスも喫茶店やるんだよね~?」

 

「コスプレ喫茶って書いてあるわね。簪ちゃん、どうことするの?」

 

「見ての通り、そのまま。店員のコスプレして接客する。1組と被るから、コスプレの種類はメイド系以外でいろいろだけど。後、追加料金払えば、少しの時間だけお客さんもコスプレできる。衣装を着て、小物つける程度の簡単なものになるけど」

 

 当たり前だが、ウチのクラスと完全に被らないようちゃんと考えられている。

 実際、どんな感じなのか気になる。それに……。

 

「なるほど~ちなみにちなみに~かんちゃんはどんなの着る予定なの~?」

 

「まだ決まってない。いろいろあるから考え中」

 

 沢山ありすぎて悩んでしまうっていったところか。

 

「へぇ~そうなんだ。兎に角、楽しみ~」

 

「そうね。簪ちゃんのコスプレ姿、バッチリ撮ってお父様に送らなきゃ!」

 

「やめて。というか、そんなことするならお姉ちゃん来ないで」

 

「え~! 何でよ~!」

 

 わいわいと賑やかな生徒会室。

 それから更に学園祭について話に花が咲いてしまい結局作業が滞ってしまった。

 まあ、それだけ学園祭が楽しみだという証拠だ

 

「だな、大変だろうけどいろいろと頑張ろうぜ」

 

 一夏の言う通りだ。頑張って学園祭成功させなければ。

 それに簪のクラスの出し物も楽しみだと思っていると、一瞬簪と目が合った。

 

「……」

 

 『来ないで』と言葉なく目が必死に訴えかけてきているように思えたのは気のせいであってほしい。

 そういうネタ振りかとも思ったが、そういうわけではなさそうだ。

 俺がそっちに様子見に行くのはそんなに嫌なのか。

 

「違う。そんなんじゃ……ない、けど……」

 

 簪の歯切れは悪い。

 本気で嫌というわけじゃなさそうなのがせめてもの救いだが、やはりあまり来てほしくなさそうなのは変らなかった。

 一体、どうしたというのんだろうか。簪のクラスが一体どんなことをするのか益々気になってきた。

 

 

 

 

 そして、無事学園祭当日を迎えられた。

 初日である今日は生徒だけものであり、外部のものはいないが、それでも生徒だけで大変な賑わいと活気に溢れていた。

 クラスの出し物は予想通り大反響。今も長蛇の列を作っている。

 

「やっぱ、織斑君達男子の執事姿いいわ~萌えるっ!」

 

「正統派ロングスカート姿のメイドな篠ノ之先輩最高オブ最高~!」

 

「セシリア御姉様のメイド尊い。泣きそう。永久ご使命したい。むしろ、仕えたい」

 

 とまあ、この通り。

 去年以上の賑わいだが、俺達男二人よりも篠ノ之やオルコット達目当ての客、とりわけ後輩達が多い。

 だから、人がそっちに分かれて仕事量的には去年よりも軽い。それでもクラス以外にも生徒会の学園祭運営の仕事とかもあって忙しいのは変らないが。

 すると、クラスメイトの子が話しかけてきた。

 

「あっ、そうだ。男子二人とのほほんさんはそろそろ休憩してきていいよ。私達女子は順番に入っているし」

 

「えっ、いいのか。だってまだ、なぁ……」

 

 一夏と共にクラスの様子を見渡す。

 今だ多くの人が来て、休憩に入れるような感じではない気がする。

 これで今俺達が休憩に入ったら大変なことになるんじゃないんだろうか。

 

「大丈夫大丈夫。気にしないで。二人一緒でいいから」

 

「そうそう。でないと私達も落ち着くに落ち着けないから。このまま二人片方でもいたら客足ずっとこのままで辛いし」

 

「嬉しい悲鳴なんだけど流石にね。人手も足りてるし気にせずゆっくり休憩してきて。勿論、戻ってきたらガッツリ稼いでもらうけど」

 

 体のいい厄介払いされている風に感じなくはないが、言うことはもっともだ。

 このままのスペースで客足続くのは流石にきついものがある。無論、稼げるだけ稼いでいた方がいいのだろうが、今日はまだ一日目。売り上げもいいようだし、これ以上焦ることもないだろう。

 それに俺達が抜けても人気どころであるオルコットやデュノア達もいるから、その点も問題ない。

 今休憩しておかないといつ休憩できるか分からないし、ここは素直に甘えさせてもらおう。

 

「そうだな。ありがとう、ゆっくり休ませてもらうよ」

 

「どういたしまして。後、休憩はそのままの格好でしてね」

 

「えっ……」

 

 一夏が固まっていた。

 燕尾服姿(この姿)で休憩か……目立つのが余計に目立つ。

 まあ、クラスに来ている客の中にも自分のクラスの衣装で来ている人達は割りと多いし、宣伝も兼ねてといったところか。

 

「そういうこと。のほほんさんもそのままでね」

 

「戻ってきたら三人にはすぐに入ってもらうから、汚したりしないでね」

 

「しないよ~というか、含みのある言い方しないで~」

 

「あっはは」

 

 ということでこのまま休憩に入った。

 休憩をもらったのはいいが、どこに行こう。というか、どうしよう。事前にこれといって特に決めてなかった。

 

「かんちゃんから返事あった?」

 

 本音の言葉に首を横に振る。

 簪にメッセージを送ってみたが、返事は返ってこない。おそらく、まだクラスの出し物をやっているんだろう。簪と休憩時間が合えばいいが、それがいつなのか分からない。

 二人の邪魔をするわけにもいかないし、宣伝も兼ねて連絡が取れるまで見て周るか。

 

「じゃあさ、更識さんのクラス見に行かないか?」

 

 今度は俺が固まった。

 何言ってるんだ、こいつは。いや、普通なことなのは分かっているが。

 

「え~見に行きたくないの~?」

 

 そんなこと言ってない。

 むしろ見たいが、『来ないで』っていうあの目を簪を思い出して行く気が引ける。

 マジな目だった、アレは。

 というか、こいつら二人と一緒に行きたくはない。簪、嫌がるだろうし……。

 

「めんどくさい奴だな、お前は。往生際が悪い。ぐだぐだ言わずにほら、行くぞ」

 

「れっつごーご~」

 

 燕尾服の一夏とメイド服の本音に両脇抱えられて、有無も言わせてもらえず連行される燕尾服の俺。

 本当に目立ちまくりで道中、周りの視線が痛かった。

 

「わぁ~四組も凄い人気だね~」

 

「うちに負けてられないな」

 

 ようやく開放され、四組の様子を確認する。

 確かに凄い人気で活気に溢れている。これは油断しているとウチはあっさり負けてしまいそうになるほどだな。

 幸いまだ並ばずには入れそうなのはありがたい。

 

「えーと、更識さんは」

 

「ん~……あっ、あれって楯無様じゃない~?」

 

 本音が指した先、そこには確かに楯無さんがいた。

 一夏と同等、いやそれ以上のカリスマ性を有しているあの人は、相変わらず沢山の人に囲まれている。そしてほとんどの人達が楯無さんに羨望の眼差しを向けている。流石だ。

 すると、楯無さんもこっちに気づき、周りの人達に一言つげ、手を振りながら俺達のほうへとやって来た。

 

「あなた達も休憩なのね。というか、凄い格好」

 

「まあ、宣伝も兼ねてそのまま」

 

「なるほど。ここに来たってことはそういうことよね。OK、分かった。お目当ての人呼んで来てあげる」

 

 そう言い告げると楯無さんは、教室の中へと消えていった。

 待つこと数分足らず。楯無さんは、お目当ての人を俺達の前まで連れてきてくれた。

 

「ようこそ、おいでくださいま……」

 

 一礼しながら歓迎の言葉を言っていたが、途中で俺達に気づき簪は絶句して固まっていた。

 

「かんちゃん! ネコミミ! すっごく可愛いっ! 何々どうしたの!」

 

「確かに凄いな。和風メイド? って言えばいいのか?」

 

「そうね。大正時代にあった女給とも言うけど」

 

 着物の上に白の長いエプロンをしており、頭には猫耳を模したカチューシャをつけている。

 オマケに腰には猫の尻尾があって、服装そのものはモダンな感じなのだが、猫耳猫尻尾のせいでてんこ盛り具合をひしひしと感じさせられる。

 見ている分には可愛くて、露出もすくないから凄くいいと思う。

 しかし、そんな簪の姿を見ていろいろと察するものがあった。この姿を見られたくなくて、あんな目をしていたんだな、きっと。

 給仕の姿は兎も角、猫耳猫尻尾は流石に簪の趣味ではなさそうだから、おそらくクラスの子に半ば無理やりつけられたといったところか。その光景が容易に浮かんでしまう。

 

 衝撃から立ち直った様で簪は我に帰ったが、時既に遅し。楯無さんにバシバシ写真を取られていた。

 

「簪ちゃん、本当可愛いわね」

 

「ねね、楯無様、後で私のスマホにも送ってください」

 

「いいわよ」

 

「ッ……よくないから。撮らないで、消して。というかお姉ちゃん、その写真誰かに見せたら祟るから。後、本音もふざけるなら帰って……」

 

「か、かんちゃん睨まないで」

 

「本当、怖い怖い」

 

 簪の一瞥をひらひらかわすように楯無さんは楽しげに笑う。

 こんな風に外で騒いでいるものだから、道行く人たちにはちらほら見られ、教室からは何やらぞろぞろと簪のクラスメイトが出てきた。

 コスプレ喫茶の名の通り、皆コスプレしている。メジャーなコスプレだったり、アニメキャラのコスプレだったりと統一感はないけど、全員クオリティは高い。

 

「簪さんどうかしたの……って、織斑君達じゃない! お客様って織斑君達だったのね」

 

「ってか凄い格好。あ、一組の衣装なんだったけ? それ」

 

「ほら、更識さん。何してるの、織斑君達を中にお通しして」

 

「え……」

 

「何で嫌そうなのよ。てか、簪さんスマイルスマイルっ!」

 

 クラスメイトに諭され、簪はぎこちない笑みを浮かべていた。

 何はともあれようやく、中へ入れることになってよかった。

 ここでこうしても仕方ないしな。もっとも、簪は物凄く嫌そうだが。

 

「じゃあ、私もご一緒してもう一息つこうかしら」

 

「お姉ちゃん……さっきいたじゃん」

 

「いいじゃない、別に。お金はちゃんと払っているわけだしね。ほら、お客様」

 

「ッ……ッ、失礼しました。ご案内します」

 

 腹の中がいろいろと煮えくり返っているだろうに、飲込んで中へと案内してくれる。

 簪の表情の裏に、この状況、俺が来たことを後悔している様な、それでいてどこか喜んでいるような複雑な表情が見え隠れしていた。

 




卵特売!!様のリクエストで「なぜかネコ耳を付けた簪と本音が一夏と彼に偶然見られてしまう的な話」
にお答えする形で今回の話を(都合上、簪だけにはなりましたが

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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