簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪との学園祭 二

 簪のクラスで一息ついた後も休憩は続く。

 とはいっても学園祭運営をしている生徒会所属の身。ゆっくりと学園祭を周れる余裕はない。

 楯無さんの代と比べて落ち着いたものにしたが、それでも生徒会に相談事は持ち込まれる。

 そうしたことたちのを解決を生徒会室でおこなっていた。今さっきそれがようやく一段落ついたところ。

 

 ちなみに今、生徒会室では一人。

 一夏と本音の二人には、簪のクラスを出た後、デートもとい見回りに出てもらっている。

 今日の二人にここにいられても落ち着いて仕事ができないからな。

 

 簪はいうと、まだクラスのことをしていてここにはない。

 時間的にそろそろ終わることだとは教えてもらった。

 そう言えば、簪のクラスに訪れてから一度もちゃんとした言葉を交わせなかった。理由は分かっている。仕方ない。

 あれから少しとはいえ時間は経った。それで少しは気持ちが落ち着いてくれるといいのだが……そう思っていたときだった。扉がノックされた。返事を返すと、ある人が入ってきた。

 噂をすれば何とやら。簪だった。ようやく休憩に入ったのか。

 

「うん……本音にあなたがここにいるって聞いて。後これ……小腹の足しにでもと思って」

 

 なるほど。

 簪の姿をよく見てみると、手には何やらモノが入った袋を持っており、格好は給仕の格好のまま。

 それでここまで来たのか。目立っただろうに。

 

「仕方ない……休憩終わったらすぐ戻らないといけないし……それに宣伝の為。ってか……あなたは人のこと言えないでしょう」

 

 ごもっともだ。

 俺の格好も以前燕尾服のまま。

 給仕姿と燕尾服姿の男女いる一室。学園祭ならではの光景だなと何となくだが思った。

 簪には適当のところ、隣の席へと腰を落ち着けてもらった。

 

「はい……これおにぎり。中身……鮭。ウチにきた時には飲み物しか頼んでなかったし……それにまだ何も食べてないはずだよね……?」

 

 頷き、差し出されたおにぎりを受け取り食べる。

 簪のクラスに行った時に注文したのは飲み物だけだった。食べ物も当然メニューにはあったが、あの時は何か食べたい気分ではなかったし、食べれる雰囲気ではなかった。

 丁度今小腹は空いていたからありがたい。

 

 簪も同じものを食べているが、その間会話はなかった。

 さっきのことが尾を引いているようで、微妙に気まずい。

 耐えられず何か適当な話題でもと思ったが、今一つ思い浮かばない。

 そうして困っていると、同じことを考えていた様子の簪が話し始めてくれた。

 

「……仕事、一人でさせてしまってごめんなさい」

 

 態々謝られるようなことじゃない。

 仕事というほど大したものじゃなかった。

 それに明日になれば、今日以上に忙しくなるだろうから、その時には簪にも働いてもらう。

 

「うん……」

 

 そこで会話は途切れた。

 再び気まずい空気が流れる。

 折角、簪といるのにこれではなくない。こんな空気で簪といたくない。

 

 謝るようなことではないことは承知済みだが、ひとまずクラスに押しかけたことを謝罪した。

 

「ううん、いい。あなたが謝る必要はない。仕方のないことだから。ただこんな姿は見られたくなかった」

 

 好きで着ているのならまだしもただ来ているだけなら、そういうものなんだろう。

 俺だって燕尾服姿を見られて、あまり嬉しいものじゃないし。

 簪の場合は、猫耳と尻尾をつけているのだから尚更そうなのかもしれない。

 

「ああ、これ? 猫耳と尻尾(これ)もね……本当はつける予定じゃなかった。朝、着替えてたら無理やりつけさせられて……それで余計……」

 

 そうだったのか。

 そういうことなら先ほどの簪の態度にいろいろと納得がいく。

 

「納得されたらされたでいろいろ辛いんだけど……でも、折角来てくれたのに愛想悪い態度とっちゃってごめんなさい……」

 

 隣に座っている簪は、座ったままこちらへ体を向け、深々と頭を下げる。

 謝ることではないのはもちろん、そんなことする必要もない。

 簪自身はそう思えないだろうが、俺としてはその給仕姿はいいと思う。素敵だ。

 

「そう、かな……自分じゃ、何か芋っぽいとしか……それに猫耳と尻尾つけたら色物以外何物でも」

 

 悲観した表情で簪はそう言った。対する俺は苦笑いすることしか出来なかった。

  芋っぽい、色物って……気持ちは察することはできるが少し言い過ぎだ、それは。

 自信……と言うのは大げさだが、似たものを多少なりと持ってほしい。いいと、素敵だと思ったのは紛れもないなのだから。

 

 すると簪は納得して、嬉しそうな笑みを見せてくれた。

 

「そうだね……ごめんなさい。あっ……じゃなくて、うん……ありがとう。嬉しい。その……あなたも似合ってるよ」

 

 そう言ってもらえるのなら、嬉しい。

 正直、我ながら馬子にも衣装。服に着せられてる感が拭えなかったが、そういうことなら自信を持てる。休憩明けのことにも性が出せそうだ。

 

 ふと今一度、真面真面と簪の様子を見てみる。

 着物の上に長く白いエプロン。そして、猫耳に尻尾の姿。

 学園祭ならではの凄い格好ではあるが、本当によく似合っている。

 着ているエプロンも着物は本物だ。素人視線だが高級品に見える。というか、実際そうなんだろう。

 

「そうかも……よく知らないけど……」

 

 簪はよく知らないまま着ている様だ。

 それにエプロンもネコミミも尻尾もよく出来ている。雑貨店などで売られている安っぽいものではなく、これまた本物みたい。無駄に質感がよく見える。

 

「えっと……触ってみる……?」

 

 座ったままの簪が姿勢を低くして、触らせてくれる。

 そういうことなら……と俺は手を伸ばし、触った。凄いな、これ。本当によく出来ている。触りこご地がよく、まるで綺麗な毛並みの猫のものを触っているかのようだ。

 

 触っていると簪は、擽ったそうにしてる。

 これ、作り物だよな?

 

「当たり前。ふふ、でも……何かくすぐったい」

 

 そういうものなんだろうか。

 しかし、本当に今の簪は給仕であり、猫娘そのものだ。

 簪の性格的にも一般的に言われる猫の性格に近い。だから、猫っぽいとそういってもあながち間違いではないはず。

 だからなんだろうか。俺は簪の喉を撫でていた。まるで猫の首や首周りを撫でるかのように。

 

「な、なに……? ど、どうしたの……?」

 

 脈絡のない突然のことに当然驚く簪。

 どうもしてない。特に深い理由もない。

 これは本当に何となくの行動。

 

「そ、そう……楽しいの……?」

 

 楽しいか聞かれれば、楽しい。

 猫の様に擽ったそうにしつつも、うっとりと気持ちよさそうに簪はしているのだから。

 加えて、今日の格好の簪相手なら余計にな。

 

 しばらく簪の喉を猫可愛がるように喉をなでていた。

 すると流石に我慢の限界が来たようで簪は口を開いた。

 

「……~ッ、も、もうっ……やめて……」

 

 言われて、手を止め離す。

 何となくとは言え、流石にやりすぎた。それも結構長く。

 簪に嫌な思いをさせてしまってすまなかった。

 

「えっ……あ……」

 

 名残惜しそうな顔をする簪。

 この場合、物足りないといっているのが正しいか。

 

 本当は簪の奴、もっとしてほしいのだろう。

 さっき嫌がったのは、ただ単に恥ずかしかっただけなんだ、簪は。

 意地悪いのは承知済みだが、分かって手を止めた。

 

 事実、手を出すと。

 

「……」

 

 無言のまま、顎を突き出し、喉を撫でてくれと言わんばかりだった。

 苦笑いしつつも、こしょこしょと喉を撫でた。

 すると案の定、満更でもない表情をしていたが、頬を膨らませ拗ねていた。

 

「……分かってやめたでしょう。からかっている」

 

 まあまあ許せ、簪。

 しばらくこうさせてほしい。

 慣れない接客をして疲れているだろう簪を少しでいいから癒してあげたい。

 

「癒してって……それはあなたもでしょう。むしろ、あなたのほうが疲れているんじゃ……」

 

 疲れてないと言えば嘘になるが、今はこうさせてほしい。

 簪を癒すことが俺に癒しになる。屁理屈なのは分かっているが。

 

「分かってる……いいよ、ほら」

 

 笑みを浮かべて簪は体を預けてくれる。

 構図こそは簪が俺に甘えてくれているものだが、実際のところは俺が簪に甘えている。

 このことに自分でいろいろと思うところがなくはないが、今日は学園祭。しかし、まだ初日。そういうのは無粋という奴だ。

 

 俺は、簪の体を抱き上げると自分の膝の上に乗せた。

 こう可愛がっていると猫みたいだ。

 

「猫……」

 

 何か考えるようにそう呟くと、しばしの沈黙の後、簪は恥ずかしそうにしながらか細い声で言った。

 

「……にゃ、にゃぁん」

 

 湯気でも出てしまいそうなほど、簪は耳まで真っ赤にしていた。

 恥ずかしいなら無理に言わなくてもと思ったが、簪なりに場のノリに合わせてくれだろう。

 その思いを汲まないわけにはいかない。更に猫可愛がるように俺は、喉や頭を撫でた。

 

「……にゃー」

 

 一回言って吹っ切れたのか、特に恥ずかしがった様子もなく、言いながら胸板に擦り寄ってくる。

 照れながら言ってくれるのはそれはそれで赴きみたいなものがあって可愛いが、素直に言ってくれる簪もやっぱり可愛い。

 

 しばらくこうしていると、休憩時間は残すところ後少し。

 結局、学園祭は周らなかった。今更過ぎるが、少し勿体無い気も……。

 簪だって周ってないだろうに。

 

「いい……別に。行きたい所特に思いつかないし……どうせ時間ない」

 

 それはそうだな。

 ただ、これではいつも通りだ。

 現状に文句や異論なんて態々言うまでもないが何だかなぁ……。

 

「いいじゃん……いつも通りで。というか、お互いこんな格好してるのにいつも通りはないでしょう」

 

 言われて納得した。

 やってることはいつも通りだが、いつもとは格好が違う。こんな格好できるのは学園祭だからこそ。余計なことは考えず、残り僅かな時間、簪だけに集中して堪能していよう。

 

「うん……どうぞ、堪能して。もうしばらくだけこうさせて。 んんっ……くすぐったい、にゃ」

 

 くすぐったそうに笑い猫のように甘えてくる簪を俺は時間が許す限り愛でていた。

 こんな学園祭の過し方もありだろう。

 そう思いながら。

 

… 




簪の大正給仕姿+猫耳・猫尻尾=最高オブ最高
皆さんの反応次第では女給猫耳簪とのセッ――もワンチャンあるかもしれない。
自分が見たいので、誰か書いて。

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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