進路。
進む道。将来の方向。
それについて今一度、考えなければならない時に直面していた。
「では各自、今渡した進路希望調査書に記入し必ず期限までに記入するように。以上だ、解散」
そう言い残して担任である織斑先生は放課後のショートホームルームを締めくくった。
そして山田先生を連れ先生達が教室を後にすると、開放感から教室は騒がしくなる。
聞こえてくる会話の内容はこの進路希望調査、進路について。
「あっ、もう書いたんだ。やっぱり、その学校志望なんだ」
「まあね~行きたい学科があるからね」
といったり、他には。
「ここもいいよね~」
「分かる~ここ結構、卒業生行ってるみたいだしね」
などといった感じ。クラスにいる大体の人がもう進路を真剣に固めている様子。
進路としてほぼ全員が進学希望。中には家業を継いだりするものもいるらしいが、ごく少数。
難関高であるから全員どの学校を選んでも学力的にはまず問題はない。そして卒業後、IS関係のことに携わらなくても、IS学園を卒業したというだけで、引く手数多であり、推薦なども多くあって、比較的進学しやすい。それは国内国外問わず。
ゆえに、進学する人の方が圧倒的に多い。
皆和気藹々としているが隣の席の奴は難しい顔をして唸っていた。
「う~んっ」
進路希望調査書を眺めながら一夏は何やら考え事をしていた。
何考えているのかは容易に察しがつく。進路……もっと言えば、進学か就職かといったところで悩んでいるのだろう。
おおよそ進学するべきなのは分かっているが行きたい学校がなく、織斑先生を楽にしたいから就職したいと考えているが、それもあまり現実的ではないということも理解していて、どうするべきか悩んでいるといったところだろ。
悩むのは結構だが、俺達には今やるべきことがある。
「あ……ああ、そうだな。お~い、
「は~い」
一夏と本音を連れて、教室を後にする。
向かうは生徒会室。今日は生徒会活動がある日。
道中、タイミングよく簪と合流することが出来た。
そのまま生徒会室へ入ると、そこには既に先客がいた。
「遅いわよ~」
「今日もいるし……」
溜息交じりに簪が嫌そうに言った。
先客とは言わずもだかな、楯無さんだった。
引退したのにもかかわらず今日も我が物顔で部屋にいる楯無さん。何か言っても今更聞くような人ではないし、気にしたら負けという奴なので構わず作業を始める。
作業は順調。いつも通りのいいペースで進んでいく。
幸い楯無さんはスマホで遊んでおり、邪魔してくることはない。もっとも邪魔してきたら、追い出すだけだから、邪魔してこないのなら触らず放って置く。
しかし、気になる人は気になる。
近くで一人だけ遊んでいるのだから当然か。たまらず一夏が定番のことを聞いた。
「楯無さん、その……いいんですか? こんな所にいても」
「あら? 心配してくれるの。大丈夫よ。もう、受験には受かって暇してるから」
予想通りの返答が返ってきた。
楯無さんはつい最近、受験に受かって無事第一志望に合格した。
早い時期での合格発表だが、推薦入試だからこそのこと。
大変喜ばしい、めでたい事だが、だからってこんなところで暇潰してるのはいかがなものか。
「いいじゃない。別に」
「……」
気にしてない楯無さんに無言の簪が内心あきれているのが分かった。
滞りなく作業は進んでいく。これならそろそろ終わりそうだ。
だからなのか終わりかけの頃を見計らって、楯無さんが話しかけてきた。
「そう言えば、この時期って二年生、進路調査よね?」
「楯無様、よく知ってますね~」
「まあ、私も去年このぐらいの時期に書いたからね。もっとも、この時期には大体進路が決まりきっている人がほとんどだけど」
そういうものなんだな、やっぱり。
毎年そうなんだろう。
「で、あなた達は進路は? 何所に進学するつもり?」
「進学か……」
「どうしたの、一夏君。まさか、まだ進路決まってないの?」
「……はい」
一夏は苦々しく頷く。
何だか一夏の表情には焦りの様なものが見える。
もしかしなくても一夏は焦っているのか。
「そりゃ焦せるだろ。周りがこんだけ進路ちゃんと考えてるなんて思ってもみなかったからよ」
だろうな。
ウチのクラス、普段賑やかでお祭り騒ぎ大好きな騒がしい人ばかりだが、何だかんだ真面目な人が多い。進路考えてなさそうな人でもちゃんと考えている。それもかなり真剣に。
だからこそ、一夏は余計焦っているのだろう。
「そういう弟君はどうなの? 進路は決まってる?」
頷いて答える。
進路は周りと同じく進学。
あくまで今のところただの希望で本当に進学できるかは定かではないが、下手に就職希望するよりかは幾分いいだろう。俺達の身の上なら尚更。
「それは……そうだけど……」
一夏もそれは分かっているようで難しい顔をしている。
「ちなみに進学先は何処?」
言われて正直に答えた。
すると案の定な反応を楯無さんはしていた。
「は~なるほどねぇ~うんうん」
「……」
ニヤリとして俺と簪をからかってくる楯無さんに簪は必死に無視を突き通していた。
進学先は簪と同じ学校。
あまり楯無さんには言いたくないし、簪も知られたくないだろうが、どうせいつかは知られてしまう。下手に隠すよりもさっさと言ってしまった方がいい。どうせいつ言ってもからかわれる。
現に今、予想通りの反応をしているわけだし。
「ここを卒業しても同じキャンパスで変らずイチャつくのね、我が妹と弟は」
「下品な言い方やめて」
「本当のことじゃない。羨ましいわ~。今からそっちの学校受けなおそうかしら」
「絶対止めて……来ないで。それに別にそういうつもりで選んだわけじゃないから」
苦しい言い訳にも聞こえてしまうが、事実だ。
二人で選んだ大学だけど、それぞれいきたい学部があったから選んだまでのこと。
一緒の学校の方がいろいろと都合がいいのは確かだが、何も楯無さんの言っているようなことだけではないと言っておきたい。
「はいはい、分かってますよ」
分かってなさそうな表情を楽しげに浮かべる楯無さん。
もういいや。適当に流しておこう。
「うん……その方がいい」
そう言う簪の口調は至極飽きれたものだった。
「でも、そうなると……進路が決まってないのは一夏君だけになるわね」
「えっ……
「私もかんちゃんと同じところだよ~」
本音の進学先も俺達と同じだった。
行きたい学部こそ本音も見つけているが、本音の場合は簪が行くからという理由が大きい。
それも従者だからということなんだろう。実際、虚先輩が進学した学校も楯無さんが進学する学校と同じだ。
今時古臭いと思わなくはないが、部外者である俺が何か言うべきことではなく、本音と簪の両人は多少なりと納得しているみたいだし、今これ以上言及すべきではない。
「マジか……」
焦っているというよりかは一夏は落ち込んでいた。
周りの人だけではなく身近な人、恋人までちゃんと進路を決めているのに、自分だけ考えてなかったという現実をつきつけられたからといったところだろう。
「言っといて何だけど、焦りは禁物よ、一夏君。ただ、ゆっくりもしてられないけど……一年はあっという間なのだからね」
確かにそうだ。
来年の今頃には俺達も受験生。下手すると、合否が出ている頃だ。あまり悠長にしてはられない。
一夏をこれ以上焦らせるつもりはないが、どのみち三年生になればすぐに進路はきっはりさせないといけないしな。
「だよな……将来のことって将来過ぎてあんまり考えたことなかったけど……進路ぐらいは真面目に考えないとヤバいよな」
「んー何なら
「それもありっちゃありだよな……」
何はともあれ、これで一夏も真剣に進路を考えるきっかけにはなったみたいだ。
後は決めて、期限までにあの用紙を提出すれば、ひとまずはことなきをえる。
本決まりの雰囲気はあるが、これはあくまでも希望調査書なわけだし。
「だな」
一夏は力強く頷いていた。
「もっとも、二人の将来こそはある意味安定よね」
「どういうことですか?」
「そのままの意味よ、一夏君。簪ちゃん達と付き合ってる二人は将来的に名実ともに更識家の縁者になるわけだし。弟君にいたっては、更識の本家の人間になる。当主である私と姉弟になるのだから」
こんな身の上だ。
そうなればある意味、安定とは言える。平穏とは程遠くなりそうだが。
「弟君が正式に弟になってくれるのが楽しみね。妹もいいけど、弟もほしかったもの。簪ちゃん共々可愛がってあげるわ。たっぷりとね」
楯無さんは、含みのある嬉しそうな笑みを浮かべている。
嫌だなその表現と言い方をしてくるのは。
何だか悪寒までしてくる。
「そんな嫌そうな顔しなくてもいいのに。というか、今のうちから当主様に愛想振りまいたほうがいいんじゃない?」
愛想悪いのは認めるが、だからってそんなことはしない。
いくらなんでも下心が見えすぎろ、それは。
というか今更、俺がそんなことしても楯無さんは失望するだけ。そういうことされるの楯無さん、実際好きじゃないだろうに。
そんなことを言うと楯無さんは、感心した後、また嬉しそうな笑みを浮かべた。
「あ……そう。お見通しってわけね。弟がこんなにもお姉ちゃん理解してくれていて嬉しいわ」
ああそう。
楯無さんが楽しそうで何より。
「兎も角、進路選択は焦らず慎重かつ迅速にね。たかだか目先の選択かもしれないけど、貴方達男子二人にとってはこれからの全部を決めるような決断になりかねないからね。例えば、学業を卒業した後将来的やり続けたいこととか、夢とか」
「やりたいこと……」
夢か……。
・
・
・
「ねぇ……」
自室で夜の日課である二人での自習をしている時だった。
簪に呼びかけられ、手を止め、顔を上げる。
どうかしたんだろうか。
「どうかしたって……それはこっちの台詞。ずっと考え事しているみたいだけど……どうかしたの……?」
鋭い。
確かに考え事していたけど、顔に出ていたのか。
「ううん、別に……でも、何だかそんな雰囲気感じたから」
そういうこと。
考え事と言っても難しいことを考えていたわけじゃない。
何となく、将来について、将来の夢のについて考えていた。
「将来の夢……ああ、お姉ちゃんが言っていたこと?」
そうだと頷く。
進路、進学先は決めたが、学業を卒業した後将来的にやり続けたいことを、夢をあまりちゃんと考えたことがなかった。
一夏のように将来のことすぎるからってのもあるが、今いい機会なんだ。考えといて損はない。
それに楯無さんが言ったようにある意味では将来安定かもしれないが、だからといって更識家に、簪に甘え続けるつもりはない。男なのだからしっかりしていなければならない。
「ふふ、相変わらずだね」
そう言う簪は、将来やりたいこと、将来の夢があったな。
「うん……将来、私はちゃんと正式な国家代表選手になる。そして、一つの大きな結果を、モンド・グロッソで優勝する。あなたと一緒に学んだことを活かし、この打鉄弐式で」
待機状態である打鉄弐式を抱きながら、簪はそう力強く言った。
これが簪の将来やりたいこと、夢。常々聞いていたが、いい夢だ。
目標をかかげ前向きに頑張り続けている簪の姿は、やっぱり眩く光輝いている。そんな簪が好きだ。
だからこそ、これからも俺は力の限り、それ以上に全力で簪のサポートはしていきたい。
「ありがとう……それはこっちからもお願いしたいな。そう言うあなたのやりたいこと、夢って何……? 分かってると思うけど、私のサポートとかはなしだから」
将来やりたいこと、夢か……。
簪ほど明確ではないが、今後もISに関わり続けたいと考えている。
「ISに……?」
簪の言葉に頷く。
ISに関わったことで今の生活、今の俺が出来た。普通の生活を送っていたままなら体験しできなかった大変なことや辛いことを沢山体験してきた。だけど、悪いことばかりじゃない。
ISのおかげで、簪と出会うことが出来、ISがきっかけでこうして簪と交際するまでに至った。
感謝はすれど恨みはしない。俺にとってISは大切な存在だ。
それに今、バイト扱いで倉持の武装テスターをしているが、それに遣り甲斐を感じて楽しくなってきた。ISに乗るのが楽しい。出来れば今後も、将来的にも続けていけたらいいなと思う。
それは自分でなくても出来ることだが、こんな身の上だからこそ、自分が出来ることをやり続けたい。
ゆくゆくはもっと知識や技術を身につけ、様々な事柄に役立てられるようになりたい。これが俺が将来的にもやり続けたいこと。将来の夢だ。
「そう……あなたらしい夢だね。その……私のほうこそ、サポートさせてね……?」
ああ、もちろんだ。こちらからもお願いしたい。
しかし、こうして夢とかを言葉にすると照れくさいものがある。
照れくさいと言えば、もう一つあった。
「……?」
言いかけて躊躇する俺を簪は不思議そうに見る。
ここで言葉を惜しむべきではない。むしろ、愛する者には言葉を尽くさなければ。
「――っ、……!」
伝えると簪は、顔を真っ赤にして俯いた。
言った言葉とは、もうひとつの夢。簪を幸せにするということ。簪と幸せな家庭を築くということ。
夢と言うよりかは目標に近い。
青臭い。いや、恥ずかしいことを言っているが、言葉にしなければ伝わらない。
「嬉しい……でも、それだけじゃ嫌……」
思わず、間の抜けた声で聞き返してしまった。
言葉通り、簪は確かに喜んでくれていて、それは嘘ではないのは俺にも分かるが、ダメだったか。
言葉を尽くしたが、それはまた尽くしたつもりになっただけで、結局は言葉足らずに。
「もうっ、違うってば……あなたが私を幸せにしてくれるのは嬉しい。でも、それだけじゃ嫌。あなたが私をしてくれるのなら、私もあなたを幸せにするから」
簪の言葉が心に響く。
そういう意味だったのか。安心した。嬉しい。
簪が幸せにしてくれるのなら、もっと簪を幸せにしてあげたい。
「私だって、もっともっとあなたを幸せにしてあげるんだから」
二人して張り合ってしまう。
それが何だかおかしくて二人して笑いあった。
「ふふ……私はね、あなたと出会えて本当によかった。あなたと出会えたことで前向きになれることが出来た。そのおかげで私は今も頑張り続けることが出来ている。ありがとう」
目を見つめ、真剣な表情で真摯に気持ちを伝えてきてくれる簪。
「私はあなたが好き。あなたの優しさに、暖かさに、強さに触れて、私の中であなたという存在が大きくなった。これほど誰かを愛おしく、大切に感じて思えたのはあなたが始めて」
簪の言葉、一つ一つが胸の中へと溶けていき、暖かくなる。
惜しみない言葉がこんなにも嬉しくて、幸せな気持ちにさせてくれる。
そして、簪はとっておきの言葉を言ってくれた。
「あなたを愛している。これからもずっと一緒に生きていこうね」
まるでそれは誓いの様な言葉。
しかし、それが簪が伝えくれる本心ありのままの言葉。
ならば、俺がすべきことは、伝えるべきことは一つ。
俺も簪を愛している。これからもずっと一緒に生きていこう。
これが俺が簪に伝える惜しみない真実の言葉。
「嬉しい」
そして、ゆっくりと唇と唇が近づいていく。
「んっ……」
結婚式でするような永遠の愛を誓うキスを交わした。
簪の柔らかな甘い唇を確かに感じる。
唇と唇がただ触れ合うだけキスだったが、今はこれで充分だった。
そっと離すと、何だかくすぐったくて二人して笑いあった。
脈絡がなく、少々大げさだったかもしれない。
「そうだね……でも、これでいい。幸せだから」
そうだな。
「私を幸せにしてなんて言わない。だから、二人一緒に」
二人一緒に幸せになっていこう。
将来、未来なんてものは気づけばすぐそこだ。だからこそ、今までと変らないこの時間を、これからも大切に育んでいけばいい。
誰でもない俺達自信がそう望み、歩んでいけば、きっと。
これからも変らず続き輝いていく。簪とのありふれた日々は――。
…
去年の11月3日から始め今年の11月3日で丁度一年。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
最終回と銘打ちましたが、あくまでも区切りの意味合いでの最終回ですので、今後もおそらく続いていきます(季節ネタなどや馴れ初め、リクエスト消化していきたいので
今後ともお付き合いしていただける嬉しいです。
要望などや話的なリクエストなどかあれば、活動報告のほうにどうぞ。
感想お待ちしております。
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
それでは