簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と冬デート

 新年を向かえ、早数十日経った休日の今朝も冬の寒さは相変わらずといったところ。

 昼頃になれば、いつもよりかは寒さがマシになるとのことだが、それでも寒いものは寒い。

 しかし、学園から駅まで行くモノレール駅で待つ今は不思議と気にならない。何故なら、期待で胸が高鳴っていて、それどころではないからだ。

 その理由は今日簪と久しぶりに遠出デートをするからに他ならない。今は駅でその待ち合わせ中。

 簪が来るのを今か今かとワクワクしながら待つ。

 

「お待たせ」

 

 簪の声だ。どうやら来たらしい。

 俺は、声がした方向へと振り向いた。

 

「待たせてごめんなさい……寒かったでしょう?」

 

 簪は気にかけてくれたが、そんなことよりも気を取られていることがあった。

 今日の簪の服装だ。ノーカラコートというらしいベージュ色のコートを羽織り、中は黒ニットとグレーのスカートに身を包んだ簪。首には白のマフラーを巻いている。大人な上品さを感じさせられる姿。

 それに簪は薄っすらとだが、化粧をしている。それだけで今日はまた一段と気合が入ってるのが見るだけで分かる。

 可愛い。綺麗だ。そんな月並みの感想しか今の簪の姿を見ても思い浮かばなかったが、それは心の底からの本心だった。

 簪のあまりの姿に言葉を失っていたが、ハッと我に帰り感想を言った。

 

「そ、そう? えへへ……嬉しい、ありがとう。でも、そうストレートに言われると照れちゃうね」

 

 照れくさそうに笑う簪。

 ここが学園の近く、外でなければ抱きしめていた。

 それほどまでに照れ笑う簪は可愛い。

 

 だが、いつまでもここでこうしているわけにもいかない。

 朝早くからこうして待ち合わせしたのだから、そろそろ目的地へ行くか。

 

「うんっ」

 

 簪と共に目的地へ向かいだす。

 まずはモノレールに乗って学園からレゾナンス前の駅に行き、そこから電車に乗る。

 向かうは東京都内某所。

 

「人多くなってきたね……」

 

 簪のその言葉通り、目的地に近づくにつれ電車に乗る人が増えてきた。

 まあ、当然だろう。人の多い都会であり、休日とは言え通勤ラッシュの時間帯なのだから。

 人の波に押され、窓際へと追いやられる俺達。

 すると、わざっとやっているわけじゃないが、簪が潰されてしまわないように俺は自然と簪の壁になっていた。

 

「ありがとう……辛かったりしない……?」

 

 それは大丈夫だ。

 むしろ、簪の方が辛かったりしないだろうか。窓際へと追いやるようになってしまってるし。

 

「ん、大丈夫……あんまり褒められたことじゃないってことは分かっているけど、こういうの憧れたから」

 

 遠慮気味ながらも密着するように簪が俺に掴まる。

 何だかそんな姿が子猫などといった小動物を連想させられる可愛さがあった。

 オマケに身長差があって、簪が上目遣いで見つめてくる。これといいシチュエーションといい結構な破壊力があるな、これは。

 

 そうして電車に揺られること約一時間ほど。

 ようやく目的地近くの最寄り駅に着いた。

 そこからまた目的地にへと歩いて向かうのだが、駅から目的地まで5分とかからない。

 建物へと入り、7階までエレベーターで登ると目的地にたどり着いた。

 

「わぁっ……ここがコラボカフェ」

 

 テンションが上がったのか、簪は嬉しそうに目が輝いている。

 俺達がやってきたのは、記録的な興行収入を出した某アニメ映画のコラボカフェ。数回ほど簪と見た。

 映画自体もそうだが、このカフェの評判もいいらしく簪も俺も気になっていたのでデートでここに行こうということになり、今日やって来た。

 人気な店だけあってもうたくさんの人が店の前に列を作っている。しかし早く来たおかげか、これなら思ったよりも早く店内に入れそうだ。

 

「楽しみだねっ」

 

 まだ全然テンションの高い簪。ずっと行きたいと行っていて、目の前にあるのだから無理もないか。

 でもそのおかげでというべきか、そんな簪を見ているだけでこの待ち時間は退屈せずにすみそうだ。

 束の間待つとようやく俺達の番になり、店内に案内してもらい席に着いた。簪と向かい合って座る。

 

「このBGMってあのシーンのだよね……ほら」

 

 店内に流れるBGMに耳を傾けながら、映画のことを話し合う。

 そうしていると、店に入る前にあらかじめオーダーしていた料理が出てきた。

 

「パンケーキ……まんまだ」

 

 簪が注文したのは、作中でキャラ達が食べていたパンケーキを再現したパンケーキだった。

 再現度というか、クオリティ高い。特にモナカで再現された携帯が何だか面白い。

 

「あ、写真取らなくちゃ……ふふっ」

 

 スマホを取り出し、ニコニコと笑顔を咲かせた簪は写真にパンケーキを収める。

 ちなみに他にもドリンクも注文し、それもまた簪は楽しそうに撮っている。

 折角、長いこと並んだんだ。俺も写真取っておくか。

 簪と同じ様に俺もまた注文した料理を写真に収めていた。いい具合に撮れている。これは一夏達に自慢できそうだ。

 

「ねぇ、それでよかったの……?」

 

 少し申し訳なさそうに簪は言う。

 

 俺が注文したのは抹茶パフェ。これもまた作中のものを再現したものなのだが、店の時で注文の品を考えている時、簪はずっとパンケーキにしようか抹茶パフェにしようか迷っていた。

 そこで俺が抹茶パフェを注文するから、簪はパンケーキを注文すればいいと提案し、今に至る。

 何を今更。俺も食べてみたかったし、簪が気にする必要はない。

 

「ありがとう」

 

 嬉しそうに微笑む簪に俺もまた嬉しくなった。

 さて、話もそこそこにしてそろそろ食べてしまわないと。

 人気店なだけに料理を注文してから1時間ほどで出ないといけないのが中々世知辛い。

 

「そうだね……頂きます」

 

 早速俺達は目の前の品を食べ始めた。

 

「うん~っ。甘くて、モチモチしてて美味しいっ」

 

 パンケーキの美味しさに舌を唸らせる。

 

 俺が食べている抹茶パフェも美味しい。

 他のコラボカフェでよくある見た目や雰囲気だけのものではなく、味が結構しっかりしていて、コラボ商品にしては凄い出来だ。

 値段は割高な気もしなくはないが、それでも満足いく一品だった。

 

「本当に美味しい。はぁ~幸せ……」

 

 簪は幸せそうに頬をほころばす。

 それを見ているだけで何だかパフェの美味しさが3割増した気分だ。

 

「あ、そうだ。……よし、あ、あ~ん」

 

 周りに注意し、人をはばって、簪は遠慮気味に一口サイズのパンケーキが乗ったフォークを差し出す。

 遠慮なく頂く。

 

「どう……? 美味しい……?」

 

 それはもちろろん。

 人前で恥ずかしさは当然多少なりとあるがこうして食べさせてもらったし。

 

 しかし、作中に出いたのを再現しただけあってかなり甘い。

 結構胃に来そうだ。というか、太りそう。

 

「太らないもん……ケーキは別腹だから大丈夫」

 

 そういうもの……なんだろうな。うん、きっと。

 

「……」

 

 自分のケーキを食べながら、簪がちらちらと俺の手元にある抹茶パフェを見ている。

 それが何を意図しているのか俺には容易に分かった。食べさせてもらったんだから、お返ししないとな。

 スプーンに一口サイズの抹茶パフェを掬うと、簪がしてくれたように差し出す。もちろん、あ~んの言葉つきだ。

 

「あ、あ~ん……」

 

 少し照れくさそうにして小さな口を開けて、パフェを食べた。

 

「んん~っ、ほろ苦くてほしい」

 

 喜んでくれているようで何よりだ。

 もう一口どうかと再びスプーンを簪へと向ける。

 

「いいの……? ありがとう……あ~む」

 

 パフェを食べるとまた簪は満足げに笑う。

 こんなにも幸せそうにしてくれるのなら、来た甲斐があるというもの。俺はパフェよりもそんな簪を堪能していた。

 

 

 

 

「はぁ……美味しかったね。ありがとう楽しかった」

 

 お礼なんて水臭い。

 俺もまた楽しかった。

 

「でも、これ買ってもらったのに……」

 

 そう言った簪の腕の中にはぎゅっと抱きしめられたハリネズミのぬいぐるがある。

 これもまた作中のものを再現したものらしく、グッズショップで売られていたのを今日の記念にとプレゼントしたものだ。

 他にもあれこれ買ったが、簪はこのぬいぐるみが一番気に入っている様子。きっとこれからこのぬいぐるみは簪に大切にされるのだろう。そう思うと羨ましく思わないわけでもない。

 

「あなただと思って大切にするね」

 

 簪は冗談めかしに言って悪戯っぽく笑った。

 それはそれで恥ずかしいというか何と言うか。

 

 さてと、そろそろ次の場所に行くか。

 腹が満たされたとはいえ、まだデートは途中なのだから。

 とは言っても、この辺りを二人でブラつくだけ。俗にいうウィンドウショッピングという奴だ。

 簪へ手を差し伸べる。すると、嬉しそうにして手を取ってくれる。そうして、指が絡まり恋人繋ぎとなった。

 知り合いの目がないからか、人前でも簪は積極的だ。それがまた俺には嬉しくもあった。

 

 一応この辺りのことは前もって下調べこそはしていたが、俺はもちろん、簪も初めてとのこと。

 いくつかデート先の候補はあるが、そこへ行くのに結構苦労した。

 本当なら、もっとスムーズにエスコートしたかった。

 

「今でも充分だよ……それに何か冒険しているみたいで楽しい」

 

 冒険か……確かにそうかもしれない。

 東京都内、今俺達がいるここなんかは結構入り組んでいたりいて、迷路みたいだ。

 反面、店が所狭しと軒を連ねており、種類も豊富だ。よく利用する近所のショッピングモール『レゾナンス』にはない有名ブランド店やテレビなどでよく見聞きする有名店があって、どの店に行っても新しい出会いばかりで楽しい。

 

「……えへへ」

 

 隣で簪が楽しそうに笑ってくれている。

 ウィンドウショッピングの間ずっとニコニコしていた簪。かなり上機嫌の様子で何より。

 それだけで、俺の中でも楽しさが増していくのをしひしひと感じていた。

 

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎる、とはよく言ったものだ。

 気づけば、もう夕方。そろそろ、寮へと帰らなければならない時間となっていた。

 だから最後にと、夕日に染まる街並みが一望できる展望台へやって来た。

 

「綺麗……」

 

 二人で展望台から景色を眺める。

 空は茜色に染まり、街に明かりが灯り始め、そんな街並みが何だか幻想的で綺麗だった。

 デートの終わりを実感させられる。寂しくもあるが、楽しい一日だった。簪はどうだったんだろう。

 

「私も楽しかった……今日はデートに誘ってくれて本当にありがとう。すごく幸せだよ、私」

 

 そう言ってもらえると凄く嬉しい。よかった。

 

 しかし、何だ。

 

「?」

 

 歯切れの悪い俺の言葉に簪が不思議そうに小首をかしげる。

 繋いでいた手はいつしか離れていて、簪から腕を組んでいた。

 

「嫌、だった……?」

 

 不安そうに聞いてくる。

 最近の簪は意地悪になってきた。わざっと聞いてるだろう。まあ、それ自体は別に構わないし、

簪と腕を組むのが嫌だなんてことはまずありえない。

 

「よかった……まあ、周りのカップルもやってて、折角だから」

 

 安心したほうに微笑んで簪は、ピタっと寄り添う。

 ここがデートスポットだけあって、周りにはカップルが多い。そして簪のいう通り、ほとんどのカップルが腕を組んでいて二人だけの甘い世界へと入っている。

 

 そういう場所だからいいんだが、密着しているせいか腕に簪の胸が当たっている。幸せなのことこの上ない。

 

「そ、そういうのは言わないものだよ……それに、こ、これは……あ、当ててるのっ」

 

 と言った簪の頬は赤い。

 

「それは夕日のせい……」

 

 可愛い照れ隠しだな、まったく。

 そうことにしといてあげよう。

 更に密着されてぎぅゅゅっと腕に抱きつかれながら、俺達はもうしばらくの間展望台から夕日を眺めていた。

 

 ある時、ふと簪の名前を呼んだ。

 何の疑問もない様子で簪が振り向いてくれると、少しかがんで唇にそっとキスをした。

 

「……」

 

 当然と言うべきか、呆気にとられている。

 俺からこんなことするとは思ってもいなかったんだろう。

 

「うん……ふふ、珍しいね。人前のに」

 

 そういう気分だったんだ。

 周りの人達は自分たちの世界に夢中で周りのことなんて気にしてないからまあ問題はないはず。

 というかやっておいてなんだが、今更ながら多少の気恥ずかしさみたいなものを感じてきた。

 

「あ……顔真っ赤」

 

 くすりと笑って簪に指摘される。

 夕日のせいだ、きっと。

 

「もうっ……。ねね、もう一回いい……?」

 

 仕方ないなと笑ってから、少し恥ずかしそうに聞いて簪は上目づかいで唇をつきだす。

 身長差的に自然とそうなったんだろう。

 こう可愛くねだられたら仕方ない。答えるように、俺はそっと簪に口づけをした。

 

「ん……」

 

 どちらからともなくゆっくりと唇が離れる。

 たった数秒のキス。

 

「外で……キス、しちゃったね」

 

 照れくさそうに簪がはにかんで見せる。

 

「ね……また、こうやって遠出してデートしてほしいな。いい……?」

 

 それはもちろんだと頷きながら答えてみせる。

 

「やった……じゃあ、約束。指きり」

 

 差し出された小指を小指で握り、決まり文句を言いながら指きりする俺達二人。

 

「指きったっ」

 

 幸せいっぱいに笑う簪の笑顔が綺麗に思えたのは、夕日に照らされたからだけなさそうだ。

 




今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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