簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪「ぁ……んっ…んぁ…あっ…ぁ…あっんっ…」

 

「はぁ~……」

 

 夜いつもの様に部屋で一緒に勉強をしている時だった。

 目の前にいる簪が小さく溜息をついていた。

 その溜息からは疲れを感じさせれる。大丈夫なんだろうか。そう思わずにはいられなかった。

 

「ん、大丈夫。ちょっと疲れてるだけだから、心配しないで」

 

 簪は俺に気を使わせないように小さく笑っていた。

 そうは言うが顔色はよくない気がする。やっぱり、疲れている。無理もないか。

 相変わらず学園生活は忙しい。特に簪は俺達のように学校や生徒会の仕事、日々の自主練だけではなく、代表候補生のことがあったりと大忙し。

 それ自体は今に始まったことではなく、簪も自分で折り合いをつけているだろうが、それでも溜まる疲れはある。

 勉強は今日ここまでにして、後はゆっくりするか。

 

「えっ、いいよ。そんなまだ始めたばかりでしょ……本当に大丈夫だから」

 

 心配なんだ、やっぱり。

 勉強なんて毎日やってることだし、いつだってできる。

 疲れていて、休める時はゆっくり休んだ方がいいはずだ。

 何より、俺が簪とゆっくり過したい。そういう過し方も悪くないはずだ。

 

「……分かった。あなたがそう言うのなら、そうしよっかな」

 

 納得してくれたように簪はペンを置いて、手招きした俺の元へやってくれる。

 半ば無理やり説得した気分だが、強めにでも言わないと簪は納得してくれない。

 

「ふぅ……」

 

 後ろの俺を背もたれにして、両足の間で寛ぐ簪が一息つく。

 勉強をやめたことで簪のスイッチがオンからオフへと切りかわったようで、ドッと疲れが出た様子だった。

 これは随分溜め込んでいたな。こんなに傍にいたのに気づけなかったのが悔やまれる。

 

「もうっ、大げさだよ……でも、疲れてるからなのか肩がちょっとね……」

 

 自分の肩へと手をやる簪。

 凝っているみたいだ。

 そうだ、ここは一つ肩揉みでもしてあげよう。決して肩揉みが上手いわけでもなければ、肩揉み一つで簪の疲れがすぐによくなるわけじゃないだろうが、それでもしないよりかはマシなはず。

 というよりも、疲れている簪に何かしてあげたい。

 

「……じゃあ、お言葉に甘えてお願いしてもいい?」

 

 もちろんだとも頷いた。

 失礼して簪の肩を揉みはじめる。

 そう言えばこうやって誰かの肩を揉むのは随分と久しぶりだ。力加減はこんな感じで大丈夫だろうか。

 

「ん、大丈夫。丁度いい力加減」

 

 うっとりと気持ちよさそうな声をもらす簪。

 大丈夫みたいで何より。

 にしても、簪の肩は大分凝ってる。疲れている証拠だ。同時にそれは頑張っている証拠でもある。

 簪は本当によく頑張ってる。偉い。頑張る簪の姿はやっぱり、綺麗だ。

 

「も、もうっ、どうしたのっ。褒めてくれるのは嬉しいけど……褒めても何もでないよ」

 

 照れくさそうに簪は言う。

 別にそういうじゃない。ただ単に頑張っている簪を褒めたくなっただけのこと。

 

「ふふっ、そっか。あ、そこそこ……いい感じ。上手だね……ん~、気持ちいい」

 

 そう言って気持ちよさそうにしてくれると、マッサージ冥利に尽きる。

 好きな人の為にしたことがこんな些細なことでも喜んでもらえるのは嬉しい。

 

 大体10分ぐらい経っただろうか。

 このぐらいでもう肩は充分なはずだ。

 

「ん、大分よくなった……ありがとう」

 

 簪は嬉しそうに微笑んでくれている。

 マッサージはこれで充分なはずだ。簪も喜んでくれているし、さっきより少しは疲れが取れて顔色もよくなっている。

 だがしかし、したりないと思ってしまうのは何故だろうか。

 

「したりないって……あなたの方こそ疲れたりしてない? 私はもう充分だから」

 

 そうだよなあ。

 実際本人に充分と言われてしまうと何か凄いショックだ。

 

「そんなしょんぼりした顔しなくても」

 

 そうは言われても。

 このままでは今度俺が簪にマッサージされてしまう。

 

「えっ……うん、そのつもりだけど……」

 

 ほら、この通り。

 嫌なわけじゃないが、それじゃあいつものパターンだ。悪くはないんだけど、今日は簪にいろいろしてあげたい気分。我ながらめんどくさいなとは思うが。

 

「ううん、そんなことないよ。私のほうがめんどくさいだろうし……それはいいとして、今日のあなたは本当にしたがりなんだね……じゃあ、もう少しマッサージお願いするね」

 

 簪の言葉に力強く頷く。

 やっぱり、簪にお願いされるのはどうあれ嬉しい。

 はりきって頑張ろう。

 

「まったく、嬉しそうにちゃって……で、次はどんなマッサージを……?」

 

 肩揉みの次となれば、やっぱり全身マッサージだろう。

 今さっき肩を揉んで肩の疲れが取れたとはいえ、まだ疲れが残っているところはあるはず。

 この機会に溜まってる疲れを全部取り除いて、簪にはスッキリしてもらおうと思う。

 

 じゃあ、失礼してと。

 

「ひゃっ!?」

 

 簪を抱き上げ、お姫様抱っこでベットへと連れて行く。

 今のまま床がするよりベットのほうがいいだろう。

 

「お、重くない……?」

 

 お姫様抱っこされている簪は不安げな顔で見つめてくる。

 そう言えば、こうしてお姫様抱っこするの久しぶりだった。

 ちゃんと重みはあるが、それは安心できるもの。相変わらず、心配になるぐらい軽い。

 

 ベットまで運ぶと一旦眼鏡を外してもらってからうつ伏せで寝てもらう。

 そこからまず背中や腰からマッサージしていく。

 始めはゆっくりと指圧してみたり、手のひら全体で揉みほぐしてみたりする。 

 

「んぅっ……!」

 

 簪が悲鳴めいた声をあげる。

 思わず手を止めた。

 痛がらせてしまったか。

 

「だ、大丈夫。続けて」

 

 気を取り直して続けていくのだが……。

 

「ひゃぅっ……んっ、あぁ……んんっ」

 

 悲鳴は最早、甘い声と化していた。

 これはもしかすると。

 

「くすぐっ、たいよ……。あっ……そこっ、やぁぁんっ」

 

 またも簪が甘い声をあげる。くすぐったさを感じているよりかは、性的な快感を感じているようだ。

 確かにマッサージされているとくすぐったさを感じるのは分かるが、こうも艶っぽい声を出されるといけないマッサージでもしている気分。正直、ムラムラして辛い。

 そんな声まで出してくすぐったいようなら、やめるのも選択肢の一つだ。

 

「や、やめないでっ……声、我慢するから……お願い、……ね」

 

 枕に半分顔を埋めながら言う簪の頬は深く紅潮し、瞳は濡れていて、何だか色っぽい。

 仮にまだわざとだったら聞き流せるが、簪の場合は冗談ではなく素でやっているからある意味性質が悪い。本人に自覚なさそうだし。

 興奮で喉が渇く。だがしかし沸き上がるものグッと堪え、マッサージを続ける。

 

「んっ……はぁ……っ、んんっ……はっ……あぁっ」

 

 言ってた通り確かに簪は声を我慢してくれている。

 けれど、声を我慢しているせいで余計に艶っぽくなっている。

 

 今夜はただのマッサージのはずなのに、無性に手を出したくなる。

 ダメだ。ダメだ。集中、集中。

 呪文でも唱えるかのように、そう念じるばかり。

 

「あっ! あそっ、待って! ダメっ!」

 

 丁度、太もものマッサージをしている時だった。

 簪の反応が変った。

 さっきまでの性的な快感を感じているような甘い声とは違い、純粋にくすぐたがっている。

 そう言えば、簪は太ももとか足の裏弱かったな。

 

「分かってるならやめて……あはっ、あっはははっ!」

 

 くすぐったいのを我慢できず、珍しく簪が大きな声で笑い声を上げる。

 ついでに若干だが抵抗するようにジタバタと暴れてもいた。

 

「降参! 降参するから許して~……もうっちょっ、やぁんっ、足の裏くすぐった……あっはははっ! ひぃんっ!」

 

 おかしな声まであげてる始末だ。

 降参って言われてもな……くすぐったいと感じるのは凝り堅くなっている証拠の一つだと何処かで聞いた覚えがある。

 くすぐったいのはもうすぐ終わるから我慢してくれ。

 

「我慢、って……馬鹿ぁ、楽しんでるでしょ……!」

 

 否定はしない。

 くすぐったがっている簪がひんひんいい声で鳴いてくれているのは聞いて見て楽しいものがある。

 しかし、マッサージはマッサージ。最後までやり遂げた。

 

「身体が軽くなったのは感謝するけど……降参って言ったのに~……馬鹿」

 

 簪は枕に顔を埋めたまま、拗ねたようにそんなことを言った。

 ヘソを曲げてしまった簪。

 楽しんでしまったとは言え、マッサージはちゃんとしたのだから機嫌直してほしい。

 

「うるさい……」

 

 一言そう冷たく言われてしまった。

 もしかして怒らせてしまったか?

 不安になっていると。

 

「ねぇ」

 

 名前を呼ばれ、顔を伏せたまま手招きする簪の方へ身を屈めて近づく。

 

「えいっ」

 

 景色が反転した。気づくと手を引かれて、ベットへと引きずり込まれる。

 ベットで横並びになって向かい合う俺達。

 目の前では簪が何か悪巧みでも考えているかのように意地悪な笑みを浮かべている。

 

「ふ、ふ、ふっ! 仕返しっ」

 

 人に触られると弱い部分である脇を簪がくすぐってくる。

 突然のことにくすぐったくて堪らず、俺は声をあげて笑ってしまった。

 反則だろ、それ。やめてほしい。というか、くすぐったくて力が上手く入らないせいか、簪を引きはがせない。オマケに簪の奴、足絡めてガッチリホールドまでしてきやがってる。

 

「どう? ふふん、参ったかっ。こしょこしょこしょっ」

 

 簪が凄い勝ち誇った顔してる。

 無性に悔しい。このまま簪にやられっぱなしは尺だ。

 くすぐったいのを全力で我慢して、俺も簪の脇をくすぐって仕返しをした。

 

「ちょっ!? あっは、卑怯ッ今、私の番なのにぃっ! あっははははっ、くぅっ……ま、負けないっ」

 

 くすぐったくて笑いが止まらないのに簪はムキになってくすぐるのを続けてくる。

 かく言う俺もムキになって簪をくすぐり続ける。

 そうして、ぐったりするまでお互い一歩も譲ることなくくすぐりあった。

 

「つ、疲れた……」

 

 ぐったりして寝転ぶ隣の簪に同意する。

 こればっかりは本当に悪乗りが過ぎた。最早マッサージした意味がなくなってしまった。

 簪の疲れを取ろうとしたのに逆に疲れさせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

「あなたが気にしなくても大丈夫。くすぐり始めたの私が最初だし……それに楽しかったよ、私」

 

  横で寝転んでいる簪は笑顔で言った。

  俺も楽しかった。くすぐったかったからとは言え、こんな風に大笑いすると疲れもするがすっきりした気分にもなる。まあやっぱり、馬鹿のことしたなあって思うけど。

 

「だね。でも、この馬鹿なことがすごく楽しかった……マッサージもしてもらって、身も心も元気になった……ありがとう、あなた」

 

 微笑む簪にドキッとする。

 そして抱きついてくる簪を抱きしめる。

 あんな拙いマッサージでも簪の為になったなら嬉しい。次またやるかもしれないし、マッサージ勉強してみようかな。

 

「私も勉強してとびっきりのマッサージしてあげるね」

 

 それは楽しみだ。

 

「あ、後……次は私、絶対に負けないからね」

 

 またって。

 どうやら簪はまたくすぐってくるつもりだ。

 いいだろう。受けてたつ。またひんひん可愛らしい声聞かせてもらう。

 

「言ったな……ふふっ、ふふふっ」

 

 何だかおかしくなってどちらからともなく笑いあって、抱きしめあう。

 癒して、馬鹿なことして、二人で笑いあう。

 こういう過し方もいいな。

 




簪にマッサージして、馬鹿なことしてじゃれあってイチャイチャしたいだけの人生だった……

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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