簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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ちょっと未来の話


酔いどれ簪

「今年一年もいい年にしていきましょう……ってことでじゃあ、かんぱーい!」

 

「乾杯っ!」

 

 楯無さんの音頭に続いて言った皆の声が重なり、俺達は酒が入ったグラスを悪く合わせあう。

 

「いや~やっと新年の行事が一段落ついたわね。さあッ、今夜はじゃんじゃん飲むわよ!」

 

 酒の入ったグラスを煽り楯無さんがグッと一気に飲み干す。

 

「楯無さん、飛ばすな」

 

「ペース早っ」

 

「何他人事みたいに言ってるのよ。今夜は無礼講! ほら、一夏君も弾君もグラス空じゃない!  今日はたっくさんおつまみもお酒用意したんだからほら飲む飲むっ」

 

「楯無の姐さん、アザッすっ!」

 

「ちょっ、楯無さん入れすぎ!」

 

 楯無さんに酒を進められた弾と一夏の二人はそれぞれの反応をしながら酒をグイッと飲んでいく。

 

「ひゅーひゅー! 流石男の子! いい飲みっぷりね!」

 

「あ、この酒旨い」

 

「マジだな、一夏。すげぇ飲みやすくってドンドン進むわ」

 

 楯無さんに煽られるように一夏と弾の二人の飲むペースは速い。

 ガブガブ、ジュースでも飲んでいるかのようだ。

 これは今年も早々に二人揃って早く潰れそうだな。

 

「早く静かになっていいよ……私達はゆっくり飲めばいい」

 

「だね~。でも、楯無様達本当に飛ばすなあ~」

 

「まあ、楯無様は今夜の為に政頑張ったんですから多めに見てあげましょう」

 

 簪、本音、虚さんの三人は楯無さん達の光景を見てまったり酒を楽しみながら皆一様に言う。

 一夏と弾を楯無さんに差し出して生贄としたんだ。楽しんで飲んでいるのだから、これ以上何も言うまい。

 

 といった感じに今年の今日も更識家の本邸で小さいながらも飲み会をやっていた。

 毎年、更識家の新年行事や季節の行事を終えた日の夜飲み会をやるのが恒例行事みたいなものになっている。

 メンツは楯無さんと簪と俺。一夏と本音、虚さんと虚さんの旦那さんであり俺達の友人でもある弾。この約7人が基本的なメンツ。前は弾の妹さんである蘭ちゃんが。そのもう一個前は千冬さんが参加したりもしていた。まあぶっちゃけ身内の集まりだ。

 身内だからこそ、IS学園を卒業して数年たった今でもこうして深い付き合いがあるんだろう。

 

「おらっ、お前も飲め飲めっ」

 

「そうだぞ! 相変わらず我関せずな顔しやがって。もっと楽しめよ!」

 

 簪や本音達と静かにゆっくり飲んでいたのも束の間。

 一夏と弾が近寄ってきた。楯無さんに大分飲まされてかなり出来上がってる。酒臭いのは仕方ないが、声がデカい。

 そして二人から肩を組まれ、酒を注がれ、飲まされる。またそんな大量に進めなくても……俺なりに充分楽しんでいるし、結構飲んでいるのだが。

 

「そう言われれば、結構飲んでるな」

 

「でもよ、お前全然平気そうじゃん。相変わらず、酒強いよな」

 

 弾と一夏の二人はそう関心したように言う。

 そりゃ。

 

「そりゃあれだけお父様と毎回飲めば、強くなるわよ。ね、弟君」

 

 俺の言葉に被せるように言って楯無さんが前の席にやってきた。

 今気がついたが、左右には一夏と弾(野朗二人)。そして、前には楯無さん。これ完全に取り囲まれた。

 やっぱり、俺が次の生贄枠か……簪達は簪達で三人ガールズトーク楽しんでいるみたいだし。

 

「あ~そういえば楯無さんの親父さんによく飲まされてるな」

 

 一夏のいう通り、おかげさまで簪と楯無さんの父親である御館様には気に入れているみたいで酒を一緒に飲む事が多い。季節の節目節目に更識家には来るがその度にサシで飲む。つい最近だと大晦日の夜に飲んだっけか。

 御館様はかなり豪酒で何度も付き合っていれば、嫌でも強くなる。だがおかげで酒には詳しくなったし、強い酒たくさん飲んでもそう簡単には酔うことはなくなった。

 

「お父様様々よね。おかげでこうやって長く一緒にお酒飲めるのだから、ね」

 

 言って楯無さんは酒を注いでくれる。

 普段みたいな政の場ではなく、こうした気のおける身内の場だからなのか、楯無さんも結構酒が回っているみたいだ。その証拠に珍しく顔がほんのり酒気を帯びたように赤い。

 

「さあ、弟君ももっと飲んで飲んで!」

 

「よしっ! じゃあ、飲み比べといくか!」

 

「おおー!」

 

 勝手に盛り上がる馬鹿二人。

 仕方ない。付き合ってやるか。俺は注いでもらった酒をグイっと飲み干した。

 

 

 

 

 結構飲んだ。量的にも、時間的にも。

 それは皆もそうだ。すっかりお開きの流れ。周りはほとんど酔いつぶれていた。

 

「おりむ~えへへ~」

 

「のほんさ~んっ」

 

 まず最初に潰れたのは一夏と本音カップル。

 酔って騒ぎまくった一夏は早々に潰れ介抱していた本音を抱き枕にして眠っている。

 本音も本音で結構飲みながらも一夏の介抱をしていたが釣られるように今は眠っている。

 そして二人は部屋の隅で抱きしめあいながら、幸せそうな顔して二人だけの夢の世界へと旅立っている。夢中でも互いの名前を呼び合ってる二人。こいつらは何年経っても甘々バカップルなのは変らないな。

 

「虚さん、俺本当に虚さんと結婚で出来て幸せッス! もっともっと幸せにしますから!」

 

「ふふっ、ありがとうございます。二人でもっともっと幸せになりましょうね」

 

 次に潰れたのは弾と虚さん夫妻だ。

 弾も一夏と一緒になって散々騒いだ挙句早々に潰れた。弾はまだ起きているみたいが、半分寝ているようなもの。虚さんに膝枕してもらいながら介抱されている。

 虚さんはというと珍しくかなり酔ってるみたいで弾を介抱しながらも、普段見ないデレデレの顔しながら弾の頭を愛しそうにに撫でている。二人も幸せそうだ。

 

「ね、家族の皆が幸せそうで私個人としても楯無としても嬉しい限りだわ」

 

 嬉しそうに頬を綻ばせて言う楯無さん。

 この人だけはまだは酔いつぶれてない。相変わらず回ってほんのり顔は赤いが、それでも意識ははっきりしているし、まだまだ全然大丈夫だ。

 

「それはあなたもでしょ。まだまだいけそうじゃない」

 

 そうは言うが俺も酔ってはないだけでもう限界だ。お腹一杯。

 量こそは結構飲んだが酔いつぶれてないのも一重にペースは抑え気味だったのと、水を結構飲んだからなあ。

 

「ねぇ、弟君。毎回思うけどそれ辛くないの?」

 

 楯無さんは前から俺に抱きついている簪を見てそう言った。

 

「んふ~んふふふっ」

 

 幸せそうに笑いながら猫がすりすりと擦り寄ってマーキングするかように俺の首筋に顔を埋めて遊ぶ簪。

 ごらんの通り、簪も見事に酔いつぶれている。簪は酒強い方だが、これは早いペースで結構な量を飲んだな。

 酔うと簪は甘え上戸と言えばいいのか、いつもこんな感じだからもう慣れてしまった。だから辛くはないのだが、引き剥がそうものなら。

 

「やー! このまま~!」

 

 駄々をこねて暴れる始末。

 それに酔っているのに簪の奴、結構力強い。そう簡単には引き剥がせない。

 まあ簪は幸せそうだから別に構いはしないが。

 

「ふふっん、あむあむ……」

 

 だからって簪さんや、首筋を甘噛みするのやめてほしい。

 くすぐったくて仕方ない。

 それに楯無さんの前だぞ。

 

「まあ見せ付けちゃってくれてお暑いことで何より。でも本当簪ちゃんって酔うとこんなにも幼くなるなんてね~……というか、猫みたい」

 

 猫か……言い得て妙だ。

 

「猫? ふふっ、にゃーんっ、にゃ~んっ」

 

 猫の鳴き真似しながら簪が鼻と鼻をくっつけてスリスリしてくる。

 くすぐったいし……人前だからかなり恥ずかしい。後ほんの少しだけお酒臭い。それはこの際いいとして。

 楯無さんがめっちゃ見てる。楽しそうに見てらっしゃる。

 

「そんな目の前でイチャつかれて見るなって方が無理あるわよ。私のことは気にせず、続けて続けて」

 

 楯無さんの気遣いが一番辛い。

 優しさを見せてるようで、絶対に明日これをネタにからかってくるに違いない。

 歳をとっても他人にイチャついてる姿見られる恥ずかしさは変らない。

 

「嫌なんだ……私はこんなに好きなのに……」

 

 しょんぼりしたトーンで言った簪を見る。

 え、嘘だろ。これぐずってないか?

 

「あ~あ、弟君サイテ~! 簪ちゃん泣かせたー! いーけないんだ! いけないんだー!」

 

 楯無さんはちょっとうるさい。皆起きるだろ。折角、虚さん達も寝落ちしたのに。

 しかし、簪が本当にぐずりだした。目尻に涙を浮かべていて、泣き方がちょっと幼く見えるがこれは結構マジ泣きだ。

 酒が変なほうに回ってると分かっていても、泣かれると弱った。たじたじになるばかり。いつの時代も男は女の涙に弱い。

 

 とりあえず、機嫌直してもらわないと。

 恥ずかしいだけで決して嫌な訳じゃない。むしろ、簪とイチャつくのは好きだ。そう説きながら。

 

「じゃあ……証拠見せて」

 

 言って簪が両手を広げる。

 それが何を意味しているのは分かった。それぐらい安い御用なのだが。

 

「ほら、き~す! き~す!」

 

 楯無さんが凄く楽しそうに捲くし立ててくる。何だ、それは。

 そのせいでじっとこちらを見つめてくる簪は期待するような目をしている。

 

「……」

 

 キスを求めている目だ。

 これでは引くにいけない。いや、ここで引くのは男の恥。覚悟は決まった。俺は簪を抱き寄せ、見せ付けるような濃厚なキスをした。

 

「はぅ~……」

 

 変な声をあげながら腰に力が入らなくなったのか簪がしなだれかかってくる。

 やりすぎた。どうやら俺も自覚ないだけで大分酔いが回っているらしい。

 

「ふふっ、ありがと~……だーいすきっ。スリスリっ~」

 

 でも、簪の機嫌は直るどころか、前よりも上機嫌になっている。

 ぎゅっと抱きついて、嬉しそうな声をもらしながらまた首筋に顔を埋めてスリスリしてくるのか気持ちいい。よかった。

 

 でも、これ楯無さんの前でやってしまったんだよな。

 幸いこれだけ騒いでても皆もう寝てしまっているから、ある意味傷は小さくて済んだが。

 

「わわっ……や、やるわね、お、弟君」

 

 煽ってきた癖に楯無さんが一番照れてる。めちゃくちゃ顔赤い。何でだよ。

 

「うるさいわねっ、お、お酒せいよ……何か無性に負けた気がする。はぁ~自爆した気分だわ。飲みすぎかしらね」

 

  そして一人勝手に落ち込む楯無さん。

 

  大人になると楽しいことが増えて、こうやって馬鹿騒ぎしながら酒飲むのも楽しいが、本当お酒はほどほどに。

 




わいわいわいわい様のクエストで「ほろ酔い簪にたじたじになる話」
泣き虫シロクマ様のリクエストで「彼と簪の未来の話」
の二つにお答えする形でお送りました。

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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