楯無会長が去った後、部屋に残された俺と簪。
今更だけど、毎度のことながら嵐の様な人だった。短時間のうちにいろいろとありすぎて、状況整理にすぐには頭が追いつかない。何だかドッと疲れた気分。
それは簪も同じなようで、加えて楯無会長がいなくなったことで気が抜けたのか、簪は泣き出してしまっていた。
「……ひっく……ぐすっ」
立ったままも何なのでベットに腰掛け、簪を膝の上に乗せて背中をポンポンと撫でながら慰める。
やっぱり、簪にしたら楯無会長の行動、そして何よりあの言葉はよっぽどショックだった様子。簪があんな大声出すぐらいだからなぁ……。今まで聴いたことがないくらいの大声で、思わず俺も驚いてしまった。
「なんでお姉ちゃんはいつもいつも……ひどい。ひどいことばかり……言う……っ」
泣きながら涙声で言う簪。
未だに簪の怒りは収まってない。まあ、普段姉らしいことしないのにあんないかにもなこと言われ、あんなことされれば、簪が怒って恨み言言うのはもっともだ。
それに簪は、普段嫌なことがあって外に出さずに内に溜め込んでしまいがちだから、今みたいに吐き出せるものは早いうちに吐き出してしまった方がいい。俺でよければ、愚痴はいくらでも聞くから。
そんな言葉をかけながら慰めること数分。落ち着いたのか、ようやく簪は泣き止んだ。
「もう大丈夫。ごめんなさい……迷惑かけて」
まだ少しだけ目と鼻先を赤くしながら、簪は申し訳なさそうに言う。
迷惑だなんてとんでもない。これはある意味、仕方のないこと。だから、あまり気にしなくても大丈夫だ。
「うん。本当……お姉ちゃん、何考えてるんだろうね」
それは俺に聞かれても困る。
初めて出会った頃から楯無会長は何考えてるのかよく分からない人。妹の簪でさえ分かってないんだ。赤の他人である俺に分かるわけがない。もっとも、何も考えてないってことはないはず。ただやっぱり、考える方向性はおかしい気はする。あんなことするぐらいだからなぁ。
「あー……アレね。部屋に入って見た時、流石に驚いた。自分がいるんだもん」
そう言う簪は呆れ顔だった。
それもそうか。簪に扮した楯無会長の変装、と言っていいのか分からないけど、アレの完成度は凄まじいほど高かった。流石はIS学園最強の生徒会長とでも言えばいいのか。やることの方向性も違えば、スケールも無駄に大きい。
「そう言う割りには、全然驚いてないどころか……凄い冷静だった。もしかすると最初から分かってたの?」
まあな、と頷く。
起きて目を開けたら、何故か簪の姿した楯無会長がいて驚いたことには驚いた。だが、驚きすぎて驚くの通り越して冷静になってしまったってのはある。人間、驚きすぎると変に冷静になることを身をもって体験した。
それに第一、簪があんな雑な起こし方するわけがない。ということは、目の前の人は簪ではなくほかの誰か。ドッペルゲンガーなんてオカルトチックなことは現実でまずありえないし、そうなると誰かが変装とかしているのかもしれないという考えにたどり着く。そうであれば、そんなこと出来るのは知る中で楯無会長一人しかいない。
幸い、その考えは楯無会長がすぐボロ出してくれたおかげですぐに正解だと分かった。
「……ん、そう。間違わなくて、よかった……」
安心したような嬉しそうな笑みを浮かべながら、簪はぴとっと体をひっつけて預けてくる。
安心したのは俺だって同じこと。疑われたり、怒られたりしなくてよかった。
「怒る? 疑う? 何、を?」
分からないと簪は不思議そうに首をかしげる。
こけた楯無会長に不可抗力で押し倒されたとは言え、部屋に入ってきた簪に最初見られたのがあんな姿だったんだ。理由はどうあれ、普通男のほうが疑われたり、怒られたりしてもおかしくなかった。
すると、膝の上にいる簪は呆れように優しく笑った笑みをこちらに向けていた。
「ないない。あんなことで疑ったり怒ったりしない。それにすぐお姉ちゃんだって教えてくれたでしょう? そしたらいろいろと納得いったから大丈夫。心配するのは分かるし、こういうこと一々口に出したくないんだけど……私はあなたを信じてるからあんな多少のことで気に病んだりしない。だからそう考えるのは仕方ないことだけど……そんな風に思われただなんてちょっぴり悲しい」
そんな悲しい表情をされたら、心が痛むからやめて欲しい。
簪が言っていることはもっともで、余計な言葉だった。やっぱり、こういうのは勝手に一人で心配するだけ損というもの。
それに簪に信じてもらっているんだ。簪の信頼に報いたい。もう二度とこんなことがないようにしなければ。
でもあの時、万が一にでも簪と楯無会長を間違えていたらどうなっていたことやら。
「ん? それはもちろん……ね。ふふっ」
わざっとらしく悪い笑みを浮かべて微笑む簪が怖い。
冗談に冗談で返してくれているのは分かるけど、全部が全部冗談なのか怪しい。何が勿論なのか気になりはするが、これは詳しく聞かない方がよさそうだ。というか、何だか恐くて聞きづらい。
それよりも大事なことはこれからどうするかということを考えなければならない。
「どうするって……何を?」
例えば楯無会長との話し合いだ。
簪が心配だったから、何か言いたそうにしていたけどあの時楯無会長を帰らせた。
だけど帰り際の楯無会長が今にも泣き出しそうな顔をしていたのが、頭の片隅にあってこのまま放っておくわけにもいかない。
もっと言えば、話し合いをして仲直りしなければいけない。いがみ合っている喧嘩をしたわけじゃないけど、このままじゃいがみ合いの喧嘩になりかねない。それにこういうのは時間が経てば経つほど、目には見えない溝みたいなものが出来て、お互い今以上に歩み寄れなくなる。
簪にもこのままじゃダメだってことは分かっているはずだ。
「でも……」
暗い顔をして簪は、言い淀む。
今すぐにさっきのことを許して簡単に仲直りはではない。あんなことを言われたんだ簪が躊躇って当然。それは多分、楯無会長だって同じはず。
だったら、まずは折り合いを一つずつつけていくってのもありかもしれない。
「折り合い……」
全部を全部許せなんてことは言えない。俺だって少しは今回の楯無会長の行動に思うところはあるから。
でも少しでも許せるところは許して歩み寄り、許せないところは話し合って歩み寄って、ゆっくりでも少しずつ仲直りしていく。そうやって折り合いをつけていくのもアリなんじゃないかって俺は思う。
楯無会長は何もおもしろ半分、嫌味だけであんなこと言ったわけじゃない。
言い方は気持ちのいいものじゃなかったけど、楯無会長が簪のことを本当に心配している思いはまぎれもなく本物。ただ少し不器用なだけ。
「それは……ちゃんと、分かってる。落ち着いた今なら、お姉ちゃんは本当に私のこと思ってくれてたんだって分かる」
なら大丈夫。
それに楯無会長が言ったことから考えるのに、知らないうちに俺達は楯無会長には必要以上に心配をかけすぎてしまった。だから、今一度話し合いをして安心させてあげたい。
だから、そういったいろいろいな面も含めて話し合いしたいと考えているんだけど、簪はどうなんだろうか。
「うん……そうしよう。やっぱり、まだお姉ちゃんがしたことも言った事も許せない。でも、このままお姉ちゃんといたんじゃ……昔のままと変わらない。だから、私少し頑張ってみる」
簪はそう言いながら、小さく意気込んでいた。
話し合いをして仲直りするのが一番大事な目的だけど、もう一つ出来れば果たしたい目的がある。
「何かあるの?」
話し合いで出来れば楯無会長に簪との仲を、交際を認めてもらいたい。
認められてないわけじゃなさそうだけど、認められてるわけでもない。凄い曖昧な状態。だから、この際はっきりと認めてもらいたい。
楯無会長は簪の実の家族であり実の姉。そうした人に認めてもらえれば、心強いし、何より嬉しい。認められないよりかは認められたほうがいいに決まってる。これは絶対。
それと打算的なことも言ってしまえば、楯無会長は生徒会長で国家代表。そうした人に認めてもらえれば、今後も簪と交際していく上でプラスになるし、強力な後ろ立てといった味方になってくれる可能性は高くなる。敵みたいなものに回せば、楯無会長は厄介この上ない人な訳だし。認められなければ未来は暗いものになりうるけど、認められれば少しは明るい未来になるはずだ。未来は明るい方がいい。
そういった二つの意味合いもあるにはあるから、話し合いで出来れば簪との仲や交際を認めてもらえたら嬉しい。あんなことがあった後だから、そう簡単には認めてもらえないとは思うけど、そこは頑張るし、誠意の見せ所だ。
「そう……だったら、尚更頑張らないと」
そうだな。
「でも、あなたって相変わらずだね。いろいろと考えているし……何より、先々のことまでちゃんと考えている。凄いよ」
まあ考え無しに行動するよりもちゃんとした考えがあって行動するべきだと思うからな。
今はゆっくり考えられる時だから尚更、考えられるうちに考えておきたい。
だけど、いろんな事態を想定するって大事だと思うんだが、なんか女々しい奴、見たいに思われるのも嫌だから、あんまり言いたくはないけど。
「女々しいだなんて、大丈夫。そんなことないよ。ちゃんと私のこと考えてくれているのはいつもしっかり分かっているから」
それはありがたい限りだ。
簪と遊びで付き合っているのなら、そんなあるかも分からない先々のことを考えるよりも今のほうを楽しむべきなんだろうけど、遊びで付き合っているわけじゃない。立場上、軽い気持ちで交際なんて出来ないし、するつもりは毛頭ない。何よりこの先、何十年も簪とずっと一緒にいたい。それこそ極端な言い方すれば、一緒の墓に一緒に入るまでそれなりにはちゃんと考えている。
「い、一緒のお墓って……っ!?」
頬を赤く染め簪は驚いていた。
突拍子なく。あまりにも極端すぎた。だけど、そういう気持ちは本物だ。
本当、気が早すぎるとは思う。すまない。
「謝らないで。ちょっと驚いただけだから……それにね、私も実は少しそんなこと考えは、ある。だから、心配しなくてもいいよ。嬉しい……すごく。私もずっと早く一緒になりたい。そして……ずっと一緒にいたい」
嬉しそうに簪は、はにかみながら言った。
とんでもないこと。その言葉に気恥ずかしさみたいなものを感じて、それが簪にも伝わったのか、お互い顔を赤くして黙りあってしまった。
何だこれ……このままだと話が進まないので、とりあえずと言って場を仕切りなおす。
とりあえず、考えはまとまって、やることも決まった。ならば、行動を起さなければならない。でも、問題があった。どうやって、楯無会長と話し合いするかだ。今日の今でいきなり話し合いするってのも急ぎる。それにまず話し合いに応じてくれるかは不透明で、話し合いに来てもらうためには声かけないといけないけど、声かけづらい。楯無会長の連絡先なんて持ってないから、携帯でやり取りも出来ないわけだし。
「話し合いはしたいけど……私も自分からは話し合いしたいだなんてお姉ちゃんに言えない。ごめんなさい」
仕方ないのことだ。あんなことあった後なのだから。
しかし、場所と日は改めなければならないのは確かで、自分達で出来ないとなれば、第三者を頼る他ない。けれど、自分達と楯無会長と共通してる人となると思い当たる人は限られてくる。二年生の知人なんていないし、ましてや楯無会長の交友関係なんて知るわけがない。
となると、一夏か本音あたりになるけども……。
「本音はダメ。あの子に頼むと返ってややこしくなるから」
それは一夏も同じだ。
というか、こんなこと男の一夏に頼めるわけがない。喧嘩しただなんて周りにもれて知られるのは嫌だから、なるべく穏便に済ませたい。二人がダメならどうするべきか……。
「虚に頼むのはどうかな? 三年生の布仏虚。私の家、更識に大体仕えてくれている家の人間で本音のお姉ちゃんでお姉ちゃんの従者。虚なら頼りになるし、一応身内ってことになるから連絡先も知っている」
布仏先輩……確か楯無会長の傍に控えるようにいた人だったけか。何となく顔は思い出せる。
そこまでちゃんと話したことはないけど、三年生らしくしっかり物の年上お姉ちゃんって印象を感じたのは覚えている。その人になら、気兼ねなく頼めるだろう。
「うん……任せて」
考えがまとまって、やることとその具体的な案も用意できた。
後は行動あるのみ。望んだ結果が得られるよう頑張らねばならない。
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翌日の放課後。
簪に布仏先輩へ連絡を取ってもらい、直接会ってもらえることとなった。待ち合わせ場所は俺の部屋。既に簪と部屋で待っており、後は布仏先輩が来るのみ。
携帯でのやり取りで済ませられる話だが、こういったことは面と向かってのほうがいい。それに本当なら談話室とかで話をするべきなんだろうが、ああいった場所は公共の場。他に利用する人も当然いるわけで、自分達だけで独占するわけにもいかない。隠し通すほどの話でもないが、知らない人たちに聞かれて気持ちのいい話ではない。万が一話が外に漏れて騒ぎになるようなことも避けれる為、こういう運びになった。
部屋の扉がノックされる。どうやら来たらしい。
扉を開け、出迎えに行く。
「こんにちは。遅れてすみません。布仏虚です」
扉を開けた向こう側には眼鏡をかけた三年生の布仏先輩がいた。
この人が布仏先輩。落ち着いた雰囲気の知的で綺麗な人だ。姉妹だからある意味当然かもしれないけど、何処となく本音に似ている。
玄関先で立ち話のままというのは申し訳ないので挨拶をして、奥へと入ってもらう。
「ご丁寧にどうも。失礼しますね」
中に案内すると布仏先輩は簪とも挨拶していて、とりあえず適当なところに腰を下ろしてもらった。
「それでお話というのは?」
「そっと……それは……」
簪と一緒に今日来てもらった理由、昨日の出来事、これからどうしたいのかその具体的な案を説明した。
話している最中、何か納得いのいくところがあってのかそういう頷き方をしながら、布仏先輩は黙って聞いてくれた。
「話は分かりました。楯無お嬢様と仲を取り持つないし話し合いに応じるようお嬢様を説得して欲しいと言う事ですね。分かりました」
「虚……協力、してくれるの……?」
「はい、もちろん。こんなこと他に本音などには出来ないことですから。私で簪お嬢様方のお力になれるのであれば喜んで」
「よかった。ありがとう、虚」
安心したようで簪は、ほっと胸を撫で下ろしていた。
話が早くて助かる。
「ですが、それで昨日から楯無お嬢様は元気がなかったのですね」
やっぱり、楯無会長は元気なかったのか。
簪の言葉にかなりショック受けていたのは間違いなかったわけだし。
「私としてはこれぐらい大人しい方が助かりますけどね。自業自得ですし、あんなことするぐらいなら」
あんなこととは多分、楯無会長の変装のこと言っているんだろう。
まあ、布仏先輩の言う通り、あんなことするぐらいなら大人しい方がいいのは確かだけど、自業自得って布仏先輩は結構ズバズバ言う人なんだな。
楯無会長の従者って言うぐらいだから、もっとこう主人である楯無会長をたてるものばかりだと思っていたけど。
「ただべた褒めして従順なだけでは従者は務まりませんから」
と布仏先輩は優しげな笑みを浮かべながら言った。
そのどこか黒さみたいなものを感じる綺麗な笑みだった。
「もっとも、流石に今回のことはかなり身に染みて反省していると思いますよ。ですので、情状酌量といいますか、双方にとって良い落としどころを得られることを願っています。楯無お嬢様は決して、悪い人ではないですから」
「うん……それは分かってる。……頑張る」
・
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そしてまた後日の放課後。
ようやく迎えることが出来た楯無会長との話し合い。場所は再び俺の自室。
布仏先輩に頼んでもことがことなだけに多少なりと手間取るだろうなとは考えていたが、思った以上にすんなり話し合いにこぎつけることが出来た。やっぱり、仲介役を頼んで正解だった。
俺の隣には簪が座り、向かい側には楯無会長と、その付き添いで来てくれた布仏先輩が座っている。
「……」
「……」
部屋に集まってこうして向かい合うこと早数分。未だ話し合いは始まっていない。
重い空気が部屋には流れていた。そのせいなのか、二人揃って俯いて気まずそうにしている。
俺や布仏先輩が変わりに進めるべき話ではないし、話しづらいのは分かるがこのままでは拉致が明かない。そのことは分かっているようで、おそるおそる簪が先に話し始めた。
「……お姉ちゃん」
「うん」
楯無会長は、冷静に努めようとしているが、それでも緊張ないし恐がっているのか、表情が強張っているのがよく分かる。
こんな楯無会長を見るのは初めてだ。
「その……や、やっぱりまだ……お姉ちゃんがこの間したことも、言ったことも私は今はまだ許せない」
「……そう。それはそうでしょうね」
「うん。でもだからって、土下座しろだなんて言わない。私だって……お姉ちゃんにたくさんひどいこと言ったから。それはお互いとりあえず謝ってすむようなことじゃないと思うし、私だって簡単に謝られたって困る。その代わり、っていったら変だけど……私、お姉ちゃんに言いたいことがあるの」
「えっ?」
「その……今までずっとありがとう」
予期せぬ簪の言葉に本気で驚いた様子の楯無会長。
まさか簪がこんなこと言うなんて。思わず俺と布仏先輩も驚いていた。
「この間言ってくれた言葉は、本当に私のことを大切に思ってのことなんだなって分かったの。不器用だけど、本気で大切に思ってくれていると感じられたら、何だかその……嬉しくて」
「……」
「ううん、この間だけじゃない。お姉ちゃんは昔からずっと見守って、いつも守ってくれていた。でも、私はお姉ちゃんに劣等感を感じて、分かっていたはずなのにずっと言えなかった。だからこそ、刀奈お姉ちゃん。遅くなっちゃったけど今までずっとありがとう」
簪の言葉に楯無会長は泣き出してしまった。
だけどその涙は悲しい涙ではなく、嬉し涙。
「ありがとうだなんて私のほうこそありがとう。本当、私の知らぬうちに簪ちゃんは立派になったわね」
「立派だなんて……そんなこと」
「立派よ。ずっと手のかかる妹だと思っていたけど……私は本当の意味で簪ちゃんを見れなかった。だからこそ、成長している簪ちゃんを見て私は寂しさを感じたのね」
そう楯無会長は寂しそうにしみじみと言った。
「私は寂しかった。お姉ちゃんだから何でもしてあげられると思い込んでいて結局何もしてあげられなかった。そのことに気づいた時には簪ちゃんのことが遠くに感じて、寂しさを感じて少しでも近くに繋ぎとめようとしてあんなことをしてしまった。まったく、我ながら馬鹿だったと思うわ」
「でも、そんなところも含めて、刀奈お姉ちゃんは私の大切なお姉ちゃんだよ。強くて、賢くて、綺麗な今でも尊敬する私のお姉ちゃん」
「簪ちゃん」
「だから……ちゃんと仲直りしたい。ごめんなさい」
「私のほうこそ、ごめんなさい」
お互いに頭を下げて謝りあう簪と楯無会長。
昨日今日ですべてが綺麗に丸く収まったわけじゃない。
そうなるにはまだまだ沢山の時間が必要で簪に譲れないものがあるように、言わないだけで楯無会長にだってそういうものはきっとあるはず。
それでもお互いの想いを伝えあい、二人が納得のいく落としどころを見つけ、落ち着くところに落ち着いたみたいだ。
簪と楯無会長は照れくさそうに笑いあう。
きっとその光景は昔あっただろう在り日の穏やかな姉妹の姿に再び戻れたようだった。
それを見て俺はようやくほっと胸を撫で下ろすことができた。
その後は落ち着いた雰囲気でのちょっとしたお話。こんな話の後で、男子俺一人に対して女子の方が3人と圧倒的に多いので、もっぱらどういう交際をしているのか、といったものばかり。話せる範囲のことを話してはいるが、恥ずかしいものがある。流石に今日は根掘り葉掘り聞かれる事はなかったが、そのうち聞かれるのだろうな。
話が一旦途切れ、今度は別の話でもとなった時。
「ね、ねえ……お姉ちゃん」
「ん?」
簪は緊張した様子で楯無会長に問いかける。
ちらちらと俺を見る簪の頬は心なしか赤く染まっている。俺のことで何かあったりするのだろうか?
今一つ意味が分からずにいると、楯無会長は何か察しがついた様子で言った。
「あーそういうこと。皆まで言わなくていいわよ、簪ちゃん。言いたいことは分かっているから、彼との仲をちゃんと認めて欲しいんでしょう?」
「う、うん」
照れくさそうに簪は頷く。
ああ、そのこと。忘れていたわけじゃないけど、すっかり頭の片隅に追いやられていた。
「認めるも何も最初から認めているけど、弟君」
呼ばれて俺は頷きながら姿勢を正す。
「本当に今更だけど、簪ちゃんはね……私の大切な家族で愛しい妹。あなたになら安心して任せられる。だからこそね、本当に頼んだわよ? 簪ちゃんと幸せになってくれるのなら、私はどんなことでも慶んで力になるから」
優しい声色でそう言う楯無会長は真剣な瞳で真っ直ぐ見つめる。
言われずとも、もちろん。これからも俺は簪と生きていくのだから。
「よかった」
頷いた俺に、楯無会長もまた満足げに頷き、嬉しそうに微笑んでいた。
…
ただ謝るのではなく、まずは感謝を。そんな話。
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。
それでは