簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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4月1日~簪はこんな嘘を言った

 夜、いつもの時間。

 部屋で簪とくつろいでいた時のこと。

 

「今日、そう言えばエイプリルフールだったよね」

 

 隣に腰を降ろしている簪がふいにそんなことを言った。

 そう言えば、そうだ。今日、4月1日はエイプリルフール。嘘をついてもいい日。

 でも、何かあったわけでもなく普通の一日だった。朝から夕方までは簪や一夏達と一緒に訓練をして、ついさっきまで簪と勉強をしてと平穏そのもの。

 それで充分だ。エイプリルフールだからって突然変な嘘言われたり、ドッキリさせられるのは心臓に悪い。そういうのは全部一夏の担当だ。

 エイプリルフールはやはり、企業とかのSNSや公式サイトで行われるエイプリルフール企画を見て楽しむのに限る。今年も無駄に力が入ってるところが多くてよかった。

 

「うん、そうだね」

 

 頷いてくれる簪。

 しかし、その表情は何処か不服な様子。

 もしかしてつまらなかったんだろうか。結構楽しんでいたと思ったんだが。これ見てって簪が結構見せてきたてたし。 

 

「楽しかったよ。でも、そうじゃなくて……その」

 

 もじもじとして簪が口ごもっている。

 何だか歯切れ悪い。言いたいことがあるのは見ていて分かるけども。

 

「きょ、今日……エイプリルフール、でしょ?」

 

 肯定するように頷く。

 さっき確認したばっかりだからその通りだ。間違いない。

 それがどうかしたのかと疑問に思うばかり。

 

「1年に1度しかない折角の日、だから……何かしたいなぁって」

 

 そう簪が遠慮気味に言ってきた。

 女子って本当こういうイベントごと好きだなあ。それはそれで別に構わないが。

 それで何かしたいということだが、簪は何かしたいことあるんだろうか。

 

「えっと……う~ん……」

 

 ふと簪は首をかしげて考え出す。

 

「あっ……そうだ」

 

 少し考えた後、何か思いついたように声をあげた。

 

「エイプリルフールだから、あなたがドキッとするような嘘言うね……!」

 

 自信満々に簪はそう言った。

 俺がドキッとするような嘘か……。エイプリルフールだからそういうのだろうと思っていたけどもだ。

 これは正直に言ってあげるのが優しさになるんだろうか。黙っているべきか。

 

「どうしたの……? 私変なこと言っ……あっ」

 

 簪も気づいたらしい。

 簪のことだ。つい言ってしまったんだろう。けれど、やろうとしていることをここまで正直に言ってしまったら、こっちも身構えてそう簡単にはドキッとしなくなる。

 実際、もう身構えてしまっている。

 

「で、でも……予め言っておけば、変な誤解されずに済むでしょ? ね」

 

 それはもっともではある。

 エイプリルフールに軽い気持ちで冗談めいた嘘をついたら誤解され、嘘を本気で取られてしまい喧嘩になったなんていう話を聞いたことがある。

 だから、予め言っておいてもらったほうがある意味では安心出来る。それでももうドキッとすることは早々ないだろうが。

 

「うぅっ……」

 

 よほどドキッとさせたかったようだ。

 簪はしょんぼりとして少し凹んでいた。やる気をなくしたようにガックリ肩を落としている。

 ということはもう簪のエイプリルフールはネタはおしまいか。ドキッとする嘘を簪が言ってくるってことが分かっただけで、具体的にどんなことを言うのかは当然まだ知らない。

 内容次第ではまだワンチャン、ドキッとする可能性はなくはない。

 

「そんなフリされると余計言いづらい……」

 

 それもそうか。

 じゃあ、やっぱりもう簪のエイプリルフールはネタはおしまいか。どんなことを言ってくれてるのか期待していたが残念だ

 今度は俺のほうがしょんぼりして見せた。

 

「うっ……し、仕方ないな……そこまで言うのなら特別に言ってあげる。……ドキッとして、腰抜かしても知らないんだからっ」

 

 意気込む簪の姿を見て、俺は内心よしっとガッツポーズ。

 上手く簪を乗せることに成功した。

 ここまで言われたんだ。折角だから言ってほしい。

 さて、今から簪が一体どんな嘘を言ってくれるのか楽しみだ。

 

 簪は正座して姿勢を正し、俺と向き合うようになる。

 

「実はね、私……」

 

 俺はうんと頷き、次の言葉を待つ。

 

「あなたのことが好きじゃ、な……っ」

 

 いざ言葉にしようとすると簪の声は震えおり、最後までちゃんと言葉に出来ないでいる。

 でも、おかげで何を言いたいのかはよく分かった。

 そういう嘘だったのか。なるほどな……確かにそれだと嘘だと分かっていても、突然言われたらドキッとする。

 

「……あなたのこと、好き、じゃ……ない、の……」

 

 かなり言いためらいながらもそれでも頑張って簪は最後まで言いきった。

 エイプリルフールと託けでもしなければ、言いたいものではなかったんだろう。無理をしたからか目尻にはうっすらと涙が浮かんでいるのが分かった。

 その姿が何だか微笑ましくて、つい小さく笑ってしまう。

 

「わ、笑ったっ……うぅ~」

 

 真っ赤な顔で悔しそうに簪が精一杯睨んでくる。

 仕方ないだろ。そんないじらしい姿を目の前で見せられたら、堪ったものじゃない。

 言うのよく頑張ったと褒めたいぐらいだ。いや、現に俺は簪の頭を撫でて褒めている。

 

「頭撫でないで……折角言ったのに何か馬鹿にされた気分……」

 

 そんなつもりは全くない。

 というか、そんなこと言いながらも簪は頭を撫でられていることには満更でもなさそうにしている。

 本当によく頑張った。けれど、あんな無理するぐらいなら、言わなくてよかったのに。

 

「だ、だって……言わないとエイプリルフールにならないし……」

 

 それはそうなのだが、俺が言いたいのはもっと別の嘘があったのではなかろうかという話。

 予め嘘つくと言っているんだから、嘘をつくという嘘でよかった気はする。

 

「あ……」

 

 それだという顔をする簪。

 どうやら、そこまで頭が回らなかったみたいだ。さっきの嘘も精一杯考えた上でっぽいし、無理もないか。

 しかしこれならエイプリルフールにもなるし、さっきみたいな無理してまで嘘つく真似せずにすむ。

 

「そう、だよね……というか、こんなこと冗談でも言うべきじゃなかった。考えたらずで……ごめんなさい」

 

 しょんぼりとした簪は申し訳なさそうに謝ってくる。

 冗談でも大切な恋人に嫌いだと言われたら、大多数の人は少なからずショック受けだろう。

 けれど、今日はエイプリルフール。今日ならではの可愛い嘘、軽い冗談だとは理解しているし、気にしてない。

 何より、いじましい簪を見れたんだ。それだけでお釣りがくるというもの。

 

「ん、ありがとう。そう言ってくれると助かる……よかった」

 

 ほっと胸を撫で下ろし、簪は安心している。

 それを俺は見逃さなかった。

 

 しかし、アレだな。簪があんな嘘つくとは……そうかそうか。知らなかった。

 わざとらしく腕を組み俺はうんうんと唸る。

 

「へっ……? な、何…、何でそんなことしてるの。あれはう、嘘だからね……エイプリルフールの冗談だって分かってるでしょ……?」

 

 もちろん、それは分かっている。

 しかしだ。簪の嘘があれなら、俺はさっき気にしてないとか言ったけども騙して悪いがあれは全部嘘だ。

 

「う、嘘なのっ……!? もしかして実は怒ってる……!?」

 

 あわあわとする簪が可愛くて面白い。

 怒ってはいない。本当は全部嘘ってのが嘘だ。

 

「嘘? どういう……? ん? ……あぁっ!」 

 

 混乱した様子だったが、次第に騙されたことに気づいたらしい簪は声をあげた。

 嘘はこうやってつくもの。今回は俺の方が簪より一枚上手だったな。

 こちらからのエイプリルフールは大成功だ。

 

「むぅ……騙された……悔しい……」

 

 悔しがる簪の様子に大満足したエイプリルフールだった。

 




季節ネタ。
簪とあなたの4月1日がこんなにも幸せだったら、今日も簪とあなたの一日は明るく素敵。

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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