簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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【リクエスト】簪とお花見を

「お花見、ここみたいだね」

 

 平日の昼時。簪とやってきたのは桜の花見が出来る都内某所の公園。

 つい最近桜の開花宣言がされ、時間に余裕があるこの時期に花見をしようという運びになった。

 ちなみに二人っきりというわけではない。

 

「えっと……二人、本音達は……」

 

 俺達は辺りを見渡しながら、花見の会場を歩く。一夏と本音の二人を探して。

 今日のメンツは一夏達二人を合わせたいつもの四人。本当はもう少し多かったはずなのだが、他の人達とは予定がつかず、場所が取れてしまったので今日のところは先に俺達四人だけということになった。

 開花宣言されて間もない花見のシーズン真っ盛りだからか平日の昼間でも花見しに来ている人達は多い。

 

「ん、だね。ここ、名所だからね」

 

 そうなのか。道理で人が多いわけだ。

 名所と言われてみれば、確かにいい場所だ。本当よくこんな場所が取れたな。

 そんなことを思いながら二人を探しているとようやく一夏と本音を見つけることが出来た。

 

「お~い」

 

「やっと来たか!」

 

 公園に咲くたくさんの桜達の中でも一際大きく目立つ桜の木の下で一夏と本音がぶんぶんと手を振って俺と簪を手招きする。

 そこへ俺達は歩いて向かう。

 

「ごめん。待たせたよね」

 

 隣の簪がそう二人の声をかける。

 俺達よりも早くここへ場所取りしに行ってくれていた二人を随分待たせてしまったかもしれない。

 

「まあまあ、気にすんなって」

 

「そうそう~さぁっ、座って座って~」

 

 広げられたシートへ俺達は横並び、一夏達と向き合うように腰を下ろし、桜の木を見上げる。

 本当に立派な桜だ。こうして間近で見ると圧倒されるほど美しい。

 

「うん、綺麗」

 

「だね~やっぱり桜っていいよね~」

 

「まったくだ。日本人は春に桜を花見してこそ、だからな」

 

「でも、こんないい場所よく取れたね」

 

 桜が間近なだけじゃなく、天気のいい今日。ぽかぽか陽気が丁度いい感じに差し掛かっていて、ここはまさにベストポジション。

 花見会場にありがちな前の人の花見後の汚さもなく、綺麗に清掃されている。周りの人達も賑やかではあるが、騒がしくなく品のいい人達が多い。

 場所取るの大変だったのではなかろうか。

 

「まだお昼だし何とかね~」

 

「流石に夜はやっぱ一杯だってここの人が言ってたな」

 

「そう。ありがとう、二人とも」

 

 そう俺達はお礼を二人に伝えた。

 

「どういたしまして~。じゃあ、そろそろお昼食べよう~!」

 

「だな」

 

 本音と一夏の二人は大きな包みを取り出し、開いていく。

 出てきたのは、大きめの弁当箱が一つずつ。

 何だ一夏も作ってきたのか。

 

「折角の花見だからな。久しぶりに腕を振るいたくて」

 

 こいつ、そう言えば料理好きだったな。

 

「おぉ~! かんちゃんのお弁当綺麗~!」

 

 キラキラと目を輝かせて弁当を覗く本音に釣られるようにして、俺も簪の弁当を覗く。

 確かに綺麗だ。二人分の様々な料理がたくさん敷き詰められているがちゃんと肉や野菜のバランスが考えられており、色合いがいい。特に桜の花びらを模したソーセージがあったりと凝っている。

 これは春をイメージしてといった感じか。

 

「うん、そう。私も折角の花見だから腕を振るいたくて……いつも通りだと味気ないから」

 

 簪が作ってくれる弁当はいつも凄いのに、今日は一層凄い出来だ。

 何より、二人で食べる弁当だろうに俺の好物のほうが多い。

 

「私、そんなに食べられないけど……あなたはよく食べるでしょう? だからたくさん食べて欲しくて、つい……あっ、量多かったら残していいから」

 

 いや、全部残さず食べよう。

 こういう些細な気遣いがとても嬉しい。むしろ嬉しすぎて、食べるのがもったいなくなるほどだ。

 

「ふふっ、ありがとう。たっくさん召し上がれ」

 

 じゃあ遠慮なく食べるか。

 持ってきた紙コップにジュースを注ぎ、全員に配る。

 これでよし。

 

「じゃあ、春の桜に」

 

「かんぱーい!」

 

 一夏の音頭に続いて全員の声が重なり、俺達はコップを合わせた。

 そして俺は早速簪の弁当、好物のから揚げを食べた。

 

 口の中で旨味がじゅわっと広がって美味しい。

 ありきたりではあるがその一言に尽きる。味付けが俺好みになっていて、嬉しい。当然冷めてしまっているが、それでも柔らかくて美味い。箸が進む進む。

 

「喜んでくれて嬉しい。ありがとう……ん、美味くできてる」

 

 簪も自分で一口食べ、出来に満足した様子。

 

「ねぇねぇ、かんちゃん。一口いい?」

 

「あ、俺も」

 

「うん、どうぞ」

 

 一夏と本音達もからあげを頬張る。

 

「いい味付けだな。こりゃ美味い」

 

「本当~! かんちゃん本当、お料理上手になったよね」

 

「そうかな……えへへ……」

 

「うんうん。これも一重に愛の力だね~」

 

 皆に褒められて照れくさそうに笑う簪をからかう本音。

 愛の力か……確かにそうかもしれない。簪の料理の腕はどんどん上がっている。美味しかったのが更に美味しくなるほどに。

 料理から簪の愛をしみじみと感じる。

 

「あなたまでもうっ」

 

 照れる簪が更に最高の調味料のようだ。

 

 すると、ふいに一夏の弁当が見えた。

 久しぶりに腕を振るいたと言っていただけあって、凄い気合入っているのが見るだけでよく分かる。

 男料理にありがちな肉ばっかりではなく栄養バランスが考えられており、色がたくさんあって綺麗だ。相変わらず料理し慣れている。美味そうだ。

 

「そうだろそうだろ。遠慮せず食べてくれ」

 

「じゃあ、いただきま~す」

 

「わ、私も」

 

 今度は俺と簪、そして本音が一夏の弁当を一口食べてみる。

 

 一夏とももう長い付き合いで、何度も手料理食べたことあるが相変わらず美味い。いい味付けだ。

 家事が出来て、オマケに料理が美味い。つくづくスペックの高い男だ、一夏は。

 

「そんな褒めるなよ。照れるだろ」

 

 男の照れ顔はいらない。

 

 しかし簪と本音、女子二人が静かだった。

 美味しそうに食べているが、何処か複雑な様子。

 その二人の様子に流石の一夏も心配になったように声をかけていた。

 

「美味しくなかったか?」

 

「ううん。すっごいおいしいよ! でも、こんなに美味しすぎると逆に自信なくしちゃう。ね、かんちゃん」

 

「うん……女の立場がね」

 

「んな大げさな。そういうものなのか? なぁ」

 

 俺に振られても困るが、そういうものなんだろう。

 

「そうか……うーん、でもなのほほんさん(本音)。俺はのほほんさん(本音)の作ってくれる料理が世界で一番美味しくて大好きだぜ。そんな美味しい料理を振舞ってくれるのほほんさん(本音)の為に俺も美味しい料理を作りたいだけなんだ。だから、自信もってほしい」

 

「そうかな~? じゃあ、あ~ん」

 

 ごく自然、当たり前のように本音は一夏に料理を食べさせる。

 

「どう~?」

 

「ああ、旨いよ! ありがとな、のほほんさん(本音)

 

「ふふっ、どういたしまして~!」

 

 太陽に眩しい笑顔の一夏にお礼を言われ、それだけで本音は心底嬉しそうな顔をしていた。

 本音のが自信を取り戻してくれたのはよかったのだけども。

 

「本当、人前でよくやるね……」

 

 苦笑いして飽きれるように言う簪の言葉にはまったく同意見だ。

 満開の桜が霞んでしまいそうなほどのイチャついてる二人に周りの人達が気づかないわけもなく、当然の如く注目の的だ。あらあらまあまあといった暖かい視線が突き刺さる。

 

「今更、恥ずかしがるようなことでもないだろ。ほらのほほんさん(本音)、お返しだ。あーん」

 

「あ~むっ」

 

 一夏に料理を食べさせてもらい幸せそうに本音は頬張っている。

 どういう理屈なんだ、それは。

 周りからの暖かい視線のおかげで簪と俺のほうが恥ずかしい限りだった。

 

 

 

 

「はぁ~食った食った。動けねぇ」

 

「満腹だよ~」 

 

「ん、ごちそうさま」

 

 皆一様に満腹げな顔をしている。

 あれだけたくさんあった料理も全部なくなり、弁当は一つ残らず綺麗に空。

 いいお昼だった。

 

「さて、これからどうっすか」

 

「ど~しよう~」

 

 飯を食べ終えた今、この後特に予定は決まっていない。

 ぶっちゃけ花見自体、桜を見ながらピクニックするぐらいなものだ。

 しかしかといって、このまま弁当を持ってピクニックでお終いというのは何だか味気ない。

 折角こんなにも桜は綺麗なのに。

 

「じゃあ、よかったらなんだけど……一緒に散歩、しない……? ほらここ、そういうところあるみたいだし」

 

 見せてきた簪のスマホ画面にはこの公園の案内が映し出されていた。

 どうやら、今いるところからすぐ近くのところに散歩コースがあるらしい。

 散歩か……花見の続きと食後の腹ごなしにはもってこいだ。

 俺は簪からの喜んで了承した。

 

「よかった。本音達も一緒に行く……?」

 

「んーそうだな。俺としてはもう少しだけここでゆっくりしときたいな」

 

「だね~荷物は私達が見とくから二人で行ってきて~後で交代ね~」

 

「分かった。ありがとう」

 

 一夏と本音の気遣いに感謝して、俺達は散歩へと向かった。

 

 

 

 

 手を繋ぎながら散歩コースである桜並木を二人で歩く。

 人はそこそこいるが広々としており、ゆったりと花見が楽しめる。

 

「凄い……桜の絨毯みたい」

 

 そう簪は目を輝かせながら声を弾ませて言う。

 ひらひらと宙を舞っていた桜の花びらは足元を覆い尽くし、確かに桜の絨毯みたいになっている。

 風情があっていいな。

 

「うん。桜もそうだけど……花びらが散って足元をこうやって彩っているのを見ると本当に春だなぁって思う」

 

 まったくだ。

 するとふいに、俺達の間を少し強めの風が通り抜けた。

 

「わっ……」

 

 風に驚きながらも風で揺れる横髪を簪は抑えた。

 風にあおられた桜の花びらが舞い散る。

 

「綺麗……」

 

 目の前に広がる桜吹雪。

 それは幻想的な光景だった。

 

「絨毯の次は桜のカーテンみたいだね」

 

 カーテンか……言えて妙だ。いいものを見れた。

 しかし何だ。今日の簪は詩人みたいことを言う。

 それが何だかおかしくて俺は小さく笑ってしまった。

 

「詩人って……もうっ、笑わないで。きょ、今日はそういう気分だったの……」

 

 からかって恥ずかしがる簪を連れてもうしばらく歩くと池の辺に着いた。

 果てしなく広がる水面に映る桜。ここも風情があって綺麗だ。

 本当、今日花見来てよかった。そう思える景色だ。

 

「ん、だね。さっきみたいに皆でわいわいしながらお花見するの悪くない」

 

 だなと俺は頷く。

 これはこれで結構楽しかったしな。

 

「でも、次……機会があれば、その時はやっぱ、二人っきりがいいなぁって思うんだけど……」

 

 俺を伺うように簪はそんなことを言った。

 二人っきりか……皆とわいわいするのも確かに楽しいが、それも悪くない。

 いや、俺達らしいとも言えよう。

 

 そうだな……その時は二人静かに夜桜を花見する、なんてのもいいかもしれない。

 夜桜の見える静かなカフェとか雰囲気あってよさそうだ。

 

「夜のカフェで夜桜の花見かぁ……! オシャレ……うん、いいねっ!」

 

 簪も大賛成の様子。

 

「じゃあ、約束しよ」

 

 差し出された小指。何を意図してのものなのかはすぐ分かった。

 細く小さな簪の小指と自分の小指とを絡ませて。

 ゆびきりげんまん。

 

「指きったっ」

 

 声を弾ませて簪は唄う。

 楽しげな簪の笑顔は、視界に広がるどの桜よりも美しい。

 




izu様のリクエストで花見をする簪達四人をお送りしました。

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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