「……ど、どうする……?」
困った顔で俺をチラッと見た簪。
その視線の先を追えば、そこには大きめのパネルが沢山あり、パネルには様々な部屋の様子が映し出されている。
どうしようか。凄い興味引かれる凄い部屋がいくつしか映し出されているが、いくらなんでもこれは後々気まずくなる奴だ。
ここは無難なのが一番。その分値は張るがちゃんとしているはずだ。無難かつ良さそうな部屋を選ぶと、案内カードらしきものが出てきて、それを取って部屋へと向かい始める。
「……」
道中、俺達は無言だった。
というか、お互い露骨に視線を逸らしてしまい、かなり気まずくなっていた。
部屋に着いた。中へと入る。
いい部屋だ。パネルで見たときよりも広くて、綺麗で豪華な感じがする。
「……うん」
隣にいる簪は静かにこくりと頷く。
緊張しきっているな。無理もない。俺も緊張して普段みたいに話せないでいる。
部屋には入れた。ここは後で払うシステムらしい。金の心配もない。
さて、どうするか。隣の簪を見れば、俯いたまま。濡れていたところは拭いてほぼ乾いたとは言え、豪雨に晒された身。このままでは寒い。もしかすると、風邪を引くかもしない。
最初は風呂だな。思い立ち、俺はそれらしきところを見て驚いた。風呂はガラス張りだった。ベットのほうから風呂の様子がよく見える。
何だかエロい……。
「……っ」
簪も見たらしく、顔を真っ赤にして俯く。
俺達にしたら今更だろうが、ホテルがホテルだけに変な緊張がどうしても生まれてしまう。
幸いスクリーンみたいな間仕切りがあり、外から見えないようには出来るみたいだ。
いつまでもこうしていたところで埒が明かない。風呂でも沸かすか。
「どこ、いくの……?」
風呂のことを伝えると。
「……っ!? お、お風呂!? な、な、何で!?」
凄い驚きながら更に簪は顔を赤くする。耳まで真っ赤だ。
何でも何も寒いだろ。このままでは本当に風邪を引く。シャワーのほうが手っ取り早いが、風呂沸かして湯船に使ったほうが疲れも取れるだろうし、緊張も少しは和らぐ。
それ以外、他意はない。例えば、簪が今考えたこととか。
「っ、わ、分かってる! 何も考えてないから……そう、お風呂……私が沸かそっか……?」
いいやと断った。
沸かすのは俺がやる。その間、簪は体を温めながら、座って体を休めていて欲しい。
「分かった」
風呂場に行き、スクリーンを降ろして、一度浴槽を流してから湯をためていく。
高層ホテルの高い一室取っただけあって綺麗で風呂は広い。これなら二人で入っても充分余裕ありそうだな。
ぼんやり浴槽に貯まるお湯を眺めていると、ふとこの状況、簪と所謂ラブホテルに泊まる事になった経緯を思い出していく。
休日の今日、簪とのデートにちょっと遠出したのがそもそも始まりだった。
デート自体は楽しかった。だが、いざ帰ろうとなった時、突然の豪雨。それにより、移動手段に使っていた電車がストップ。そのまま今日は運休となってしまった。
タクシーも考えたが、流石に金がかかり過ぎるのとそもそも同じことを周りも考えているようで中々掴まらなかった。
最後ISで帰る手段も考えたが、すぐに考えを振り払った。外での使用は禁止されているし、何より豪雨にあわせて風も強い。危なすぎる。
天気がよくなるのを一旦待ってみたが、悪化していくばかり。
帰れるに帰れない状況になり、止まる場所を調べて見つけたこのラブホテルに泊まる事を余儀なくされた。
本当、どうしてこうなったんだと考えられずにはいられない。仕組まれたかのような悪い状況。日頃知らぬうちに悪いことをしてその罰があったのか。
ちなみにだが、ホテルに泊まる事は織斑先生に伝えてある。ラブホに泊まるとは流石に言ってないが。
先生は俺と簪の仲を知っているから、状況を聞くと苦い声していたが、深くは聞かれなかった。
それでもまあ、『節度ある行いを期待する』といつもの言葉で一応釘はさされてしまったが。
ふと、湯船に湯が半分まで貯まっている事に気づく。
そろそろいいだろう。簪に先使ってもらっている間に貯まりきる。
そう考え風呂場を出て、簪の元へ戻った。
「……」
ベットに腰掛け、何やら簪が興味深そうに読み耽っているのはメニュー表だった。
ファミレスとかでよくあるような奴。
おそらく、部屋の機器の使い方とかが書いてあるんだろう。ラブホなんて初めてきた場所だし、気になるのは分かる。俺も何書いてあるのか見てみたい。
しかし簪は読み耽り過ぎてこっちに気づいてない。読ませてあげときたいが、早く風呂に入って体を温めるほうが先決だ。
とりあえず、声をかけてみた。
「はい!?」
ビクッとしながら、背筋を伸ばして固まる簪。こっちも驚いたが、それ以上に驚かせてしまった。
湯がそろそろ沸くこと。先に簪に風呂に入ってほしいとのことを伝えた。
「う、うん……ありがとう」
そうは言うがメニュー表を抱きしめたまま離さない。
何やってるんだ。風呂に持っていくつもりか。
「そんな訳ない……」
それきり簪の言葉は続かない。
黙っているが、何か言いたそうにしているのは見ているだけでよく分かる。
隣に腰を降ろして、優しく聞いてみる。言いたいことがあるのではないかと。
「……。……うん。その……ええと」
頷いて簪の言葉を待つ。
「怒らないでね……あの、今私達がいるのラブホテルでしょう」
確かに今俺達がいるのはラブホだ。
「よくないってことは分かってる。非常事態なのに……でも、でも……ね」
もじもじしだして言いにくそうにする。
顔は真っ赤だ。恥ずかしさを我慢している顔。
もしかしなくても……。
「う、うん……えっち、したい、です……ごめんなさいっ」
相変わらずメニューを抱いたままだが、簪は深々と頭を下げてきた。
いや、謝らなくていいんだけどもだ……ふと困ってしまった。
簪の言う通り、今は確かに非常時だ。織斑先生に釘を刺された以上、セックスするのはよくない、気がする。
もちろん、したくないわけじゃない。正直言えば、したい。だがしかし、理性と欲望と鬩ぎ合ってる。
「……」
しゅんと不安そうにして簪を俺を見つめて答えを待ってくれている。
分かった、するか。
しばらく悩んですえにそう答えた。
「本当!?」
今更嘘は言わない。
俺も簪としたい。非常時ではあるが、折角夜の今一緒にいてラブホテルにいるんだ。しないというのは損というものだ。
言葉にするとどうしても軽くなってしまうが、万が一何かあれば責任を取ればいい。後、今夜のことは他言無用はもちろん。絶対に悟られないようにしなければ。
「それはもちろん……ふふっ、嬉しい。やった、ありがとう……変なこと言ってごめんなさい」
誘ってくれたのは嬉しいから構わない。
というか、さっきまでしゅんとしていた簪はどこへ行ったのやら。凄い嬉しそうにしている。スケベだなあ。
まあそうと決まれば、風呂は更に必要だろう。気持ちの準備とかいろいろ。
「そうだね……あ、もう一つお願い……あるんだけどいい……?」
言って見せてきたのはさっきまで隠していたメニュー表だった。
開かれたそこにはいかにもなコスプレ衣装が数多く載っていた。
なるほど、そういうことか。注文したいと。だから、さっきあんなに興味深そうに読み耽っていたのか。
もう決まっていたりするんだろうか。
「うんっ……これっ」
簪が指差したのは、白を基調とした青い某神戸屋風のウェイトレス衣装だった。
こんなのあるんだ。可愛いな、良さそうだ。
「でしょ! ……こういうの可愛いから、一度着てみたかった。いい……?」
もちろんと俺は頷いた。
注文は部屋にあるタッチパネルの機械でして、部屋の入り口近くにある受け取り専用の棚に外から入れてくれるらしい。ちなみにちゃんと洗濯、クリーニングしてあるらしくその辺安心だ。
注文は俺の方でしておこう。その間に簪が先に風呂入ったら丁度いいだろう。
「ありがとう……じゃあ、お風呂先に頂くね」
ここに来る前コンビニで買った替えの下着が入っただろう袋を持って簪は風呂へと向かった。
そしてふと、この部屋にある窓からその様子を見れば、相変わらず激しい雨が降り続けているのがよく分かる。
残った俺は注文する前にパラパラとメニュー表を眺めていた。
衣装だけではなく、料理やアメニティグッズも注文できるらしい。写真で見るこのホテルの料理は随分豪華だ。この手のホテルはどこもこんな感じなんだろうか。
読み進めていると、あるページに目が止まった。
これは……まあ、アレだ、アレ。本当にあるんだな、まあ当たり前なんだろう。何度も言うがここはラブホな訳だし。
凄い気になるな、コレ。ここだけの話、一度使ってみたいと思っていた。
しかし、これは流石に簪に引かれるかもしれない。けれど、使ってみたい気持ちがふつふつと高まっていく。
今夜は折角の機会だ。
注文してしまおう。簪の反応がダメだったらダメだったらで使わなければいい。
注文するときめてそれと簪が言っていた衣装とを注文した。
後は部屋に届くのを待つだけ。
さて一体、今夜はどうなってしまうのか。
…
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
それでは