「……」
「……」
「……」
放課後。生徒会室は静寂に包まれていた。
重苦しく、何処かトゲトゲとした嫌な静寂。
この静寂の原因が何なのかは、誰からなのかははっきりとした。
それは皆、同じ生徒会役員の一夏や本音も分かっているようで、自然と皆の視線は俺か簪へといく。
俺は、チラッと横目で隣の簪の様子を伺った。
「……」
視線が集まるのを気にも留めず、簪は黙々と生徒会の仕事を進めている。
無表情だがまとう雰囲気は不機嫌そのもの。
どうしてそうなのか訳の分からない一夏と本音はおどおどと怯えながら困っていた。
「ねぇ、ちょっと」
本音が俺に救いを求めてきたが、今回ばかりはどうしようもない。
「えぇ~」
本音達には悪いが情けない声だされてもどうしようもないものはどうしようもないんだ。
「な、なあ……更識さ」
堪らず一夏が簪に声をかける。
すると簪は顔を上げ一夏を見るが、目つきの鋭さがいつもの3割り増し。
簪本人にしたらそんなつもりはないんだろうが、不機嫌さで睨んでいるみたいになっている。
流石の一夏も思わずたじろいでいた。
「生徒会長」
「お、おうっ」
役職名で呼ばれ、一夏はピンと背筋を伸ばす。
「はい、これ。確認すんだからサインお願い。別のと一緒に職員室へ持って行きたいから早くしてくれると嬉しい」
「わ、分かった……」
一夏は書類を受け取ると急かされるようにそそくさとサインしていく。
それを待つ簪の表情は相変わらず変らない。
一夏を威圧みたいになっている。
「で、出来たぞ」
「ありがとう……ん、大丈夫。じゃあ持っていく。外出たついでに後輩達の様子見に行くから、戻ってくるの遅くなるかも」
「分かった」
「は~い、気をつけてね~」
簪は書類を持ち、そのまま生徒会室を後にした。
すると部屋は静寂のままだが、雰囲気は少しは和らいだ。
そして責めるような一夏と本音の視線が俺へと集まる。
理由は承知しているので、俺はただただ謝るしかなかった。
「謝るぐらいなら早く更識さんの機嫌直せよな。一昨日からずっとああじゃん」
「本当だよ~私なんか部屋一緒だからずっと機嫌悪いかんちゃんと一緒なの本当に大変なんだから。聞いても何も言ってくれないし」
それは本当に申し訳ない限りだ。
でも、どうしようもなくて手をこまねいているというのが現状。
「お前も更識さんほどじゃないけど不機嫌そうだしさ」
「やっぱ喧嘩したの? 珍しいね~」
あれを喧嘩と呼べるのだろうか。
いや、喧嘩なんだろう。
一応話し合いをして謝りもしたが、簪の機嫌を直せていないわけだし。
「久しぶりすぎて仲直りの仕方下手になったんじゃないの~?」
かもしれない。
実際、一昨日から簪と普段みたいな会話してない。挨拶とか必要最低限みたいな感じ。
普段からお互い話す方ではなく会話量的には変らないが、ぎくしゃくしてる感じはある。
こんなことは久しぶりだ。いつ以来かも思い出せない。
「お前達でも喧嘩するんだな。で、原因はなんなんだよ?」
一夏に聞かれて、俺は言い躊躇った。
というか、あまり言いたい気分ではない。
それは人に言えたようなことではないからだ。
「言いたくないって……もう~ここまで言わないのは卑怯ってものだよ」
「そうだぜ。言ってくれれば、一緒になって何かいい仲直りの仕方考えられるかもしれないしな」
それはあるかもしれない。
ここで言わないのはやはりよくないか。
現在進行形で二人には迷惑をかけている訳だし。
俺を意を決して二人に打ち明けてみた。
「……」
「……」
二人して言葉を失っている。
何か言ってほしいんだが。
「いや、何か言えって言われてもなぁ……くくっ」
「ダメだって
「そっちだって堪えろよ。いや、もう無理だわっ。くくっ、あっはははっ」
「あはははっ」
二人して笑う。大笑い。本当、楽しそうだ。
笑われるのは覚悟していたが、ここまで馬鹿笑いされると結構頭にくる。遠慮ってモノがあるだろう。まったく。
今更だが言ったことに対して後悔の念がこみ上げて来る。
「いや、これで笑うなって方が無理あるだろ。更識さんが楽しみにしてたデザート勝手に食べて喧嘩したとか」
「ね~もっと深刻な理由かと思ったけど、こんな子供っぽい理由で喧嘩したとか意外すぎて逆におかしくなっちゃって」
まだ二人は笑っている。
確かに笑いたくなるほど馬鹿らしい理由だが、そろそろもういいだろう。
本当、この場に簪がいなくてよかった。喧嘩の時よりも怒っていたに違いない。
こいつら本当に仲直りの方法考えてくれる気はあるんだろうか。疑わしくなってきた。
「大丈夫だよ~任せて~!」
「おうともさ。しかし、更識さんが楽しみにしてたのを食べられたぐらいで怒るなんてなあ……」
正確には俺と一緒に食べようと簪が楽しみにしていたデザートを俺が勝手に食べて怒らせた。
知らなかったとは今更言い訳にしかならない。
「かんちゃんが怒ったの君のそういうところかもだよ。君は悪いと思ったらすぐ生真面目さんになるから。大方、かんちゃんは一瞬イラッした勢いでバッって君を責めるようなことを言って、それを君が黙って聞いてひっこみつかなくなったんだろうね。いつもの自己嫌悪だよ、今のは」
まるで見ていたかのようだ。
だが、不思議と説得力を感じていた。
「当たり前。私、何年かんちゃんと一緒に居ると思っているの。君のこともよく知っているつもりだよ」
それはそうだ。
しかし、ちゃんと話し合ったし、謝りあったりもした。
「どうせ君の方から先に謝ったでしょう? 先に謝られたらかんちゃんの立つ瀬ないよ。私が悪いのに私が悪いのに何で先に謝るのってまた凄い自己嫌悪してるからあの不機嫌オーラ全開。間違いない。君はそれに当てられて不機嫌オーラ全開ってところじゃないのかな~?」
その通りではあるんだろう。だが、余計に難しい話になってきた。
どうして簪が不機嫌なのかは改めてよく分かったが、ますますどうしたらいいのか。どうしたら簪の機嫌を直せるのか分からなくなってきた。
もう一度、謝ると振り出しに戻るとなると。
「いや、もう一度腰をすえて話し合えよ。カップルなら尚更さ」
それしかないか。
簪とはこのままではいたくないし、それしかあるまい。
やってみるか。
「言っとくけど、ただ話し合うだけじゃダメだからな。ちゃんと仲直りの印は用意してけよ。こういうのは形で大切だからな」
「流石、
「酷い言われようだな。でも、勝手に食った事実はあるんだから代わりのは用意しないとマズいぞ。それは流石にお前も分かって……」
そこでハッとなる。
簪が怒ったのと不機嫌さが気になりすぎて、すっかり頭から抜けていた。
間抜けすぎる。
「本当だぜ。お前たまに抜けてるよな。なら、尚更必要になる。特別なのが」
特別か……。
食ってしまったのはただでさえ限定品だったみたいだし、ここも難しい点だ。
「限定品ね~……あっ、そうだ。私にいい考えがあるよ~」
本音からの提案を聞くとそれは本当にいい考えだった。
「ね、でしょでしょ~」
「冴えてるな。それなら俺も手貸せるぜ」
一夏も協力してくれるらしい。
ありがたい限りだ。
「気にしな~い、気にしな~い。ま、貸し一つってことで~」
・
・
・
そして夜になり、簪を部屋に呼んだ。
目的は簪ともう一度腰をすえて話しあう為だ。
それを部屋に呼ばれて分からない簪ではなく、案の定今簪は固くなっていた。
「……」
不機嫌とも取れる気まずそうな顔をしている簪。
部屋の空気は重い。それにやはりというべきか、簪とはぎくしゃくしてしまっている。
向き合ったままの俺達は今だ言葉を交わしていない。
とても話し出せるような感じではないが、ここは俺から話しだすべきだ。
話を切り出した。
「この間のこと……? ああ……うん」
更に簪の表情は暗くなる。
この間のことを強く思い出したのだろう。
簪にはこんな表情をして欲しくはない。だからこそと話を続けようとしたが。
「ま、待って……!」
簪に待ったをかけられた。
「私も話したいことが……ある。この間のこと、もう一度謝りたい。今度は私からちゃんと」
ゆっくりと、そして確かに簪は言葉を続ける。
「この間は酷いことたくさん言ってごめんなさい。たかがプリン勝手に食べられただけでつい怒鳴ちゃって、私凄い子供だった。なのに、先にあなたが謝るから余計に情けなくてあなたに謝ってもらった自分が許せなくてずっと自分にイライラしてた」
次第に簪の声は泣き出しそうになっていく。
「八つ当たりもしてたかも。本当にごめんなさい」
そう言って簪は深々と頭を上げていた。
本音の言う通りだったな。俺は知らないうちに簪を追い詰めていたらしい。
何より、この一連のもやもやを解消するのを怠っていた。
悔しいとか情けないとか、いろいろな思いが胸一杯になる。
俺は簪に頭を上げてもらった。
「はい……」
簪の背中に腕を回し抱きしめた。
少しでも簪の気持ち和らげればといつも以上に、優しく、抱きしめた。
「……嫌わないで、くれる……?」
もちろんだとも。簪のことは好きなままだ。大好きだ。
だから、簪。自分を許してあげて欲しい。
いつまでも簪がそうやってるの俺は嫌だ。簪と普段通りでいたい。
「ん、それは私も。ごめんなさい……」
もう謝らなくてもいい。
そういわれても謝るしかないのだろう。それは俺もだ。
簪の気持ちはちゃんと聞けた。それで充分。それでこの話はおしまいにしたい。
「分かった、おしまい……ねぇ、もう一度聞かせて……? 私のこと」
勿論ありきたりな物言いだが、世界で一番愛してる。
簪の目を見つめ、俺はしっかりと伝えた。
「ありがとう、私も愛してる」
簪は笑ってくれた。
幸せ一杯に。
話し合いが済んで、仲直りが出来た後のこと。
俺は仲直りの印にあるものを簪に差し出した。
「プリンだ……」
簪はテーブルの上に置かれた目の前のプリンを見てきょとんとした。
「これどうしたの……? 手作りっぽいけど……」
そうこのプリンは手作り。
仲直りの印として俺が作った。
と言ってもこの手作りプリンの案は本音が提案してくれて、一夏と本音の二人に力を貸してもらった。
俺はインスタント麺作るかパスタ簡単作るかぐらいしか料理できないから、一人ではプリンなんかとてもじゃないができなかった。
「そうなんだ……本音と織斑が」
このことも一緒にお礼言わないと。
後、迷惑かけたことも。俺達が喧嘩して一番迷惑かけたのは二人なのだから。
「そうだね。ちゃんと言わなきゃ……あなたにも気を使わせちゃったね」
というよりも、食べたまま代わりのものを用意してなかった俺が悪い。
これはその代わり。限定品の変わりになるとは思えないけども。
それに一夏達に力を借りて作ったとは言え、今回初めて作ったからどこまで美味くできているか。もちろん、味見はちゃんとした。
「味は大切だけど、あなたが作ってくれたということ。気持ちが大切で嬉しい。あんな酷いこと怒鳴っちゃったのに……」
過ぎたことをまた言う。
簪はひどいことを言ったと言っていたが、言ったのは『何で食べたの』と『確認してくれてもよかったじゃん』だけ。結構語気強かったから怒鳴っているとも取れなくないが、簪でもこんな大きな声が出るんだとつい関心してしまった。
「関心って……まあ、自分でもこんな声出るんだってビックリしたけど。本当ありがとう……食べても、いい……?」
頷いた答える。ぜひ、食べてほしい。
「頂きます」
一口スプーンで掬い簪はそっと口に運び食べてくれた。
反応、感想が出るまでのこの一時。やけに緊張する。
「美味しい……! 甘くて美味しいよ……初めてでこれって凄いよ」
嬉しそうに感想を言って、もう一口食べる簪。
その様子を見て俺はほっと一安心した。
「はい、あーん」
プリンが乗ったスプーンを差し出される。
食べさせてくれるのか、というのは一々聞くまでもないことだった。
だが折角簪の為に作ったんだ。一人で食べてくれればいいのに。
「忘れたの? 私が買ってきたプリンは元々あなたと二人で食べようと思っていたものなんだよ。だから、このプリンを一緒にね」
そうだったな。
素直に俺は簪に食べてせもらう。
口の広がるプリンの甘さ。二人の力あってのものだが我ながらよく出来ている。
「わ、自画自賛だ。でも、美味しいのは確かだから無理ないね。ん、食べさせてくれるの? ありがとう。あーん」
お返しに今度は俺から簪にプリンを食べてさせた。
「ん~甘くていいね。ねぇ、これってどういう風に作ったの? 話、聞かせて」
それはだな……と簪を膝の上に乗せながら今日のことを話していく。
喧嘩していた時を埋めあうように。
仲直りできてよかった。
…
例に漏れず大変遅れてしまいましたが陸のトリントン様のリクエストで「勘違いが原因で起こった簪と彼のちょっとしたケンカ」を話のベースにさせてもらい書かせていただきました。
ちょっとずつリクエスト話書いていっているので活動報告にて、お気軽にどうぞ。
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
それでは