簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪に祝ってもらった素敵な一日

『ねぇ……今日、お昼お弁当、作ったから……二人で食べない……?』

 

 簪にそう誘われたのは朝のことだった。

 何故弁当と言われた時始めそう思ったが、今日が何の日か。そして朝早くから簪が本音と一緒になって何かしていたので、どういう意図のものなのかはすぐに分かってしまった。

 今日は俺の誕生日。朝から会う人会う人に『誕生日おめでとう』と言われたら、流石に気がつく。

 普段学食なのに、今日弁当に誘ってきたということはそういうことなんだろう。

 俺は二つ返事で了承した。それから昼休みまでの間、柄にもなくずっと楽しみでそわそわと落ち着かなかった。

 

 そして今。待ちに待った昼休み。

 一夏達に一言告げると俺は飛び出すように教室を後にした。

 向かうは第二整備室。簪が指定してきた場所。そこは二人で弁当を食べるのにはうってつけの場所。二人で昼を過すなら、そこ以外ないだろう。

 

「あっ……タイミング、バッチリだね」

 

 整備室へと続く道に差し掛かった頃、運よく簪と合流することが出来た。

 ふと、簪の姿を確認すると手には大きめの袋を持っている。この中に……そう思うと自然と期待に胸が膨らむ。

 

「ふふっ、凄い期待してる顔。嬉しい……さ、早く行こう」

 

 嬉しそうに小さく笑う簪を連れ、一緒に整備室へと向かう。

 そして整備室の前まで来ると簪に開けてもらい、中へと入る。

 がらんとした室内。人っ子一人おらず、まさに二人っきりだ。俺は昼飯を食べる為、椅子とテーブルを用意する。

 

「……はい」

 

 椅子に腰掛けると簪は持っていた袋から弁当を取り出し、俺の前へと出してくれた。

 2段弁当。しかも、通常サイズのよりも大きい。簪と俺とで二人一緒に食べるから大きいサイズなのだろうが、貸し出し用の弁当にこんなサイズの奴があっんだと思わず関心してしまった。

 

「違う。これは寮の奴じゃない。昨日買ってきたの。今日のお弁当たくさん食べてほしくて。だって今日は特別な日、だから」

 

 そうだったんだ。わざわざそこまでしてくれたのか。

 これは嬉しい。更に期待が高まっていく。

 さー早く中を見たくなり、開けてもいいかと簪に聞いてみた。

 

「どうぞ」

 

 言われて弁当の上の段である一段目をまず最初に開けてみると、そこにはからあげやミニハンバーグ、ウィンナーやだし巻きたまごなどたくさんのおかずがぎっしりと詰められていた。

 凄いボリュームだが見栄えがよく、どれも俺が好きなのばかり。

 

「ふふん、これで驚いてもらっては困る。本命はこっち」

 

 簪は1段目を外しすぐ傍に置くと、下の段である2段目を開けた。

 するとそこには白ごはんの上に敷かれた海苔の上に、『HAPPY?BIRTHDAY』とチーズで象られた文字達が描かれていた。

 簪が器用なのは知っているが、ちゃんと文字になっている。凄いな、これは。

 

「でしょっ……自信作。普段こういうことするの苦手だけど……ちょっとしたサプライズ。今日ぐらいは、ね」

 

 そう簪は照れくさそうに言った。

 折角作ってもらったのだから、食べたい気持ちも勿論あるが、やっぱり食うのがもったいない。そう素直に思うほど、俺は今感動している。

 嬉しい。このまま食べるのはもったいなく感じた俺は、記念にとスマホのカメラで弁当を写真に収めた。

 これならまた今日の感動を振り返る。

 

「ちゃんとサプライズになったみたいでよかった。喜んでくれてありがとう。こほん、じゃあ改めて……お誕生日おめでとう」

 

 満面の笑みを浮かべて祝いの言葉を言ってくれた簪にありがとうと感謝した。

 嬉しい。やはり、この一言に尽きる。胸がいっぱいだ。何だか幸せ者過ぎて怖いほど。

 

「もう、大げさ。さ、食べよ」

 

 簪から話を貰うと手を合わせる。

 

「いただきます」

 

 一緒になって言い、二人で一つの弁当をつつく。

 まず始めに俺が食べたのはミニハンバーグ。

一口サイズで食べやすく、ジューシー。それと食べてみて分かったことだが確信があるわけではないがこのミニハンバーグ冷凍食品ではない。これは手作りか。

 

「正解。よく分かったね……誕生日プレゼントのつもりでもあるから、冷凍食品じゃあんまりだと思って」

 

 朝早くから料理に励む簪の姿脳裏に浮かぶ。

 わざわざひと手間かけて作ってくれた。至れり尽くせりとはまさにこのことだ。

 

「ん、このだし巻きたまごもよく出来てる」

 

 簪も弁当、だし巻き卵を美味しそうに頬張っている。

 黄金色に輝くだし巻き卵も美味そうだ。

 

「ん? 食べる……? はい」

 

 簪は新しいだし巻き卵を箸で挟むと落ちないよう下に手を沿えて、食べさせてくれた。

 口の中で出汁がじゅわ~っと広がる。フワフワとしていて、出汁の丁度いい按配で美味い。

 流石だな、簪は。

 

「お褒めいただき光栄です。その……将来一緒、になったら毎日でも食べさせてあげること……できるよ」

 

 一緒、という言葉がどういう意味を持っているのかは一々聞く必要はない。

 将来か……それはきっと今よりも幸せなんだろう。楽しみだ。

 

「私も楽しみ」

 

 そうして、二人で昼飯を食べ進めると、あれだけ沢山あった弁当はあっという間に綺麗に空となった。といってもほとんど俺が食べてしまった。

 

「大丈夫。このお弁当はあなたの為に作ったものだから……それに私元々小食でしょう? 朝味見にいっぱい食べちゃったし。あなたが喜んでくれただけでお腹いっぱい」

 

 満足そうな顔をする簪を見て俺も更に大満足だ。

 

「ん、お茶どうぞ」

 

 お茶のお代わりを入れてもらい一息つく。

 昼飯は食べ終えたが昼休みはまだ10分ほどの時間の余裕がある。

 教室に戻るにはまだ少しだけ早く、このまま簪と別れるのは惜しい。

 だから残りの僅かな時間、普段と変らず特に何かをするわけではないが、二人静かに過していた。

 

「……」

 

 隣にいる簪の手がすぐ近くにある。

 そっと手を取ると、簪はすぐに握り返してくれた。

 

「ふふっ、どうしたの?」

 

 別に何でもない。

 ただ何となく簪と手を繋ぎたくなった。

 ここなら人目を気にせず、好きな時に自由にこうやって手を繋ぐことが出来る。ここは静かでいい場所だ。

 

「だね……折角誕生日なんだから外もいいかなって思ったんだけど……ここならゆっくり出来ると思って。それにここは私とあなたにとって大切な場所だから今日お昼一緒に過ごすなら、やっぱりここかなって」

 

 それはそうだな。

 整備室という色気のない場所ではあるが、簪とはここから全てが始まった大切で思い出深い場所。学園で簪と二人っきりで過すのなら、ここ以外ない。そう断言できる。

 何よりここは慣れた場所で、鍵の関係上自由に出来る。今みたいに何の気兼ねもなく、簪と触れ合える。

 

「外だとどうしても人目について、からかわれるからね。誕生日だと特に。本音達みたいに肝っ玉強いわけではないし」

 

 まったくだ。

 この場所のおかげで落ち着いて過すことが出来た。弁当共々簪には感謝しかない。

 本当にいい誕生日だった。

 

「喜んでくれるのは嬉しいけど、これで誕生日を満足してもらったら困る。まだあるんだよ。もう一つとっておきが」

 

 とっておきと俺は首をかしげる。

 

「そう、とっておき。まだあるんだよ……夜、楽しみに期待してて」

 

 

 

 

「お邪魔します……」

 

 夜。夕食を済ませた後、部屋に来たいといった簪を部屋に招いた。

 適当なところ、いつもの定位置に腰を落ち着けた簪にとりあえずお茶を出すと、その隣に俺も腰を落ち着ける。

 

「……い、いただきます」

 

 出されたお茶を飲む簪は何処となく緊張した様子。

 そわそわとして落ち着きがない。まるで昼間の俺みたいだ。

 緊張した簪は何か言いたそうにしているのは分かるが、なんだろう。

 

「えっと……その……きょ、今日の晩御飯凄かったよね」

 

 そうだったな。

 誕生日だから寮の食堂の人達も凄い気を使ってくれて、今日の夕食は凄い豪華だった。

 おかげで一夏達が開いてくれた誕生日パーティーも盛り上がって、美味しいご飯やケーキを楽しく食べれてよかった。

 でも、簪が言いたいことはこれではない気がする。

 

「……」

 

 それは正解だったみたいで、簪はしまったという顔をして、また緊張した様子だった。

 緊張するものは仕方ないけど、今更緊張するような仲でもないだろうに。

 

「それはそうなんだけど……いざプレゼントを渡そうとなると……何か緊張しちゃって」

 

 プレゼント……昼の弁当だけでも充分嬉しかったのにまだあるのか。

 

「うん……これ」

 

 姿勢を整えると簪は綺麗な紙袋を俺へと差し出してきた。

 受け取ると開けてみてもいいのかと尋ねた。

 

「もろちん、どうぞ」

 

 そう言ってもらい俺は袋を開けてみる。

 すると中から出てきたのは透明の包装に包まれたスマホカバーだった。

 包装を外してよく見てみると、スマホカバーは黒色をしたシンプルなデザインの手帳タイプ。

 いいな、これ。

 

「よかった……ほら、あなたのスマホカバー痛んでいたしょう? これなら普段使いできるし無駄にならない」

 

 確かに今使っているスマホカバーは長い間使っていて所々痛んでいる。

 よく見ている。正直こういう普段から使えるものをプレゼントしてもらえるほうが嬉しい。

 大切に使おう。

 

 するとまだ紙袋の中に何か入っていることに気がついた。

 中を探って取り出すと、それは二つ折りになった手紙のようなもの。

 

「メッセージカード……読んでほしい」

 

 開いて中を読んでみる。

 

『お誕生日おめでとう。私をいつも側で支えてくれてありがとう。

 あなたのおかげで私はヒーローになれた。強くいられる。

 あなたと恋人になれて、ずっと一緒にいられて私はとっても幸せです。

 私去年のあなたの誕生日をお祝いした時より、今のほうがあなたのことをもっと大好きになりました。また来年のお誕生日もまた一緒にお祝いさせてください。だから、これからもよろしくね。

 今日は本当におめでとう。そして生まれてきてくれて本当にありがとう』

 

 とバースデーケーキをあしらったメッセージカードに手書きでそんなメッセージが書かれていた。

 嬉しい、素直に感動した。プレゼントも嬉しいが、手紙もとっても嬉しい。

 

「こっちこそ喜んでもらえると嬉しい……でも、改めて手紙となると何か変な感じ」

 

 だから、さっきあんな風に緊張していたのか。

 

「うん、そう」

 

 簪は照れくさそうに笑った。

 

 もう一度文章に目を落とし、また読み返す

 温かみと簪の想いを沢山感じる。言葉にして伝えてもらうのも勿論嬉しいけど、こうして手紙にして伝えてもらえるのも凄く嬉しい。

 このメッセージカードもまた素敵な誕生日プレゼントだ。大切にするのは当たり前のことだが、誕生日とは言え今日は簪にプレゼントを貰ってばかりだ。

 嬉しいし、喜んでいる。でも、簪に感謝の気持ちを伝えきれてない気がする。だからせめてもと。

 

「わっ……急にどうしたの……?」

 

 驚いた声をあげる簪の声を聞きながら、感謝の意を表すように俺は簪を抱きしめた。

 思っていることを全部を伝えきるのは難しいことだけど、こうすることで少しでも沢山簪に感謝が伝わればいいなと思う。

 本当に今日は素敵な誕生日だ。ありがとう、簪。

 

「どういたしまして」

 

 やさしく笑い簪はそっと抱きしめ返してくれた。

 暖かい。ふわりふわりとした心地いい幸福が体に満ちる。

 

「ふふっ」

 

 二人抱き合いながら幸せを噛みしめるように笑いあう。

 幸せだから笑いあうことが出来て、笑うからまた幸せな気持ちになれる。

 今日はそんな誕生日だった。

 




作者の今日5月10日が誕生日なので簪に誕生日祝ってほしくてかきました。

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
あなたの誕生日は読んでくださっているあなたの誕生日です。誕生日おめでとうございます

それでは
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