明かりに照られた室内。そこにあるのは吐息と音がもう一つ。
布団に寝転ぶ俺の上にうつ伏せで乗っかる簪がキスをする度にぎしぎし、とベッドが微かに軋む音が響く。
「んっ……ちゅ……」
簪の唇が俺の唇へそっと触れる。
息を飲んだ拍子に声が漏れると、微かに開いた唇と唇の間に簪は器用に自分の唇を滑り込ませ、唇で唇を甘噛みするように口づけてはまた離して触れ合う。
さながらキスの雨みたいだ。唇には甘さが残る。
「ちゅ……ん、むぅっ……ちゅ」
これが2、3回目というわけではない。
先ほどから簪はずっとキスを繰り返ししてくる。いつもみたいに深いキスだけはせず、唇で唇を甘噛みするようにキスしてきたり、時には軽く吸いついてきたりするキスを何度も繰り返す。
薄く柔らかな唇が離れたかと思えば簪は顔を上げ、簪は熱に浮かされたような瞳でじっとこちらを見つめ、乱れた息を整えながらふんわり微笑した。
「……ふふっ、ちゅ……んっ」
くすりと笑うと簪は、唇だけでは物足りないようで鼻先や目元、頬や喉にもキスを落とす。
それでも簪はやはり唇にするのが一番気に入っているようで、最終的には唇へと口付ける。
「ん、ぅっ……」
その一連の流れを簪はまた飽きずに幾度も幾度も重ねる。
まるで丁寧で甘美な愛撫されているようで、段々と変な気分になっていく。
キスと唇から伝わってくる簪の熱い熱で戸惑いで硬くなった体が芯からほだされていっている。
「ふっ……んっ、ちゅ……ん、ちゅっ……」
漏れ聞こえる簪の吐息と声が脳を溶かしてしまいそうで苦しい。
というよりも、息苦しい。先ほどから何度も息苦しいさを伝えているが、上手く伝わっていないのか無視して唇を押し付けられていたが、流石に限界だ。
たまらず簪からのキスを制止した。
「嫌」
一言でそうバッサリ言いきられそうになる。
嫌って。そんなこと言われても一旦、一旦でいいから待ってほしい。
再度制止をかけると、何か押し留まってくれた。
「もう……まだ全然、物足りないのに」
拗ねた顔する簪に俺は思わず唖然としてしまう。
さっきあれほどしたのに全然物足りないだなんて。
しかし、一旦休ませてほしい。疲れた。
「ん、分かった……でもまた、キス、させて……?」
その言葉に俺はただただ頷くしかなかった。
簪は元気だな。まあ、簪とこうやってキスするのは嫌ではないからいいけどもだ。
今日の簪は一体どうしたんだろうか。
「ん~……」
キスの変りに今度簪はぎゅっと抱きつくように引っ付き、頬ずりしながら凄い甘えてきている。
嬉しいが、普段以上甘えてくる簪には困惑するばかり。
この甘えっぷりは何かの裏返しではないのだろうかと、逆に怖くなってくる。
「何でそうなるの……今日は何月何日か分かる?……?」
突然質問に意味が分からず戸惑いながらも答えた。
今日は5月23日。ちなみに今は夜の八時過ぎ。
何かあったけか今日。もしくは記念日……と考えてみたが、思い当たるものはない。普通の日だ。
「今日はね、キスの日っていうの……」
キスの日……そうなんだ。知らなかった。
「うん。まあ、私も朝にSNSで見かけて知ったんだけど」
そんなことだろうとは思った。
しかし、たったそれだけの理由でこんなにも沢山のキスをしてきたのか。
他に理由は……。
「ない。本当にそれだけ……しいていえば、キスの日ってのは建前でもあって、今ただ凄い甘えたい気分なの。本当、大した理由はないけどね」
平然とした声で正直に話してくれたけど、こちらを見ようとしない簪。
顔を横に向けて胸板に預けたまま。
どんな顔してるのか少し気になる。
「ん……」
抵抗は肯定だと理解しているようで大人しく顔を見せてくれる。
だがせめてもの抵抗のように平然とした顔しているのが愛おしい。
内心精一杯恥ずかしさとかを我慢しているのがよく分かり、一旦休憩したのも関わらず、簪の瞳の奥は熱く燃える様に潤んでいる。
一旦休憩したのがむしろ焦らしたみたいになってしまったようで、瞳の燃えようは先ほどより激しい。
「……もう、いい……?」
遠慮気味にわざわざ尋ね、俺の答えを待つ様がいじましい。
頷いて答えると、簪はベッドを軋ませながら器用に上へとよじ登って、顔と顔を近づける。
唇へ仄かにかかる簪の浅い息が熱い。
「っん……ふっ……ちゅ」
再びの口付けは当然一度だけでは終らない。
2回、3回と繰り返しキスしては、目の前には満足げな簪の顔がある。
「私、キスする時、抱き合ってするの好き。特に今みたいなに感じだと身長差気にしないでいいから楽」
それはその通りだ。
俺と簪とでは伸長差があり、基本的に俺が屈むか、簪が少し背伸びする必要がある。
だが、俺の上に簪が乗っている今のような姿勢なら、それを気にしなくて済む。
顔同士が近いおかげで柔らかな髪からは甘いシャンプーの香りがして、少しくらっとするが安心できていい。
簪の重みもまたそうだ。体の温もりと共に簪は確かに自分の腕の中に居るのだと強く実感できて幸せだ。
俺も抱き合ってするが好きだと再確認することが出来た。
「好き……。ね……私、は……?」
期待に瞳を彩らせながら尋ねてくる簪の問いに恥ずかしげもなくはっきりとした言葉で伝える。
好きだ。言葉にできる感情なんてそれだけ。
ただ言葉だけで伝えるのでは何だか物足りなくて、深いキスのオマケ付きで。
「んんッ……」
突然のことにビクッと体を震わせ息継ぎが上手くいかずふっと笑ったような声をこぼす簪。
それすらも口内へ吸い込むように口づけて舌先が触れ舌全体だ簪の可愛らしい舌を絡めとる。
「っ……は、ぁ……ちゅ…あ、む……っちゅっ、はぁ…」
絡みあう舌と交わす唾液。
走る刺激と感じる快感。絡めて感じる舌の柔らかさや唾液の熱や甘さで思考はとろとろに溶けていく。
そうなっても深く甘いキスをするのはやめたくなくて、快感に取り付かれたように交わし続ける。
最初のうちは驚いていた簪も行為に没頭して積極的な様相で悩ましげに舌を動かす。
ゆっくり唇が離れていく。
唇と唇には細い唾液の話が後を引き唇へと落ちる。
「ん……ふふん、私も好き。だーいすきっ」
瞼を開いた先には頭の両横に両手をついて馬乗りになった簪が目を細めくすくすと幸せ一杯に微笑む。
「こんなに一杯キスしてもられえたら幸せすぎてもっとしたくなる」
聞き慣れた簪のお決まりの台詞。
だがその台詞は癖で言っているのではなく熱く燃えあがる欲求からの言葉。
だろうなとは思った。悪くない。俺だってそうなのだから。もっと簪としたい。
それは簪とて同じだろう。
「うん、悪くない。むしろ、キスの日のキスは何だか特別。溺れてしまいそう。だから、このまま」
次の言葉の意図をキスに込める様に簪はちゅ、と一つ優しく唇に口づける。
再開の合図。
それに俺からは舌先で唇をなぞるように舌を這わせて答えた。
舌で絡み合い一つに蕩けていくキスの日。
二人で甘いキスに溺れていく。
…
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
それでは