簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪とヒーローショーに行って

 休日のテーマパークは人が多い。

 はぐれてしまわないよう簪と手を繋ぎながら、テーマパーク内の野外ステージへとやってきた。

 

「やっぱり、前の見やすい席はもう埋っちゃってるね」

 

 簪が言う通り、まだ時間があるのにも関わらず、前の方はぎっちり埋っていた。

 ああいうのはきっと早くから場所取りしているのだろう。

 荷物番も兼ねて一人場所取りをしているお父さんらしき人がぽつぽついるのがその証拠である。

 休日のお父さんは大変だ。

 幸い場所こそはまだ真ん中から後ろの方の席が開いている。

 ゆったり座ることは出来そうだ。尻の下にレジャーシートを二人引いてそこへ座ることにした。

 

 太陽の昇りが高くなる時間帯。

 夏の近づきを感じさせる日差しは今日も暑い。こうして座っているだけでもこの日差しの下では疲れやすくなる。

 対策はバッチリしてきているが、それでも心配なものは心配だ。

 簪は平気だろうか。

 

「ん、ありがとう。大丈夫。あなたこそ、疲れてない? さっきまで結構アトラクション乗ってたでしょ」

 

 それを言うと簪もだが、言うほど疲れない。大丈夫。

 

「よかった……ヒーローショー、楽しみだね」

 

 今日このテーマパークにある野外ステージ。

 ここに来た訳はデートというのも勿論あるが、一番の目的はヒーローショーを見る為。

 簪たっての希望だ。

 

『あのね……私、これ行きたい!』

 

 と簪がタブレットを見せながらそんなことを言ってきたのが数日前のこと。

 よく見るとそれはこのヒーローショーの案内。

 一見よくあるヒーローショーで、それなら近くのデパートでやっているのでもいいんじゃないかと思ったが、簪がここまで積極的に行きたいと言ってくるのは珍しい。

 興味がないわけでもなく、折角なので遠出にはなったが今日こうして簪と見にやって来た。

 

 ちなみに今日やるのは毎週日曜朝にやっている特撮仮面の奴。

 ここのヒーローショーは特撮ファンの間でも有名のこと。

 家族連れだけでなく、同じ年齢かちょっと上ぐらいの人達もいるからその様だ。

 

 簪からは有名と聞かされているが、どういう類の有名なんだろう。

 

「ここのヒーローショーはね……まず基本今やっているのと過去作とのクロスオーバーなの」

 

 言われて確認する。確かにタブレットで見た案内やテーマパークに入場した時にもらったチラシには今期の特撮ライダーと第5作目の特撮ライダーが出る書かれてある。

 第5作目の特撮ライダーは簪と俺が好きなライダー作品の一つであり、それが出るというのは嬉しい。だが、クロスオーバー自体ヒーローショーでそう珍しいことではない気がするが。

 

「それはそうだね。でも、ここの目玉は質の高い脚本なの。二つの作品が上手く合わさって、興奮できたり感動できる話にちゃんと短く纏まってる。特にね、本編でちゃんと使われなかった設定や未登場の設定も各所にちりばめられていて、それはもう最高なのっ」

 

 興奮した様子で教えてくれる簪に俺は思わず、たじろいでしまう。

 そうなのか。簪にここまで言わせるのなら、よほどの出来なんだろう。

 俄然興味が湧いてきた。

 

「……そろそろ始まるみたい」

 

 司会のお姉さんが出てきて、ヒーローショーが始まっていく。

 挨拶から始まり、会場の説明、注意事項。

 そしてお決まりのヒーローの呼び出し。

 

「じゃあ早速、皆で元気よく呼んでみよう! いくよ~? せーのっ――」

 

 お姉さんに合わせて、会場にいる小さい子達が大きな声でヒーローを呼ぶ。

 ファンと思わしき大人達と混ざるように、恥ずかしながら俺も呼んでみた。

 ヒーローショーは幼い頃に数回行った程度の曖昧な記憶ではあるが、どこも最初の流れは似たような物なんだな。1回呼んだだけではヒーローが出てこないのもそうだ。お姉さんはまた会場の人達にもっと声を出すように何度か呼びかけ、それに応じるように小さい子達は声をあげる。

 

 それを簪は眺めている。

 今日のショーにあんなにも想い入れがあった様子だったから、てっきりノリノリで参加すると思っていた。

 折角だから簪も声出して呼べばいいのに。

 

「えぇ……いいよ。恥ずかしいし……」

 

 そりゃ一人だったら恥ずかしいだろうが、周りの人、女性も一緒になって呼んでいる。

 ここは折角なんだ。ほらと簪を諭して。

 

「ううっ……――」

 

 最後簪と一緒になってヒーローの名前を呼んだ。

 するとBGMが流れ、ヒーローと敵役が出てきた。

 そこからはアクションシーン。始めは今期のライダーと敵がアクションしていたが、観客が人質にっていうお決まりを助けてくれたのが第5作目に登場したライダーだった。

 てっきり主役が出てくると思ったが、出てきたのは主人公のライバル的存在のライダー。予想外の登場に会場は盛り上がった。

 それはもちろん俺達、簪とて例外ではない。

 

「わぁ……!」

 

 目を輝かせながらライバルライダーの登場を喜んでいる。

 驚かせる展開はそれだけじゃなかった。

 何と敵役として、第5作目に登場した主人公ライダーが出てきた。

 このライダーは最終回、度重なる強力な力の使いすぎでモンスターとなってしまい無用な戦いを避ける為、皆の前から姿を消した心優しい主人公。

 まさか、彼がこんな形で出てくるなんて。知っているキャラクター。何となくではあるがその登場にいろいろと考えながらも納得できるので、この話はどういう設定なのか。どうなっていくのか興味をそそられる。

 

「……!」

 

 今期の主役ライダーと第5作目のライバルライダーが正気を失って襲ってくる第5作目の主人公ライダーを止めに入るシーンを簪は手に汗握りながら見入っている。

 

 簪があれだけ言うことあって話の内容はいい。

 ちゃんと二つの作品が喧嘩することなく高い完成度で合わさっている。

 

「あの設定も使うんだ……凄い。嬉しい」

 

 と簪が小さく呟いては舌を巻くほどだ。

 作り手側のそれぞれの原典への愛が伝わってくる。見ているだけで楽しいとはまさにこのことか。

 

「ね……細かな仕草や口調もちゃんとリスペクトされていて。台詞も言いそうなものになっている……いい」

 

 簪も満足の様子だ。

 脚本の完成度が過ぎて、正直これじゃあヒーローショーなのに小さな子達を置いていきぼりじゃないかとも思ったが、それは杞憂のようだ。登場人物がしっかりと分かりやすく説明してくれる。

 何より、スタントが凄くて、純粋にかっこいいと感じさせ、見惚れさせてくれる。

 小さな子達は大喜びだ。当然俺達もそうだ。

 

「頑張れ……!」

 

 最初の恥ずかしがり様は何処へ行ったのやら。

 簪自ら声をあげ、会場の人達と一緒になって声援をヒーロー達に送る。

 

 簪の奴、凄い嬉しそうだ。

 それを見ているだけでこっちらまで嬉しくなってくる。

 今日、簪とこのヒーローショーにこれてよかった。そう心から素直に思った。

 

 

 

 

 今期のライダー達は目一杯の活躍を見せてくれ。

 ショーの最後、第5作目のテレビ版最終回で主人公ライダーとライバルライダーが交わせなかった再開を約束する言葉を交わし、ヒーローショーは熱狂と感動のうちに終った。

 感動のあまり、中には泣いている人もいる。

 いいショーだった。

 

「うん……最高」

 

 ショー自体は終ったが、まだ終わりではない。

 サイン会、撮影・握手会をやっている。

 小さな子達からやっていて、人の数が数なだけに結構待つことになりそうだが、ちょっと参加してみたい気もしなくはない。

 折角あんないいモノを見れた後なのだから尚更。

 

「ふふっ、いいよ。行こ」

 

 よかった。じゃあ、並ぶとするか。

 簪から了承を貰い、サイン用の色紙を買うとしばらく並んで待つに。

 こういうのは本当に久しぶりだから年甲斐もなくワクワクしてしまう。

 

「何だか小さな子みたい……ふふっ。並んどいてアレだけど、凄い列……サイン大変そうだね」

 

 簪と同じく苦笑いせずにはいられない。

 ヒーローの過酷さをこういう場面でも目の当たりにした。

 でも、ちゃんと務めを果たすその姿はヒーローそのもの。かっこいい。

 それからは順番がやってきて、今期の主役ライダーにサインと握手をしてもらい、残るライダー達と握手。

 間近で見るライダーの迫力は本物。

 テレビで見るのとは違うと分かっていても、いざこうして握手してもらえると凄く嬉しい。

 それは簪も同じらしく。

 

「わぁ……あ、ありがとうございますっ……!」

 

 嬉しそうにお礼を言いながら、簪はライダー達と握手していた。

 

 本当の最後。撮影会では本当に沢山の写真を撮った。

 ちゃんと作中で使われていた決めポーズも取ってくれ、ここでも再現度が高い。

 嬉しい限りだった。

 

 その後、テーマパークのアトラクションで一緒に遊んだりしていると、いい時間になり帰ることに。

 帰りの電車の中で隣にいる簪は、嬉しそうに今日取ったヒーローショーの写真を何度も見返している。よほど楽しかったんだろう。

 

「凄く……。あなたはどう……? 楽しかった……?」

 

 勿論だ。そう確かに頷く。

 今日一日簪とテーマパークで過して、お目当てのヒーローショーを見ることが出来た。凄く楽しかった。

 それにヒーローの良さ、と言えばいいんだろうか。それを再確認することが出来た。

 やっぱり、ヒーローの勇姿はいくつになっても胸に来るものがある。

 

「私もそう思う……私もあんなヒーローになりたいってますます思った。雄々しく、心優しい光のヒーロー……ただ憧れて誰かに守られ続けるんじゃなく。大切な人と助け支えあいながら、前へと向かって共に頑張れる存在に」

 

 簪ならきっとなれるさ。

 共に頑張って、一緒になってみよう。

 例えヒーローショーのモノだとしても今日の活躍を見せてくれたあのヒーロー達の様に。

 

「うんっ……必ず一緒になってみせようね!」

 

…  





今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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