簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と過ごした聖なる夜

 12月24日。今日はクリスマス・イヴ。

 街はイルミネーションで彩られ、その雰囲気を一層にかもしだし、世間は聖夜を祝福するムードに包まれていた。

 IS学園とて例外じゃない。特に学生寮は明日25日のクリスマスにもクリスマス会をするのにイヴの今夜に託けて騒いでいた。

 

「静かだね」

 

 俺は頷く。

 騒がしい室内とは違い、今俺達がいる外……いつもの場所のいつものベンチの周りには人気はない。俺と簪の二人っきりでとても静かだ。外は冬なので当然寒いが、簪とこうして二人っきりでいられると思うと気にはならない。

 

「……」

 

 二人肩を寄せ合いながらイヴの夜を過ごす。俺達を照らしてくれているは月と夜空に浮かぶ星々の光。これはこれで中々ロマンチックではあるが、どうせ二人っきりで過ごすのならクリスマスイルミネーションがあるところのほうがよかったなぁ、とふと思う。

 イルミネーションだけじゃない。クリスマスと言えば、クリスマスツリーだ。立派なツリーでも見ながらこうして簪と過ごしたかったというのもなくはないが、立派なツリーとなると有名な場所……学校の外となる為、寮生である俺達は門限に縛られて、そういうわけにはいかない。

 寮のほうにもイルミネーションやツリーはなくはないが騒がしい室内にある為騒がしく、また沢山の人がいることもあって二人っきりというわけにもいかないし、何より周りに人がいてはこんな風に落ち着いて過ごすことは出来ない。

 

「ツリーとかもいいけど……私はこっちのほうがいい。この静けさが、いい」

 

 ゆっくりと言う簪。

 それはまるで二人きりの時間を、噛み締めるように。

 

「それに“あなた”と始めて過ごすイヴ。少しでもいいから二人っきりがいい」

 

 そう今日はイヴはイヴでも簪と知り合い、恋人になってから過ごす初めてのクリスマス・イヴ。

 イヴは毎年あるけど、簪と付き合い始めて過ごすイヴは今日が最初で最後で特別な日だ。

 特別な日だからこそ、特別なことをしてあげたいと思ってしまう。普通の高校生のカップルなら、イヴの夜はデートをしたり、一つ屋根の下で一緒に聖夜を過ごすものもらしいが、俺は立場が立場でそんな普通には過ごすことはできない。

 いつもの様に部屋からの外出禁止時間までの短い間しか一緒にいることはできない。それはそれで幸せなことだと分かっているがやってることは結局いつも通りだ。

 

「いつも通りでも私は充分。いつもの場所でも私にとって“あなた”と二人っきりでいられるだけで特別で幸せなことだから」

 

 そんなことを言われれば、これ以上どうしようもないことを今更言うのはもちろんのこと、考えることすら憚られる。今はただ簪と二人っきりで過ごせる限りある時を噛み締めよう。

 そういえば、一つ改めて言わないといけない言葉があった。

 

「メリークリスマス」

 

 微笑みながら言う簪。

 重なった言葉。聞いて、俺達は笑みを浮かべあった。

 しばしの間、夜空を見上げながら、俺達は無言。

 夜風に触れていたせいか、手先が冷たくなったのを感じて、何となしにポケットに手を入れる。

 すると、小箱が手に触れた。

 

 忘れていたわけじやないが、頭の片隅に追いやられていた。

 用意していたんだ。渡さないとな。

 渡すことに抵抗なんてい。 喜んでくれる自信もある。 それでも尚、何か得体の知れない緊張があるのは確か。声を出そうとすると、喉の奥が痛い。

 でも、渡さなければ。小箱を握り、簪の前へと出し、中を開けた。

 

「……」

 

 小箱の中を見て簪が息を呑んで驚いているのが分かる。

 

「指輪……これって……クリスマスプレゼント」

 

 頷いて俺は答える。

 小箱の中にあるのは二つの指輪。

 銀色の指輪でネックレスにも出来るようにチェーンが二つある。俺の今の経済状況からはかなり高いものだが、相場からすると安いもの。

 だけどこれが精一杯の俺の気持ちの形。簪に送るクリスマスプレゼント。

 

「いいの?」

 

 いいも何も簪の為のものだ。

 そんなことを頷きながら言って俺は簪に左手を出してもらうようにお願いした。

 左手、簪のしなやかな指先が見える。俺は指輪を手に取った。

 左手で簪の手首を支え、銀色の指輪を、そっと簪の左薬指へと近付けた。

 簪の指先は震えていた。

 

――これからも一緒に幸せになろう

 

ありふれた言葉。

沢山悩んで出せた言葉じゃなく思わず、すっと出たセリフだった。

簪の左薬指に嵌った銀色の指輪。

指輪が嵌った左手、薬指を何かに取り憑かれたように、ただじっと見つめていた。

すると、簪の頬に一筋の涙がしずくのように零れた。それが月の光や夜空に浮かぶ星々の光に照らされ、輝いているように見えるのは見間違いじゃないだろう。

 

「ありがとうっ」

 

 嬉し涙を流しながら、簪は嬉しそうに微笑んだ。

 

「大切にする。でも……忙しかったのにちゃんと用意してたんだね」

 

 まあな。

 ここ最近はいろいろとあって忙しい毎日だった。主に年度末試験だけど。

 忙しい合間をぬいながらも何とか用意できたのが今日のクリスマスプレゼント。

 

「ごめんなさい……私用意できてない」

 

 左手にある指輪を胸元で両手で抱きしめ、簪は申し訳なさそうに悲しげな表情をする。

 仕方ないさ。俺以上に簪の方が忙しいかったし。

 実際、今日まで忙しくてクリスマスなのにデートできなかったから。

 慰めの言葉をかけたが、簪は納得してない模様。

 クリスマスだからな……でも、手がないわけじゃない。

 簪にしかできないプレゼントを俺にくれればいい。

 

 「うんっ」

 

 頷いて簪は差し出した俺の左手を取り。

 

「これからも一緒に幸せになろう」

 

 俺がしたのと同じように薬指へそっと、指輪を通す。

 どこか、厳かな光景だった。 

 言葉なく熱っぽい視線で見つめあう俺達。

 引き寄せられるように、どちらからともなく唇を重ねた。

 

「……んっ」

 

 唇に冷えた感触。脳髄がジンと痺れた。

 ゆっくりと唇を離すと、俺達は抱きしめあった。

 

「私……凄く、今……幸せ」

 

 俺もだ。

 お互いに言葉を交わし、抱きしめあったまま、笑い合う。

 しばらくそうしていると。

 

「あっ……」

 

 何かに簪が気づいた。

 体を離し、簪が見た方向に視線を向けると。

 

「雪」

 

 夜空から雪が降っている。

 ひらひらと白い雪が世界を銀景色へと変えていく。

 この雪はまるで愛し合う俺達を天からののよう。

 

「綺麗……ホワイトクリスマスだね」

 

 二人は降り続く雪を見ながら、再び静かに唇を重ねた。

 ひらひらと降る白い雪はまるで二人を祝福しているようだった。

 

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