とある日。
俺は一夏に呼ばれ、こいつの部屋へとやってきていた。
何でも渡したいものがあるとかなんとか。
「ほい、これ」
ドンッと目の前に出されたのは大きめの箱だった。
これは……とついつい訝しげにその箱を見てしまう。
「見たら分かるだろ? デジカメだよ」
それは分かってる。
箱の上には絵と文字でそう書かれてあるのだから。
俺が言いたいのはそういうことではなく。渡したいものってのはこれなんだろうが、どうしてまたこんなものをということだ。
後、よく見て気づいたことだが、これって一夏が前に使っていた奴じゃないか。数回ほどだが見たことがある。
いいのか、これ。一夏が写真取るのが好きってのは知っているが、これを貰うと一夏が撮れなくなるんじゃ。
「大丈夫。心配すんなって。俺にはこれがあるからよっ」
にやりと笑って一夏は今度、もう一つデジカメを取り出してきた。
新品のように見える。デザインはいい。かっこいい。しかし、高そうにも見える。
これを一夏は買ったんだよな。
「そうだぜ。ほら、この間
ああ、あの時かと惚気られたことを思い出す。
思い出せばいろいろと思うことが出てくるが、それよりも今はこの高そうなデジカメを一夏が買ったことが意外で気になった。
今までお金のことを結構気にしていたから、そんな大きな買い物をするなんて思わなかった。
まあおおよそ、店員に気良く進められて押し売りされたってところだろう。
「エ、エスパーかよお前。よく分かったな」
驚きたいのはこっちの方だ。
容易に想像がついたとはいえ、適当に言ったのが当たってしまった。
一夏は押しに弱いかららしいと言えばらしいが。
「金なら倉持のバイト代で余裕があるし、いろいろつけて元の値段より安くしてもらったんだよ。それにこれはいい奴なんだって!」
別に必死に弁解しようとしてくてもいい。
どうでもいいと言ったらそれまでだが、正直どうでもいい。押し売られたって買うと決めたのは一夏本人な訳だし、他人がとやかく言うことじゃない。
それとは別で、新しいデジカメを買ったから古いデジカメをくれるってのがちょっと分からない。これ使っているところを数回しか見ておらず、箱から取り出してみたがコンパクトサイズで見た目はかなり綺麗だ。新品同様。金払ってことなんだろうか。
「金? そんなのいいって、別に。タダでやるよ」
凄い太っ腹発言だ。
物の状態は勿論。今電源入れて簡単に機能を確認しているが、写真だけじゃなく動画まで撮れるらしい。本当に貰っていいのか。
「気にすんなって。俺とお前の仲だ。遠慮は必要ねぇよ。それ小学生のころから愛用してるカメラの代わりに学園来る時に持ってきたんだけどさ。両手で数えるぐらいしか使ってねぇし、中学の頃地元
の商店街の福引で当てた奴だから元々タダ同然。な、何も気にすることないだろう」
タダ同然ってのはちょっと違う気がしなくはないが、これ以上のことは無粋か。
くれるって言ってるんだ。ここは貰っておこう。
また別のことでこの恩を返せばいい。
「おう、貰ってくれて助かるよ。流石にデジカメ二つってのはちょっとな……」
貰うのはいいが、これの使い道がどうにも思いつかない。
どう使えばいいのやら。
「どうって写真取るしかないだろ。風景とか記念写真とかさ……後は、デートの時とかに使えるだろ。何なら、いっそ更識さん撮ってあげたらいいんじゃねぇか」
一夏は気楽に言ってくれる。
嫌がるだろ。それは流石に。
「最初はな。でも、その内乗り気になってくれて。こう……ポーズ撮ってくれたりするものだぜ」
そんな上手くいくのは一夏だからだろう。
俺だったら失敗しそうだ。相手は簪だから余計に。
というか、一夏のそれ何だか体験談くさい。ポーズって一体どんなポーズを取らせたのやら。
「……」
気まずそうな険しい顔をしてそっぽを向く一夏を見て、いろいろと察してしまった。
そんな顔するってよっぽどのポーズ取らせたんだろう。エロいとのかいろいろ。
気になるが、ここは聞かずにそっとしておこう。
「助かる。まあ、アレだ。お前は難しく捉えすぎるから、もっと気ィ楽にして撮りたいもの撮れよな」
それはそうだ。
折角一夏からこのデジカメを貰ったんだ。腐らせず、気軽に撮ってみるか。
・
・
・
その後。
自分の部屋に戻ると、一夏から貰ったデジカメを説明書片手に実際に動かしながらいろいろ確認していた。
型的にはもう何年のものになるが、それでも高性能だ。今でも全然に使える。というか、ネット検索したらかなりの値が今でもする。
これが商店街の福引にあったということも驚きだが、それを当てた一夏の運にも驚かされる。本当あいつはこういう運はいい。
「それ……デジカメ、だよね……どうしたの……?」
すぐ傍にいてタブレットで読書をしている簪がふいにそんなことを聞いてきた。
隣で見慣れないものを見ていたら気にもなるか。もしかすると興味を持ってくれたのかもしれない。
とりあえず、これの入手経緯を説明した。
「ふぅ~ん……そう。織斑、凄い太っ腹……よかったね……」
とだけ言うと簪は手元のタブレットに視線を戻し、再び読書を始めた。
凄い興味なさげだ。まあいい。こっちはこっちで好きにする。
そうして、もうしばらく操作確認していると一段落ついた。
使い方は大体分かった。
後は実際に何か試し撮りをしたいところだが、やっぱり何を撮ったらいいのか分からない。
部屋を見渡しても、試し撮りに丁度いいものはない。
しいて言えば。
「……」
今だ読書に集中している簪を見て、一夏に言われたことを思い出す。
簪で試し撮りか……試し撮りの被写体としてはうってつけだろう。読書する眼鏡美女な彼女。絵にはなる。撮ってみたい。
だがしかし、やっぱり撮られるのは嫌がりそうだ。でも折角だから、試し撮りはしておきたい。タイミング失って後々になってしまいそうだし。
ここはダメ元で聞いてみるか。
「写真の試し撮り……? ……嫌」
素っ気なくすぐさま断られた。
そう言うだろうと思っていたからショックではないが残念だ。
あくまでも試し撮りなのだから変にこれと決めずに、この際適当に部屋の窓から見える景色とか空の様子とかでいいか。
「……ねぇ」
ふと簪に呼びかけられた。
じっとカメラを見ては何か言いたそうにしているが何か。
「何で私撮ろうと思ったの……?」
そんなこと聞かれるとは思ってもみなかった。
何でか……一夏に言われてたのと、何となくというのが正直なところだ。
「何でもいいんだ……」
何だか拗ねたようにも聞こえなくない風に言われると、すぐには反論できない。
そう言われるとそうだ。でも、簪なら絵になると感じて撮ってみたいと思った。
「……そう……分かった」
と頷く簪。
やっぱり、何でもいいというのが気に障ったか。
そう思っていると。
「そういうことなら特別にその試し撮り? に付き合ってあげる」
これまた思ってもみなかったことを言われた。
嬉しい。ありがとう、簪。
じゃあ、早速一枚と普通の撮影モードにして簪へと向けた。
「ちょっ……ま、待って。心の準備させて」
待ったをかけると簪は身なりを整えていた。
試し撮りなのだから、わざわざそこまでしなくても。
「だって、変なところ撮られるのは嫌……よし……大丈夫」
いや、大丈夫って。
体こそはカメラの方に向けてくれているが、俯いたままだと撮るに撮れない。
カメラを構えたまま顔を上げてくれるのを待ってみたが一向に顔を上げる気配はない。
むしろ、カメラを向けたままでいると。
「や、やっぱりもうちょっと待ってっ」
まだ心の準備とやらが出来てないのかカメラに映らない様に片手で遮ってはもう片方の手が顔を覆っている。
恥ずかしがってるのは見て明らかだが、その格好だと余計に恥ずかしい……いや、何だかいやらしい格好になっている気が……。
「そう言う変なこといわないっ……」
そうは言われてもだ。
今更写真撮られる程度でそこまで恥ずかしがられると困る。
スマホのカメラではあるが今まで散々撮ってきただろうに。
「分かってる……もう……大丈夫だから。撮っていいよ」
手で遮って隠すことも俯くこともなく簪はようやくカメラと向き合ってくれた。
しかし、恥ずかしいのは相変わらずのようで肩を縮こませ、恥ずかしさを耐えて表情が仏頂面になっていた。
流石に仏頂面過ぎる。笑顔の一つでもほしいところだ。
「笑顔ってそんなこと言われても……難しい……えっと、こう……? にっにぃ……」
簪は頬を引きつかせながらも何とか笑顔らしいのを作ろうとしている。
ぎこちない笑顔ではあるが、仏頂面よりかはずっといい。
これ以上要求しても無理だろうから、さっさと一枚試し撮りをした。
「もういい……?」
頷いて返事すると撮った写真を確認する。
綺麗に撮れてる。それにこのデジカメで初めて撮ったにしては上手く撮れたんじゃないか。
簪はぎこちない笑顔だが、可愛くてこれはこれで味がある。思ったとおり、とてもいい絵になった。
ひとまずロックして、後でスマホに送っとこう。
「私にも見せて」
隣から顔を覗かせ簪も写真を確認する。
すると隣で凄いしかめっ面しているのが分かった。
「……やっぱり、変な顔……不細工」
そこまで言うほどではないと思うが、何なら撮り直しするが。
「嫌、もう撮らない……逆に今度は私があなたを撮ってあげる」
必要ないだろう。試し撮りは済んだ。
「いいから……ほら」
デジカメを取られると、向こう側へと追いやられる。
仕方ない。一枚ぐらいなら簪にも取らせてやろう。
「表情ほしい……笑顔」
仕返しのつもりなんだろうか。
言われて、笑顔作ろうとするとぎこちなくなるのが分かった。
やってもらって自分はやらないのは流石によくないから笑顔を作るが、今変な顔しているんだろう。
簪が笑いを堪えているので分かる。
「……後、ピース、して」
凄い注文が飛んできた。
それは流石にちょっと遠慮したい。男がピースするのは変とかそうではないが、自分がするとキャラじゃないというか何と言うか。
「そう言うのいいから……ピース」
拒否権はないようだ。
こうなった簪と張り合うのは骨が折れる。半ば半分あきらめ言われた通り、笑顔を浮かべ、ピースしてみせた。
「ふふっ……いいよ。じゃあ、撮るね。はい、チーズ……」
そして一枚撮ってもらえた。
余り気は進まないが、写真の出来を確認しにいった。
すると案の定と言うべきか、不恰好な自分が映っていた。ゾワッと嫌な鳥肌が立つ。似合わないピースなんてしているから、余計に不細工だ。
「そう……? 私は可愛いと思う……ふふっ」
笑いながら言われても説得力ない。
「笑いたくなるほどの可愛さなの。そうだ、後でこれスマホに送ってもらえる……?」
送れるけど、嫌な予感がする。
送ってどうするつもりなんだ。
「どうって見るに決まってるでしょ。たまにだけど。後は……待ち受けにするとか……」
複雑な気分になった。
嫌だけど、本当に嫌かと言えば言いきることが出来ず。嬉しいかと言えば、嬉しいような違うような何とも微妙な気分。
待ちうけにされるなら、せめてもう少しまともな格好の方がいい。
「そんな顔しなくても冗談……待ち受けにして誰かに見られるのは嫌。私だけのとっておきにしたい。あなたもさっき撮った私の写真そのつもりなんでしょう……?」
見抜かれていたか。
同じ様なことを考えていた。ああだから、簪は消せとは言わなかったのか。納得した。
お互い様だな。
「そういうこと……それにしても凄い。何年も前の物なのにスマホより綺麗に撮れてる。デジカメも悪くないね」
本当に綺麗に撮れてる。
これだったらデートや何処か出かけた時に使ったらきっといい写真に出来るだろう。
改めて一夏には感謝しないとな。
簪も気に入ってくれた様で何よりだ。
「うんっ、気に入った……これってタイマー機能、あるよね」
あるのは確認した。まだ使ってないが。
「なら、それ試してみない……? ……二人で」
何で二人と一瞬疑問に思い首をかしげたが、すぐさまある答えが思い浮かんだ。
簪はツーショットを撮りたいらしい。
「折角だからね……」
そうだな。折角だ。
実のところ、1枚ずつ撮り合うだけではちょっとした物足りなさを感じていた。
タイマー機能を試すことが出来て、一石二鳥。
撮る準備を始めていく。
まずカメラを机の上に置き、簪にはその向かい側にあるベットに座ってもらう。
距離や高さは丁度いい。後はどんな風に撮るかだ。
「どんなって……普通でいいでしょ。二人一緒に並んで」
無難ではあるが、それだと普通すぎる。
「何か考えでも……?」
ふと思いついた考えを打ち明ける。
すると当然の如くと言うべきなのか、簪は頬を赤く染めながら驚いた。
「ええっ!? それ本気なの!?」
本気も本気。大真面目。
撮った写真は別に誰かに見せるわけでもないんだ。たまにはこういうのも悪くはないだろ。
折角なんだからな。
「もう、それただの都合のいい言い訳になってる。でもまあ……折角、だよね……いいよ、分かった」
仕方ないなと優しい飽きれた笑みを浮かべながらも簪が了承してくれて、俺は心の中でガッツポーズをした。嬉しくて柄にもなく喜んでしまった。
準備の方は滞りなく完了している。カメラの位置や高さ、タイマーのセットと全て完璧だ。
俺は簪の隣へ行くと腰を下ろし肩に腕を回して、自分の方へと抱き寄せる。
「……」
すると簪は、俺の首の後ろへ腕を回し抱きつくようにして、待つようにそっと目を閉じ。
そこへ俺は、簪に口づけをした。
唇と唇は少し交差する形で重なりあい、しんなりと押しつけていく。
なんてことのない挨拶の変わりのようにいつもする触れ合う程度のものなのに、撮っていると分かっているから、ほんの少しばかり体を強張らせて緊張している簪が愛おしい。
けれどぎゅっとこちらを抱き寄せ、唇を押し当てる簪。それがまた何とも心地よかった。
タイマーが0になるまでの数秒間。
じれったさを感じながらも、何だかこの瞬間が終ってほしくないような気さえする。
「ん……」
シャッター音が聞こえ、名残惜しさを感じながらも離して写真を確認する。
「わぁ……凄い」
簪が関心したような声をあげるのも納得だった。
ディスプレイには、軽くキスしている俺達二人の姿が綺麗に収められていた。
本当によく撮れている。偶然入った日の光が微かに二人をほんのりと照らしていて、味わい深さみたいなものを出していた。
「素敵な一枚だけど……これはちょっとバカップルみたいで……恥ずかしい、ね」
恥ずかしがっているが、今更過ぎる。
それにみたいではなく、バカップルそのものだ。
「ふふっ、そうだった」
簪が照れくさそうにはにかむ。
そして「ね、またしてほしい」と小さく呟くと、先ほど撮った写真と同じ様に俺達はまた口づけあった。
…
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
それでは