簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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心機一転、初心に返って簪とあなたが付き合った頃の話を。大体一話後あたり


かんざしのにらむ!こうかはばつぐんだ!

 夜の自由時間。

 それはこのIS学園に入学し、寮生活に慣れて習慣づいたもので最近では大切な時間となっている。それは最近付き合い始めた女の子、更識簪。大切で愛しの彼女と過す恋人の時間。

 ……恋人の時間と表現するのは我ながら恥ずかしい気もするが、この表現が今のひと時を表すのに一番しっくりくるのだから仕方ない。

 夕食や風呂を済ませ、寮部屋からの外出禁止時間まで俺の部屋で簪と二人一緒に過ごす。

 これといって特筆すべき会話があるわけでもなければ、2人で何か一緒にするという訳でもない。いつもそんな感じ。してい言えば、今は適当なテレビ番組片手間にまったりしている。

 交際を始めて早1ヶ月、二ヶ月経つが順調そのもの。幸せそのもの……そう思う。それは俺だけなんだろうか? 最近、そんな一抹の不安を感じることが多くなった。

 それもこれも今の簪の様子が理由の一つなんだろうか。

 

「……」

 

 見られてる。凄い見られている。いや、最早これは睨まれていると言ってもおかしくない。

 隣に座ってテレビを見ていたはずの簪はいつしか、両膝を抱えながら座り、脚に顔を少し埋めるようにして、鋭い視線をこちらへ向けていた。

 始め気のせいかとも思ったが。

 

「……」

 

 やはり、簪はまだこちらを睨んでいる。

 何を言うわけでもなく、ただじっと睨まれているのは簪には悪いが正直不気味だ。

 しかも、これが今日初めてのことならよかったものの、度々こうなのだから余計不安を感じる。

 簪がこんな風になったのはおそらく、あの日からだろう。あの日……つい最近あった連休を利用して行った初めてになる簪と二人っきりの旅行から帰った日のこと。

 この日から簪に睨まれることが多くなってきた。

 

 旅行は簪が企画して予約まで取ってくれ、とても楽しく、幸せな旅行だった。

 何せ、そこで俺は簪のはじめて(・・・・)を貰い、俺達はあの日身も心も深く一つになったのだから。

 思い出深く充実した旅行だったが、あの時俺は気づかないうちに何かとんでもないことを簪にしてしまったのだろうか。

 ……いや、それはない。簪もとても楽しそうに、幸せそうにしてくれていた。それだけは確信を持てる。

 だとしたらやはり、旅行から帰ってきて今日までに何かあったか……脳裏を巡らせここ最近のことを振り返ってみたが、思い当たるようなことはない。

 もうしばらく考えてみたものの、結果は同じ。分からない。一人悩んでもしんどくなって来るだけだから、簪に何かあったのかと聞けばいいだけの話なのは分かっている。

 しかし、とうの昔にそれはもうやっている。

 

「……えっ……!? ……ッ、何でも、ない……」

 

 返ってくる言葉は大体いつもこんな感じ。

 何でもなくはないだろう。簪はビクッと驚いては、何かあったと言わんばかりに睨んでいた視線を気まずそうに逸らす。

 俺の聞き方もよくなった。何かあったのか、では当たり障りなさ過ぎる。はっきりと聞くべきだな。

 睨んでいた訳について簪に聞いてみた。

 

「睨んで!? 睨んでない。えっと……そう見えた……?」

 

 頷いて応えると、簪はハッとした顔をして申し訳なさそうにしていた。

 

「ご、ごめんなさい……睨んではない」

 

 睨んで()ない。

 となると、こちらを見ていたのは間違いないようだ。

 簪のことだからおそらく何か考え事してるうちにそうなってしまったんだろう。

 こんな含みのある言い方をするということは何かあることには変わりない。

 このままでは気になるし、言いにくいこともあるだろうがこの際だ。遠慮なく言ってほしい。直してほしい悪いところとかあれば頑張って直す。

 

「い、いや……そういうのじゃなくて……その…あの……」

 

 簪は言いにくそうに口ごもる。

 

「……~ッ、分かったっ。言うけど、その前に一つ言っておくことがある」

 

 なんだろう。

 簪は真面目な面持ちで両膝抱えて座っていたのから、身なりを正しこちらに正座して向き直る。

 

「変なこと言うの間違いないから……今から言うことは他言無用。むしろ、変だって感じたらすぐ忘れてほしい……」

 

 凄い予防線を張ってくる簪。

 懐かしいな、それ。付き合う前、学年別トーナメントでそんなことを簪に言われたのを思い出す。

 確かにあの時は変な……というよりも突拍子もないことを言われたが、あの時と似たようなことだろうか。

 けれど簪の真剣な様子に釣られて、こちらも身なりを正し正座して向き合う。

 

「……キ、キ、キ」

 

 口ごもらせながら壊れた機械みたいに簪は同じ言葉を繰り返す。

 正座して両膝の上についた両手をぎゅっと力強く握り、顔を真っ赤にしながらも言おうと頑張っているのは見て分かる。

 けれど、肝心のなんて言おうとしているのかが分からず、首をかしげることしか出来ない。

 

「……キっ、――もうっ! ここまで言ったら分かるでしょ……!」

 

 体を前のめりにさせながら急に怒ってきた今日の簪は理不尽だ。

 まだ何もちゃんと言ってないのにそれで分かったら、凄すぎる。

 

「鈍感……織斑みたい」

 

 それは罵倒の言葉なんだろうか。だとしたら、これ以上ないぐらい酷い言われようだ。

 また、簪の俺を見みる目が怖くなってる。

 これ以上聞くのは酷だろう。簪は一杯一杯だ。き、き……昨日のこと? または嫌い、とか?

 

「なっ!? な訳ないでしょ! 私はあなたとキスしたいのっ!」

 

 何故か怒られてしまった。

 キとはキスのことだったんだ。

 ああ、なるほど。見ていたのは様子を伺っていたからと。

 

「う、うんっ」

 

 コクコクと首を立てに何度を振って簪は頷く。

 そういうことだったのか。最近の不安にいろいろと納得がいき一安心することが出来た。

 しかし、キス……そこまで構えるほどのことだろうか。急にされたら流石にビックリするだろうがキスぐらい気軽にしたらいいのに。

 

「気軽に出来ないからどうしようかこうやって迷ってたのっ。……後、恥ずかしい……」

 

 俯いて簪は両肩を縮こませる。

 今どんな顔しているのかははっきりと確認することは出来ないが、顔真っ赤にして恥ずかしそうにしているだろうことは容易に分かる。

 今更恥ずかしがるようなことでもない気がしなくない。俺達は一線を越えているのだから。

 

「……~ッ!」

 

 悪かった。俺はそうすぐさま謝った。

 だから、言うなと言わんばかりに睨みながら二の腕グーでポカポカ叩くのはやめてほしい。結構痛い。

 

 簪がキスをしてほしいというのは分かった。

 だったら、キスするか。

 

「えぇっ!? ほ、本当にするの……!?」

 

 したいと言ったのは簪だろうに何で驚く。

 嫌ならしない。

 

「い、嫌じゃないっ。――っ、よ、よろしくお願いしますっ」

 

 正座したまま身構えられる。

 そんな風にされるとしにくいがこの際仕方ない。

 顔を真っ赤にしながら目を瞑って待つ簪へ少し前屈みになりながら頬に右手を置き、腰に左手をやる。

 そして、そっと口づけた。

 

「……ん」

 

 唇と唇が触れ合うだけの何の変哲もない普通のキス。

 初めてという訳でもないのに、今無性に恥ずかしくて割りとすぐ唇を離す。

 すると、目の前には簪の顔があって目があった。

 

「あはは……」

 

 二人同時にぎこちない笑い方と顔しては、二人して顔を赤くしながら目を伏せ照れ合う。

 何だこれ。俺達は付き合ったばかりのカップルかよ。まったく恥ずかしい。

 おかげでドキドキ、ソワソワして落ち着かない。無性にむず痒い気分だ。

 けれど。

 

「ふふっ」

 

 簪が幸せそうに嬉しそうに笑ってくれている。

 なら、この恥ずかしさやむず痒さもそう悪いものじゃない。

 これで簪も満足してくれただろう。

 

「え……1回だけなの……」

 

 凄い悲しい声と顔された。

 1回だけではなかったのか。まあ、確かに1回だけとも言ってないが。

 だがしかし、そう何度も俺からするのは恥ずかしくてもう無理だ。

 

「じゃ、じゃあ、今度はわ、私からするっ」

 

 今だ頬を赤らめたままの真剣な顔で言って簪は俺の両腕を掴む。

 そして、ゆっくりと目を閉じた簪の顔が近づいてくる。

 それを俺は体を強張らせながら、目を閉じただじっと待つ。

 

「ん……」

 

 優しい口づけ。

 満足だと思う反面、二回目だからだろうか。物足りなさ、もっと簪とキスしていたいという思いが奥底で強くなるのが分かる。

 ところが思ったよりも早く唇は離れさた。

 

「~ッ!」

 

 声にならない声をあげて、簪はまた縮こまる。

 どうやら簪も恥ずかしくて、すぐ離してしまったようだ。

 顔は見れないが、見える耳が凄い真っ赤。された俺よりも恥ずかしがってないか、それ。

 

「恥ずかしいものは恥ずかしい……」

 

 でもよかったんだろ。

 

「うん……凄くよかった」

 

 顔を上げた簪は頷いて噛みしめるように手で口元を隠す。そして、指先でそっと唇をなぞる。

 瞬間胸が高鳴った。

 なんて色っぽい仕草がをするんだ簪は。無意識にやっているのだから、ある意味恐ろしい。

 

 絵の様に綺麗で見惚れていると、また目があった。

 

「あはは……」 

 

 また二人揃ってぎこちない笑い方と顔しては、もう一度バカみたいに二人して照れ合う。

 こっぱずがしいことこの上ない。

 それもこれもキスしなれていないせいだろうか。滅多にしないというわけではないが、頻度は少ない。盛り上がった時とか1度の回数は多いけど。

 

「うん、そう。普段あまりしないでしょ……だから、したくなって……」

 

 キスがしたくなった理由はそういう理由だったのか。更に納得した。

 簪にそう言われると特に理由があるわけではないが、キスしなさすぎだった気がしてきた。少し悪いことしたな。

 頻度や回数が多ければいいって話でもないし。いくら気持ちが通じ合っているとしても、ちゃんと行動が伴ってないのなら想い半減。

 キスはお互いの愛情を確かめ合うための大切な行為。これからはもっと大切にしていこう。

 

「だね……だから……」

 

 目を閉じて何かを待つ仕草をする簪。

 いや、何かなんて確かめるまでもなくこれはキスをしろという無言のサイン。

 これからはもっと大切にしていこうとは言ったが、それはこれからのことであって今すぐというわけでは……。

 

「んっー……」

 

 いいから早くと言わんばかりに一つ小さな唸り声で催促される。

 ここまでされて待たせるのは流石に悪い。覚悟を決めろ。

 俺はまた簪に口づけた。

 

「……ん」

 

 最初の頃よりかは長く口付けていたと思う。

 けれど離れてみると思ったよりもあっという間だった。

 

「もう、まだ照れてる……キスぐらい気軽にしたらいいって言ってたのは何処の誰……?」

 

 それは俺だけど……照れるものは照れる。

 というか、照れが変なところ入ってる。

 これではもう、最初の頃とは攻守が逆転。たじたじだ。

 

「仕方ない人……じゃあ、いっぱいして慣れましょう」

 

 体重をかけられ、ふわっと俺は簪に押し倒される。

 そして、上になった簪からたくさんキスされる。

 

「ん……ちゅ、ん、は……んぅ……ちゅっ」

 

 簪の奴、本当にキス好きなんだな。

 

「うん……好き。胸の奥がじわり温かくなって、凄い幸せな気持ちになる。だから、あなたとキスするの大好き」

 

 照れた様子なく向けられる真っ直ぐな言葉。破壊力ありすぎだ。効果は抜群といったところ。

 そこまではっきり言われると照れとか恥ずかしさとか通り越してだだ嬉しい。

 本当に想われている。彼氏冥利に尽きる。

 

 まあ、それとは別に簪がキス魔なだけってのもあるだろうな。

 セックスした時もしきりにキスを求められたのは記憶に新しい。

 

「ん?」

 

 不思議そうにする簪に適当言って誤魔化す。

 簪がキス魔というのはとりあえず飲み込んでおいた。

 

「そう……。ねぇ……今私からいっぱいしたから、今度はあなたからいっぱいして……?」

 

 そう言うのは分かっていたからお望み通り今度は俺から、その唇を塞いだ。

 

「んふふ……もう、照れたりはしないんだ」

 

 一度にこんな沢山されれば、流石に照れもなくなる。

 今はどんと来いといった感じだ。

 

「慣れる為のものだったけど……こうあっさり慣れられると何だかもったいない。照れるあなた珍しくて可愛いから好きなのに」

 

 可愛いって何だ。

 からかい半分で言う簪は楽しげだ。残るもう半分が本心でそう思っているのが見てて分かるから、何だか悔しい。

 そういうことを言われて喜ぶ男なんて少ない。そういうことを言うのなら、こちらにも考えがある。

 

「? んんっ……!」

 

 簪を黙らせるように抱き寄せ、俺はその唇を唇で塞いだ。

 突然のことに当然驚く簪だったが、もう一押しと簪に深く口づけすれば、簪にある変化が表れた。

 驚きで強張っていた体から次第に力が抜けふわふわとした唇のように柔らかくなっていく。

 変化はそれだけではない。簪も精いっばい情熱的なキスで応えくれた。

 というか最早、情熱的なキスではなく、官能的なキス。お互い舌を差し入れあい、舌で激しい抱擁を交わす。

 2人の吐息や舌、唇が一つに溶け合う。

 息継ぎの為、一度唇からゆっくりと唇を離す。

 冗談が過ぎたかと思ったが、どうやら効果抜群らしい。

 俺の上でうつ伏せになっている簪のこちらを見つめる瞳の奥が情熱の炎で燃え盛る。 

 

「こんな熱いのされると……止まらなくなる」

 

 こちらとて確かに盛り上がったものはある。だが、残念。

 まだ約10分ほど前ではあるが、そろそろ寮部屋からの外出禁止時刻。

 今日はもうお別れしなければならない。時間は時間だ。

 

 それを分からない簪ではないようだが、今日は不服らしい。

 

「うぅ~……じゃ、じゃあ、5分間だけ」

 

 ぽつりと簪が提案してきた。

 

「5分間だけ最後にキスしてたい。もう残り5分もあれば部屋には余裕で戻れるし、規則も守れる。時間遵守。だから……」

 

 やけに必死なのが少しおもしろい。

 そこまで必死にならなくても大丈夫。

 そうだな。一応保険の為5分後にアラームはセットしておくが、あと少しだけは俺もそうしていたい。

 

「やったっ……んっ」

 

 嬉しそうに微笑むと俺の頬に手を添え、簪から顔を近づけ口づけた。

 あらかじめ示し合わせていたかのようにすぐさま舌が絡み合い、甘美な味が口いっぱい広がる。

 深いキスではあるがただ激しく求め合うのではなく、短い時間を堪能するゆったりとして濃厚なもの。

 心地いい。その一言に尽きる。

 

「ん……やっぱり、あなたとの好きいい……もっとハマりそう」

 

 ハマりそう、か……。

 約束の5分間、最後までたっぷりと愛し合いながら、ぼんやりと感じたことがあった。

 深みにハマるっていうのはこんな感じなんだな、と。

 





今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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