簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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足元美人な簪

 伸びて不揃いになった手の爪が目に止まった。

 こまめに爪は切ってはいるものの、大分伸びてきている。そろそろ切った方がよさそうだ。

 こういうのは気がついた時にやらないと後で後でなってやらずじまいになる。爪きり取り出さないと……。

 

「どうしたの……? 探したもの……?」

 

 爪切りを探していると隣で読書していた簪に聞かれ、爪切ることを説明する。

 

「あ、本当……伸びてる」

 

 簪の爪を見れば、綺麗に切り揃えられていた。

 ただ綺麗にしているわけじゃなく、きちんと手入れされているのが性格出てる。

 

「ん……」

 

 爪きりを取り出すと、簪が手を差し出してきた。

 貸せといわんばかりだ。

 簪も爪が切りたいのだろうか。手は切ってあるから足の爪とか。

 

「違う。私が切ってあげる」

 

 思わず、濁音がついてしまうぐらいの声で聞き返してしまった。

 すると、ムッとした顔をする簪。

 

「何……不満なの」

 

 不満というより、不安。正直言えば怖い。

 だって簪に爪切ってもらうのは初めてのこと。

 大丈夫か心配だ。

 

「何よそれ……いいから、ほら」

 

 爪きりを取られてしまう。

 まあ時間はあることだし、折角だから切ってもらうか。

 おそるおそる俺は手を簪に差し出す。

 

「そんなことされたら、爪ごと肉切っちゃうかも」

 

 怖いこと言うから、愛い笑顔が何だか怖い。

 やめてくれ。

 今度はちゃんと手を差し出すと、少し飽きれた表情を浮かべながらも簪は手を取った。

 

「もう、始めから大人しくしてて……ん、じゃあ、切っていくね」

 

 そうして簪は下にゴミ箱を持ってきて爪を切り始めてくれた。

 パンチ、パチンと爪を切る音が部屋に響く。

 変な心配していたのは本当失礼だった。器用かつ綺麗に切ってくれる。

 しかし当の簪は、真剣な顔している。そんな顔しなくても大丈夫だろうに。

 

「そうなんだけど……人の爪切るの始めてだから……何かね」

 

 慣れない、的なものだろうか。

 真剣な簪を眺めながら、ぼんやりと切り終わるのを待つ。

 こうして簪に爪を切ってもらうのは始めてだが、自分以外の誰かに爪を切ってもらう何ていうのは凄く久しぶりだ。小さな頃以来か。

 自分でするのが当たり前すぎるほど当たり前になってきていたから何かアレだ。

 

「……」

 

 眼鏡のレンズ越しに見える真剣な簪の瞳は綺麗に輝いている。

 それに簪は案外、まつ毛が長い。綺麗にゆるやかなカーブを描いている。

 瞬いて動くたびにキラキラとして、何だか可愛らしい。

 小さなことだが、こうして爪を切ってもらえているからそうして些細な気づくことが出来た。

 こういうのもいいな。

 

「どうしたの……? 笑ってるけどいいことでもあった……?」

 

 まつげが長いことをそれなく伝える。

 

「そう……? 自分ではそんな風に思えないけど。っと……はい、終った。仕上げしておくね」

 

 爪切りについているヤスリでまだ少し角ばっているところを削って仕上げまでしてくれる。

 至れり尽くせりだ。

 

「これでよし……こんな感じになったけど、よかった……?」

 

 勿論。

 というか、普段はただ切るだけでここまでしないから今日は一段と爪が綺麗。

 やってもらってよかった。

 

 手の爪が終ったから、簪から爪きりを返してもらう。

 まだ足の爪が残っているから、こっちもこの機会に切ってしまわないと。

 

「ん? このまま切ってあげるけど」

 

 足までお願いするのは何だか気が引ける。

 足の爪は頼まれても切りたくないって人がいるとどこかで聞いたことがあるし。

 

「他の人はそうかもしれないけど、私達は今更でしょ。手も足も変らない……ん、爪切り貸して」

 

 簪がそこまで言ってくれるのならお願いしよう。

 もう一度爪きりを簪に渡した。

 

「足の爪も結構伸びてるね」

 

 足も手の爪と同じぐらい切ってなかったからな。

 というか、簪のそれは一体。

 

「ああ……これ?」

 

 簪の足の爪は手の爪と同じ様に綺麗に切り整えられているが、足の爪には色が塗られていた。

 ほんの少し白みかがった水色。

 マニキュアとかいうのだったけか。

 

「正解。どうかな……? 変?」

 

 変なんてことはない。むしろ可愛い。器用に塗れていて綺麗だ。

 だが、簪はいつの間にこんなものを。前……と言っても大分前になるが、その時は爪を見た時はこんな色塗ってなかった気がする。

 

「この間本音と相川さんと四十院さん達と遊んだ時にいろいろと教えてもらった。これはその時自分でやった奴」

 

 なるほど、そういうことか。納得した。

 相川さん達ならそういうの詳しそうだ。

 しかし、簪がマニキュアなんて……本当…女の子なんだな。

 

「どういう意味……もしかして嫌味? はい、右終ったから次左の足の出して」

 

 言われた通り、左の足を出す。

 嫌味な訳ない。ただ簪がマニキュアをするなんて何というか……意外。そう意外だった。

 そういうの興味ない。嫌がってたからな……と一緒に出かけた時、店で出来る簡単なマニキュアとかメイクの無料体験を店員に進められた時、凄い嫌がっていたのを思い出す。

 

「あれは知らない人に遠慮してるのにグイグイ勧められるのが嫌いなだけ……別に興味ない訳じゃない。最近は皆からいろいろ教えてもらって勉強してるんだから……」

 

 どうして勉強を、なんてその理由が分からないことはない。

 聞くのは野暮ってものだ。

 手の爪だけではなく、足の爪まで綺麗にできているのは凄い。

 足元美人。簪は日に日に可愛く、綺麗になっていくなとしみじみと思う。

 

「そういうのいいから」

 

 素っ気ない口ぶりだが、しっかり耳は赤い。照れてる。

 自分では爪切る程度でやろうとすら思わないから、ある意味尊敬だ。男女の差という奴なんだろうか。

 

「ん……じゃあ、あなたも塗ってみる? やってあげる」

 

 男がマニキュアってどうなんだろうか。

 時代錯誤だとは思うが、女々しいような気もしなくはない。

 

「それはあるかも……でもまあ、やっても足の爪。見せびらかすようなこともしないし、手は流石に私もね」

 

 手は普通に見られるからな。

 足の爪だったらサンダルを履いていたり、素足を晒してない限りは見られるようなことはないはず。

 

「嫌だったらいいよ、別に」

 

 いや、折角だ。

 爪切ってもらったついでにこのままやってもらおう。

 ただし一夏達には内緒にしといてほしい。

 

「言わないって……じゃあ、用意するね」

 

 簪は立ち上がり、自分のバックを持ってくると中からあれやこれやと取り出す。

 色のだけかと思ったら、他にも透明っぽい奴が二・三個ある。

 いろいろあるんだな。

 

「うん……まずこれが爪の表面にある油を取るのでね」

 

 一つ一つこれはどういうものなのか説明してくれながら、簪はまず俺の足の爪に下準備をしていく。

 まだ色はついていないが、爪に何かを塗られるのは初めての体験。少しぞわぞわとする。

 

「じゃあ、塗っていくね」

 

 そして爪に色が置かれるように塗られていく。

 ちなみに色は簪と同じ色。

 所謂おそろいという奴だ。

 

「次は……」

 

 最初、爪の油を拭き取るのに使っ液体に浸したコットンを巻いた細長い棒ではみ出したネイルを拭き取り、最後に仕上げ用の液体を色の上に塗る。ツヤ出しと保護の為の奴だとか。

 その一連の流れをもう片方にすると。

 

「よしっ……出来た」

 

 満足そうに簪は呟く。

 

「どう……? 自分の爪にやるより綺麗にできたと思うんだけど」

 

 両足の爪全部に塗られたほんの少し白みがかった水色。

 勉強したと言っていただけあってムラがない。器用に、そして丁寧な仕上がり。

 ただ色を塗っただけだというのに、見違えたよう。何だか自分の足ではないみたいだ。

 

 女々しいと思っていたが、こうしていざ完成したのを見ると嬉しいものだ。

 

「ふふ、よかった。お揃い……何だか気恥ずかしいね。でも二人だけの秘密ならもっと嬉しい」

 

 あまりにも嬉しそうだからこちらまで余計嬉しくなって笑みを溢す。

 簪が言ったことと同じことを思いながら。

 




爪や足にまつわる話を考えることにハマってる今日この頃。
というか、彼氏彼女が相手にマニキュアを塗ってあげるという構図が性癖。
後、もっと日常感がほしい……。


今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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