「あの……一緒に見たいアニメあるんだけどいい……?」
簪がそう言ってきたのは夜の暇な時間。
夕食や風呂、やらないといけないことも全部済ませて何しようかと考えていたから丁度よかった。
こんな風に簪がアニメとかを一緒に見ようと進めてくれることは昔からよくあったが、今日はどんなのを見るんだろうか。
「これ何だけど……」
見せられたタブレットには可愛い和風系の戦闘服みたいな衣装に身を包んだ中学生ぐらいの女の子四人が勇ましく並んでいるアニメ絵が映っている。
簪お得意のヒーロー物だろうか。ヒーロー物でも日曜朝にやってるプリティでキュアキュア的っぽい感じがする。
「多分そんな感じだと思う。私も見たことなくて……ヒーローもの探してたらSNSでフォロワーさんが勧めてくれたんだけど」
それで見る気になったのか。
作品紹介や絵を見た感じは簪の好きな王道系だろうから普通におもしろそうだ。
とりあえず見てみよう。
「うんっ……見よう見よう」
何だか簪のテンションは高めだ。
準備を済ませると早速始めた。
内容はこう。
主人公の女の子は中学生。ボランティア部に所属して、先輩後輩同級生の3人と仲良く部活する毎日。
そんなある日、不思議な力に目覚め人類滅亡を企む敵と戦う毎日に変化していく。
その中で部活仲間や新しく部活に入ってきた女の子と絆を深めながら、皆全員で頑張っていくという見る前思った通りの王道的な話。
「ふぁぁ……!」
簪の目がキラキラと輝く。
「おもしろいっ。話もいい話だし……何より戦闘シーン凄くいいね」
簪もご満悦の様子。
戦闘シーンは確かに凄い。かなり動き回り、迫力満点。
戦闘シーンだけでも充分楽しめるのは個人的にはポイント高い。
ただ……。
「……何かあった?」
楽しんでいる簪の前でこういうのもアレだが話が進めば進むほど話の端々から不安な空気を感じる。
この先嫌な展開が待ち受けていそうで怖い。
だからこそ先の展開に気にもなるわけでもあるが。
「ん~……まあ、分からなくはないけど……考えすぎじゃない……?」
かもしれない。
アニメはもっと気楽に見るべきだな。
とりあえず今日のところはこのぐらい。話数で言うと五話まででいいだろう。
結構な話数続けてみいていたから時間を日を跨いでいる。
このまま全話見るのは流石に厳しい。
「あー……そうだね、今日はこの辺で。もう寝ないと」
寝る用意を済ませると俺達二人はいつも通り一つの布団に潜る。
続きはまた明日。
「付き合ってくれるんだ」
もちろんだと頷いてみせる。
続きは気になる。簪だけ一人先に見てネタバレでもされたら嫌だ。
「しないってば。でも、明日も一緒に見れる……楽しみ。はぁ~……いいよね、あのアニメ」
部屋の明かりは消している為、ちゃんと確認はできないがあのアニメに簪が想いを馳せているのは分かる。
よっぽどあのアニメ気に入ったんだな。話もそうだが、何よりキャラ一人一人が皆いい子ばかりであの子達のやり取りは見ていて楽しい。
あの子達の中で簪が好きそうなのはやっぱり主人公であるあのピンク髪の女の子だろう。
「分かった? あの子が一番好き。どんなときでも前向きで友だち思い。まっすぐなところがあって責任感が強い。誰かの為に勇気を振り絞れて頑張れる……私はいつだったそんな人に憧れてる。私もあの子みたいになれたらなってつい思っちゃた」
憧れる気持ちは俺にもよく分かる。
ああいう人は眩しくてかっこいい。
簪だって俺からしたら彼女と同じぐらい輝いている。だからこそ、尊敬して憧れているんだ。
「ふふ、ありがとう。そういうあなたはどのキャラが好き? あっ、やっぱり待って。私にも当てさせて。えぇっと……うーん、部長かな」
見事に当てられしまった。
主人公の子も好きだが、しいて言うなら部長やってる子が好きだ。
快活な性格で部の皆を部長として、戦闘では指揮官として上手くまとめている。
何より、部の皆一人一人をしっかりと見、それぞれの良さを引き出している。
主人公もそうだが輪の中にああいう人もいると頼もしい。
「分かるな……話してると何だか余計楽しみになってきた。早く続き見たいね」
その通りだな。
明日が待ち遠しい。寝て早く明日を向かえよう。
「うん……おやすみ」
・
・
・
「早く早く……!」
簪にせかされるようにテレビの前に腰を下ろす。
約束通り、今夜もアニメの続きを見る。
「続きわくわくするねっ」
今はまだ始まったばかりだが昨日の熱はまだ冷めてないのか簪は興奮気味。
「フォロワーさんに五話まで見たって報告したら、ここからもっとおもしろくなるって言われて楽しみなの」
俺も楽しみなのだが、昨日感じていた先の展開への不安が強まっていく。
それにそういうことを言われてた時は大体……いや、とりあえず見進めていこう。
前回強敵を倒す為に開花した新たな力を使った。その疲労で主人公達は視力が下がったり、声が出なくなったり、耳が聞こえなくなったりと変調が出つつある。
それでもそんな不安を吹き飛ばすぐらい和気藹々とした雰囲気で更に絆を深めて物語は進んでいく。
だが、やはり嫌な予感は的中した。
問題の8話終盤と9話。
変調は治ると言われていたが、治ることはない。変調は強力な力を使った代償であり、それを組織の大人達は知っていて黙って使わせていた。
そして数年ほど前主人公達と同じ様に戦っていた先代が現れ、語られていく真実。という回だった。
確かにもっとおもしろくはなってきた。気になっていたことをようやく知ることは出来た。
だが、真実の衝撃があまりにも大きすぎて消化不良を起こしているみたいだ。8話までほんわかしていだけに真実が悲しく重い。
幸い主人公はそれでも戦い続けると決意しているが、当然立ち直りきっていないキャラどころか、苦しみの連鎖を断ち切る為に世界を破壊しようとするキャラまで出てきてと物語は急展開の様相を見せていく。
心へのダメージが本当にデカい。
俺でこうなのだから明るい展開を期待していた簪は……。
「……」
簪が凄い遠くを見る目を。というより、目から生気の光が消えるほどショックを受けている。
俗にいう死んだマグロのような目。
まあ、そうなるだろうな。知ってた。あれだけの期待をこういう展開で裏切られれば。
今日はこの辺りでやめたほうがいいかもしれない。このまま見続けるのは辛いだろうし、時間も時間で最後まで見てもいい時間ではない。
「……うん……そう、する……」
言葉に覇気がまったくない。
アニメを見てこんな風になる簪を見るのは初めてだ。
俺が思ってる以上にショックは大きい様子。
フラフラする簪を介抱しながら歯を磨かせ、布団の中へと入る。
「……ちょっとでいいから……ぎゅってして」
ぎゅっと簪を抱きしめる。
「ごめんなさい……アニメ一つでこんな……」
仕方ない。あの展開は流石に堪える。
「うん……しんどい……無理……でも、ちゃんと最後まで見る。ハッピーエンドに……なるよね」
分からない。
先の読めない展開ばかりだったからなあ。
だが、ハッピーエンドになってほしい。あんないい子達が悲しいままで終ってほしくない。
「そうだね……あんなに一生懸命頑張ってるんだもん……報われて、幸せになってほしい」
簪の言葉は言葉以上に切実だった。
・
・
・
そして翌日の夜。
気を取り直し、アニメを最終回まで無事見終えることができた。
「よかった……本当に」
ほっと一安心している簪。
この様子から分かるように物語のラストはハッピーエンドだった。
途中相変わらず辛い展開はありつつも、全てが解決した訳ではないがそれでもいいラストだった。
「うん、ハッピーエンドで最高だった……本当……うぅ」
な、泣いてらっしゃる。
「だってっ……! ハッピーエンドなんだよっ……戦いで終ったのに主人公は一人だけ意識が戻らなかった時はどうしようかと思ったけど、あの子の言葉で主人公が目覚めて二人がまた抱きしめあえた時は本当に感動して……本当、本当によかったよ」
涙ながらに熱弁されてしまう。
簪の気持ちは分からないことはない。頑張ったあの子達が笑顔であの結末を迎えられたのは本当によかった。
「……よし」
涙を拭って眼鏡をかけなおす簪。
気持ちはひとまず切り替えられたようだ。
最終回をやって見終わったわけだが、これで終わりだと思うと寂しいものがある。
「だね……もう一回12話見直そう」
まだ見るんだ。
いいものは何度見てもいいけども。
簪のこのハマりようからすると12話見たら、また最初から見たくなって見始めてしまいそうだ。
「それはあるかも……でも、明日からはこの作品のね、前日談に当たるお話があるらしくて進められて……それも見てから、このアニメの2期見ようと思ってるんだけど……」
てっきりこのアニメはこれで終わりだとばかり思っていた。
ちゃんと2期あるのか。それに前日談。結構なシリーズものなんだな。
「そうなの……他にも300年前、初代の人達の話を描いたのとか外伝作品もいいろいろ沢山あるらしくて……気になってるんだけど……その、よかったら一緒に……」
誘ってくれるのは嬉しいし、いろいろ気になるところもなくはない。
見てみよう。
「やったっ……ありがとう!」
そういうわけでまた見ることになったのだが。
このアニメの前日談がどういう雰囲気なのかは知ってのとおり。
見た簪がどういう反応になったのかは……言うまでもない。
…
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
それでは