簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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夜遅く簪の帰りを出迎えて

 

「ただいま」

 

 夜遅く玄関の戸が開く音と共に声が聞こえた。

 簪だ。帰ってきた。

 玄関に行き、お帰りと出迎える。

 

「ん……ただいま」

 

 出た時と変らず、眼鏡にスーツ姿の簪。

 膝丈ほどのタイトスカートから伸びるストッキングを履いた足が魅力的だ。

 今日、簪は雑誌取材を受けていた。

 だから、こんな格好をしている。

 

「んふふっ」

 

 玄関に座って靴を脱いだ簪がふにゃと柔らかく笑った。

 ああ……これは酔っ払ってる。

 取材の時間が夜だったからそのまま夕食を一緒にどうかと誘われ、お呼ばれしたと連絡があった。

 こういうのはよくある。仕事の付き合いだ。

 ただ、飲めるような歳になると進められることも多くなる。

 今夜もきっとたくさん飲まされてしまったんだろう。

 

「んー……最初はセーブしてたけどあれよあれよという間に」

 

 すぐさまその光景が目に浮かぶ。

 簪は外では気を張って飲むから酔っ払って帰れないとか言う心配はないのが安心できる。

 楯無さんは兎も角、本音とか虚さん外でも酔っ払う時は酔っ払うからな。

 この簪の様子からして帰ってきて気が緩んだみたいだ。

 

「当たり。あなたの顔見たら安心して酔い戻ってきたのかも。んふふっ」

 

 また簪はふにゃふにゃと目を細めて笑っている。

 酔いは相当のようだ。

 このまま玄関にいてもどうしようもない。風呂は沸かしてあるが、とりあえず中に。

 

「ん……」

 

 座ったまま簪がこちらに向けて両手を伸ばす。

 そういうこと。酔っ払って転けられでもしたら大変だ。

 簪に掴まってもらい部屋まで連れていくことにした。

 

「ごー、ごー」

 

 奥まで連れて行くとソファーに座らせる。そして今度は台所から水を取ると渡した。

 

「ありがと……ん、ふぅ」

 

 水を一杯飲んで簪は一息ついていた。

 これで少しは楽になるだろ。

 

「ほぁ~……」

 

 テーブルに水を置くと簪はソファーに深く腰掛けた。

 間の抜けた凄い変な声。そして、ふにゃとなってる。思わず、たれてるあのパンダを思い浮かんだ。

 おかげで玄関ではキリッとしていたスーツ姿は崩れている。まあ、これはこれでいいが。

 

 しかし、機嫌よさそうに嬉しそうな顔してる。

 今日の取材は楽しかったようだ。

 

「うん……楽しかった。黛先輩の出版社だったからね。いろいろ話聞かせてくれた……最近、オルコットさんはどうしてるのかとか」

 

 と簪は今日あったことを沢山話してくれた。

 相手が黛薫子さん。学園時代の先輩だったということもあって懐かしい名前が結構出てきた。

 そうしてゆっくりしているとしきりに簪はスーツが着苦しそうにしていた。

 

「服……脱ぎたい……」

 

 今度はそんなことを言ってきた。

 変な感じでもするんだろう。また煩わしそうにしている。

 一人ではまだ部屋までいけないだろうし、連れて行くか。

 

「や、ここがいい……あなたが脱がせて」

 

 いつものか。

 酔うと簪はさせたがりというか甘えたになる。

 いつも通り上だけ。下は自分で脱いでもらう。

 

「けち……上も下も変らないのに」

 

 簪は不服そうだが俺としては変るものは変る。

 まずはスーツを脱がして、ソファーにかけて置く。

 そして次にワイシャツのボタンに手をかける。これもだよな。

 

「ん……お願い」

 

 ぽちぽちと一つ一つボタンを外していく。

 すると段々。そしてちらりとワイシャツの隙間から下着が垣間見えた。

 

「……? んふふっ」

 

 視線を上げたとき、目と目が合いきょとんとした顔をしてから、ふにゃりと簪は笑う。

 こっちの気を知ってはいるっぽいが、相手は酔っ払い。下手なことは出来ない。

 それでもこうして見ているだけしかできないというのは何とも生殺しされている気分だった。

 

 兎も角ワイシャツのボタンは一番下まで全部開けた。

 後は脱ぐのみ。流石にこのリビングで脱がれたら風邪引くかもしれないが、これなら脱衣所に行けば簡単に脱げる。

 もうこれでいいだろう。

 

「ありがと……んっーんー……!」

 

 自分で脱ごうとしてくれたがストッキングが脱げないらしく苦戦してる。

 動き回るからワイシャツがはだけあられもない姿が余計あられもない姿になっていた。

 やっぱり手伝おうかと思った矢先。

 

「脱げない……もういいや」

 

 そう言って簪はビリビリとストッキングを破り始めた。

 しかも、結構荒い。

 いいのかそんなことして。

 

「いいの。替えならあるし大丈夫……それよりも」

 

 簪がしなだれかかってくる。

 

「ダメ、かな……?」

 

 小首をかしげるようにして見つめてくる簪。その瞳は潤んでいる。

 ここで何が、と聞くのは間抜けすぎる。言わずとも、聞かずとも分かることだ。

 何より、はだけて下着が見えている状態。そして、着崩れたスカートから覗く裂けたストッキング。

 

 その姿を見て理性は吹き飛んだ。

 先ほどまであれこれ思っていたがここまでされたら我慢する必要はない。我慢は返って毒だ。

 というかここで我慢できる自信のあるやつがいれば、そいつはもう学生時代の一夏レベルの逸材だ。

 加えてこの後簪を風呂に入れるのなら、一人で入れさせるよりも二人で入ったほうがいろいろ安心できる。

 据え膳食わぬは男の恥。

 

「ふふっ」

 

 くすりと微笑むその艶笑みはまるで悪巧みが成功したかのよう。

 簪に上手く誘導された。

 開始を告げる合図の口付け。触れ合った唇からそっと体温を分け合い、深い夜を更に深くしていった。

 




今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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