簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

91 / 127
簪からの最高の癒しを

「大丈夫……?」

 

 突然の声にビクッとなる。

 ヤバい。うつらうつらとして眠ってしまっていた。

 我に返って隣の簪を見ると申し訳にそうな顔で心配してくれている。

 

「ごめんなさい……眠いのに付き合ってもらって。凄い眠そう……やっぱり、もう寝る……?」

 

 首を横に振って断る。

 眠いのは確かだがまだ起きてられる。

 というより、起きていたい。ここ最近ずっと仕事が夜まで長引き、帰ってきても簪が寝ている頃だったりした毎日。

 顔を合わせるのも朝ぐらいで簪には寂しい思いをさせてしまった。

 折角、今日それがようやく終って早く帰ってこれ、久しぶりに二人の時間を過しているのに寝てしまうのはおしい。俺だって簪と一緒の時間を過せなくて寂しかったんだ。

 それに帰ってきて簪の料理を食べ風呂に入って安心したからとは言え、テレビを一緒に見ているのに寝てしまったのはよくない。反省しなければ。

 

「それは別にいいけど……無理だけはしないで。お仕事、大変だったんでしょ……?」

 

 まあ、大変だったがあの大変さは今まで何度も経験してきた。

 ある程度は慣れたから、今日明日と休めばこの疲れはおのずと取れるだろう。

 だから、そんな心配するものでは……と言ったところで簪は納得しない。現に今、そんな顔している。

 

「んー……あ、そうだ。じゃあ、見るのはやめて別のことしたい」

 

 別のこと……構わないがなんだろう。

 ゲームとかそういう。

 

「違う。マッサージ」

 

 今一意図が分からず首をかしげた。

 実は簪のほうが疲れていたりするのだろうか。

 

「そうじゃなくて私があなたにマッサージしてあげる。ほら……寝室行くよ」

 

 手を引かれ、有無も言わさず俺は簪に寝室へと連れて行かれた。

 

「ん」

 

 着くなりベットに寝転べと催促してくる簪。

 これはもしかしてなくても寝かせる気満々だろ。

 

「あっ、気づいた? ふ、ふ、ふ……今夜はぐっすり眠らせてあげる」

 

 どこかできたような言葉を捩った台詞。

 いかにもなわざとらしい悪い笑い方だなそれ。

 やっとくれるというならお願いしてみよう。

 

「うん、任せてっ」

 

 俺はうつ伏せになって寝転んだ。

 そしてその上に簪が跨ってきた。

 

「重くない……?」

 

 心配しているが気にはならない。

 丁度いい背中の重みが心地いいぐらいだ。

 

「よかった。じゃあ、始めるね」

 

 まず始めに簪は、指の腹で首の付け根を小さな円を描くようにグリグリと押してほぐしてくれた。

 しばらくそうしてほぐしてくれると次は肩のマッサージ。

 内側から外側に向けて三日月を描きながらスライドさせ、指や手の平全体で揉み解してくれる。

 

「よいしょっ……よいしょっ……どう、かな? 上手くできてる……?」

 

 上手いし、気持ちよくて気の抜けた返事をしてしまう。

 

「ふふっ、よかった。じゃあ……お、お客様~? 他にお辛いところはありませんか~? って、そこ笑わないのっ」

 

 軽く噴出してしまった。

 マッサージ師の真似なのは分かっているが、言い方が美容師のそれみたいでツボに入った。

 

「もうっ……んっしょ、んっしょ……っと」

 

 うつ伏で寝ているのと一定のリズムで繰り返させられる丁度いい強さのマッサージのなんだろう。

 覚めたはずの眠気が再び蘇り、またうとうとしてきた。これはヤバい。これは本当に寝かしつけられてしまう。

 

「いいよ、寝ちゃっても。今日までの疲れを取ってスッキリした気分で寝てもらうためにやってるんだから」

 

 何ていうかこうしてマッサージしてもらいながら優しい言葉を言ってもらえるだけで今日までの疲れが吹き飛んでいく。今それを凄く実感してる。

 幸せ者だ。しみじみそう感じた。

 

「大げさ……はい、おしまい。一通りすんだけどこんな感じよかった?」

 

 首の付け根から始まったマッサージは全身隅々までしてくれた。

 跨っていた簪が降りると俺は身体を起こし、グッと身体を伸ばしてリラックスする。

 マッサージ前とくらべて明らかに体が軽い。おかげさまで随分楽になった。

 

「ん……じゃあ、最後の仕上げするね」

 

 そう言って簪は乱れたベットを綺麗に整えていく。

 寝るみたいだが、仕上げとは一体。

 歯磨きなどといった寝る支度は予めテレビを見る前に済ませてあったから、すぐ寝れるには寝られるが。

 

「よしっと……布団入ろ?」

 

 枕元に眼鏡を置き先に布団へと入った簪に呼ばれ、続くように布団に入る。

 そして部屋の明かりが消された。やはり、寝る流れのようだ。

 夜ももういい時間だからそろそろ寝たほうがいいな。

 

「それもそうなんだけど……はい」

 

 ぎゅっと抱き寄せられた。

 しかも、顔は簪の胸元へと頭を抱えるようにして寄せられていた。

 必然的に鼻先に簪の優しい匂いを感じた。

 これが簪の言う最後の仕上げだということは何となく分かる。しかし、どういう意味があるのかは分からない。

 

「……え、えっと、その……ほらっ、これはアロマテラピーの一種」

 

 また取ってつけたような言い方をする。

 アラマテラピーって確か、香りを楽しみながら癒されるとかいう奴だったけか。

 

「そうそれ。後この前、ネットの記事で恋人の匂いを嗅いだり、恋人とハグするとストレスが減るって見たから……」

 

 なるほど、それで。

 確かにこれは効き目を感じる。簪の匂いに包まれて、抱きしめられている感覚が凄い癒される。

 俺からも簪を抱き寄せ、胸の谷間辺りへと更に顔を埋めた。

 

「ふふっ、よしよし。今日は本当にお疲れ様。おやすみ、ぐっすり寝てね。また明日」

 

 ああ、また明日。

 背中をぽん、ぽん、と軽く一定のリズムで擦ってくれるのと、優しい鼻歌が子守唄となって穏やかに眠りへとつく。

 

 




今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。