人でひしめく夜の改札口を抜け、家へと続く帰路に着く。
ここ最近、仕事が長引き帰夜遅い続いたが、今日は終電帰りと一際遅くなってしまった。
日付変わってしまって簪はもう先に寝ているだろう。最近ずっとそうだ。
本当は起きて帰りを待っていたかったみたいだが、無理してもらうのも悪い。眠くなったら寝ててほしい。
家に着きドアを開けてから、中へ入る。
家に着いた安堵からか、ドッと疲れが押し寄せてきた。
疲れた。けれど、夜飯は食ってきたから後は風呂に入れば寝るだけ。あと少し。
などと考えていたら、リビングのほうから足音が聞こえてきて。
「お疲れ様。お帰りなさいっ……あなた」
パジャマ姿の簪が笑顔で出迎えくれた。
驚いた。てっきり今日も寝てるものだとばかり。
「今日連勤最後の日でしょ? ここ最近はずっと先に寝ちゃってたから最後の日ぐらいは起きてちゃんとお出迎えしたしたいなぁ……って」
何だか悪いなと思う反面
こうして出迎えてもらえるのはやっぱり嬉しい。
ただこれだけで疲れが和らぐ。
「まあ、その……本当はさっきまでうとうとしちゃってて、玄関の音で起きたんだけど……」
恥ずかしそうに白状する簪に俺は苦笑いした。
「じゃあはい、スーツ貸して。お風呂、用意してあるから……夜ご飯は食べてきたんだよね。あ、お風呂上がって晩酌するなら付き合う。おつまみのリクエストあるなら作るし」
早速、簪はあれこれしてくれようとする。
嬉しいが申し訳なくもある。
今日はもう風呂上がったら寝るつもりだったし、出迎えてくれただけで充分。
「……ん、分かった……」
言葉では納得してくれたがしょんぼりされてしまった。
そんな顔されると胸が痛む。
もう先に寝てろとも言いづらい。
よし、分かった。風呂上がったら、簪には髪でも拭いてもらおう。
「っ! うんっ、任せてっ」
しょんぼりしていたのは何だったのやら。
簪は凄く嬉しそうだった。
まったく、仕方のない奴。とそんな簪に苦笑いした。
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風呂から上がって、リビングに向かう。
早く出ようと思っていたが、思った以上に疲れていたようでいつもより遅くなってしまった。
簪を待たせただろうな。
リビングを入ると簪を見つけた。
「……ん、んんっ……ん……」
ソファに座って簪がうつらうつらと眠そうにしている。
待たせてしまったからまた眠くなったんだろう。
起こすのは可哀想だがこのままにして風邪でも引いたらこともこもない。
それにソファ前のテーブルにはドライヤーと櫛が置かれてる。やる気満々だ。
とりあえず声をかけて起こす。
「あ……ごめんなさい……また寝てた……」
申し訳なさそうにしているが仕方ない。
やっぱり、先に寝たほうが。
「ううん……大丈夫。髪乾かすんでしょ……? やる」
ドライヤーをコンセントに繋いでいた。
そういうことなら、もう約束した通りに髪乾かしてもらおう。
ソファに座る簪の前、その床に腰を下ろす。
まあ、軽くサッと乾かすぐらいでいい。むしろ、全然適当でも。
「やるからにはちゃんとする。あなたは疲れてるだろうし適当にくつろいでて」
そう言って簪は髪を乾かし始めてくれた。
ドライヤーの音が聞こえ、暖かい風を感じる。
次いでそっと髪を触られた。
優しい手つき。こうやって誰かに髪を乾かしてもらうのは随分久しぶりのことで、だからなのか安心する。気持ちいい。
「ふふ、よかった。そう言って貰えるとした甲斐あるね」
と嬉しそうに言いながら簪が櫛で髪を梳き始めた。
結局、そこまでするんだ。
「もちろん。やるからにはちゃんとするって言ったでしょ」
普段、自分ではここまで丁寧にしないから凄い不思議な気分だ。
適当でいいのに。
「こうしたほうが寝癖つき難いんだよ。それにサラサラにもなるし」
簪は楽しそうだが、男の髪をサラサラにして何が楽しいんだか。
「楽しいのに……それにこうすると、ほら」
髪が梳き終わり、簪はドライヤーのスイッチを止めた。
そして次の瞬間、後ろから抱きしめられた。
というより、旋毛の辺りに顔を埋めて匂いをかがれている。
風呂上りなのが幸いだが、恥ずかしいものがなくはない。
「んふ、んふふっ」
柄にもなくだらしのない笑い声が頭の上から聞こえてくる。
幸せそうだから、振りほどくほどのことではないけどやっぱり風呂上りでもそんなに嗅がれると匂いが気になってしまう。
まあ、似たようなことまたに自分もするから強くは言えないけど。
「心配しなくてもいい匂いだよ……ん、癒される……って、私が癒されてたらダメだね」
誤魔化すように苦笑いする簪だがやっぱり疲れが抜けてないみたいだ。
それにここ数日の連勤で簪にはまた寂しい思いをさせてしまった。
ここでこのまま簪の好きにさせるのもいいが、それはそれで簪が返って気にしてしまう。今はそういう感じがする。
なので向きだけ変えさせてもらった。
「向き……? 別にいいけど……」
簪はソファに座ったままで対するこちらも床に座ったまま前から簪の腰に抱きつき、太ももの間に顔を埋めた。
瞬間、簪が身体をビクッと震わせた。嫌だったか。
「ううん……ちょっとくすぐったかっだけ。でも、どうしたの……? 突然こんな」
聞かれてしまうと答えに困る。
しいていなら、俺も癒されたくなった。
それだけのこと。
「そう……いいよ。いっぱい甘えても……よしよし、いい子いい子」
頭を撫でられる。
後、簪の声が笑ってる。
これじゃあ、まるっきり小さな子ども扱いだ。癒されるけど腑に落ちない。
そう言えば簪はいっぱい甘えてもいいといった。
証言は取った。なのでせめてもと太ももの間に埋めた顔をぐりぐりと動かした。
「きゃっ! こらっ、変なことしてないのっ。んんっ……もう、悪い子にはお仕置き」
首の後ろをくすぐられ、思わず変な声が出た。
「ふふっ、いい声。ってっ……んんっ、いつまでするの。負けないんだからっ……こしょこしょこしょ~!」
負けじと簪の太ももを顔でくすぐっていると簪も負けじとまた首の裏をくすぐってきた。
そこをくすぐられると弱い。
しかし、負けるわけにはいかないとじゃれあうと流石に疲れてきた。
何やってるんた。早く寝る予定だったのに。
「あ……そだね、髪の毛終わったしもう寝よ」
馬鹿やめて、俺達は寝室へと向かうことにした。
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布団に入って部屋の明かりを消す。
ここ最近はずっと倒れるように布団へ入っていたから、こうやってゆっくり布団に入るのは久しぶりだ。いつも以上に落ち着く。
さっきまで簪に髪を乾かして貰って、じゃれあっていたおかげなんだろう。
「余計、疲れちゃったけどね」
それを言われると弱い。
今更ではあるが、何であんな子供じみたことしたんだと思う。
疲れていると変なことをするって本当だったんだ。身をもって体験してしまった。
「でも……楽しかった」
それはについては同意見だ。
簪がそういうのならああいうのも悪くない。
「よいしょ……っと」
ふいに簪のほうへと抱き寄せられる。
そのまま胸、その谷間に顔が埋まった。
これは一体。
オマケに背中をポンポンとしていくれているが。
「別に子供扱いしてるわけじゃなくて……こうすれば安心して寝られるかなって。今週ずっと大変そうで本当に疲れてるみたいだから少しでも癒されてほしいな」
そんな気を使わなくても散々癒されてるのに。
本当に自分にはもったいない。よく出来た奥さんだ。
こうしていると妙に落ち落ち着く。
今夜はこのまま眠りたい。
「ん……よかった。いいよ……今夜はこのままで。私も癒される」
安心しきった声でそう簪は言った。
一定のリズムで背中をポンポンされてるとどんどん深い眠りに向かっていく。
本当に寝そうだ。
でも、まだ何か簪に話すべきことがあったような。話……明日のことだ。
「ん……? 明日……?」
明日は二人とも休み。
だから折角なので何処か出かけようと思っていた。
「お出かけ……? いいね……日用品結構切らしてるのあったから買わないとって思ってたところなの」
それは丁度よかった。
後買い物に行くついでと言ったらアレだがデートしたい。
「デートっ……! 行くっ」
簪の食いつきがおもしろいぐらいにいい。
ここ最近はデートも禄にできてなかったら、明日はちゃんとデートしたいと考えていた。
しっかりお洒落して、待ち合わせでもすればらしくなるだろう。
「そういうの久しぶり……というか、どうしよう」
何かあったんだろうか。
「明日あなたと久しぶりのデートだって思ったら、楽しみで眠れそうにないね」
可愛いことを言ってくれるものだ。
このテンションの高さからして、本気で楽しみにしてくれている。
嬉しい限りだ。
当然、自分も明日が楽しみ。
だからこそ、今夜はもう寝て明日に備えたい。
明日、たくさんの時間を簪と過すために。
「そうだね……早く明日しよ。おやすみなさい」
おやすみと返事を返し、俺達は寄り添いながら眠りに着いた。
…
今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません
それでは