簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と涼むひと時

 そろそろ蝉の鳴き声が聞こえてきてもおかしくないような暑さ。

 突き刺さるような日差しを背中いっぱいに浴びながら、ようやく帰宅した。

 帰宅を告げながら、リビングに向かう。小用で少し外出ただけなのに額に汗が滲んでいる。

 

「あ、おかえりなさい」

 

 リビングに入ると、そんな言葉と共に簪が出迎えてくれた。

 出かけた時と変わらず、簪は扇風機に当たりながらソファの上に寝転びスマホを弄っている。

 風邪引きそうだ。

 

「これぐらいなら平気。……それ、どうしたの?」

 

 持っていた袋に気づかれ、中の物を見せる。

 

「アイス……わっ、ありがとう。抹茶味だ」

 

 簪の分も買ってきたのでスプーンをつけて渡す。

 暑い日にはこれだ。

 手洗いを済ませると一度冷凍庫にしまった自分用のアイスを取り出し、簪の隣に座って食べ始めた。

 

「ん、んー美味しい」

 

 アイスを一口食べ、簪は幸せそうに頬を綻ばす。

 見てるこちらまで幸せになってくる笑顔だ。

 続いて自分も一口。

 まだまだ冷たく甘くて美味しい。

 

「ね、高級な味がする」

 

 二人で今食べてるのは所謂ハーゲンのアイス。

 安いアイスなら二個は買えてしまういい値段で高級と言えなくはないが、簪がそんなこと言うなんて。

 それが面白くて変な壷に入り笑ってしまった。

 

「もうっ、何で笑うの。私、そんな変なこと言った……?」

 

 変なことは言ってない。

 ただ簪もそんなことを言うぐらい、庶民感覚が身についたんだと思うとつい笑いが。

 

「庶民感覚って……私、そんなお嬢様してたつもりはなかったんだけどな」

 

 と言いつつ簪はまたアイスを一口。

 

「そっちは……コーヒーバニラ味か……」

 

 俺が食べてるのはコーヒーバニラ味のアイス。

 所謂期間限定商品。

 そうとだけあって結構美味い。

 

「……」

 

 視線を感じる。

 確かめるまでもなく簪の視線の先にあるのは俺のアイス。

 それが意味するところもまた確かめるまでもなく明白。

 一口コーヒーバニラのアイスを掬って、簪の口へと運んでやる。

 

「ん」

 

 待ってましたと言わんばかりに簪は、小さい口を開けて食べた。

 

「コーヒーの味だ。ふふっ、美味しいね」

 

 幸せそうに笑うから釣られて笑う。

 すると今度簪は自分の抹茶アイスを一口掬うと、こちらの口へと運んだ。

 

「はい、お返し。あ~ん」

 

 口を開け、アイスを頬張った。

 口の中に広まる抹茶の風味。抹茶やコーヒーバニラのような甘さ控えめは美味い。

 

「ふふっ、ここ最近一番の贅沢だ」

 

 大げさな。

 そう思いはするが、扇風機に当たりながら高いアイスを食べまったりするのは思えば、中々に贅沢だ。

 そして、そのまま食べ進めると一足先にアイスが空になった。少し食べたりない。もうちょっとだけ食べたかった。

 

「んー? ん、ちょっと待って」

 

 後少し残っているアイスをゆっくり食べる簪と目が合えば、そんなことを言ってきた。

 そして、スプーンでアイスを掬い始めた。

 もしかして、くれるのかと思ったが。

 

「あ、むっ」

 

 とそのまま簪は自分で食べてしまった。

 くれるわけじゃなかったのか。まあ、仕方ない。くれと言ったわけではないし。

 茶が欲しくなり立とうとすると簪に服の袖を掴まれ引き留められる。

 

「待って……んっ」

 

 少し顎をあげ、唇を軽くを突き出す簪。

 まるでそれは何かを催促しているかのよう。

 その意味が何なのかは分かるが本気か。

 

「んっー」

 

 急かされる。

 俺は腰を落ち着け言われるがまま、そっと口付けた。

 

「ん……ふっ、ちゅっ……」

 

 薄っすら抹茶アイスの味がする。

 そう思ったのも刹那、簪の舌が入ってきた。

 しかも、アイスのオマケ付き。

 大分溶けてはいるが今まだ形をギリギリ保っていてほんのりと冷たい。

 

「ふっ……ん、んっ……」

 

 舌と舌が絡み合い、二人の間でアイスは溶けていく。

 口の中には抹茶アイス、それから簪の味が広がった。

 冷たいものを取り込んだはずなのに、それとは裏腹に情熱の炎は燃え上がり、体は熱を帯びる。

 たまらずといった様子でいつしか簪は俺の背に腕を回して抱き着いてきていた。

 

「っふ……どう……? 美味しかったでしょ」

 

 簪は悪戯な笑みを浮かべてそう尋ねてくる。

 それはアイスが、なのか。このキスが、なのか。あるいは両方なのか。

 美味しかったのは確かだ。物足りなかった分、満足した。

 しかし、それとは別の物足りなさみたいなのが大きくなっていくが分かる。

 折角アイスで涼んだのに、これでは逆効果だ。

 

「そう……? アイスで体冷やしちゃったら元も子もないから丁度よくなったと思うんだけど」

 

 なんだそれ。

 学園時代から一緒になってもう随分長いが簪にはこういう茶目っ気が増えてきた。

 仮に丁度よくなったとして、この高ぶりはどうしてくれようか。

 

「あなたさえよかったら……買ってきてくれたこのアイスのお礼させてほしいな……なんて」

 

 そう言った簪のアイスもすっかり空っぽになっていた。

 遠慮気味であるが誘ってくれているのは分かる。

 お礼だなんて大したこともしてないが、そこまで言うのならお願いしよう。

 

「うんっ……任せてっ。あなたの高ぶり、私が責任もってすっきりさせてあげるね」

 

 と、簪が得意げに言って笑顔を見せた。

 そして、そのまま腰かけてたソファに二人でなだれ込む。

 アイスが溶けるように二人は溶けて一つ。汗と情熱が二人の時間を続けていく。

 そんな早い夏日であった。

 




今年もまたいくつか夏っぽい話が書きたい

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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