簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪は強がりが過ぎる

 

 耳を疑った。

 今、簪はなんと。

 

「だから、この映画見に行きたい。このホラー映画」

 

 指さした先ではタブレットに映し出されている映画の情報。

 聞き間違いではなかった。

 何でまたそんなものを。

 簪、ホラー得意じゃないだろうに。どころか、苦手だろ。

 

「それは……そうなんだけど……で、でもっ、本音達が面白いから是非見ろって。後、今話題作だし……」

 

 確かに最近よく聞く映画名ではある。

 この夏一番怖いとかいう評判だ。けれど、勧めてきた相手が相手だ。

 記憶違いでなければ本音もホラーだめだったような。

 本当に見たのか疑問だ。

 

「それは大丈夫。ちゃんと確認した。怖いけど面白かったって……本音以外も同じようにこと言ってたし、だから……」

 そういうことならまあ……。

 でも、一人で身に行く勇気は無いと。

 一緒に来てほしいと。

 

「……っ」

 

 コクコクと頷く簪。

 ホラー映画、そんな得意ではない。今一つ気が乗らない……。

 

「そうだ。ほら、まだまだ暑いでしょう。だから、ホラー映画見て涼しくなろ……? ね……?」

 

 簪がここまで粘るのは珍しい。

 見る気満々だ。

 ……仕方ない。見に行くか。

 

「やった……! ありがとっ……!」

 

 笑顔で喜んでいる簪とは反対に俺の不安と心配は膨らむ。

 大丈夫か……いろいろと。

 兎も角、ホラー映画を見に行くことになった。

 

 

 

 

 人達の流れに乗ってロビーへと出る。

 今しがた映画を見てきたが、話題となるだけあって凄い怖かった。

 

「ね……本当とっても怖かった」

 

 という割には簪はケロっとしてる。全然平気そうだ。

 そう言えば、見てる最中も全然平気だった。怖がってた様子なんて見てない。

 怖くはなかったのか?

 

「怖かったって。でも、まあ……って感じ。それより、次買い物でも行こ」

 

 見たかったものを見れて満足したのか、もう気持ちを切り替えてる。

 あれ見た後でもう唾のこと考えられるなんて凄いな。

 

「あ……もしかして、あなたのほうが怖すぎて動けない、とか」

 

 くすりと笑って煽ってきた。

 そんな訳ない。簪の手を取って映画館を出て買い物へと向かう。

 今の簪はいつになく強気だ。怖いと評判のホラー映画見て平気だったから変に自信ついたか。

 人前だからただの強がりかとも思ったけが今は微妙なところだった。

 

 

 

 そして、買い物をこそこそにしてから帰宅した。

 買い物の間も特に怖がっていた様子はなかった。

 仮に強がっていたとしても流石にもう今頃になったら大丈夫か。

 家の中へと上がって、買い物した荷物を置く。

 まずは手洗って着替えなければ。

 

「……ん」

 

 リビングを後にしようとした時、簪に服の裾を掴まれた。

 何かと思えば、もじもじした様子。

 察した。

 

「……き、来て……」

 

 消え入りそうな弱々しい声。

 やはり、強がりだったか。怖いなら怖いと言えばいいものを。

 

「……。は、早くっ」

 

 手を引かれ、後をついていく。

 まったく仕方ない。

 目的地に着くと外で待つ事にする。

 これなら安心するだろう。

 

「ダメ……そのまま一緒に来て」

 

 耳を疑った。

 一緒にって中に入れってことか。

 

「そう……中で一緒にいて……」

 

 困惑した。

 百歩譲って手をつないで外で待つぐらいは全然かまわないが、中に一緒はいろいろとあるだろ。いろいろと。簪も気になするはず。

 混乱していろいろと言い訳じみたことを並べてしまう。

 

「あなたならいいから……お願い……早く、もう無理っ……ッ」

 

 目じりに涙がうっすらと浮かぶ簪の辛そうな顔を見ては慌てて中に駆け込んだ。

 時間にしてそれほど長くはないはず。

 なのに映画よりも長く感じたのは気のせいであってほしい。

 手を繋いだまま外に出る。

 

「……ごめんね」

 

 いや、間に合ってよかった。

 ちょっと間でいろんなもの乗り越えた気がする。疲れや脱力感と似て異なるものを感じた。。

 でも、何というかアレだ。ある意味、今回のことで簪のことで知らないことなどなくなった。

 

「あっ……」

 

 弾んだ声。

 何で嬉しそうなんだ。

 

「ち、違うっ」

 

 怪しいな。

 それからも悲鳴を上げたり、毛布かぶったりだとかあからさまな怖がった様子は見せない。

 しかし。

 

「……っ」

 

 キョロキョロと部屋のあちこちをしきりに見渡す。

 オマケに、さっきのことで何か吹っ切れたようで近くから離れようとしない。

 離れようとしようものなら。

 

「ん……!」

 

 必死なぐらいひっつい正直腕が痛い。

 そんなに怖いのか。さっきまでは平気そうだったから後から怖くなってきた系だろう。

 怖いなら怖いって言えばいいものを。

 

「そういうのじゃ、ない……」

 

 強情だ。

 煽ってきたりした手前、今更素直になれないといったところか。

 まあ、そろそろ素直になってくっつく力を緩めてくれないといろいろ辛くなってきた。主に腕が。

 

「うっ、それは……ごめんなさい……でも、離れたらっ……!」

 

 必死だ。

 離れると言っても力を緩める程度だから大丈夫なのに。

 と言うか、一体いつから怖かったんだ。

 

「……劇場の椅子座って予告始まる前からずっと……」

 

 ほとんど最初だった。

 そこからずっと我慢していたと。

 

「だ、だってっ……」

 

 まったく仕方のない。

 けれどもう、怖がる必要はない。

 きっと今日はこのままなんだろうし。

 

「当たり前。寝る時もだけどお風呂も一緒だからね?」

 

 まったく簪は強がりが過ぎる。

 




今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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