帝都での楽しかった闘いも終えて久しぶりに穏やかな日々を過ごしていたら、
「あなたに盟主から直々の依頼です。引き受けるでしょう?」
「引き受けるも何も拒否って言う選択肢は無いんだろ。だるいけど、依頼ってのはなんなんだ?」
いつものような微笑を浮かべながら近づいてきたと思えば、何やら盟主からの依頼を引き受けて欲しいとのこと。こちらに持ってくる時点で何かが蠢くものを感じる。一応拒否することもできるが、そのようなことをした人は誰もいない。名誉なことであり、その後の褒美なるものはある意味とてつもないものを意味するからだ。ある者は組織に必要な存在として昇格する者もいた。
「因果が崩れかかっています。いいえ、もっと言えば私たちの世界と別の世界が近づきひとつになるかもしれません。そのように言えば分かりますか?」
「・・・因果ねぇ。至宝とやらは関係しているのか?」
「わかりません。しかし今のところそれに準ずるぐらいの力が確認されました。ですのでこちらもそれに対応できるあなたを送り込みたいと思っているようです。いかがですか、ほかに質問はありますか?」
「・・・それに見合っただけの力を持つ者がいるねぇ。違う世界だから分からないが、行く価値はありそうだ。分かった、盟主にも承知と伝えてくれ。あと武器は持って行っても構わないのだろう?」
虚空に手を伸ばし裂け目ができたと思えばそこから赤黒い剣が握られていた。
「それもいいですがこちらを持って行ってもらいたいのです」
と言うと背後から鉄騎隊の一人がジェラルミンケースに入れたランスを持ってきた。アイネスだったか口数が少ないが根は良いやつだ。
「これ、マスターからの差し入れ?・・・そんな感じ」
「ほぅ・・・。ランスか、それも外の
少し二人から離れて振ってみる。手に馴染むと言うか最初から自分が持ち主のようなしっくりさがあった。
「ランスの基本的な動作はわかっていますね?」
「あぁ、アンタとどれだけ死合ったと思っているんだ?突き、払い、突き上げ、そして縮地からの突きだったな」
そう言って基本動作を確認してみる。鋭く空気を切り裂くような音が聞こえ鋼の聖女とアイネスが関心したように頷いているのが視界の端にうつった。
「あと向こうに行って気をつけなきゃならんことはあるか?」
「その顔にある刺青ですが、向こうの世界に刺青と言う習慣はないようです。こちらでは普通のように受け入れられていますが、あちらでは真っ当な人とみられません。ですのでどうにかして隠す必要がありますね」
その言葉に指で顔をなぞる。そして一つ頷く。
「あぁそれなら力を解放した時にだけ出るようにして普段は見えないようにしとくか・・・。あとはそうだな、俺がこっちに帰ってくるっていう誓いのようなものになるのか・・・ほら鋼の」
右手に持っているランスが落ちないようにしながら、左手に魔剣アングバールを顕現させ消えない
「これは・・・?」
「誓いって言ったろ。俺がその・・・無事に還ってくるって言う誓い・・・と思ってくれればそれで良いし、ただ俺の勝手な押しつけになってしまうがな」
俺にそんな感情などないはずなのに、そして炎の使いのはずなのに少し頬が熱いようなきがする。それは正面に位置する鋼のも同じだったようだ。エンネアは『マスターが・・・』と小さい声で何やら呟いているが小さすぎて聞こえなかった。
「っ、それは・・・。えぇ分かりました。あなたがこちらに無事に還ってくることを願って預かっておきます。それはあなたに差し上げたものなので返す必要はありませんが、どのような強者と相対したか聞かせてくださいね」
そう言うと少し嬉しそうに魔剣を右手左手と持ち替えながら離れていった。そして残ったのは戸惑い気味の表情を浮かべるエンネアとマクバーンだけだった。
「こちらへ、どうぞ。この扉の向こう側に問題が生じた空間が広がっています。先行した人のおかげでどのような世界が広がっているか、最低限のことですが分かっています。滞在場所の近くにその人物がおりますので、その人から後のことをお聞きください」
「あぁ・・・。お前もありがとよ」
「お気になさらないでください。マスターのあのような表情を見ることができただけこちらに来たかいがあったというものです。それでは私もこれで失礼します」
一礼してからエンネアも去っていった。“立ち入り禁止”と貼られた扉をくぐると空間がねじ曲がっているのが目に見える。どうやらここから先が問題の場所らしい。そこらにあったセピスの欠片を投げ入れてみるが返ってくることは無かった。意を決して中に入る時が来た。一度振り返る。そこには誰もいないが声をかけてからその中に入ることにした。
「じゃあな行ってくるよ。アリア・・・」
「いってらっしゃい。マクバーン・・・」
時を同じくして同じような台詞を言っているのに気づいた人は誰もいなかった。マクバーンは手を混沌とした空間の中に入れてみる。だがその中がどうなっているかは分からなかった。見えないし何の音も聞こえてこないからだ。それでも空間に手を突き入れているといきなり向こうから引っ張られたような感覚を覚えた。
「っ・・・」
いきなりのことでバランスを崩しながらも踏ん張ると、いつの間にか空間を超えていたことに気づいた。そこは森の中らしくうっそうと茂った草木が足元にあった。そして中天にはクスクスと笑う少女がこちらを見ていた。
「あん?誰だあんた・・・」
敵意はなさそうなので武器は取り出さずに睨みつける。それでも笑顔を絶やさずに見ている姿に毒気を無くした。すると口を開き始めた。
「ようこそ、異世界の旅人よ。私の名前はレム。半年ぐらい前に同じ空間から来た子から聞いた通りの風貌だね」
「・・・そうか」
一気に警戒心が薄れていくのを感じた。どうやら先行した人はこのレムと言う少女と出会いそして俺の事も何かしら伝えていたのだろう。
「あなたを待っている子は向こうにいるよ。さぁいってらっしゃい、また会いましょう」
話していた時よりも薄くなりだんだんと消えていった。
「行くか・・・」
指を指して教えられた方向に行くと、どことなく見覚えのある女性がこちらを見ていた。そして小走りで駆けてきた。
「お疲れ様です。
元気でハキハキとした声と固い口調が飛び出してくる。周りに人がいなくて良かった。聞かれていたら変に注目を浴びていたと思う。
レムと呼ばれる少女と話していたところは
拠点として彼女がマクバーンに用意していたのは一軒家だった。周りに溶け込む上で拠点としては正解かもしれない。そして資金はセプチウム鉱石を売ることができたらしくそれを元に現金を作った。
「足りなくなったらセプチウム鉱石がここにあるので駅前広場の薬局で売ってください。・・・まぁそのー、怒らないでくれますか?」
「あん、なんだ?言ってみないと怒るか怒らないかは分からねぇぞ」
言いたいことは分かる。多分、薬局の人に正体について問われたのだろう。そしてそれは当たりだった。
「薬局の人にですね、私たちの事を行ってしまいました。っと誤解なさらないでください。その人もどうやら民間のレベルですが、裏の事情に詳しいらしく私たちのことについても理解を示してくださったんです」
「ほぉ~」
まぁ怒らないでおこうか。こちらに来る前に鋼のに言われたことを思い出していた。
『あなたのその無関心さとすぐに大きな声を出す癖をやめたほうがいいわ。向こうの世界は表向きは平和そのもので殺気を常時出しているあなたは異質の存在になるものね。だから少しの間でも平和を謳歌してみるのはいかがかしら?』
『あぁん?まぁ鋼のがそう言うなら努力してみるかな』
明らかにホッとした表情を浮かべるユエ。刺々しいのを緩和してみようかと思ったマクバーンだった。
「あとは・・・ですね。杜宮市には個人用情報端末としてサイフォンというのがありまして、一応マクバーン様にも使いこなして頂ければと思います。そうしないとここで生活するのが難しいと思います。どうぞ」
渡されたのは薄型のカードのようなもの。裏返してみても初めて見るものに驚きを隠せない。
「これは・・・?」
「ええっと、精密化している通信機器と思って下されば間違いありません。あとはそのサイフォンを使ってマクバーン様が活動しやすいようにしておきました。つまりこの世界には都市伝説というものがありまして、それに付け足しました!!」
サイフォンを開き都市伝説について書かれているページを開いた。すると“焔を纏った魔人”と言う項目があった。遠目でかつ人の輪郭をぼかした状態で写した写真が載せられていた。
「これは向こうで撮ったものだな。しかし良くも悪くも目を付けられるんじゃねぇか?他に手はなかったかもしれないが?」
「大丈夫です。・・・多分、きっと。サイフォンに関して詳細な点はここに書かれています。そろそろ行かなくては・・・。この世界に来てすぐに会ったと思いますがレムが今日あの空間を通らなければ次はいつ無事に通れるか見当がつかないと言っていたものですから」
「そうか。ここまで土台を据えてくれて感謝する。戻ったら鋼のによろしく伝えておいてくれ」
「はいっ、分かりました。マクバーン様もどうかご無事で。失礼します!!」
嵐のような彼女だった。見送ろうとも思ったが、結構ですと言われたのでそのままでいた。が、しばらくすると少し急ぎ気味な走ってくる音が聞こえてきた。何か伝え忘れたことでもあったのかと思った。
「一つ言い忘れていました。この杜宮市で異変を調べるのに役立つ道具がなければマクバーン様がいかに優れていてもすぐに疲れてしまうと思います。なのでこれももらいものですが、どうぞ」
ピロリンと言う音がサイフォンから聞こえてくる。見るとアイコンが一つ増えているのが確認できた。
「これは異界サーチと言うアプリ・・・つまり探すのに役立つ道具だと認識して頂ければそれでいいと思います。起動している状態で異変に近づきますと波長が出て異変を察知してくれます。その方向に進むと中心となる位置まで行くことができます。一般人には認識できませんが、裏の世界を知っている人物がいると知られてしまうかもしれませんので気をつけてください」
「まぁようするに周囲に気をつけながら異変を調査するって認識でいいな?」
「ええ、あとはマニュアルに記載されておりますのでそちらを確認してください。それでは失礼しますっ」
一度去っていって戻ってきた時と同じように元気に去っていった。
「さて杜宮市って言ったっけ。この街が一望できるところから眺めてみるのも手かな?」
マニュアルを見るとGPSなるものがありそれで行き場所を探すことも可能らしく、検索に街を一望できるところと打ち込むと出てきた。
「九重神社とアクロスタワー?タワーって言うぐらいだから高いんだろうが・・・まぁ行くか」
この男、人がたくさんいるところがあまり好きではない。だが一望出来る事やこれから調査する街のことを少しでも知ろうとする彼なりの努力かもしれない。この街で彼はどのように異変に立ち向かい少し人間性を鍛えることが出来るのだろうか。
聖女が出るのは最初で最後かも。あと鉄騎隊候補ってのもオリジナルです。主人公はマクバーンです。原作に沿いつつ語られなかったところも織り交ぜながらゆっくり書きたいと思います。