アイドルマスターシンデレラガールズ 〜錬鉄のアイドル〜   作:YT-3

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4th STEP : Ph@ntom? No No, Brownie!

「ん、んんぅ……」

 

ぼぅ、と体の芯から徐々に感覚が繋がる感じと共に、眠りから覚める。

まだ目元に眠気を残しながら、パタパタと手を伸ばして枕元のスマホを探す。コツ、と指先とプラスチックが当たった音がし、寝ぼけたままにそれを掴んでボタンを押した。

 

「……5時、50分……」

 

ロック画面に表示された時間は、二度寝するには十分すぎる。じゃあ、ともう一度夢の世界へ行こうとしたのだが、降って湧いた疑問が体から離れる魂を引き戻した。

 

(なんでこんな時間に目が覚めたんだろ……)

 

全く自慢にならないが、自分は夜型で、こんな時間に起きることなんてほとんどない。引っ越したばかりで緊張しちゃった? いや、それなら昨日のパーティーの方が疲れたんだから余計ぐっすりだと思う。

とかなんとか考えてたら、目が冴えてきてしまった。しょうがない、と体を起こしてあくびを一つ。

 

「ふぁ……」

 

少し涙がにじむ目には、私の個室になったばかりの見慣れない部屋。まだ荷物をほとんど解いてないから、見えるのは備え付けのエアコンとテレビだけ。

うーん、この時間でも朝日が差してるのは変、かなぁ。実家だと6時ごろに日の出……だったはず、たぶん。その時間に起きたことなんてほとんどないから分かんないけど。

 

「……あれ?」

 

そこで気がついた。か、影がある!?人みたいな、しかも動いてるぅ!?

こ、ここここここ3階だよねっ!?ままままさか、ゆゆ幽霊なんてこここことは……っ!

だだ大丈夫!お外あかるいもん!鳥さんか何かだよきっと!

 

「————」

 

恐る恐ると窓の方へと振り返る。そこに居たのは——

 

 

 

 

 

『〜〜♪……む、すまない起こしたか?音を立てずにやったつもりだったんだが……』

 

何もない外壁に張り付き、妙に爽やかな笑顔でトンカチを握る、イリヤちゃんだった。

 

「ひ、ひゃあぁぁぁぁああああっ!!??」

 

 

* * *

 

 

「まったくもう、あなた自分が何をしたのか分かってるのですか。修理をするのは問題ない……いえ、ロープ一本なのに安全管理もせずにやるのは大問題ですが、そうではなく。やるにしても、他の人に一声かけてから、十分に安全を配慮した上で昼間に行うとかですね——」

「は、ハイ。申し訳ないと思っております」

 

食堂手前の談話室にて、朝から俺は謝り倒していた。

腰に手を当て、怒っているこの人はこの女子寮の寮母さん。中年に差し掛かったばかりらしいが、そうとは見えない若々しい外見を、今は般若の仮面で歪ませている。

その後ろには少し顔の赤い神崎がオロオロとしていて、さらに周りには神崎の悲鳴で飛び起きた何人かのアイドル達が興味半分同情半分の顔でこちらを見ている。

 

「……入居初日から一体何したのにゃ、イリヤちゃん」

 

と丁度起きてきたのか、前川が白い目を向けながらこちらへ歩いてきた。表情には、『同じプロジェクトのメンバーじゃなかったらスルーしたのにー!』という内面がありありと書かれている。すまん。

寮母さんへ目を向けると、とりあえず説明ぐらいはさせてくれるみたいなので、正座の体勢を崩さず前川を見上げながら説明し始める。

 

「いや、いつも通りの時間に目が覚めたものの、実家と違ってやることがほとんどなくてな。何かないかと探し始めたんだが、掃除は行き届いてるし、朝ご飯の下拵えも終わっているときて、本格的に手持ち無沙汰になったわけだ」

「……イリヤちゃんって、ワーカーホリックなの?」

「よく言われるが、違うぞ。やることがないから何もしない、というのが性分ではないだけだ」

「人はそれをワーカーホリックというのにゃーっ!!」

 

む、失敬な。私のは半分趣味だ趣味。女子力が高すぎるらしく10歳にして『オカン』の渾名を貰うぐらいには染み付いてしまってるが。

 

「それで、ちょうど窓から見えた枝が伸び放題になっていた木を見つけたから、剪定(せんてい)したりして時間をつぶしていたんだが——」

「「ちょっと待つにゃ(待ってください)」」

 

話を再開したばかりというのに、今度は前川だけでなく寮母さんにも止められた。というか周りのアイドルからくる視線も驚愕のものに変わっている。何故だ?

 

「えーと、まず聞きたいんだけど、枝を切った木って、あそこの妙に綺麗な木のこと?」

「そうだが……ふむ、こう見ると一本だけというのも不自然だな。よし、今から切りに——」

「行かせないよ!」

 

チィ、自然な感じで逃げようと思ったが失敗したか。この体は西洋人ベースで正座は苦手なのだが……はい、座りますからどうか目を優しくしてください寮母様。

 

「ひとつお聞きしてもよろしいですか?」

「何でしょう?」

「この寮には、あの高さの木を剪定出来るようなハシゴも、高枝切り(ばさみ)もありません。普段は業者に発注していましたから。……それを、衛宮さんはどうやって整えたのですか?」

 

寮母さんが浮かべているのは、笑顔なのに笑顔じゃない、エミヤシロウにとってあかいあくまのトラウマを呼び起こしそうなエガオ。

当然、俺にはそれに逆らうという発想すら浮かばず(そんなものは教育的指導(ガンド)で燃えるゴミにされた)、冷や汗をかきながらそれに答える。

 

「どうやって、って普通に自前の高枝切り鋏で切ったり、届かなそうなところは登って直接……」

「自前の!?なんで自前の鋏なんて持ってるにゃ!?」

「なんで、と言われても便利だからとしか……」

 

もちろん投影品だが。いや、届かないところの配線を切断したりするときに便利なんだぞ、あれ。そのうち矢でぶった切る方が楽なことに気付いて使うタイミングはめっきり減ったが。

 

「はぁ。高枝切り鋏を持ってることは別にどうでもいいですが」

「いいんだ!?明らかにJKが持ってたらおかしいものだけどいいんだ!?」

「アイドルとはそういうものです。家に猛獣含む動物を大量に飼っていたり、あるいは流星を降らせたりするのに比べればどうってことはありません」

「アイドルって、アイドルってなんなのにゃ……」

 

前川が頭を抱えて蹲る。そこにショートヘアのダボっとした袖の少女……たしか白坂小梅だったか?がやってきて、「ようこそ、私たちの世界へ……」とか声をかけてる。

……そんなに非常識が跋扈しているのか、アイドル業界とは?

 

「まあそれはそれとして……私が何に怒っているか、分かってますよね?」

「ヒィっ!は、ハイもちろんです!……枝を切りすぎたから、でしょうか……?」

「ろくな安全対策もせずに木に登ったりするからです!怪我でもしたらどうするのですか!?」

「いや、十数メートルから落ちた程度で怪我はしないのですが……」

「イリヤちゃんも十分非常識だったにゃぁ……」

 

というか、元とはいえ英霊が、その程度の高さから落ちただけで怪我をするようでは話にならない。いざとなればライダーの鎖剣でも投影して枝に巻きつければいいだけだ。

 

「はぁ……では、屋上からロープ一本でぶら下がり、踊り場の窓を外から直したのも、あなたなりの安全管理に基づいたものだったと?」

 

ああ、元はそういう話だったな。

それは枝を切り落としている最中、何気なく寮の方を見たところ、階段踊り場にある窓が壊れているのが目に付いたのだ。終わってから近づいたところ、内側の見た目に大きな変化はないために見落とされていたものと思われた。

とはいえ、急ぐほどのことでもなく、せいぜいもの凄く開けづらくなる程度だったのだが……暇の神が降りてきていた私は、嬉々として修理へ向かったのだった。

 

「えーと、はい。あれは中からでは直せそうもなかったので。別にあそこまで登るだけだったら、外壁でも蹴り上げれば余裕なのですが——」

「イリヤちゃんがまたおかしなこと言ってるにゃ……」

「余裕なのですが!それだと作業がしづらいのでロープで懸垂しながらやってました。音は立てないよう配慮したつもりなのですが、振動のことはうっかり……」

 

むぅ、我ながら情けない。トオサカの呪いでも移ったか?

 

「で、結果として神崎さんの部屋を覗き込む形になり、幽霊と勘違いした神崎さんが悲鳴を上げたと」

「あ、あの、(すみません)……」

 

本気で恥ずかしいのか、あるいは罪悪感に苛まれているのか。神崎も普段の難解不解な言葉遣いでなくしっかりとした日本語で謝って頭を下げた。

 

「いえいえ、神崎さんが謝ることはありません。衛宮さんにはあっても、あなたに非はありませんから」

 

この場にいるアイドルも同じ気持ちなのか、笑顔で手を振ったりして怒ってないことをアピールしている。

ついでに私に向けて、「被害者の神崎さんが謝ったんだから、次は分かってるよね?」という目を向けてきた。

 

「あー、私も申し訳なく思っている。私は自分が出来るという判断をして行動したんだが……他人から見た目線というものを考慮していなかった」

「本当ですよ。いいですか、あなたはアイドルになったのです。アイドルとは公人、社会に影響力を持つ人です。力を持つということは、それが例えどのような力であれ、自らの行動に責任を持つということなのです」

 

力を持つ者は与える者であり、そうであるからには自らの行いに責任を持つ義務がある。

それは、魔術師遠坂の家訓である『魔術師たる者、常に優雅たれ』の基盤となった貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)と同じものだ。そして、掠れ去るほど昔の俺が、遠坂に叩き込まれた一つでもある。

……俺は、長い戦いの中でそんなことすら忘れていたのか。これは、遠坂に怒られるな……。

 

「あなたはまだ無名ですが、今後有名になったとき、あなたが問題を起こせば瞬く間に社会全体に知れ渡り、あなたと同じグループ、ひいては346にもあなたと関わってきた会社にも害が及ぶことを認識してください。あなたが今ここにいるのは、あなただけの責任ではないことを」

「……ああ」

 

単独行動は弓兵の常とはいえ……今の私は弓兵(アーチャー)ではなく偶像(アイドル)だ。自分一人の勝手な行動が仲間に与える影響というのも、考えなくてはいけないな。

 

「さて、反省もしているようですし、今回はここまでとします。罰として衛宮さんは今後1週間、寮のトイレ掃除をお願いします」

「「「えっ」」」

 

私だけでなく、前川も神崎も同時に声を上げた。

 

「? どうしたのです?」

「えーと、多分それじゃイリヤちゃんにとってはご褒美なんじゃ……」

「くくっ、白き雪の精は俗人の営みへと手を貸すのが悦楽なりて、左様な事を封印せし運命(さだめ)こそが何よりの苦難とならん」

「は、はぁ。つまり、衛宮さんは家事全般をするのが趣味だから罰にならない。むしろそれを禁止することの方が罰になるのですか?」

「なっ——!」

 

寮母さんが神崎の言葉を分かったことよりも、その内容に戦慄した。だ、誰だそんな恐ろしいことを思いつくのは——!

 

「……その顔を見る限り本当らしいですね。では先ほどのは撤回し、衛宮さんには1週間の家事禁止をもって罰とします。異論はありませんね?」

「な、な、ななな」

 

ニッコリと、笑顔で死刑宣告をする寮母さんと、その後ろで申し訳なさそうにする神崎たち。周りのアイドルは何が可笑しかったのか皆して笑っている。

パクパクと動くばかりだった口を天に向け、天に向かって絶叫した!

 

 

「なんでさーーーーっっ!!!!」

 

 

* * *

 

 

こうして、女子寮に起きた騒動は幕を閉じた。

その後1週間の間、イリヤの顔から艶が消え失せ、目がどんよりと曇っていたというが、自業自得なので割愛する。




今日の蘭子語辞典

「くくっ、白き雪の精は俗人の営みへと手を貸すのが悦楽なりて、左様な事を封印せし運命(さだめ)こそが何よりの苦難とならん」
→「イリヤちゃんは家事をするの大好きだから、そっちを禁止した方が罰になるかも」

* * *

半日遅れました。理由は活動報告にて。

エミヤスフィールが寮母さんにタジタジで素が見え隠れしてますが、こういう『母親のような年上の女性に叱られる』ことに耐性がないからです。

次回投稿予定:8月6日AM0:00
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