アイドルマスターシンデレラガールズ 〜錬鉄のアイドル〜   作:YT-3

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5th STEP : Lesson1≪Voc@l ≫

「申し訳ありません、少々遅れました……はい、みなさんお揃いですね」

 

早朝のドタバタから数時間後。ぐだぐだ〜と虚ろな瞳で空を見上げて待っていたら、会議で遅れていたプロデューサーが扉から入ってきた。

「明日は、この部屋(プロジェクトルーム)に10時集合でお願いします」とプロデューサーに言われた通り、シンデレラプロジェクトのメンバーが勢ぞろいしている。

 

「……衛宮さんは、どうされたのですか?」

「えーと、じつは……」

 

前川が何かプロデューサーに言っていて、朝の顛末をすでに聞いている他のメンバーは苦笑している雰囲気だが、正直気にかける余裕もない。生き甲斐の8割を奪われた気分だ。

寮母よ……執事(バトラー)から家事全般をのぞいたら何が残るというのだ……!

 

「そうだったのですか」

「我らが居城に降臨せし時より変わらぬ様子よ」

「なんだかイリヤちゃんがイリヤちゃんじゃないみたい……」

 

赤城に心配そうな目で見られているが、とにかく今はやる気が出てこない。これではダメだと分かってはいるが、あの『罰』は下手な精神干渉宝具よりも強いダメージがあって中々立ち直れそうにもないのだ。……仕方ないか。

 

「衛宮さん、その……」

「ああプロデューサー、13秒待ってくれ。()()でどうにかする」

「槍!?ううん旗!?」

「どこから取り出したの!?」

 

何か騒然としだしたが、それも致し方ないか。贋作とはいえ聖女の持つ宝具だ、騒ぎにならん方がおかしい。……聖女という割には、ぶん回して敵を殴ってた"経験"が多い気もするが。

 

「主の御技をここに……我が旗よ、我が同胞を守りたまえ——」

「ちょ!? ストップ、ストップにゃ!?」

「なんでか余計イリヤちゃんが動かなくなる気がするんだけど!?」

 

む、失敬な。万全の真名解放をすれば状態異常からの回復も出来る宝具なんだぞ。本来(むかし)の自分と比べて魔力も充実してることだし、真名解放ぐらいならどうってことはない。

 

「エミヤさん、落ち着いてください。ここは女子寮ではありません」

「? どうしたのプロデューサー?」

 

城ヶ崎が首を傾げるが、私を含め他の皆も内心は同じだった。ここがプロジェクトルームで、女子寮じゃないことなんて誰だって分かる。

 

「いえ、その……」

 

プロデューサーが言葉を詰まらせ、首を掻く。なんとなくだが、誤魔化したり適当に言ったわけではなく、上手い言葉が出てこないだけだと思った。

私も考えてみる。ここが女子寮ではないとして、何か変わるのだろうか。広さ、顔ぶれ、使用目的・設備、いや責任者……?

 

「そうか……!」

「なにか分かったのですか?」

「ここは女子寮じゃなく、寮母の命令系統には含まれてない。つまり——」

「ここならイリヤちゃんが家事できる……?」

 

弱体解除——!

 

「ありがとうプロデューサー!よし!そうと分かれば今からでも……」

「いえ、その、今からは……」

 

む、そうか。先にプロジェクトの予定を終わらせなければならないか。

 

「ああ、すまない。残念だが……非常に残念だが!先にそちらを片付けよう。皆も心配かけたな」

「うん、それはいいんだけど……」

「急に元気になったね……」

「ふふ……なに、終わった後ならばこの部屋を掃除し尽くしてしまってもいいのだろう?」

 

さあ、まずはどこから手を付けようか。最初はオーソドックスに天井からか、はたまた昨日つかったキッチン周りか……。窓についている虫がぶつかった跡も気になるし、ふふふ、腕が鳴る……!

 

「うぇー。仕事を奪われて気力をなくして、仕事がある方がやる気満々って、杏には信じられないなぁ。楽できるなら楽したいっしょ、やっぱ」

「うーん、それは人それぞれだと思うけど……」

 

双葉はコッチをUMAでも見付けたかのような目で見てるし、表情は苦笑だが新田も似たような感想らしい。

が、今の私には関係ない! さっさと仕事を終わらせて掃除をしてやる——!

 

「では、予定を伝えます。本日は午前中にボーカルレッスン、午後にダンスレッスンを行います」

「おおっ、アイドルっぽいにゃ!」

「あれー?写真はいいの? えーと、石鹸だっけ?」

「宣材写真ですね。そちらは残り3名が合流後、各々のプロデュース方針が決まってからになります」

 

ふむ、なるほど。今日のところは実力や得意不得意を見るのに徹して、今後の指導方針を固めるわけか。それが一番効率はいいか。

 

「では、移動するのでついてきてください」

 

 

* * *

 

 

空気が重い。

 

「えーと……」

「その、ロックじゃないけど、上手いんじゃないかな!?」

 

やめてくれ多田、今は慰めが辛い。ほら見ろ、トレーナーの青木さんはおろかプロデューサーまでポカンとしてるだろ。

 

「確かに、なんでもいいから歌ってくれって、トレーナーさんは言ってたけど……」

 

こんな空気だと言うのに「なんでさ」と言う気にもならない。理由なんてわかりきってるのだから。

 

 

『あの流れで魔法少女はない』(意訳含む)

 

 

選曲を間違えた。ただそれだけだ。

 

「ああそうさ、空気読めなかったさ!アイドルソングなんてほとんど知らないから流れをぶった切って魔法少女を歌うしかなかったんだよ!」

 

おそらくアイドルが好きでアイドルになりたいと願った他の皆には悪いが、私はアイドルにそこまで詳しくない。テレビによく映るグループぐらいは知っているが、曲を歌えるほどではないのだ。

それに対し魔法少女モノは、幼い頃から繰り返し観ていて曲も歌えた。さらにその前は戦隊モノやライダーの方が多かったのだが、「女の子なんだからせめてこっちにしなさい」との説得により魔法少女に転向した経歴がある。リズも好きだったしな。

 

「すみません衛宮さん、他になにかありませんか?」

「上手なことには上手なんですが、すこし予想外だったので……」

「ふむ、もう少しメジャーな方がいいですか?」

「はい。アイドルソングじゃなくて洋楽とかでもいいですよ。魔法少女でも……大丈夫です」

 

むぅ、その様子だとあまり良くはなさそうだな。

しかし、魔法少女以外となると……流行りの歌なんてほとんど知らないし……。

 

「では、ドイツの民謡ですけど——」

 

胸に手を当て、静かに歌い出す。

いま歌っているこの歌は、おそらく(イリヤ)という見た目に最も合ってるのだろう。皆も見惚れるように動きを止めているし、昔の()()もそれは同じだった。

 

「——。ふぅ、こんなところです」

「今のは、ローレライですね」

「昔、まだドイツに住んでた頃に母から教わりました」

 

あの、姉であり妹である雪の少女も、同じだったのだろうか。磨耗して無くしてしまった日常(きおく)にあるのか、あるいは聞いたことすらないのか。

今の私には、もう分からないが。

 

「うん、衛宮さんは歌の方は大丈夫でしょう。特別飛び抜けているとは言えませんけど」

「分かりました。ではそれを元に検討します」

「はい。じゃあ次、神崎さん」

「は、はいっ!?」

 

ここまで話題に加わらず隅っこの方でわたわたしていた神崎が呼ばれ、私はようやく一息つけた。

はあ。最初からこの調子で、次はどうなることやら……。




今日の蘭子語辞典

「我らが居城に降臨せし時より変わらぬ様子よ」
→「私たちが来た時からこうなんです……」

* * *

ちなみにエミヤスフィールが投影した旗の宝具()のランクはA-です。A()-()です。

今後はFGO×シンフォギアが完結するまで隔週日曜AM0:00に投稿します。
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