貴女の笑顔のために   作:さぶだっしゅ

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さくせんぜんや

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、そんなことがねぇ…」

「えぇ…こっちも色々大変だったのよ…」

 

朝食を済ませた所で、今後どうするかという話をすることになった。

今の話を聞く限り、できるだけ早く戻ったほうが良さそうだ。

 

特に、由紀の幼児退行がどういう方向に影響するかが全く読めない。

しかもめぐねえの離脱が重なってしまった。

下手すると、由紀の精神が崩壊…なんて結果になることも有り得る。

残りの2人も精神に影響が出てる可能性もありそうだ。

一刻の猶予も残されていない状況だった。

そのことはめぐねえも重々承知していたようで、俺の提案を推してくれた。

 

しかし、戻ると言うのは簡単だが、その道のりは厳しいものだ。

雨の日に突破されたらしいバリケードの修復が何処まで終わっているのか分からないが、少なくとも階を1つ以上は上がらなければならない。

奴らとの遭遇は必至だ。

 

俺だけならどうとでもなるが、めぐねえがどの程度動けるのか分からない。

確か、体育祭の教師対抗リレーか何かでは、決して良いとは言えない結果だったと思ったが…

しょうがない。めぐねえには刺股を使って、逃げに徹してもらおう。

 

「さて、後は戻る時間帯を決めるわけだが…」

「昼でも夜でも、動き方はそんなに変わらないのよね…」

 

めぐねえの言う通り、よくゲームにありがちな「日光に弱いから昼は活発に動かない」とか、そんな都合のいい話は無い。

昼でも夜でも、結局出会ってしまうリスクは変わらないのだ。

だったら、遠くまで見通せる昼のほうが良いんだが…

アイツらも、夜には視界が悪くなるっていう可能性もある。

そこは調べる必要があるな。

実験の結果次第では、夜に移動したほうが効率がいいわけだし。

 

その旨を伝えると、めぐねえも納得してくれた。

ここでアイツらの情報が分かれば今後も役に立つ。

そのために1日空けてしまうが、今回ばかりはしょうがないか。

 

 

さて、やることも決まったことだし、出発の準備をしておこう。

とりあえず、いくつか簡単な食料品と…

衣服も少しはないとな。

そんな調子で思いつく限りバッグに詰めていったが、大した荷物にはならなかった。

元々所有物が多くないから当然なんだが。

 

ここで、1つ問題が起きた。

 

「めぐねえ、学園生活部って何人だ?」

「えっと…私と風間くんを入れて5人よ」

「5人か…」

 

なるほど…

いま悩んでいるのは、このウイルスへの特効薬であろう薬を持っていくか否かだ。

薬の残量は2本しか無い。

もし全員が感染しても、2人しか助からないのだ。

その2本は確実に取り合いになることだろう。

そんな身内同士で潰し合うなんて結末は考えたくなかったが、可能性はゼロとはいえない。

それに、こんな薬を持っていけば不安を助長するのが目に見えている。

なら、これはここに置いていくのが得策だろう。

それなら、争いにならないはずだ。

 

めぐねえに相談するか迷ったが、めぐねえがこの事件を何処まで知ってるのか分からない。

何か、この事件に関する徹底的な証拠を見つけたら話すことにしておこうか。

 

さて、目の前の問題を解決したのになにか引っかかる…なんだ…?

あ、そういえば…

 

「俺以外の4人って、全員女じゃね?」

「え、えぇ…そういえばそうね…」

「すごく肩身が狭い思いしそうだな…」

「だ、大丈夫よ!みんないい子だから!」

 

別に最低限の生活が送れるなら環境はどうでもいいか。

めぐねえの話を聞く限りでは、購買とかで食料を回収できるようだし、俺がみんなの食料を減らして足を引っ張る事はすぐにはなさそうだ。

 

それに、全員と多少は面識があるのは助かった。

由紀は同じクラスだし、悠里は去年同じクラスだった。

エビちゃんは、時々陸上部に行って一緒にタイム測ったりしたこともあるし、少しは話せる。

こんな緊急事態の中ならどんな相手でも問題はないと思うが。

まぁ知ってるに越したことはないか。

 

俺の見当違いな疑問で少しは空気が和やかになった気がする。

なんか知らないけど、めぐねえが俺の顔見て何か思いつめた表情してたしな。

多分、生徒とはいえ男と2人で密室なんて環境に緊張してるんだろう。

残念ながら、こんな環境では性欲も全く無いから問題ないんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は移り、夜になった。

昼間に俺の提案した実験を行うために、1階の廊下で待機している。

実験の内容は実にシンプルだ。

アイツらが動くのを見計らって、わざと視界に入るように移動するだけ。

もし夜目が効くなら、迷わずにこちらへと向かってくるだろう。

そうだった場合の危険性も考えて、しっかりと武装してある。

 

ふと、目の端に動くものがあった。

まぁ、アイツら以外にありえないのだが。

普段よりも警戒心を強くして、移動を始める。

顔の向きは正確には見えないが、恐らく視界に入るであろう角度に入る。

一歩間違えれば襲われる可能性があるのに、何故か心は穏やかなままだった。

あまり認めたくはないが、この環境にもだいぶ適応してしまったらしい。

警戒心がみるみるうちに解けていくのが分かるが、問題無いだろう。

 

昼間なら気付かれているであろう距離まで近づいても、アイツらは反応しなかった。

つまり、大当たりだ。

脳の何処かに生前の記憶が残っていたのは分かっていたが、こんなとこまで生前と同じとは。

案外、人間からそこまで大きな変化はしていないのかも知れない。

 

とにかく、移動するなら夜のほうが良いというのが分かった。

これは大きな収穫だ。

俺としては、このまま戻って上に向かっても良かったんだが、めぐねえに休むよう言われたので作戦決行は明日に持ち越しとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くるみちゃん、雨だよ」

「ほんとか?」

「うん。運動部が雨宿りしてるもん」

 

あー、また雨かよ…

最近、かなり多いよな。

まぁ梅雨の時期だからしょうがないといえばしょうがないんだけど、どうしても気分が沈んじまうよなぁ。

ゆきはこんな天気も楽しめるらしいけど、あたしには無理だな。

元陸上部だから、雨だと練習ができなかったのも関係有るのかもしんないなぁ。

他にも、服は濡れるし、傘持ってかなきゃいけないし、洗濯物も…

って、洗濯物干したままじゃねーか!

 

「おい、ゆき!」

「うん!洗濯物干しっぱなしだよね!?」

「さっさと取りに行くぞ!」

 

 

 

 

 

「りーさん、洗濯物は!?」

「あ、丁度良かったわ。手伝ってくれる?」

「おす」

「うん!」

 

良かった、間に合ったみたいだな。

あの濡れた服を着る感じは、どーもダメなんだよなぁ…

慣れろって言われてもやりたくないね。

って、そんなのはどうでもいいか。

早くしないと濡れちまう…

 

「くるみちゃん!みてみて!」

「ん?」

「ほらほら、ボイン!」

「小学生か、お前は」

 

なんだよ…

なんか大事な用かと思ったら、りーさんのブラで遊んでただけかよ。

まぁゆきらしいって言えばゆきらしいんだけど。

 

「もう!遊ばないの!」

「えー」

 

おぉ、りーさんが珍しく顔を赤くしてる。

普段から頼れるお姉さんキャラだから、こういうのは珍しいな。

でも、あれはあたしのでやられても恥ずかしいわ…

もしここに男がいたらどーすんだよ。

今は居ないから考えるだけ無駄なんだけどさ。

 

 

 

 

 

「あーあ、今日も昼飯はビスケットかぁ」

「こう雨が続くと、節電しないといけないわね…」

 

りーさんの言う通り、こう雨が続くと電気も使えなくなる。

というのも、ここの電気はほとんどが太陽光に依存してるからだ。

電気ってのは、無くなってからその偉大さに気付くもんだなぁ。

 

「あー、りーさんの手料理食べたいなぁ…」

「ごめんなさいね、今日は停電だから…」

「私は停電好きだけどなー。なんかわくわくしない?」

 

コイツは本当に脳天気だなぁ…

その能天気っぷりであの雲も払ってくれればいいのに…

 

「ウチのシャワー、電熱式だぞ?」

「え!?」

「お湯が出ないから、今日はシャワーは無理ね…」

「はぅ…」

 

おいおい、凹むの早いな。

こういうのは今回が初めてじゃないから、もうあたしは割りきったけど。

でも、女としては毎日風呂に入りて―よなぁ。

 

「おーい、ゆき?大丈夫か?」

「そうだ!キャンプだよ!」

「「キャンプ?」」

「そう!遠足とかでキャンプするでしょ?私たちは学園生活部だから、学校でキャンプしようよ!」

 

ゆきの切り替えの速さはいつ見てもすごいな…

まぁその速さのおかげで助かってるところもあるんだけどな。

よく考えたら、キャンプってのは電気を使わないでやるものだ。

ある意味、理にかなってるのかも知れないな。

 

「キャンプは良いけど、テントあったか?」

「確か部室にあったはずよ。あれなら3人は入れるわ」

 

そういえば、何故か購買部に置いてあったんだっけ。

この学校の購買部は何処を目指してたんだか…

 

「だ、だいじょうぶだよ!詰めればめぐねえも入れるよ!」

 

…!

りーさん、さっきのは失言だったな。

完全に油断してた…。

めぐねえがいる前提で話すのにも慣れてきたつもりだけど、こういうちょっとしたミスは無くせそうにない。

あたしも気をつけねーとな。

 

「す、すいません!そんなつもりじゃ…」

 

りーさんの言葉にめぐねえがどんな言葉を返したのか分かんないけど、ゆきの顔が笑顔になったのを見ると大丈夫だったぽいな。

…ふー、心臓に悪いな。

 

「めぐねえ、いつもお疲れさま!」

 

…何だかなぁ

ゆきの満面の笑顔を見てると、本当にそこにめぐねえが居るんじゃないかって気持ちになる。

ほんと、ゆきには敵わないな…

 

「いつもお疲れさん、めぐねえ」

 

そこにめぐねえは居ないはずなのに、何故かめぐねえにその言葉が届いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へくちっ」

「ん?めぐねえ風邪か?」

「ううん、そんな感じじゃないんだけど…へくちっ」

「おいおい、大丈夫かよ…。…そういえば、噂されるとくしゃみが出るって言うけど、くしゃみが2回の時は悪い噂かバカにされた時らしいね」

「えぇ!?じゃあ私、誰かに…へくちっ」

「良かったな、3回になったじゃん。」

「さ、3回になるとどんな噂なの…?」

「ないしょ」

「えー!?」

 

 

 

 

 

 




ちなみに、くしゃみ1回は批判か褒められた時
3回は誰かに好意を持たれている時だそうです。
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