みなさま、本当にありがとうございます
人間の最大の敵はなんだろう?
ありきたりな質問だけど、未だに正確な答えは出ていない、答えのない質問の1つだ。
でも、私はその答えがなんなのかをこの数日で理解できた気がする。
結論から言えば、人間の最大の敵は”孤独 ”だと思う。
人は言葉という道具を発明し、他者とのコミュニケーションを取ることで他の霊長類には見られない進化を遂げてきた。
ならば、そのコミュニケーションを取る相手が居ないならどうなるのか?
今まではそんな状況を想像したこともなかった。
学校には友人や教師が居て、家に帰れば家族が居て、外に出かければ嫌というほど人が溢れかえっている。
でも、今はどうだ。
家族は安否不明、数日前までは居た友人も何処かへと行ってしまった。
この状況で外に出るなど論外だ。
数畳の狭さしか無いこの空間で完結される生活を初めて早数週。
試しにとってみた英語の小説「THE STAND」は今の状況をまるで再現したかのような内容だ。
選ぶ小説を間違えたと初めは後悔したものだが、割りきってしまえば問題なかった。
意味があるのか分からない、かつて学校で行っていたルーティンを繰り返すだけの日々。
教師は外の本屋から手に入れた参考書。
生徒は当然私だけ。
彼女は「生きていればそれでいいのか」と言った。
私は答えることが出来なかった。
頭の中では「いいわけがない」と感じていた。
しかし、外に出て行ったらどうなるか、その恐怖が勝ってしまったのだ。
あの時彼女についていったらどうなっていたのだろうか。
状況は変わっていただろうか。
彼女は無事に何処かへと逃げ出すことが出来たのだろうか。
…考えてもしょうがない。
私に出来るのは耐えるだけ。
この閉じられた空間でただ耐えることだけが、私に出来る行為なのだ。
私は、負けない。
「ねえ明くん、運転は出来るかしら?」
「何だめぐねえ、藪から棒に」
「実は…」
「ゆきちゃん、朝からご機嫌ね?」
「うん、すごいこと思いついたからね!」
「ああ、昨日の夜思いついたって言ってたやつか」
昨日の夜?
別の部屋で寝てたから知らないけれど、何かあったのかしら…
夜の見回りも一応してるんだけど、私が来るとすぐ寝たふりしちゃうのよねぇ…
明くんは本当に寝てるみたいだけど。
修学旅行の見回りを思い出すわね。
とにかく、ゆきちゃんの話を聞いてみましょうか。
「学園生活部で遠足に行こう!」
「遠足?」
「そろそろ遠足の時期じゃない?」
「そういやそうだな」
流石ゆきちゃん、学校行事は全部カンペキに覚えてるのね。
その調子で漢字も覚えてくれるといいんだけど…
「でもゆきちゃん?学園生活部なんだから、学校の外に出るのは…」
「ふふん、甘いねめぐねえ。遠足は学校行事!だから、学校の外に出たことにならない!」
「えっ」
そ、そうなのかしら。
でもそう言われるとそんな気もしてくるわね…
このまま学校に居てもしばらくは生活できるけど、いつかは外に出ないと行けないのも事実だしね…。
「いや、部で遠足っておかしいだろ?」
「くるみちゃんは頭が固いなぁ!わたしたちが進んだ後に道はできるものだよ!」
「う゛っ…」
くるみちゃんも言いくるめられちゃったわね…
確かに危険はあるかもしれないけど、外に出ること自体は反対ってわけではない。
今はくるみちゃんに明くんという頼もしい仲間もいるし、あまり不安は無いのだが…
遠足に行く足をどうするかという問題がある。
私のミニクーパーだと5人はちょっとキツキツよね。
「めぐねえ、どうしましょう?」
私が議論を交わす2人の横で悩んでいると、ゆうりちゃんが小声で話しかけてきた。
彼女は部長だし、最終決定は彼女と共にするのがいいだろう。
いや、彼の意見も聞いておかないといけないか。
「そうねぇ、ゆうりちゃんはどう思う?」
「私は賛成です。いずれ物資が無くなったら出なきゃいけませんから…」
「私もそう思うわ。でも、どこに行くのか分からないけれど車の数が足りないのよね…」
「そうですね…なにか方法は無いでしょうか…」
「2人でなにお話してるの?」
…!少し無警戒に話しすぎたわね。
もっと周りに気を配っておかないと。
「あ、ゆきちゃん。遠足について話していたのだけれどね?」
「おお!それで、行ってもいいかな!?」
「ええ、構わないわ」
「ホント!?」
「ええ、でも提出用の文書にしてからじゃないと行けないのよ」
「ふふん」
これで数日時間稼ぎをするつもりだったのだが、ゆきちゃんは何故か得意げだ。
何か考えがあるのだろうか。
いや、考えがあると少し困るのだが。
「じゃん!もう書いておきました!」
「そ、そうだったの…」
自分のやりたいことだとここまでやる気を発揮するのね。
将来大物になる予感がするわ…
一応紙に目を通してみるが、文句を付ける部分は見当たらない。
いや、正確にに言えばいくらでもあるのだが、元々非正規な行事の企画書だ。
正解がなければ間違いも無いのだ。
「じ、じゃあ明くんに聞いてから、他の先生に確認してくるわね」
「お願いしまーす!」
はぁ、明くん納得してくれるかしら。
それよりも、車のこととかどうしようかしら…
「というわけなの」
「俺が居ないところでそんなことが起こってたとは…」
なるほど、遠足か。
今後の予行演習と思えばいい経験になるだろうし異存はない。
しかし車か…
知識としてはあるから出来ないことはなさそうだけど…
まぁこんなことが起きた後なんだ。無免許なんて些細な問題だろう。
よくゾンビ映画で奴らに襲われるシーンが多いが、しっかりとメンテナンスされている車なら大丈夫なはずだ。
要は無事に人を運べれば良いんだろ?
なら簡単な話じゃないか。
「運転は出来る。俺が教頭の車を使おう」
「よかった!なら、皆に伝えてくるわね。明くんも身体を鍛えるのは良いけど、程々にしないと駄目よ?」
「はいはい、注意しますよ慈せんせー」
「めぐねえじゃ…ってそっちも駄目よ」
「了解だめぐねえ」
「もう!」
去って行くめぐねえの背中を見送ってから改めて”遠足 ”について考える。
この行事にメリットはあるが当然デメリットはある。
メリットから考えていくか。
まず、程度が分からないが恐らく物資の調達が出来るだろう。
この学校の外に生存者はいない。居たとしても限りなくゼロに近い数だ。
つまり、コンビニやスーパーの物資がほぼ手付かずの状態で残っている可能性が高い。
生鮮食品は流石に腐ってしまっているだろうが、缶詰のような保存の効くものは無事なはずだ。
衣服などの生活必需品も無事だと願いたい。
購買部がなくなれば地下に行く選択肢もあるが、あそこがまだ無事だという保証はない。
なら、外に行っても同じだろう。
次に、現在の街の状況を知ることが出来る。
希望的観測でしか無いが、郊外の方から既に救助が始まっている可能性も無いわけではないのだ。
それに、隣町に近い方では被害が少ない地域があるかもしれない。
味方は少しでも多いほうがいい。
そうすれば生き残れる確率が上がるからな。
それに作業の効率も上がる。
今よりも若干住みやすくなるだろう。
他にも幾つかあるのだろうが、特に大きいのはこの2つだろう。
彼女たちにはもっと他にやりたいことがあるかもしれないが、俺にはその辺りの話題は分からないな。
しかし、メリットが有るのだから当然デメリットもあるのだ。
まず純粋に危険だということ。
学校の中だけでもこの人数のアイツらがいるんだ。
外にはどれだけの数が居るんだか…
幸い、学校と違い逃げる場所も多そうだからある意味では外のほうが安全な部分も在るだろう。
それに、めぐねえは車で逃げると言っていたが、どうやって車まで行くんだろうか。
俺1人ならまだしも2人であの駐車場を突っ切るのは中々厳しいものがありそうだ。
校庭には構内以上の数のアイツらがいるんだ。
3階に上がってきた時のように、何か他のものに注意を行かせておけば良いのだろうか。
しかし、そうすると他の3人はどうやって車に乗り込むんだ?
その部分は後で詳しく話し合っておかないと。
やれやれ、またやることが増えたな…
全然話が進みまない…
でも仕方ないよね