みなさんは風邪とか引いてないですか?
身体に気をつけてくださいね
ちなみに僕は風邪が一向に治りません
「運転するのって、今日が初めてよね?すごく上手なのね…」
「まぁ俺ら以外に走ってる車も無いからな。気にせず走れるから案外楽だぞ?」
「そうなの?なら私も後でやってみようかしら…」
「ずっと俺がやるってのも疲れるだろうし、お願いしていいか?」
「分かったわ。あ、前止まったわよ。注意してね」
「また行き止まりか…」
ここに来るまでにすでに何度も瓦礫で道が塞がれた場所に遭遇している。
その度に前進、後退を繰り返しているから、すでにアキくんの車の操作は手慣れたものだ。
乱暴な運転だったらどうしようかと少し心配していたが、車は滑らかな動きで進んでいる。
そんな彼の運転のおかげか、いまでは外の風景に目を向ける余裕も出てきた。
学校の外の荒廃っぷりはかなりのものだった。
家の塀は崩れ、窓ガラスはほとんどが割れていたりと無事なものの方が少ない。
車に乗って逃げようとしたが失敗したのだろう、大破した乗用車があちこちに転がっていた。
その車からガソリンが漏れ出たのだろうか。
火災の跡と思われる場所も見受けられる。
事故の当時は、正に地獄絵図というに相応しい光景だったことが容易に想像できた。
「それにしても酷いわね…」
「学校だけでもあんなんだったんだ。人が多ければ規模も大きくなるだろうな」
「そうよね…。…ねぇ、アキくん」
「なんだ?」
「いや…なんでもないわ」
これは嘘だ。
本当は聞きたいことがある。
『貴方は、何故こんな状況でも笑っていられるの?』
本当はその本心を尋ねたかった。
でも、そんな事を聞いたら彼は怒ってしまうのではないだろうか…
きっと、何か考えがあってのことなんだろう。
アキくんは他人の不幸を喜ぶような人じゃないもの。
「俺の表情の話か?」
「え?い、いや、違うわよ?」
「はぁ…別にこの状況を楽しんでるわけじゃねえから安心しろ」
「そんなのは分かってるわよ…」
「まぁ機会が来れば話すさ」
「え、えぇ」
彼の表情は終始変わらなかったが、身にまとう雰囲気が「それ以上の詮索はやめろ」と言っているようだった。
改めてバレないように彼の顔を横目で覗き見ていると、先ほどの笑顔とは違い、どこか無理して笑おうとしているように見えた気がした。
もしかして、私はとんでもない思い違いをしていたのだろうか。
そういえば、前にゆきちゃんが「そんなブスッとした顔をして」と言っていたが、その時はゆきちゃんの見間違いだと思っていた。
だが、今の彼の反応を見る限り、何か人に言えない秘密があるのではないだろうか…?
考え方を変えてみるだけで、変わっていないはずなのに彼の表情は少しだけ悲しそうなものに見えた気がした。
「また行き止まりか?」
「ううん…違うみたい。くるみが降りてきたわ」
しばらくは順調に進んでいたが、前を走るめぐねえの車が急停止した。
正面には遮るものは見えないが、何かトラブルでもあったのだろうか。
しかし、降りてきたくるみは慌てた様子はなく、その場に立ち止まってる。
普段の勝ち気な様子は鳴りを潜め、どこか躊躇っているような、弱々しい雰囲気を漂わせている。
その目線は目の前の一軒家に向けられていた。
「もしかして、これってエビちゃんの家か?」
「そうみたいね。丁度いいし、私達も休憩しましょうか。あ、運転変わる?」
「そうだな。頼んでいいか?」
外に出て身体を伸ばす。
凝り固まっていた筋肉がほぐれていく感覚が心地よい。
長い距離を乗っていたわけでは無いけど、ずっと気を張りながらいるのは疲れるものだ。
でも、運転を任されたのだから、ここで完全に気を抜くわけにはいかない。
「あ、今のうちに運転方法教えてもらっていい?」
「俺に聞くより、ちゃんと免許持ってるめぐねえに聞いたほうがいいと思うぞ?」
「それもそうね…ちょっと呼んでくるわね」
「ああ。俺はそこら辺を軽く散策してくるわ。めぐねえたちにも伝えてくれ」
「ええ、分かったわ」
まるで散歩をするかのような気軽さでアキくんは歩いて行った。
私はそんな背中を見送ってから、車で待っていためぐねえの元へ向かった。
「やっぱりここらへんもダメだな」
悠里と別れた後、物は試しと目についた民家に入ってみたが、中の惨状は酷いものだった。
壁一面に血がこびりつき、床は崩れた家具や肉片のようなもので汚れている。
台所では食料が腐って嫌な匂いを発していた。
冷蔵庫の中なら…と思ったが、よく考えたら学校は太陽光の発電施設があるから電気を使えるだけで、ここら一体は電気が供給されているはずがなかったのだ。
当然のように無駄になってしまった食材が入っているだけだった。
一応数軒回ってみたが、どこも結果に変わりはなく得られた物は無かった。
だが一つだけ分かったことはある。
ある家に入った時、庭の隅から物音がした。
まさか生存者か? と思ったが、そこに居たのは破れた腹から血を滴らせた犬だった。
いや、正確には "犬だったもの" か。
こちらの姿を見るやいなや吠えながら走ってきたので、殴って黙らせておいた。
どうやら犬も弱点は頭らしい。
しかし動物に感染するのは厄介だな。
コイツらは人間と違ってすばしっこいから対処が面倒だ。
集団で襲ってこられると少しキツイかもしれない。
そういえば、学校に居たハトは感染していなかったな。
哺乳類にだけ感染するタイプのウイルスなんだろうか?
…そんなことが分かってもどうしようもないか。
それにしても、悠里のあの顔…俺の表情の事に気付いたか?
別に気付かれたから何があるってわけでもないんだが、これで関係がギクシャクするのはいただけない。
やはり全員に話したほうが良いのだろうか。
だが、それで余計な気を使われるのも面倒だ。
俺がそう言っても優しいあいつらのことだから、心の何処かで無意識に足枷になりかねない。
この症状が治るのが一番いいのだが、それが期待できないのが現状だ。
このことは考えてもしょうがないか…
「はぁ…戻るか」
しかし、散策に来たのに収穫ゼロなのは少し悔しいな。
適当に服でも貰っていくか?
いや、サイズが合わなければ意味ないか…
うーん、なにか使えそうなもの…
…お、これは…
そんなに運ぶものも無いと思ってバックを置いてきてしまったのが仇になったな…。
缶飲料は数本を運ぶのだったら楽だが、今は10本近くの飲み物を運んでいる。
気温は高いから手に当たる冷たいスチール缶の感触は気持ちがいいが、落ちないようにここまで運ぶのは骨が折れる作業だった。
「…それで、ハンドルを切ったらすぐに戻したほうが良いわね」
「なるほど…ありがとうございます」
「ええ。悠里ちゃんなら慣れるのも早いと思うわ。そういえば、明くんはどうしたのかしら?」
「えっと、さっき散策しに行くって言っていたんですけど… あ、帰ってきたみたいですね」
「本当ね。何を持ってるのかしら…。 ジュースの缶?」
「みたいですね…」
車まで戻ると、ちょうどめぐねえの運転講座が終わる頃だったようだ。
エビちゃんも既に戻っていたようで、車の陰で由紀と涼んでいるのが見える。
いいタイミングで戻ってこれたな。
「その飲み物どうしたの?」
「あっちに自販機があってな。ちょうどいいから貰ってきた」
「え…もしかして壊して?」
「いや、非常電源が入ったみたいでな、ボタン押したら出てきたんだ。好きなの持っていけ」
「ありがとう…じゃあ、紅茶を貰うわね」
一応学校から水や食料は少し持ってきている。
しかし、物資の量は限られているのだから、別のもので賄えるならそれに越したことはない。
それに、この環境で冷たくて甘い飲み物というのは貴重だ。
味気のない保存水と違って、心の清涼剤となってくれる。
そうすれば、少しは気持ちも楽になるというもんだ。
缶だから安全性も保証されているしいいことずくめだな。
めぐねえと悠里にそれぞれ飲み物を渡してから残りを持って二人の元へと向かう。
「エビちゃん、久しぶりの家はどうだった?」
「ああ、ちょっとだけのんびり出来たさ」
屈託のない笑顔で答えるが、多分やせ我慢だろう。
自分の親が安否不明なんだ。
それを不安がらないはずがない。
だが、それを指摘するのは非情というものだ。
触れないでおくのが一番だろう。
「おいお前ら。どれがいい?」
「あ! コーラだ!」
「マジかよ! 気が利くじゃねーか!」
やはりこの2人はこういった甘い飲み物に飢えていたようだ。
目を輝かせて俺の腕の中の缶に食いつく。
「んー、先にあーくんが選べば? 買ってきてくれたの、あーくんでしょ?」
「いや、俺はどれでもいいからな。お前らから選びな」
「じゃあ、コーラ貰うわ」
「わたしはサイダー!」
「ほいよ」
さて、残りのはどうするか…
まだ5本以上残ってるけど、一気にこんなに飲めないしな。
とりあえず半分はめぐねえの車に積んでおこう。
もう半分は俺達の車に置いておけばいいか。
クーラボックスとかあったかな?
「ねえ、あーくんは飲まないの?」
車のトランクに缶を置いて悩んでいると、いつの間にか後ろに由紀が立っていた。
彼女としては、エビちゃんだけでなく皆で一緒に飲みたいのだろう。
気付けば車内に居たはずのめぐねえと悠里も、外でエビちゃんと一緒に缶を傾けている。
由紀がそこへ俺を誘うのは当然だった。
ここはポーズだけでも向こうへ行ったほうがいいだろう。
ここで無意味に彼女たちを不安がらせる訳にはいかないからな。
「分かったよ。ちょっと待ってな」
「うん! 待ってるからね!」
どうせ何を選んでも味は変わらないんだ。
冷たければそれでいい。
喉を潤せるならどれも同じ。
だが、それを気取られてはならない。
好都合なことに表情はほとんど変わらないんだ。
なら、いつもどおり振る舞えばいいだけだ。
心のなかで自分に言い聞かせると、適当に選んだ缶を持つ。
そうして、いつも通りの貼り付けた笑顔で皆の輪へと向かっていった。
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そして早く風邪を治したい