そのまま授業も終わり昼休みに。
特筆することはない、いつもどおりの授業だった。
丈槍が寝てたのもいつもどおりだった。
こいつは…
持ってきた弁当を食べ終えて、何をするか考えていると、めぐねえに呼び出しを喰らっていたのを思い出した。
まぁ行かなくてもそこまで怒られることは無いだろうけど、一応誠意は見せておかないとな。
とくにやることも無いので職員室に向かうことにした。
…何故か丈槍もついてくることになったが。
「ちわーっす、めぐっ…佐倉先生はいらっしゃいますかー?」
「…あら、風間くん」
職員室に来てみたが、何だか騒々しいというか…なんか問題が起きた雰囲気だった。
周囲を見回してみると、教員たちの目は備え付けのテレビに向けられている。
それに釣られてテレビを見てみると
『本日の早朝から、巡ヶ丘市で玉突き事故が頻発しています。原因は未だ不明ですが…』
「玉突き事故?」
「そうなのよ…そういえば、今日学校に来るときも沢山のパトカーとかが居たわね…」
なんでそんなに玉突き事故が?
別に霧が出てるわけでもないし、もうすぐ夏なんだから氷もありえない。
誰かが油でも撒きまくったのか?
だとしても何で…
「風間くん、せっかく来てもらったのだけれど、これから会議になってしまったの。申し訳ないんだけど…」
「ああ、また放課後に来ますよ」
「ごめんなさいね…」
「いえいえ」
「ねぇねぇ、あーくん」
「んー?」
職員室からの帰り、昼休みを満喫する生徒たちの間を通って教室へ戻る廊下を進む。
チラホラとバッグを持った生徒が見えるのは…
そういえば2年生は午前授業だったか。
羨ましいな…
「ねぇ、聞いてる?」
「ああ、聞いてるよ。どした?」
ちゃんと反応しないとすぐ拗ねるからな。
聞いているアピールも兼ねて顔を丈槍の方へと向ける。
「何で玉突き事故起きてたのかなぁ」
「さぁ、誰かが油でもこぼしたんじゃねーの?」
「ええ!?それは大変だよ!早く掃除しないと!」
「いや、俺らには何も出来ねーよ」
街の清掃とかだったら駆りだされてもおかしくないが、今回のは訳が違う。
俺ら学生が出る幕じゃない。
しかし、丈槍は納得出来ないご様子。
唇を尖らせてまだ反抗しようとする。
「でも…」
「じゃあ丈槍、お前が廊下を掃除していたとしよう」
「え?うん」
「そこに、何人もモップを持って生徒が突撃してきました。お前は掃除できるか?」
「ええ!?そんなの危ないよ!」
「お前がやろうとしてんのはそれよりもっと危ないんだぞ?」
「そっかぁ…」
何が楽しくて命がけの掃除をしなきゃいけないんだ。
100万積まれてもやらない自信がある。
「まぁ明日には直ってるだろ。今は気にせず教室帰るぞ。この後、めぐねえの現国だろ?」
「はぅわ!テスト返ってくるじゃん!」
「そうだぞ。今のうちに心の準備をしておくんだな」
「う~」
その後もグダグダ話しているうちに教室に着いた。
とりあえず授業の準備をしておこうと机から教科書を引っ張りだしていると、不意にスマホが振動した。
今の振るえ方は…メールだな。
こんな時間に誰だろう?
別にいま確認する必要はなかったが、特にやることも無いのでスマホの電源をつける。
案の定、メールが1通来ていた。
送り主は…
kz8111emer9@―
なんだこれ、迷惑メールか?
まぁ内容だけ見て消せばいいか。
気になる内容は
『可能なら地下へ』
ん?どういうこっちゃ?
確かにこの学校は災害に備えて、地下にシェルターがあるって親父が言ってたな。
何故か親父がそのことを推してたから、この学校を選んだんだが…
しかし、なんでこのタイミングで?
いま地下にいけば何かあるのか…?
「アホらし」
何で俺はこんな迷惑メールを真剣に考えてるんだ。
そもそも、この地下ってのがここの地下だって何処にも書いてないしな。
結局、どっかの暇人の迷惑メールか。
溜め息を1つ付いてメールを削除する。
あー、時間無駄にした。
「おう、明。溜め息なんて付いてどうした?」
「あー、迷惑メール来てて萎えただけだ」
「ぷぷっ、エロ動画の見過ぎじゃね?」
「あほ、見てねえよ」
「ホントかよー?」
後ろの席のクラスメイトとアホらしい会話をするうちに、さっきのメールのことなど忘れてしまっていた。
「風間くん」
「うぃっす」
時は移って現国の時間、アナウンス通りテストを返されている。
俺の前に返された数人は点数で一喜一憂しているようだ。
俺の結果はどうだろう…
多分7割は超えてるはず…
「はい、よく頑張ったわね」
ニッコリと名前の通り慈母のような笑顔を見せるめぐねえ。
なるほど、そこまで悪くなかったわけか。
とりあえず点数は席で見るか。
周りに見えないようにテストを折り曲げ席につく。
このテストの点数を確認する時のスリルは結構好きだ。
運に頼るだけのような勉強量では無いと自負はしているが、怖いもんは怖い。
解き方があってても計算ミスしたら元も子もないからな。
過去に知り合いの女子生徒と点数で勝負をした時、計算ミスのせいで僅差で負けてしまったのはいい思い出だ。
おぉ、これは…
「あーくんすごい…95点…」
いつの間にか覗き込んでいた丈槍がぼそっと俺の点数を暴露する。
これで悪い点だったら文句を言っていたが、まぁ悪い点じゃないし良いか。
人間ってのはそういう生き物なのだ。
しかし、思った以上に良い成績だった。
まぁ前回は50点台だったし、ちょっとまじめに勉強した甲斐があったな。
「丈槍さん」
「はい…」
俺とは対照的にとぼとぼと教壇まで歩いて行く丈槍。まぁ本人も悪いって言ってたしな。
テストを受け取った丈槍はより一層暗くなる。
「丈槍さん、次は頑張ろうね?」
「うん…」
その様子を見てクラスメイトがクスクスと笑う。
…お前ら、そんな笑えるくらい点数良いのかよ。
まぁ口にしてしまえば余計な荒波を立ててしまうので言えないけど。
「丈槍どうだった?」
「うー、30点…」
「おう、そりゃあ…ん?俺が教えたとこ、できてんじゃん」
先ほどの仕返しとばかりに答案を覗き込む。
これは意外、俺がたまたま居合わせためぐねえと一緒に教えたところは全部正解だった。
やれば出来るじゃないか
「うん…でもそこ以外が…」
「だったら、また教えてやっからよ。次解けりゃあいいんだ」
「うん…うん!」
こういうタイプは飴と鞭がすごい有効だ。
褒めるときは褒める。厳しくやるときはビシバシと。
一度やり始めればやるタイプの奴は、変に曲がってる奴よりも扱いやすいからな。
その点、丈槍はめちゃくちゃ素直で真っ直ぐなタイプだ。
教え甲斐があるというものだ。
…俺って意外と教師向いてるかも?なんてな
現国の授業も、丈槍が轟沈した意外に特筆すべきことはない、いつもの授業だった。
と言いたいところだが、1つ違った。
学校の外側がいつもより騒がしかった。
さっきのニュースの玉突き事故のせいか、遠目に何箇所か煙が上っていた。
そのせいか、他のクラスメートの一部も、どこかそわそわと落ち着きがなかった。
しかも、まだ事故が起きているのか、劈くようなブレーキ音が聞こえてくるのだ。
この街で何か起きているのだろうか?
まさか、テロか何かか?
そんなあまり現実味の無いことを考えていると、一度は忘れていた、あのメールのことを思い出した。
『可能なら地下へ』
まさか、この学校にもテロの波が来ることを予見していたのだろうか?
だとしても、誰がなんのために?
しかも、どうして俺だけ?
避難を指示するものなら、他の奴らにも送られているはずだが、そんな様子は全く見られない。
…考えても何も分かんないな。
こんなことなら、もっと推理小説とか読んどくべきだったな。
意味があるのか分からないけど。
俺が先ほどのメールについて思いふけっていると、いつの間にか帰りの号令が終わっていたらしい。
周りの奴らがガタガタと席を立ち始めた。
とりあえずここで考えても仕方ないし、家でゆっくりと考えるか…
そう思い、リュックを背負い教室を出ようとすると、制服の裾を遠慮がちにつままれた。
まぁこんなことする奴は一人しか居ないよな。
「どうした丈槍」
「わっ!何で私だって分かったの?」
「お前ぐらいしかこんなことするのが居ないからだ」
彼女でもいれば話は別だったかもしれないが、残念ながらそんな甘い存在は居ない。
別に悔しくもなんともない。
自分の時間削られるの嫌だしな。
それに、彼女が居ないのは俺だけじゃ…
「うん、俺だけじゃないはず…」
「え?何が?」
おっと、口に出してしまっていたようだ。
「いや、なんでもない。それで、どうした?」
「うん、この後補修なんだけど…」
これはもしや、手伝ってくれってことか?
正直、早く帰りたいところだけど…
でもさっき手伝うって言ってしまったしな。
親父からも、『自分の言葉に責任を持て』って言われてるし。
ここはしょうがないか。
「分かったよ。何もすること無いし、一緒に残ってやる」
「ほんと!?ありがとぉ~」
「どうせ、めぐねえの補修だろ?だったら、朝のことを謝るのにちょうどいい」
「あーくん、変なところで律儀だよね…」
やかましいぞ。
そんなこと言ってると勉強見てやらんぞ。
ちょっと脅しというか、威圧の意を込めてリュックを強めに机に置く。
すると、思った以上に重く、大きな音を立ててしまった。
そのせいで下校中のクラスメイトの何人かが「何事か」と振り返ってくる。
なんとなく気まずくなって「悪ぃ」と言い訳をすれば、何事も無かったかのように帰っていく。
…そんなに生徒が残ってなくてよかった。
「すっごい音がしたねぇ…辞書でも入ってるの?」
「あ、いや…辞書じゃねえけど…」
流石にクラスメイトの女子に「親父の日記かっぱらってきました」なんて言えるわけもなく、適当にごまかした。
丈槍が素直で助かった…。
とりあえず何もしないのも時間がもったいないので、めぐねえが戻ってくるまで丈槍の自習を見ることにした。
まずは今日のテストの直しからだな。
「ねぇ、あーくん。この人怒ってるよね?なのに、何で答えは悲しいからになってるの?」
「それは…この辺の文章もっかい読んでみろ。話はそれからだ。」
「うん、えーっと…」
なるほど、丈槍は素直すぎて登場人物の気持ちがいまいちピンとこないタイプだな。
その気持は分からなくは無いけど、流石に怒ってる原因くらいは考えてみろよ…
その場面の前でソイツ泣いてんじゃねーか…
典型的な傍線しか読まないタイプだな。
その後も、あーだこーだと丈槍に教えてると、めぐねえが戻ってきた。
この問題児は任せたぞ。