今後も不定期になると思います。
ご了承くだされ
「エビちゃん、この子について何か分かった?」
「ああ、名前は直樹美紀っていうらしい。学年は1つ下だな。」
「そうか。で、噛み傷とかは?」
「いや、無いみたいだな。こいつはまだ感染してない」
それは良かった。
流石に助けたのにすぐに死んでもらわなきゃいけないっていうのは、少し心苦しいからな。
だが、この後も感染するようなことがあれば容赦はしない。
守るべきは学園生活部のメンバーだ。
他人1人切り捨てるぐらい、何も思わない。
態度次第では痛い目を見てもらう事になるかもな。
「由紀の方は?」
「こっちも大丈夫よ。気を失ってるだけみたいだし」
「そりゃ良かった。じゃあ、由紀はめぐねえの車に頼む。俺の方にはこっちの子を乗せるわ。」
「分かったわ。じゃあ荷物を早く積んで帰りましょうか」
「おっけ」
まぁ、持ち帰るものは大体積み終わっている。
あとは怪我人2人を乗っけるだけなんだけどな。
「よっと… 意外と軽いんだな」
「アキくん、女の子の体重のことはタブーよ」
「別に重いとか言ってないし良いじゃないか」
「それでも、よ」
「ごめんなさい」
こういう時の悠里には、すぐに謝るのが吉だ。
前に怒らせた時は本当に怖かった。
あれ以上に怒らせると怖い人を知らない。
とりあえず機嫌は悪くなってない事だし、さっさと車を出してしまおう。
「そうだ、こいつ…直樹だっけ? なんか手がかりになるもの持ってなかったか?」
「えっと…生徒手帳を見つけたけど。まだ中は読んでないわ」
「じゃあ、何か分かったら教えてくれ」
我ながら、車の運転にも慣れたものだ。
こうやって話しながらも間違えることなくなったからな。
そのまましばらくは会話も無く、のんびりと車を走らせる。
ドライブで来れたらよかったんだけどなぁ。
相変わらず窓の外は荒れた景色が広がっている。
これじゃあ、雰囲気ってものもありゃしない。
まぁ、あっても何か変わるわけじゃないんだが。
助手席に座る悠里を横目でさり気なく見る。
その表情は明らかに先程よりも曇っている。
原因として考えられるのは…生徒手帳だよな。
「悠里、何か有意義なことでも書いてあったか?」
「そうね…私達はかなり運が良かったっていうのがよく分かったわ」
悠里が語ったのは、あの少女― 直樹が今日まで体験してきた内容だった。
親友とたまたま寄ったショッピングモールで事故にあったこと。
最初は楽しく共同生活を送っていたが、誰かが感染してその生活も終わってしまったこと。
親友と何とか逃げ出せたが、親友が何処かへ行ってしまったこと。
なるほど、だからバリケードの中に奴らがいたのか。
これは感染者はすぐに潰せという教訓になったな。
しかし、仲間はみんな感染し親友も去って行ったとは、なかなか辛い体験をしているな。
後ろの座席で目を閉じている少女に少し同情する。
「なあ悠里、この途中で出て行った親友の行き先に心当たりがあるって言ったらどうする?」
「え?」
ズボンのポケットから一枚の地図を取り出す。
洋服屋の前で拾ったものだ。
「これって…」
「あのショッピングモールに落ちてた。まだ比較的きれいだったから、その親友が持ってたものかも知れないな」
「じゃあこの子は駅にいるかもってこと?」
そう、俺が拾った地図には駅までの経路がなぞってあった。
普通なら駅に向かってるはずだ。
たどり着けるかは運次第だが。
「一回めぐねえに相談してみましょ?」
「そうだな、皆の意見も聞いてみるか」
助手席側の窓を開くと、悠里が身を乗り出して手を振る。
前を走るめぐねえの車はこちらの意図に気付いたのか、その場に停車する。
由紀が起きてたら手を振り返して来るだろうが、それが無かったって事はまだ目覚めてないってことらしい。
これはある意味好都合かも知れない。
由紀がいれば、助けに行くの一択だっただろうからな。
ドアを開いて降りていく悠里の背中を、自販機から持ってきていたコーヒーをすすりながら見つめる。
自分から切り出しておいてなんだが、正直助けに行くだけ無駄だと思う。
この中、無事に駅まで辿りつけても電車が動いているわけじゃない。
結局は追いつめられて死ぬだけだろう。
そこに在るのは感染したその親友…圭とか書いてあったか。
それが衰弱してしまった彼女がいるだけな可能性が高い。
悠里の後に遅れて3人に合流すると、すでに説明は終わっていたらしい。
思った以上にのんびりしてしまったみたいだ。
「なあ、明。単刀直入に聞くぞ? お前は行くべきだと思うか?」
「いや、行かないべきだと思う」
「やっぱりそう言わよね…」
溜め息をつきながらめぐねえが額に手を当てた。
他の2人もどこかジトッとした目でこちらを見てくる。
なるほど、俺以外は助けに行く考えだったか。
「お前らは助けに行きたいんだな?」
「ええ、1人でも多く助けれる方がいいもの」
「何処にいるか分かってんなら、行ったほうがいいだろ?」
「でも、駅にいるって決まったわけじゃないし、助けられる保証も無いんだぞ?」
「駄目よ、絶対にいかなきゃいけないわ」
驚いた。
俺の意見に真っ向から反対してくるのはエビちゃんだと思ってた。
彼女は正義感が強いし、運動部だったせいか年下を守らないとという意志が強い。
だが、俺の考えに一番に否定してきたのは悠里だった。
あまりきっぱりした物言いはしない彼女がこんなに自分の意見を明確に出してくるとは思わなかった。
俺に抗議する彼女の目には、強い意志の色が見える。
ここまで自分を出してくるのは初めて見たかもしれない。
「はぁ…分かったよ。その代わり、条件がある」
多分、何を言っても悠里は引き下がらないだろう。
それならこっちから譲歩したほうが早く解決出来る。
「駅に入るのは俺だけだ。お前らは外で待ってろ」
「なっ、あたしも行くからな!」
「いや、だめだ。駅の構内は狭いからな。人数は少ないほうがいい。それに、万が一のことがあったらどうする?」
俺は学園生活部を守る、そう決めた。
エビちゃんに一緒に行かせるのは論外だ。
それに、俺が駅から帰ってこれなかったら、誰が学園生活部を守るのか。
現状戦えるのは俺とエビちゃんだけだ。
その2つの最大戦力を一気に投入するのは中々にリスクが高い。
だから、これを認めてくれないなら俺は賛成するつもりはない。
生きているか分からない奴の為に犠牲になるなんて馬鹿らしいからな。
いつもとは違う俺の雰囲気を感じたか、エビちゃんもここは退いた。
悠里とめぐねえも渋々頷いた。
こうして、遠足帰りに寄り道をすることになった。
「何かあったらすぐ帰って来いよ?」
「分かってるよ。無理はしない」
助けに行くと決まり、行き先を変更して駅に来た。
もともと人が多かった場所のせいか、奴らの姿もそこそこ見られる。
だが、平日の昼間という事もあってかびっくりするほどの量じゃない。
これが休みとかだったらゾッとしないな。
いや、これから通勤ラッシュの時間になると増えたりするのだろうか?
…考えてもしょうがないか。
後ろを振り返ると、車の外に出た俺を未だに不安そうに見つめる悠里達と目があった。
「お前らは車から出るなよ。どうしようもなくなったら、俺を置いていけ」
「あんまりそういうことは言わないで…」
「おっと、こりゃすまん。」
だが、こっちとしてもお前らには死んでほしくないんだ。
俺が犠牲になって皆が助かるなら、俺は喜んでその道を選ぶ。
って、何つまらないこと考えてるんだか。
「じゃあ行ってくる」
駅の中はやはり荒れ果てていた。
天井は抜け落ち、ところどころに血肉が散らばっている。
そこで動いているのは奴らだけ。
ショッピングモールと何ら変わりない。
全く期待していなかったから何も感じなかった。
さて、件の "圭" はどこに逃げたんだろうか。
手がかりがほとんどと言っていいほど無いから、正直見当もつかない。
そこらへんを歩いていた奴らの頭を吹き飛ばしながら、彼女がどういう行動をとったのか考える。
あの生徒手帳にはなんと書いてあったか…
そうだ、ショッピングモールで彼女は『上に行く』という判断を下して助かっている。
なら次も上に向かおうとする可能性が高いか。
階段を登ってしまえば下から来られる可能性は低いし、確かに正しい判断なのかもしれない。
とにかく、階段を登って上に行ってみるか。
無人のホームには電車が止まったままになっていた。
その中では奴らがつり革を持とうとウロウロしている。
中には椅子に座っているのもいた。
本当に生前の記憶があるんだな…
奴らなりの日常を送っている姿を見て、改めて元が人間だということを実感してしまった。
一応見落としが無いように、ホームの端から端まで歩いてみたが、いたのは奴らだけ。
生きている人間の気配は無い。
「ここにはいないか…」
薄汚れた駅のホームのベンチに座りながら、次はどこに探しに行くか考える。
そういえば、ホームの別の階段を降りれば駅長室などがあるスペースがあった気がする。
鍵が掛けられる場所ならある程度安全だろうし、そこに逃げ込んでいる可能性は低くない。
むしろ、そこ以外ではもう生存は諦めるくらいだ。
とにかく、そこに向かってみよう。
いなかったら戻ろう。
そう方針を決め、バールを担ぎ直して先ほどとは別の階段を降りていった。
「おい、誰かいるか?」
階段を降りた先にあった駅長室のドアを少し強めに叩く。
中に人がいれば驚かせてしまうかも知れないが、これぐらいじゃないと気付かないかもしれないし。
それに、ちゃんと言葉を話してるからそこで判断できるはずだ。
ドアを叩くと、中で何かが動く音が聞こえる。
中に誰かがいるのは確定だな。
ソイツがどんな状態かは分からないが。
少し待ったが、何かが動く物音しかせずドアが開く気配はない。
向こうからすると、期待半分の不安半分といったところだろうか。
「おい、誰かいるなら開けてくれ。 俺も生存者だ」
もう一度確認の意味を込めて聞いてみる。
すると、今度は反応があった。
「…めです…きちゃ…」
か細い声だったが、確かに生きている人間の声が聞こえた。
なんて言っているのかよくわからなかったが、とにかく生存者はいるらしい。
なんかあれほど『いるはずがない』とか言っていた自分が恥ずかしいな。
「とりあえず開けるぞ」
周りに奴らが居ないことを確認してからバールでドアをこじ開ける。
無理やり開いたドアの向こうに居たのは、同じ高校の制服を着た女子生徒だった。
恐らく、彼女が "圭" なのだろう。
「あ、あなたは…」
「巡ヶ丘高校3年の風間だ。お前さんは圭で間違いないな?」
「はい… 放送を聞いて来てくれたんですか?」
「放送?」
「はい、ラジオで…」
なるほど、彼女が駅に来たのは駅長室でラジオを流して助けを求めるつもりだったのか。
こんなことを考えつくとは、なかなか頭が回るやつだ。
「っ… 風間さん、直ぐにここを離れてください…」
「どうしてだ?」
これから救助してもらえるというのに、それをせずに帰れとはどういうことだろうか。
普通なら『一緒にここを出ましょう』だろうに。
そういえば、俺が来ても彼女は床に座ったままで立ち上がろうとしていない。
その足を見ると、血の滲んだ包帯が巻かれている。
「まさか…」
「おかしいんです… 何故か風間さんを…殺したいって、食べてみたいって思っちゃうんです…多分わたしは…」
「そうか」
間に合ったと勝手に思っていただけで、彼女はもう手遅れだったのか。
助けられる命だっただけに、若干心が痛む。
「もう俺に出来るのは介錯してやるだけってことか」
「はい…お願いできますか…? せめて…ひとのまま…」
「いいだろう。何か言い残すことはあるか?」
「この手紙を…みきに渡してください…わたしのともだちに…」
「分かった。必ず渡そう」
人としての最後の言葉を聞き遂げると、俺は静かにバールを構えた。
彼女の瞳は濁り始め、端々が狂気に染められている。
手や体が震え始め、脚の一部は黒変が始まっていた。
彼女はこれからこの悪夢から覚めることが出来るのか。
そう考えると、少し羨ましいかもしれない。
「おやすみ」
初めて潰した生きた人間の頭は、奴らよりも柔らかかった。
圭のファンの人には申し訳ない