魔法少女リリカルなのはVivid『閃光の獅子』   作:ロシアよ永遠に

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こんにゃちはこんばんはごきげんよう、そしておはよう御座いました。
この小説は溜めている、連載中の表小説の続きであるVivid編です。
色々とネタバレもあるので、少ないかもですが表小説を楽しみにされている人にはお勧めできません。時間を掛けてでも完結させたいので、お付き合いお願いします。
今回投稿に至った理由として、スマホの機種を変更した際、ストックの消滅を危惧して投稿しておこうと思いました。機種を変更した場合は削除しません。未来への系譜が完結した際、表に写しますのでご了承下さい。


1『邂逅』

ミッドチルダ首都クラナガン

その郊外の中の山間に面する一角にある、つい近年出来た、とある競技用に設けられた敷地。豊かな周囲の森林の中、新鮮な空気の中でその施設を人は見るやアミューズメント施設と思うものだろう。

だがその実態は違った。

 

少年はその施設を全速力で走る。うなじ辺りでざんばらにきられた少し落ち着いた色の金髪。眼はサファイアを思わせるような蒼。目つきはつり目でも垂れ目でもなく、目尻はどちらかと言えばつり目…なのだろうか?動きやすい白のスポーツ用のシャツに、膝に届かないくらいまでのハーフパンツ。一週間前に買ったばかりの、これまたスポーツ用のシューズの靴底を鳴らしながらひた走る。

池に打ち付けられた数多の丸太を跳んで渡り、壁に打ち付けられた石を伝って絶壁を昇り、さらには勾配が進む毎に九十度近くなる坂を越え、その奥にあるロープを伝っての壁登りだ。右手が頂上に辿り着く。後は身体を引き上げていく。…さすがにロッククライミングじみた物を通なしてしていれば握力も落ちてくる。が、根性を以てして、ずり落ちそうになる身体を引き上げた。顔を上げれば目の前には1メートルほどの高さの台の上に設置された赤いボタン。それがこの競技の、マラソンで言うなればゴールテープだ。頂上に足を付けると、一息の内に、そのボタンにしがみつくように倒れ込みながらスイッチを押した。

 

『ゴール!!』

 

施設内に浮かんでいるデカデカとした半透明のディスプレイに表示されたタイマーが停止する。

少年に時間の確認は出来ない。息を整えるために、下半身を床にベタ付けて、上半身はゴールスイッチの台座に寄りかかって休んでいる。汗も大粒の物がぽたぽたと床を濡らし、シャツもアンダーが透けて見えるくらいに汗を染みこませていた。

 

『ラス…ナ…バ……レ…ン・…月……タ…ム…ぎり…りで…ト…プ!!優……………』

 

アナウンサーの声が遠くなってくる。頭も風邪を引いた時みたいにボーッとする。頭痛はない。が、このまま意識を落とせば気持ちいい。…そんな誘惑に負けて、少年の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……。」

 

目を見開いてみたら、白い天井…いや、雲が青い空を横切っていた。春先とあって、ようやく待ち望んだ季節の到来に、鳥たちも目の前を横切っていく。鳴き声も、いささか活気を感じる。

未だに残る頭にもやが掛かったような感覚。身体の火照りは大分落ち着いているみたいだし、額には濡れタオルが掛かっているのか心地よい。後頭部には何やら柔らかな枕でも敷いてあるのか、これまた堪らない。

 

「お、目が覚めたかな?」

 

空を仰ぎ見ていた少年の視界に、少年とはまた違った明るいブロンドの女性が顔を覗かせた。髪をポニーテールに纏め、春風に靡いているのがとても絵になる。

 

「あれ?俺…何で寝てるんだ…?あっ!そうだ!大会!!」

 

「あぁ、それなら…はいコレ!」

 

ガバッと起き上がった時、傍らにいた栗色のサイドポニーの女性が金色に輝くカップ、そしてその隣にいたブロンドの髪の少女が賞状を大切そうに持っていた。

 

「いやはや、全く。中学生に混じって参加して、優勝してまうんやから…将来が楽しみや。」

 

「でも、倒れるまで全力でやるのは…ちょっと頂けないよ?」

 

肩口で切りそろえられた茶髪ショートカットの女性が感心し、ブロンドの腰まで掛かる長髪の女性が競技の最後に倒れたことについて窘めてきた。流石にやり過ぎた、と言うのは少年自身は理解している。だが、初めて参加するにあたっては、緊張感もあったからかペース配分がままならなかったから。

 

「まぁまぁ、でも優勝したのはすごいよ!私、ハラハラドキドキだったよ!」

 

賞状を持っていた少女が、エメラルドとルビーを思わせるような、虹彩異色の瞳を輝かせて迫ってきた。近い。

 

「まぁ、積もる話もあるし、予定通り今日はボクの家で祝勝会で!」

 

『異議無~し!!』

 

女性達の声が響き渡るミッドチルダ。今日も平和です。

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはVivid『閃光の獅子』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近年、ストライクアーツなどの格闘競技とは別に、ブームとなってきているスポーツがあった。

 

アイアンアスレチック

 

とある管轄外世界で流行りのスポーツ。その世界にある国の一部ではテレビ番組をして『○A○UKE』とも呼称される。その内容はまぁ敷いて言えば、立体的な障害物競走と言えば分かるだろうか。その波はこの異世界たるミッドチルダでも徐々にその人気を博してきている。ただ、魔力を持たない人でも平等に参加できるよう、魔法使用禁止とルールで設定されているため、魔力が高い者から低い者まで問わず参加している競技だ。

 

新暦79年4月

 

上旬に執り行われた、先述の競技大会が終わりを迎え、街の雰囲気もそのムードが大分落ち着いてきた。過ぎ去ってみれば何のことやら。来年の開催が近付くまでは余り話題には上がらないもの。それは学校でも同じ事で、ここ、St.ヒルデ魔法学院でもそう言った話題は鳴りを潜めている。

 

初等科五年生

 

魔法実技の授業。魔法学院という名に違わず、魔法を使った職業、ひいては魔導師を育成する学校とあって、こう言ったカリキュラムも当然存在する。

魔法運用の基礎知識は座学で得るものだが、この授業での目的はその知識を生かして、文字通り実践することにある。

ちなみに今日行われているのは、身体の一点強化。つまり、足なら足、腕なら腕と言った具合に、任意の場所に強化魔法を集中させること。制御能力が有無を言わせる項目だ。

 

「いいか!?身体強化は魔導師の基礎だ!身体強化を制する者が戦闘を制する!と、言うのは脚色しすぎだが、それでも使いこなすことが勝利の一歩と心得るんだ!」

 

校庭の朝礼台前で腕を組んでいる教師と、その目の前で棒高跳びで跳ぶような高さを、棒も無しに飛び越える生徒達。どうやら脚力への集中的な強化のようだ。

まだ肌寒い四月。それでも半袖と短パンの体操着で黙々と授業をこなす。太陽が照っているだけ大分ましなくらい、か。

 

「次!10番、如月!」

 

ビシッと手を真上に上げ、体操選手が競技を開始する合図をとる。魔力を足に集中。銀色の魔力光を足に纏う。グッと少し身体を落としたかと思えば、深く掘った足跡と、その速度によって生まれた土埃を残して疾走していた。段々飛び越えるべき台が迫る。ペースとしては難なく維持できる。が、強化を一定に維持しなければ、タイミングが狂う。

3…

2…

1…!

 

両足で地面を固めるように一気に踏み込む。足が地面に少し食い込み、1メートル半径にヒビが入る。同時に膝にも身体強化。足から来るビリビリとした衝撃を吸収して踏ん張る。そして溜めた力を一気に解放。地を踏み抜かん勢いで蹴り出す。

 

(よし、規定の高さを超えたし、このまま飛び越えて着地すれば…)

 

そう思っていたが甘かった。

重力に逆らい、大跳躍したまでは良い。

ただ、予定していた高さを過ぎてもなお、上昇していくではないか。

 

「おーい、如月。戻ってこ~い」

 

講師が呼ぶも、既に彼は校舎の高さを遥かに超え、豆粒ほどの大きさに見えるまでに跳んでいた。

見ている生徒も、彼を見上げに見上げ、上げすぎて後ろに転んでいる者もいる。

 

「…そのうち下りてくるだろ。時間も勿体ないし、シャカシャカ行くぞ。次!11番…」

 

 

 

おかしい…また力加減を間違えてしまった。

学舎を眼下に見ながら、少年『レオン・如月』は思案した。

まだまだ上昇していく高度。このままでは『人類初!生身で大気圏離脱!』などという偉業を成し遂げてしまうかもしれない。それはそれで魅力的だが、歴史に名を残す、と言う意味合いで、生身で大気圏を離脱し、真空の宇宙空間で、表現するのもはばかられるようなグロ肉と化してしまうのが関の山だ。

眼下に雲を見下ろせるくらいまで上昇してきた。ほぼ垂直に飛び上がったように見えて、その実上空の風に多少なりとも煽られているので、着地地点の予測が出来ない。というか、息が苦しい。そう思っていたら、徐々に高度が下がってきた。どうやら最高度まで達したようで、あとは放物線の軌道を描いて落下していくだけ、だ。あとは神のみぞ知る先。

耳元を風が切るように唸る。暴風が耳元で息巻いているように。

迫るのはよく知る学校。どうやら殆ど着地地点の差異はないみたいだ。

これは重畳。願ったり叶ったりだ。

 

 

 

「お、如月のお帰りだ。全員退避!」

 

鶴の一声、とはよく言った物なのか、それともレオンのコレが日常茶飯事で、クラスメイトには浸透してしまっているのかは分からないが、規制の取れた集団のようにそぞろと落下地点を空ける。

ほぼ、校庭全土を彼の着地地点として確保したのか、生徒が居るのは校舎の屋根の下である。校舎内で勉強している生徒も、窓際の席の者は顔を覗かせて、

何事か?

ああ、いつもの人だな。

と、自己問答しているのが様式美となっているようだ。

 

 

物質が落下する独特の笛を鳴らすような音の後、St.ヒルデ魔法学院初等科の校庭に爆音にも似た轟音が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教諭からの錚々たる説教と、強化魔法のなんたるか、そしてその素晴らしさを延々と聞かされ、空腹を訴える腹の虫の鳴き声を残して職員室を後にした。

自分のクラスへ向かう途中、行き交う同級生や下級生からは、

『また今回も派手にやりましたね~』

『そこにシビれる、憧れるゥ!』

と呆れと羨望にも似た声を掛けられる。実質常習犯への扱いも良いところだ。…実際間違っちゃいないけど。

まぁ校庭の手直し自体は、魔法を使った授業で使う以上、その予算を充てているのでお咎めはない。が、教師という立場上、ああ言う危険な魔法の行使は認められないので、やはりこうやって説教をしているわけだ。

 

「お、レオ!お疲れ~!毎週この時間は大抵遅れた昼食になってるなオイ!」

 

「うっさい。俺だって好きでやってるわけじゃねーし。」

 

教室に戻ると、ライトブルーの髪をざんばらに切った少年―エドガー・グレーフェンヴェルグ、通称エド―が冷やかすかのように話し掛けてくる。

レオンは軽くいなしながら自分の席に座り、カバンに入れられた弁当を取り出した。レオンのイメージに合わせた黄色のナプキンに包まれた細長い二段弁当箱は、レオンのお気に入りである。

 

「しかしまぁ…校庭にでっかいクレーター作る?普通」

 

「パラシュートなしでのスカイダイビングすればつくれるだろ。」

 

「いやいや、その前に地獄にダイビングだろ。」

 

などと同級生と馬鹿な話をするのも、一つの熟れた日常の一つ。

ちなみにこのレオン・如月。職員の間では良くも悪くも問題児として扱われている。その並外れた魔法出力と身体能力は、学院10年に1人の逸材とされながらも、100年に1人の人の形をした災害とまで称される。彼によって削られる予算は、在籍中だけで例年の数倍に膨れあがっており、事務員の頭痛の種のトップとして君臨し続けている。

 

「そーいやさ、聞いたことあるか?最近のストリートファイトの話。」

 

「んぐっ!なんだそりゃ?天に昇る龍の拳とか、独楽みてぇに回転する回し蹴りとかする、俺より強い奴を探しに行く男が出たのかよ?」

 

弁当のハンバーグを囓りつつ、友人の出してきた話題にネタを仕込みつつ言葉を返す。正直、弁当の時間はしっかり味わいたいのだが、話題を振られた以上、律儀に返していた。

 

「いやいやそうじゃなくてよ。何でも名うての格闘家とか、腕っぷしに自信ある奴とかが、『覇王』とかいう奴に挑まれて、瞬く間にやられてるらしいぞ。」

 

「中二病乙」

 

面白半分で聞きつつ、エビフライに齧り付く。どうやって揚げたのか?どんな油を使ってるのか?弁当のおかずの割に、未だサクサクの衣である。

 

「だいたい、そんなのうろついてんなら、管理局も黙ってないでしょうに」

 

「だよねぇ…。」

 

早食いのように見えて、しっかりと味わって完食したレオン。空の弁当箱をカバンに仕舞いつつ、席を外した友人の、ある単語に引っかかりを感じていた。

 

「『覇王』…、ねぇ…。古代ベルカの王じゃあるまいに…」

 

「俺もそう思ってググってみたけど、αchで調べたらいろんな仮説が立ってるのよ。やれインターミドルへの腕試しをする選手だとか、一子相伝の殺人拳の後継者の長兄だとか…」

 

「前半はともかく、後半は拳王だ。剛掌破を使わざるを得ない。」

 

「とにかく、夜道には気を付けるこった。有名人とか狙われやすいからよ。」

 

予鈴と同時にエドは話を切り上げ、自分の席へと戻っていく。他のクラスから遊びに来ていた生徒もソレを皮切りにぽつぽつと自分の教室へと帰っていく。

 

「夜道もなにも、俺に勝ってもどうにもならんだろ。格闘技を、本腰入れてやってるわけじゃないのに。」

 

 

 

 

 

 

 

放課後

クラブもなく、これから帰って何をするべか…、と校門を出る。特に誰と連なって帰る訳でもなく、カバンを肩越しに下げて欠伸を噛み殺しながら自宅へ向かって歩き出す。

帰って昼寝もありか…?

それも良いが、たまには街に繰り出すか?

そう思案していると、気が付けばクラナガン中央区にある公園に足を運んでいた。

周囲を見れば、ジョギングをする老夫婦や、愛犬の散歩をする人々。あとは…リア充がイチャコラしながら歩いているくらいなものだろう。

手頃なベンチにドカッと座り込んだ。実を言うと、膝がまだジンジン痛んでいる。あの着地の衝撃は、身体強化を以てしても防ぎきれるものではない。保険医にも診て貰ったが、一晩すれば治るだろうという。

両の手を押っ広げてベンチに背を預け、空を仰ぎ見る。

晴天、だ。見ていて気持ちの良いくらいに。それをこれ見よがしに鳥が目の前をよぎっていく。

…正直うらやましい。

自由に飛べる鳥が。空戦魔導師が。

そんな現実逃避しているようにも見えなくもない初等科五年生。その視界に、ブロンドの髪の少女が入ってくる。覗き込むのは赤と緑のオッドアイ。ぴょこんと跳ねる一部両サイドに括った髪がチャームポイントだ。

 

「レオン君、どーしたの?こんなとこで黄昏れて。」

 

「…誰だおめぇ?」

 

そんなレオンの返しに、少女は『ガビーン』と効果音が鳴っていそうな、仰け反りのリアクション。

 

「ひ、ひどい…4年来の妹分を忘れるなんて…」

 

若干涙目なのは見間違いではないだろう。が、こうやっておちょくって、ころころ変わる彼女の表情が楽しくて仕方ない。

 

「俺の4年来の妹を名乗るんなら、も少し俺というキャラを捉えるんだな。ま、そう簡単に捉えさせないのが俺クオリティ。」

 

むぅ…と頬を膨らませ、むくれる。

 

「そう怒るな怒るな。ほれ、そこの屋台のクレープ。喰うか?」

 

「食べる~!」

 

この辺はまだまだお子ちゃまだな、と、しみじみ思う。4年前、機動六課の件で出会ってから、歳も近いと言うことで、えらく懐かれたものだ。

今の彼女-高町ヴィヴィオ-の母親である高町なのはと、レオン・如月の姉は同郷の仲で、10年以上、共に空を飛んできている。

 

「ヴィヴィオは何にするんだ?」

 

「えっとね…イチゴ!」

 

「じゃ、それとブルーベリーを。」

 

「フフフ…しばし待ちたまえ。」

 

応対したのは紫の肩辺りまで伸ばした髪。琥珀色の何処か狂気染みた眼が印象に残る。代金を渡すと、さらりとした生地を、丸い鉄板に薄く伸ばす。ふわりと漂う甘い香り。隣でヴィヴィオがゴクリと生唾を飲み込む。

ある程度生地が焼けたら、慣れた手つきでひっくり返す。少し裏面を焼くと、生クリームやカスタード、そして各々のフルーツソースを掛けていく。

 

「こっちがストロベリー、こっちがブルーベリーだ。しかと味わってくれたまえ…ククク…」

 

「わ~い、ありがとう~」

 

「どうも」

 

クレープ屋の設置したであろう、白い丸テーブル付きの椅子に向かい合って座る。…流石に食べ歩き、というのも行儀が悪い。

 

「いただきま~す。」

 

「いただきます。」

 

奇しくも同時にかぶりつく。口にした瞬間、柔らかいながらも、モチッとした生地に、濃厚なカスタードクリームと、ふわふわのホイップ、それに独特の酸味が堪らないフルーツソースが見事にマッチしている。

 

「お、おいしい…!」

 

「むぅ…これは…確かに…」

 

「喜んで貰えて何よりだよ。無償奉仕、と言うのも悪くはないね。…しかし、料理というものはここまで奥が深いか…。無限の欲望、と呼ばれた私も、生命の研究以外でここまでのめり込ませるものとはね。いや、料理というものは命を繋ぐ物だ。大本は変わらんか…ククク…ハハハ…ハァーッハッハッハ!!はがっ!?」

 

「五月蠅いぞスカリエッティ。不気味な高笑いをするな。気味悪がって客も来ないぞ。」

 

狂気に満ちた大笑いを、ハリセンでぶっ叩き黙らせる。銀髪の左目を眼帯で隠している女性が仁王立ちしていた。

 

「スカリエッティ…って…あのジェイル・スカリエッティ!?」

 

「あ…ぁ…!!」

 

過去にされた体験から、ヴィヴィオは反射的にレオンの陰に隠れてしまう。その眼は恐怖で満たされており、多少過呼吸染みている。

 

「なに、聖王閣下。私は何も取って食おうというわけではないのだよ。今は社会に無償奉仕する哀れな囚人さ。」

 

「そういうことだ。コイツは私がふん縛ってでも社会奉仕活動させる。もう悪事も働かせはさせないさ。」

 

「ってハル姉が見張りしてんの?特査官がなんでまた…」

 

「お前もそう思うか?私もとんだ貧乏クジだと思っているよ。」

 

ハル・エルトリア

陸士108部隊に所属する特査官で階級は二尉。

レオンの姉の友人で、幼い頃から面倒を見て貰っているので、親しみを込めて『ハル姉』と呼んでいる。とある事情から眼帯をしているが、別に中二病だとかそう言うのではない。銀髪・眼帯という共通点から、ナカジマ家次女と最近よく絡んでいるとか。

 

「ま、この変態が社会貢献するんなら職業冥利に尽きるというものだ。…幸いにしてクレープに限らず、調理には興味を示しているからな。生産的で良いと思ってはいる。…ただ…。」

 

「ククク…、さぁ!私の試作品の実験台になりたい者は来たまえ!今なら特別価格で支給しようじゃないか!」

 

「こーいう客引き、客を呼ぶんじゃなく、客をどん引きさせる意味合いでは、向いているとは思っている。」

 

声と手を高らかにし、白昼の公園のど真ん中で叫ぶ。味はともかく、作り手と売り子がこれでは客足は遠のいているのだろう。現に周囲に人は殆どいない。

 

「あ~、スカリエッティ…さん?」

 

「ん?なんだい少年。もう一つ食べるかね?なんなら、姉に土産として持って帰るのも…。」

 

「…変な薬とか入れてねーだろな?」

 

「失敬な…!私がそうすると言う根拠は…」

 

「自分の胸に聞きやがれ。」

 

数多の次元世界に指名手配されていた違法研究者という現在進行形で償っている罪はどうだというのか?こうしてシャバの空気を吸えるだけでも、寛大な処置だとも思うが、それはそれ、JS事件における彼の本懐が、ある程度の減罪に繋がっているからこそ、こういうことが出来るのだろう。

 

「ヒカリ君はご健勝かね?…風の噂によれば、御両親が開発した次世代のデバイスのテストをしているとか。」

 

「ん?あぁ…えらく意気込んで入るけど、身体を壊さねーか心配だ。親父もお袋も、ねーちゃんも、な」

 

「そーいえば、なのはママも研究班の人達は、新しいタイプのデバイスの…カンペ……?があるから、ドタバタしてるって言ってたよ。」

 

「それを言うならコンペ…コンペティションだな。複数の新作品の競合、品評会みたいなものだ。上層部が戦力に組み込むに値するか判断を下す…まぁ選挙みたいな物か。」

 

レオンの両親は、以前開発したヒカリのデバイスの実績により、ある程度の昇進を認められた。しかし、民間人に、娘とはいえ、独自の最新技術を開示したとあって無罪放免とは行かなかった。しかし、実績からさし引いてもお釣りが来るほどなので評価自体は認められた。実際、10年以上前にヒカリ用に開発されたヴァルキリーは、彼女とのマッチングが最適だったのもあるのだろう。時折アップデートをしつつも未だに最新鋭のデバイスと謙遜無いほどに性能も高い。勿論、ヒカリの努力もあるが、それが噛み合っているからこそ無二の相棒として存在し続けている。なのはや、フェイトには一歩及ばないが、それでも高い戦闘力を持っているのには違いない。

 

「疲労回復には甘い物を摂取すると良いらしいがね?…おっとそう言えば目の前に良さげなクレープ屋があるではないかね?ん?」

 

「…確信犯め…。」

 

「確信犯、というのは計算高いと褒めて貰っていると捉えても構わないかな?」

 

そういうと、スカリエッティは持ち帰り用にクレープをコンビニなどで売られているような、ふっくらとした長方形状に整え、包装していく。数は三つ。それを袋に入れてレオンに渡してきた。

 

「…注文してないけど?」

 

「なに、サービスだ。とっておきたまえ。」

 

「なんか裏があるんじゃないの?」

 

「なに、新しいメニューの試作品だよ。…今度会ったときにでも、感想を聞かせてくれたまえ。ククク…。」

 

最後の笑いが蛇足でしかない。…というか、それが原因で胡散臭さが抜けきらないと何故気付かないのだろうか。

 

「…ま、一応礼は言っとくよ。サンキュ、変態博士。」

 

「フッ…最高の褒め言葉だよ。」

 

どうにもこの男、SなんだかMなんだか分からなくなってきた。未だ少し表情の硬いヴィヴィオの手を引いて公園を後にする。

 

 

「そう言えば…」

 

「ん?」

 

大きな主流道路を渡ったところで、黙っていたヴィヴィオが口を開いた。流石に交通量も多いとあって車両の音に少し掻き消えそうだったが、拾えるくらいの音量だったので、返事をしてみる。

 

「レオン君、また校庭で大惨事起こしてたよね?」

 

「…ナンノコトカナ…」

 

「いや、とぼけられても察しは付いてるんだよ?」

 

「ぐぬぬ…」

 

学校では教師にお小言を喰らい、帰路でヴィヴィオに会えば突っついてくる。コレではどちらが年上か分かったものではないが、辛うじて背の高さでレオンの年上としての尊厳が保たれている、と言っても過言ではない。

 

「いやだってよ、加減が出来なかったから仕方ねぇじゃん?」

 

「それ、何回目の言い訳なの?」

 

ヴィヴィオの言うように、彼の校庭…いや、魔力による破壊は日頃からである。

魔力弾の的充てと言えば、的が摩耗しにくいようにと魔力コーティングされているにも関わらず、超濃縮した魔力弾によって的を粉々にぶっ壊す。

武器への魔力付与と言えば、器具として用意された杖同士での打ち合いで、相手の物をぶっ壊す。

逆にシールドで防ぐ時には、相手のボールスピアが弾かれてぶっ壊れる。

etc.etc…

 

「レオン君、魔力量と出力は高いけど、制御がからっきしだもんねぇ…。」

 

「ぐぬぬ…。」

 

言うなれば彼の魔力は、常に全力で出されている。

強化をするならフル強化。

撃てば最大出力。

つまり蛇口の栓が常に全開なのだ。それだけに魔力量を測定したらAAAランクの膨大な量でも、出力調整を行わずにばんばか撃とうものなら、すぐにガス欠を起こす。フルマラソンで後先考えずに全力疾走しているのと同じ事だ。常に全力全開状態。

対して姉のヒカリは、魔力量こそBと決して高くはないランクなれど、魔力制御はSランクに値し、デバイスの貯蔵も相まって継続戦闘能力も高い。更に言うと、並列思考能力や探知技能も高く、数多の武装を使いこなす上で、距離や敵のタイプによって適切な武具をセレクトし、使用する上でとても大切になってくる能力だ。

姉弟が相反する能力を持って生まれた、と言うのも、この2人の大きな特徴の一つである。

 

「ま、ウチの姉ちゃんは器用だからな…。その技能を少しでも良いから肖りてぇよ。」

 

「教えて貰ったらいいんじゃないの?」

 

「それはそうなんだが…」

 

以前一度だけ、教えて欲しい、と懇願したことがあった。彼女は『OK』の二つ返事で快諾してくれたのだが…

 

「だが…?」

 

「…ヴィヴィオは学校の授業、効果音ばかりで教えられて、分かるか?」

 

「え…と…わかんない?」

 

「つまりはそういうことだ。」

 

「あ、あぁ~…」

 

何となく察しが付いてしまった。

恐らく彼が言わんとしているのは、

『直射弾の出力調整は、こう…ぎゅっとして、ずど~んとするんだよ!』

とか、

『探知魔法はこう…ぴき~んって来る感じで、相手をびびっと探すんだ!』

…こんな感じである。ニュアンスがアレ過ぎて、魔法学云々よりも感覚で術式の制御をしているようにしか思えない教え方だった、とレオンは語る。

 

「すげぇだろ?…あれでお前の母さんと同じ、教官職なんだぜ?…嘘みたいだろ?」

 

「で、でも、戦技教導と技術開発とだよ?ある程度の差はあるんじゃないかな~…?」

 

「差云々よりも、姉ちゃんの言語力に不安を感じるんだよ。」

 

あれでよく教導隊に居れるものだ、とレオンはため息を一つ。簡単に制御ができれば苦労はない。今のレオンは高い魔法資質が持ち腐れとなっているに等しいのだ。何かしらの解決策がなければ、最悪赤点になりかねない。魔法の威力で、制御の減点を痛み分けしているに過ぎない現状で、進級して緻密な制御を求められる実技になればなおのこと。

 

「…ま、なるようになる、かね。」

 

歩きながら後頭部で手を組み、公園と同じように空を仰ぎ見る。空の一部は茜色に染まりかけていた。

 

「ちょっ…レオン君、前を見てないと…」

 

「おわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

案の定、路地から出て来た歩行者とごっちんこ、だ。間の抜けた声と、相手は少女らしい声が耳に入る。ドスンと双方強かにお尻をコンクリ製アスファルトに打ち付ける。

 

「いつつ…」

 

「ほら、前を見てないから…すいません、大丈夫ですか?」

 

本当にもう、と軽く叱りながら、相手の少女を気に掛けるヴィヴィオ。手を差し出しながら、相手を一瞥する。

プラチナに限りなく近い、ライトグリーンのツインテール。それに映える赤いリボンが印象的だ。そして服装は、白いブラウスに深緑のロングスカート。これはST.ヒルデ魔法学院中等部の制服か。

 

「は、はい…ありがとう…ござい…」

 

手を取り、目を開いた少女とヴィヴィオの目が合う。

ヴィヴィオの赤と緑に対し、青と紫の虹彩異色。その二つの眼が、信じられない物を見た、と言わんばかりに見開かれる。

手を握ったまま、自分の目を見て固まっている彼女に、ヴィヴィオの頬にタラリと汗が流れた。

 

「えっと…私の顔に、何か付いてますか?」

 

「あ、い、いえ、何でもありません…。」

 

ぱっと素早く立ち上がった少女は、スカートの埃を払い、一礼すると、足早に市街地の喧騒に消えていった。

 

「…せっかちな奴だな…、俺、まだ謝ってねぇのに…」

 

「ん~、すぐ会えると思うよ。機会があれば。」

 

そうして再び我が家へと向かって歩き出す2人を振り返り、見つめる双眼があった。

青と紫の瞳。それが2人を…ひいてはヴィヴィオをじっと…。

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、またな。」

 

「うん、送ってくれてありがとう。」

 

家に帰るついでだ、と、背を向けて手をひらひら振る。住宅街にある高町家へとヴィヴィオを送り、帰路に着く。まぁここから歩いて5分とも掛からない距離に自宅があるので、そう急ぐ必要もない。…が、どうにも気になることがあったので、少し遠回りしてみることにした。

 

「…で?何なんだ、アンタは。」

 

住宅街はずれの公園。そこの広場に辿り着いた時に足を止めて、誰にともなく声を掛ける。端から見れば、誰もいない状態でそう声を掛ける、と言うのは奇怪な物に見えなくもない。だが、それを聞く相手がいれば話は変わってくる。

 

「…驚きました。気配は消していたのですが。」

 

振り返ってみれば、銀碧のツーサイドアップにし、髪色にあわせた銀碧と白とを基調にした、胴着のコンセプトをある程度引き継いだような物を着込んでいる女性。歳は十代後半だろうか?バイザーを付けていて顔は分からないが、そう思えた。

 

「…で?住宅街に入った辺りから付けてたな?…ツレに用はないなら、俺に用か?」

 

「…はい。…貴方に尋ねたいことが幾つか。」

 

「内容にもよるけどな。…て言うか、こそこそしないとダメなのかよ?」

 

「1つ目…、今年のアイアンアスレチック年少部優勝者レオン・如月さん。それで間違いはないでしょうか?」

 

「聞く耳無しか?…そーだよ。サインなら受け付けてねえけどな?」

 

「二つ目、先程、一緒におられた少女について…知っていることを。」

 

冗談も通じないのか?それ以前にやっぱりヴィヴィオについてのことを知りたがってるじゃないか。

心底で舌打ちすると、

 

「4年来の馴染みだけどな。あと、家族ぐるみの付き合いがあるくらいの妹分だ。」

 

「…他にはないのですか?」

 

「は?」

 

「聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒト…彼女との関係性について…」

 

ピクリ、と眉をひそめる。ヴィヴィオの生まれについては気にしていないし、今更自分がどうこう言うつもりもない。

しかし、目の前にいるコイツは、そう言ったことを勘ぐってきている。何かしらの情報の片鱗を持っている。知ってどうするつもりか。それ自体が気にはなるところだが、放っておけば本人へ飛び火するかもしれない。

 

「…知らねぇな。俺に取っちゃ大切な妹分だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。…俺が答えるのはそれだけだ。」

 

「そうですか…では。」

 

ようやく話を切り上げてくれたか。そう安心していたレオンは、その予想を裏切られる。

 

瞬時に5メートルはあったかと思う距離を、彼女は詰め、眼前に左拳を寸止めした。直後、顔面を襲う風、いや、拳圧とも言うものか。突き出された拳は、文字通り風を切るほどの速さと重さだった。ふわりとレオンの前髪が舞い上がる。

 

「…怯みませんね。」

 

「…何の冗談だよ?」

 

流石に目の前に拳を突き立てられ、何も感じない程にレオンは大人でもない。多少の苛立ちが言葉に怒気を含ませる。

 

「アイアンアスレチック優勝を飾るほどの身体力。先程の寸止めに対する心胆。…格闘技の心得があるとお見受けしました。…手合わせ願います。」

 

一歩下がり腰を落とす。右拳には力が込められているのがありありと分かる。グローブの軋む音が聞こえるくらいだ。

 

「…アイアンアスレチックやってたからって、格闘技の心得があるとか、勘違いも良いとこだろ!それに、さっきの寸止めに対しては、拳が早過ぎて対応できなかっただけだよ!」

 

一応、ヴィヴィオのストライクアーツの組み手をしたり、ヒカリやシグナムからの剣の手ほどきはある程度受けている。が、目の前にいる格闘技の、それも達人クラスと予想できるような相手に太刀打ちできるような腕前でもない。

ただ、囓っただけ。

腕に自信もなければ、自惚れてもいない。

 

「それは、打ち合ってみれば…わかります…!」

 

話を聞いてって!

あぁ!もう!

どうしてこうなるのか!

なのは姉を呼んできて良いかな!?

そんな自己問答をしている間にも、顔面があったところに右ストレートが、ガスに引火したかのような風切り音と共に通過した。レオンは辛うじて上体を仰け反らせ、いわゆるスウェー。昔の映画であったマトリッ○ス避けを披露する。

そのまま勢いに任せ、バク転へと移ると、腕の力を利用して大々的に跳躍。距離を取る。

 

「…やはりその反応…実力者とお見受けします。…挑戦を…受けて下さいますね?」

 

「だ、だから…俺は……」

 

いい加減にしろ。そう言いたかった。

しかし。

相手の口から、レオンの感情の琴線に触れる、聞き捨てならない言葉が発せられた。

 

「怖い、のですか?…なるほど…弟がこれでは、姉のヒカリ・如月二尉の実力も噂ほどではありませんね。落胆も良いところです。」

 

「……オイ…!」

 

言ってはならない、禁句(タブー)を言ってしまった。

 

「俺のことは、臆病者だろーが、根性無しだろーが、好きに言いやがれ…」

 

言葉と共に発せられるのは、爆発的な魔力の本流。

 

「だがな…!姉ちゃんの……侮辱だけは…!」

 

全身に魔力を循環させ、一歩を踏み出す。その一歩、人のそれと思うなかれ。アスファルトに大規模な亀裂が走り、レオンの怒りに呼応するかのように広がっていく。

 

「取り消しやがれぇっ!!!」

 

踏み込んだ速さは、相手の比ではない。振りかぶった拳が、彼女の腕の防御を殴り抜いた。

 

 

 

 

レオン・如月。

極度のシスコンである。

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