魔法少女リリカルなのはVivid『閃光の獅子』 作:ロシアよ永遠に
第71管轄世界『クラウド』
数多ある次元世界の中で、極めて珍しい惑星の一つに数えられる。
科学技術で次元渡航はミッドチルダに一歩及ばずながら、高い発言力を持つに至るその世界の一番の大きな特徴は、出身者の身体能力の高さと抗体である。
まず、地球、そしてミッドチルダの重力対比はほぼ同じだ。これは次元世界ではある程度共通しており、多少の差異はあってもそこまで大幅なブレはない。人が生きる上で、重力もさることながら、水質、大気、天候、生態系その他諸々が重なって、それが成り立つ世界に人間という生命が更に生まれる可能性は更に厳選される。そしてそれが文明を築き、次元渡航の技術を持つまでは更なるふるいに掛けられ、その過程で滅ぶ世界も多々ある。
しかしこのクラウドは異質だ。まずその重力。先程挙げた重力比を用いるなら、地球に対して3という重力。これは並大抵の地球やミッドチルダの人間ならば、歩くことはおろか、立つことも難しいとされている。
加えて大気の質。これも異質であり、地球やミッドチルダは大まかに見れば、窒素8、酸素2が大気の大半を占める成分だ。その中で細々とした様々な大気成分がコンマ以下の単位で漂っている。
しかしクラウドは、窒素9、酸素1という少ない酸素量。
重力、大気の厳しい環境。その中で揉まれ、育った人種、俗に言えばクラウド人。その身体構成は地球の人間と何ら変わりは無い。しかし、その身体能力は人間でも極めて高く抜きん出ており、ミッドチルダでその力を振るえば圧倒的ともとれる。それだけに陸戦隊はその力を重宝している。
しかしそれの代償なのか、魔導師ランクの高い人物は多く確認できておらず、あくまでも己の肉体を補助するにしか至らない域を出ないのが現状だろう。そして何よりも、管理局へ入局志願する人物はほぼ稀、と言うことらしい。
閑話休題
そのクラウドの管理局支部。転送ポートの光が一室を包み、中からレオンが姿を現す。少し大きめの青いボストンバッグを肩掛けにし、少し動きやすいトレーニングウェアを着込んで転送ポートを後にする。部屋を出たレオンは入国手続きを取る初老の局員に渡航許可証と身分証明のデータをディスプレイに表示する。
「はい、許可証確認しました。滞在期間は…三泊四日…ですね?目的は?」
「観光…っていうか修業、ですね。」
「ははぁ、高い重力で身体を鍛えられるし、酸素濃度が低いから、って来たクチかい?そーいう人、結構居るんだよね…。」
何処か遠い目をする局員は、支部の中を先導をしつつ、今までの渡航者の話をする。
確かにクラウド人の身体能力に憧れて、ここへ修行に来る奴らの数は知れない。同じような環境を用意する施設はあるにはあるが、常時そんな環境でいるわけではない上に、利用料金もそこそこ値は張る。比べてこの星への渡航料金自体はそれ程高くはなく、こぞって訪れる奴らが居るわけだ。
しかし、そんな彼らに厳しい洗礼が待っていることを知らない。
「ほら、アレが出口。そんで、そのすぐ先にあるのが…」
出口と聞いて目にした先。支部の敷地であろう仕切りを一歩抜けた場所。そこには、24㎝ほどの靴跡が付いたコンクリート。それを囲うかのように、まるで展示品を鎮座させているような、いや、観光名所の案内のような、そんな支部の入り口に不釣り合いな物が設けられていた。
「あれね、クラウド人が皮肉めいて作ったオブジェだってさ。コンクリートが固まってないところに、やって来た人が足を突っ込んでね。更に重力で動けないし、さらに酸欠起こすわでめちゃくちゃだったらしいよ。なんでも命名は『愚か者の一歩』とか何とか…」
「随分皮肉めいた命名をするもんですね。」
「まぁ、何というかこの惑星に住まう人は、その中での自尊心めいた物があるからね。そう簡単にこの過酷な環境で生きてきた自分たちと同じように適応されるのも面白くない。だから、修行というだけで自分たちの惑星(テリトリー)に踏み入れられるのに嫌気があるんじゃないかな?」
一応、支部の敷地内には重力制御と空気成分を適応させているので、この中でなら普通の局員も勤務に問題は無い。しかし、一歩外へ出れば、過酷なクラウドの環境がその牙をむく。まさにあの出口は新世界への門と捉えても過言ではない。
しかし…
「でも…それを超えなきゃ、その環境を超えなきゃ強くなれねぇ…。だったらあの出口からの一歩。それは登龍門。乗り越えるべき壁だな。」
迷うことなく出口に向かう。
目の前の景色はミッドチルダと同じような街並みが見える。
しかし、それを取り巻く過酷な惑星環境。
迷うことなく進んでいた足並みも、一歩手前で踏み止まる。
ここまで来た。
だったら迷う必要は無いはずだ。
ごくりと固唾を呑み込む。
一緒に躊躇いも呑み込んでいく。
隣のオブジェと同じように、右足一歩を踏み出した。
いきなりズシリと体全体に錘が着いたように動かなくなる。足が言うことを聞かずに膝を曲げそうになる。
…なるほど。
重力3倍は伊達じゃないか。
歯を食いしばり、冷や汗をたらしながらも、その口許は笑みを浮かべていた。
やはりこの惑星にきて正解だった。
ここでならきっと…!
薄い酸素で少し息が上がりながら、左足もクラウドの重力圏内に踏み入れた。
曲がり掛けた腰を踏ん張って伸ばし、しっかりと身体を、胸を張る。
本気で…この惑星と向き合ってやる。
その目の闘志は尽きることなく、クラウドの大地を一歩、また一歩と進んでいく。
バッグも、その重量を増して入るが、それは大したことはない。重たくなった身体を引きずるように奮い立たせ、大通りへと踏み出した。道行く人々からは、皮肉めいた視線。若干の笑い声が聞こえている。
…なるほど確かに。
あんなオブジェを作るくらいに人を見下してるな。
しかしそんな逆境すらレオンへの推進剤に過ぎず、前を向かせる一因に過ぎなかった。
「えっと…確か姉ちゃんの話だと、支部の前でお世話になる人が待っててくれるって…。」
「…よう!ようやくお着きだな?レオン・如月。」
向かって左手から、青い髪をした男から声を掛けられる。年は…20代後半から30代。無精ひげを生やし、黒のノースリーブの薄手のシャツに、黒のジーンズといったラフな格好。開いた胸元からドクロを模したシルバーアクセがキラリと光る。そして何よりもこの惑星の環境所以のものか、かなり筋肉質なのが見て取れる。
「貴方が…俺の世話をしてくれる?」
「おう、クラウド支部所属のスロゥ・アドヴァンスっつうもんだ。…なる程、確かにヒカリ嬢とソックリだな。見間違えかけたぜ。」
スロゥと名乗った男は顎に手をやりながら、右や左、上からレオンの顔をまじまじと観察する。
そうまでジロジロみられるのは好きではない。すこしずつ不機嫌なのが顔に出て来ているのか、スロゥはその行為を止めた。
「とりあえずだ、お前さんは滞在期間中は俺んちに寝泊まりしながら鍛錬する事になる。ま、訓練云々は抜きにしても、しばらく同じ釜の飯を食うんだ。仲良くしようぜ。」
「はい、よろしくお願いします。」
「…かぁ~っ!硬ぇ!もっと砕けてくれ!そんな畏まっていたら背中がむず痒くて堪んねぇ!もっとこう…フレンドリーにだな?」
「さすがに泊まらせて貰うのに砕けた喋り、と言うのは…」
「家主の俺が良いっつってんだよ。だから遠慮すんなよレオン!」
ずいぶんとまぁ、子供染みた感も拭いきれない男だとレオンは思った。一応、居候の身とあっては礼を失することがあってはならないという彼の思いもあるのだが、こうまで言われては従うしかないのかと思ってしまう。だが…
「それじゃ…宜しく頼む、スロゥさん。」
「おうよ!」
白い歯を見せて、子供のように満面の笑みを浮かべるスロゥ。肩肘張らずに接する人間がいることによる安心感、と言う物がここまで気を晴らしてくれるのか、と改めてレオンは思った。この地に降り立った時の不安など、マイナス感情が一気に吹き飛ぶように感じた。
黒塗りオフロードタイプの大型乗用車に乗り込み、二人はクラウドの首都『アルゴール』を抜けていく。
オフロードのような荒れた道を走ることを想定されている構造からか、クッション性能は高く、乗り心地も苦にはならなかった。
最初の重力に関する重さも、酸素濃度の低さから来る息苦しさも、少しずつ慣れてきたのか楽になってきているのが解る。
「ヒカリ嬢とは3年ほど前だったか。ちょっとしたデバイスのテストを頼んだときに知り合ってな。それからちょくちょくデバイスのメンテの仕上がりとかを頼むようになったんだよ。」
「…へぇ…、でもクラウドの人達ってほとんど生身で戦ってるイメージがあるけどな…」
「おいおい、俺たちだって人間だぜ?育った環境がお前さんらと違うだけで、後は何ら変わりねぇ。酸素が無けりゃ呼吸できねぇし、刺されりゃ血も出るし、死ぬ時ゃ死ぬんだ。」
「姉ちゃんは…この星に来たことが?」
「あぁ、あるっちゃあるな。外に出た瞬間、コンクリの固まり掛けに足を突っ込んでたな…、いやいや、あの頃が懐かしいぜ。」
………支部の玄関口のオブジェクト…、アレの足型の主って…。…いや、考えるのはよそう。
信号待ちの際、スロゥは懐からたばこを取り出し、火を灯して一服する。出来るだけレオンに当たらないように窓側に出来るだけ留めておくのは、彼なりの気遣いか。
「あと、そうだな。今回の修業にあたって、お前と一緒に受ける奴がいる。後で紹介するからよ、まぁ仲良くしてくれや。」
カラカラと笑うスロゥを横目で見ていると、車がとある一戸建ての前で駐車する。彼はエンジンを止めると、車を降りて家の中を目指して歩いていく。
「おら、着いたんだから降りて荷物を下ろしな。部屋まで案内すっからよ。」
どうやら、ここがアドヴァンス家のようだ。…なる程、地球でいえば洋式の煉瓦造りとも見える、少し古風な雰囲気を持つ家屋だった。しかし、玄関先に置かれたプランターに植えられた見たこともない花々が丁度良いアクセントになり、じつに柔らかな雰囲気を醸し出している。
座った状態から身を起こすのにも一苦労。これはなかなか苦労しそうだ。
だが、途中で投げ出して帰る気はさらさら無い。皆からカルナージへ合宿への誘いを断ってまで来たのだ。それを途中でリタイヤしました、なんてどの口が言うのか。
「よっし!気合い入れていきますか。」
ボストンバッグを肩から掛けて、スロゥの後に続く。
玄関を抜け、
廊下を歩き、
階段を上る。
その先にあった一つの部屋を扉を開く。
「ここがお前さんが4日間過ごす部屋だ。あるものは自由に使って構わねぇからな。あと、トイレは階段を下りてすぐの扉だ。」
「あ、ありがとう…」
「おう!んじゃ、今は14時半だから…15時半まで好きにしていろ。それから着替えて早速トレーニングすっぞ?」
「え?すぐに始めるんじゃ…?」
「…お前な、慣れないこの星の環境は一挙一動がお前の体力を奪うんだ。だから肉体的は勿論、精神的にも少し休憩しろって事。」
「は、はぁ…。」
「だがまぁ安心しろ。トレーニングが始まりゃ、ヒィヒィ言わせてやるから覚悟しておけよ。」
ニヤリと笑った顔に印象を残しつつ、スロゥは部屋を後にした。
とりあえずは荷物の整理をしなければならない。ベッドの上にバックを置いて、身の回りのものを取り出していく。
着替え。
タオル。
洗顔用具。
その他etc.…。
そして何よりも、
「よう、ブリュンヒルデ、四時間ぶりか。」
『そうですね。重力がいきなり変動したのはさすがに驚きはしましたが。』
「あ、確かに俺もビックリしたけどな。これだけ負荷があれば、かなりの鍛錬になる。酸素も薄いし、スタミナも上がるはずだよな。」
『しかし、酸素と同時に、魔力素もミッドチルダと比較して薄いですね。』
チカチカと碧のコアが会話する度に点滅する。周囲の大気成分と同時に、魔力素濃度も測ったらしい。どうやらクラウドの人々の魔力値が低いのも、この魔力素の薄さが関係しているのかもと言う憶測が出来る。
『周囲のマッピングデータも取得できました。少し外を歩いてみるのも良いのでは?4日間とは言えども、寝食する世界なのですから。』
「…それもそうか。んじゃま、散歩に踏み出すとしようぜ。…もしかしたら、最初で最後の息抜きになるかもだからな。」
不吉な予想を立てつつも、そうでなければ修行では無いという納得もある。それだけにできる限り心身ともに万全で挑まなければ身にはいるかどうか…。
取り出した日用品を再びバッグに詰めこみ、自室を後にした。
「…慣れてきたってことは肩が凝るな。まぁいつも以上の負荷だから、仕方ないか。」
『主は普段から頭がおかしいくらい筋トレで鍛えているので、その延長線上の鍛錬と考えれば。』
「今お前とてつもなく失礼なことを宣いやがったな?」
『記憶に御座いません。』
「オィィィッ!?」
とまぁ、アドヴァンス家の玄関先に出るまでに一通り日常的な会話を済ませると、空を見上げる。
春真っ盛りの心地良い日差しと風。青と白のコントラスト。
うん、良い天気だ。そう考えられるほどに少し余裕が出て来ている。
重力による負荷に関しては、魔力素の濃度に応じて、吸収量と同一の使用量で身体強化していて、それで何とか少し体が重い程度に抑えられる。どこかの野菜人も言っていたが、日常的にある程度の負荷を掛けることで体を慣れさせる。それによって自身の力、その底辺の底上げに繋がる。
「近くになんか施設みたいな物はあるか?徒歩で10分圏内で。」
『サーチ……検索件数3件。マーケット、公園、公共スポーツセンター。』
「へぇ…なんか周りに頻繁に利用しそうなところが揃ってるんだな。…まぁマーケットと公共スポーツセンターはパスだな。この世界のお金はまだ持ってないし。となれば消去法で公園か。」
『主にしては賢明な判断かと。』
たたき割りたくなる衝動に襲われつつも、ここは大人の対応として冷静に、そして気持ちを落ち着かせる。
OK、深呼吸。
「COOLになれCOOLに…!そう…破砕したくなる症候群を抑えて…!」
『それは発症するようなフラグです、推奨出来かねます。…とか何とか言ってる内に、スロゥさんとの待ち合わせまで50分を切りました。こんなの時間の浪費です。チャキチャキいきましょう。』
こんなのでもデバイスとしては完成の域に達しているのがスゴい。レオンの脳内で、『このデバイスが(ある意味)スゴい!』のランキングにダンチでトップに躍り出ている。問題はAIか。ちなみに二位は…なぜかレイハさんです、ハイ。
話を戻す。
世界に入ったときの重苦しさは、当時と比べてかなり緩和されている。それでも地を踏みしめる足は重力の差からか強くなるもので、端から見れば機嫌は悪くは無いのに、地団駄を踏みながら歩いているようにも見えた。
「なんつーか、力加減が難しいな。靴とかすぐにお釈迦になりそうだ。」
『ミッド通貨を換金して、クラウドの靴を買えばよろしいのでは?恐らくはここの環境に合わせて強固な作りになっているかと。』
「…まぁ、流石に今日は無理だろう。もう直ぐトレーニングの時間だし、…まぁ後日スロゥさんに頼んでみるか。それくらいの時間は有りそうだし。」
『支部まではアドヴァンス宅から車両を使用して約15分。公共車両を使用して、各所停車の時間、ルートを換算しても30分ですね。』
「あんまり時間を無駄にしたくは無いんだけどな。時間が限られてるし。」
三泊四日の泊まり込み。が、実際は今日の午前を含め、最終日の夕方には帰りの時間。となれば、睡眠食事諸々を含めると、実際よりもかなり短い時間となるのだろう。となれば、靴を買いに行く時間も少し惜しく感じられる。
『主。』
「なんだよ?」
『あまり修行を煮詰めすぎないようにしてください。行き過ぎた鍛錬は身を滅ぼします。スロゥさんが恐らくはトレーニングメニューとスケジュールを組んでおられるとは思います。しかし、それ以上の鍛錬は出来るだけ控えてください。』
「いやしかし…、俺がここに来たのは強くなるためにだな…」
『強くなるのにも回り道、と言う物があります。唯でさえこの惑星の環境は、ミッド暮らしでの肉体である主には過酷な物で、今なお魔力による強化が無ければその負荷は計り知れません。スロゥさんのトレーニングメニューはそう言った主への配慮も含まれているでしょう。…強くなるのには反対いたしません。しかしそれ以上に身を粉にしての鍛錬は反対致します。』
何時になくAIらしからぬ感情を込めた物言いだ。…恐らくは無茶するであろう自らを配慮して、ヒカリやなのはがAIを設定してくれたのだろう。…あの二人ならやりかねない。
「OK、OK。…まぁ、無茶したらお前、チクるだろうしな。…なのは姉に頭冷やされんのは御免だよ。」
『頭を冷やされる光景を生放送で見ていたであろう主においては、その気持ちは同情しますね。』
「…それ、ティアナ姉の前で言うなよ?絶対言うなよ?」
『やはり主は、ジャパニーズコメディアンの振りと言う物が好きですね。わかりました。索引した映像データを本人の前で流しましょう。ただ言うよりももっと効果が期待できそうです。』
「だから止めとけって…。」
無駄に話の振り方が上手いというのか何というのか…。兎にも角にも、周辺の地理を実際にその目で確かめつつ、文字通り重苦しい足取りで滞在先へと戻る。その頃には、丁度良い時間に近付いていた。
もどった矢先、軒先で煙草をプカプカ吹かせるスロゥとばったり
「おう、散歩でもしてたのか?」
「まぁそんなとこ。数日間といえど、過ごす家の周辺を歩いて見て回るのも、一つの鍛錬と時間つぶしだと思って。」
「何だよ。修業の一つ目の項目を終わらせちまったのか。」
曰く、まずは周辺を歩くことで、案内兼ウォーミングアップを図ろうとしたらしい。レオンとしては図らずも段階を一つすっ飛ばしてしまったようである。…これは早くから次の段階へ映ることが出来るだけ、喜ぶべきなのだろうか。
「…じゃ、修業も次の段階へ行っても問題ねえか。」
「そ、そうだね。」
正直、狙ってしたわけではないだけに、引きつった顔で歯切れの悪い返事が出てしまう。だがここで自分に甘えては、修行の意味合いがなくなってしまう。
そう思うと、弱気な心は何処へやら。すぐに眼に意志が宿る。それを確かめたスロゥは、ニヤリと口許を吊り上げる。
「ヘタレた気持ちは吹っ飛んだな?じゃ、着替えてこい。それが終わったらここに集合。いいな?」
「押忍。」
ほんの少しばかり馴れてきたのか、少々駆け足気味に宛がわれた自室へと足を運ぶ。上々の始まりだと思った。
そう、
この時までは。
バッグから動きやすいスポーツウェアを取り出して、若干汗の染みついたシャツを脱いだ。
その時。
ガチャリと、第三者によってドアの開け放たれる音が聞こえた。
「へ?」
「あ…。」
開け放たれたドア。その先にいたのは、蒼銀の長い髪を揺らした、レオンと同じ歳くらいの少女だった。