魔法少女リリカルなのはVivid『閃光の獅子』   作:ロシアよ永遠に

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4『覇王と聖王』

「そういえば、怪我の具合は大丈夫なの?」

 

保護者組と別れて暫く後、ふとヴィヴィオが尋ねてくる。少し眉をハの字にし、心配そうな目つき。一応治りかけ、と言うこともあり、引き続き無理に動かさないように、三角巾で吊しているのがどうにも気になるらしい。

 

「少しくらいなら動かしても大丈夫にはなってきた、かな。あくまで三角巾は念のため、ってやつだ。」

 

「そっか、順調そうでよかったよ。」

 

どうにもレオンとしてはヴィヴィオ達へ思った以上に心配掛けたようだ。覇王に挑んだのをほんの少し後悔はする。自称とは言え、二つ名からすればラスボスとか四天王とか、そう言った奴らが名乗りそうな名だ。身体能力の高さだけでは、格闘家と同じ土俵に立つことは出来ないことを身を以て知った。

力任せでは、技術には到底及ばない

単純な動き故に、早さに目が慣れてしまえば軽くいなされる。構えや型がないので、動作に無駄も出て来る。そうなってしまえば体よくあしらわれてノックアウト。つまりは、レオンが覇王にしてやられたのと同じなのである。

 

「…強く、なりてぇな…。」

 

「えっ?」

 

ボソッと呟いた言葉は隣を歩くヴィヴィオの耳に入りかけた。

 

「いや、何でも無い。何でも、な。」

 

「ふぅん…、変なレオン君。」

 

「変とは失礼な!未だに兎プリントのパンツ履いてる奴に言われたかねぇよ。」

 

「な!なんで知ってるの!?」

 

「は?」

 

冗談で言ったつもりが、まさか本当に履いてきていたとは思いもしない。見る見るうちに熟れたトマトのように赤くなるヴィヴィオ。

あ…、やばい。なんかプレッシャーを感じる。

 

「ど、どうしたんだヴィヴィオ…、赤いピーマン、パプリカみたいに顔を真っ赤にして…。」

 

「ピーマン言うな~!」

 

うがー!っと両手を天に突き出し威嚇する聖王閣下。未だに克服できない、あの緑のあんちくしょうへの怨めしさはヴィヴィオの中では大きなものだ。

…ちなみに昨日の弁当に盛りつけられていたナポリタンに、まるで自分が主役と言わんばかりに青々と自己主張していた『奴』を、ヴィヴィオは器用に避けて食べ、残ったソイツをレオンの弁当箱に入れていたことを追記しておく。

 

「だいたい、ピーマン食わなかったらデカくなれないぞ?ピーマンの中にはビタミン類が豊富に含まれていて、血行をよくするし、免疫も上がるし、何より美肌効果があるんだ。将来美人になりたきゃ克服した方が良いかもな。」

 

「…だってぇ…苦いんだもん…」

 

あぁ…いくら大人びたと言っても、やっぱりこういう所は初めて会ったときから変わらないな。機動六課で寝泊まりしていた頃を思い出し、クスリと苦笑いしてしまう。

 

「わ、笑わなくても良いでしょ~!?」

 

「悪ぃ悪ぃって痛ぇっ!まだ治りきってねぇから叩くな叩くな!」

 

頬をプクッと、まるで頬袋に餌を溜め込んだリスか何かのように膨らませて、ポカポカと叩いてくる。しかもピンポイントに右肘を狙っているという鬼畜の所業だ。

ひとしきり叩いて満足したヴィヴィオ。一方のレオンはというとかなりダメージが大きかったのか、若干涙目になっているレオン。

さっきとはまるで逆転しているようにも見える。

 

「あ、リオ、コロナ!おはよ~!」

 

前方を歩く仲の良い二人を見付け、とてとてと走り合流するヴィヴィオ。その背を見て、レオンは思考の海へと沈み込む。

 

 

 

今でも思い出すのは、燃え盛る建物の瓦礫。真っ赤に染まる、真夜中の蒼。

丁度4年半前か…。初等科一年も半年を過ぎた辺りだ。

機動六課にて寝食の場を移していたレオン。9月12日、地上本部公開意見陳述会への警備任務にあたり、なのは、フェイト、はやて率いるそれぞれ分隊と、そして姉であるヒカリが地上本部へ出向した二日目。

その日、レオンは学校の宿題を済ませながら、隣で絵本を読むヴィヴィオの子守をしていた。…とは言っても、5歳位と言う肉体年齢と、それに比例した幼い心は、レオンが彼女よりほんの少しだけ大人であると言うこと以外、殆ど大差は無いのだが。

カリカリとシャープペンシルが摩擦でノートに文字を書き記す音と、ぺらりぺらりと絵本のページをめくる音だけが部屋を支配する。大方、数式の問題を片付け終え、次は文学の宿題に取りかかろうとした瞬間だった。

そう…いつもここからが拭いきれない過去だった。

吹き飛ぶ先ほどまで壁であったコンクリ片。

夜のクラナガンを遠く映していた窓ガラスが、その形を細かく砕き、部屋の中を蹂躙する。

けたたましく鳴り響く非常事態のアラート。隣で怯えて抱き付くヴィヴィオ。

無事を確認と避難の誘導に来たハルと、ヘリパイロットのヴァイス。

浸入してくる機械兵器、ガジェットドローンの妨害をかいくぐりながら外を目指す。前衛にハル。後方支援にヴァイスが付き、上手く突破していく。

しかし立ち塞がるのは、レオンより少し年上の紫髪の少女と、生え際が著しく後退している男。

因縁のある相手なのか、果敢に挑むハルも、なすすべ無く薙ぎ倒される。

ヴァイスは、武装隊時代の誤射のトラウマが蘇り、射撃できずにいたところを敢えなく撃墜される。

残るはレオンと、そしてその後ろにすがりつくヴィヴィオだけ。

護らないと…!

今護れるのは自分だけなんだ!

そう考えたときには、恐怖で震えていた足にしっかりと力が入る。

そんなレオンを見て、極上の獲物を見付けたかのように、舌舐めずりする男。あえて素手で、人差し指をクイクイ引き、掛かってくるように挑発する。

叫び声を上げながら、最近習ったばかりの強化魔法を、怒りの感情のままに魔力をありったけ注ぎ込んで殴りかかる。

しかし、相手は戦闘のプロ。殴る拳は男の頬をかすり、その皮膚を浅く抉る。

その速度に驚きつつ、ニヤリと流れ出た血を舌で舐め取る。

折り返し踏み込むレオンの右拳を再び躱すと、軸である左足を払う。まるで風車のように回転して宙に浮く子供の身体。地面と平行に、仰向けになる向きで、天井を意図せず向いたレオンの目に飛び込んできたのは、振り下ろされる男の肘が腹にめり込む瞬間だった。

胃が潰されたのかと思う暇も無く、胃にあった空気が逆流し、口から無理矢理吐き出され、それと同時と言わんばかりに背中から鋭い痛みが身体全体に広がる。

更に吐き出される空気。

鉄の味が口の中にじわり。朦朧とする意識と視界の中、必死に自分の名を呼びながら駆け寄るヴィヴィオ。ぽたぽたと、生温い水が頬に伝い落ちる。

しかし、

そんな彼女を、紫髪の少女は魔法で意識を奪い、生え際が危うい男はヴィヴィオ、そしてハルを担いでその場を後にする。

 

なにか…

声に出さなきゃ…

叫ばないと…

ヴィヴィオ…

 

崩れ落ちる六課の隊舎。

炎が容赦なく皮膚を焼かんと迫り来る。

サウナどころではない。

伸ばした手は、虚を掴むだけ。

パタリと手の力が入らなくなったのを皮切りに、その視界は暗闇に落ちた。

 

 

 

護りたかった女の子は無事に救出され、こうして目の前で友達と笑い合い、大好きな格闘技を学び、幸せな時間を過ごしている。

しかし、あの光景を稀に夢でフラッシュバックする事がままある。

一度、姉とともにシャマルに相談したことがあった。

 

『あの時の光景に、強い負の感情が根強く残って、それが夢という形で再生されてると思うの。これ自体は時間の経過とともに薄れることもあるわ。内服治療も出来ないから、心のケアが肝要ね。頻繁に夢にでるようなら、また相談してきて?』

 

あれから4年、夢にでる可能性は高くはないし、眠れない、と言うわけでもない。ただ、最後のシーンで夢から覚め、その時は決まって大量の寝汗をかいていることがある。

 

俺は護りたい。

 

今度こそ、大切な人を。

 

だから鍛える。

体を、

心を、

負けない強さ。護れる強さを目指して、自分流にケンカに勝てるように頑張って考えていた。

そのつもりだった。

 

しかし…

覇王と名乗る、ヴィヴィオを探す襲撃者に大敗を喫した。

幸い、ヴィヴィオは何事もなく、平穏無事な生活のまま。

だが4年前のあの事件。それから何の進歩もしていなかったのだと自覚した。弱く、それでいて護れる強さを持てていないこと。

無事なのは結果論。過程として、自分の強さは何でも無かったことの証明。

だから…強くなるために、決めたことがあった。

 

「レオンく~ん!急がないと遅刻だよ~!黄昏れるには早いよ~!」

 

「おう!今行く~!」

 

松葉杖と合わせて共に、3本の足。それを駆使して歩を進める。

そして彼の目、その奥底に眠る想い。それをヴィヴィオが知ることはない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すこし、よろしいでしょうか?」

 

何事もなく、平穏無事に学校を終えた放課後。下駄箱で待っていたヴィヴィオ達三人と校門を出たところで不意に呼び止められた。

見やれば、学院の中等科の制服に身を包んだいつかの少女がオドオドと待っていたのだ。

 

「あ!貴女はこの前の…!」

 

「はい、前日は失礼いたしました。」

 

「何々?ヴィヴィオ、この先輩と知り合いなの?」

 

一緒にいたリオが、興味津々と言わんばかりに八重歯を光らせながら尋ねてくる。

 

「えっとね、この前レオン君が余所見して歩いていたら、街角でぶつかっちゃった人なんだ。」

 

「ヴィヴィオ、もしかしてその時、先輩は食パンか何かをくわえてなかった?」

 

目をキラキラさせ、コロナが興奮している。なぜか鼻息が荒くなっているようにも感じるのは何故だろうか?

 

「そ、それはなかったよ?だって、放課後だったもん。」

 

「そっか…。」

 

だから何故落ち込むのか?

 

ちなみに彼女の言うシチュエーションは、大抵朝の遅刻しそうなときに転校生と曲がり角でぶつかる、というラブコメとかで定番となる出会いである。

 

「あ~、その時は俺も悪かったです。結局謝れなかったし…。」

 

「い、いえ、そのことに関しては…その、私の方は気にしてませんから…。」

 

この辺りは社交辞令、というか、レオンも以前謝罪できなかったことをようやく果たせた。

 

「そうっすか。要件は…それで終わりで?」

 

「い、いえ、実はあと二つほど…あるんです。」

 

「む~、そうっすか。それじゃ、歩きながらでも?これから市民センターに行くところなんで。」

 

ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人はこれからストライクアーツの練習、レオンはリハビリトレーニングの予定。ノーヴェが今日、練習を見てくれるので、センターで待ち合わせているのだ。

 

「はい、構いません。私も…市民センターで待ち合わせをしている方がいますので…。」

 

「それじゃ、一緒に行きましょう!いいよね?リオ、コロナ。」

 

「うん、もちろんだよ。」

 

「それじゃ、しゅっぱ~つ!」

 

リオの号令を皮切りに、五人連れ立って市民センターを目指す。たちまちの内に、先輩少女さんはヴィヴィオ達三人に囲まれ、質問攻めにあっている。

一歩下がった後ろから歩く内に、名前はアインハルト・ストラトス。中等科の一年生であることが解った。元気一杯の三人に比べ、大人しめで、少し内気そうな感じもしなくもないアインハルトは、少々顔を赤らめながらも話に花を咲かせていた。

 

「お、来たな。」

 

話に夢中で、あっと言う間に市民センターに辿り着いた。その入り口の壁にもたれていたのは、ヴィヴィオ達が待ち合わせるノーヴェその人だった。今日も今日とて、白を基調としたシャツに、グレーの短パンと、動きやすさ重視の着こなしである。

 

「ノーヴェ!お待たせ~!」

 

「おうおう、今日も元気なこった。レオンも、怪我は?」

 

「ん~、大分良くなってきたかな。だからそろそろリハビリをしようかな、って。」

 

「そっか。……にしても、だ。」

 

ノーヴェはざっと五人を一瞥する。

そんな彼女に五人は五人ともキョトンと目を丸める。

 

「レオン、まるでハーレムだな?両手どころか、両足にまで花とは…自重しろよ?」

 

「は…?」

 

「ノーヴェさん、御無沙汰しています。」

 

「おぉ、アインハルト。なんだ、一緒に連れ立ってきたのか?だったら自己紹介は問題ないな。」

 

「アインハルトさんが待ち合わせていたのって、ノーヴェだったんですか?」

 

「は、はい。そう、なります。」

 

「ほーい!そんじゃ、さっさと着替えて練習すんぞ~!時間が惜しいしな!」

 

「「は~い!」」

 

リオとヴィヴィオの元気一杯の返事、アインハルトは同じく解らないが、すたすたと三人の後に続く。

取り残されたのは、レオンとコロナ。

レオンは盛大な溜息をついた。

 

「…なんか誤解を招きかねないこと言いやがって…」

 

「おにーさん、おにーさん。」

 

横にいたコロナが、レオンの服の裾を引っ張る。

そんな彼女の顔は、若干赤らみ、恥ずかしげに口許に手を当てながら視線を逸らしている。それはなんとなく、年頃の少女独特のしおらしさが感じられた。

 

「どした?早く行かねぇと、皆が待ちくたびれて…」

 

「おにーさんは、ハーレムルートを目指してるんですか!?」

 

コロナの脳天に、左の空手チョップが振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナでは、多数のトレーニング希望者が互いに高め合ったり、型の確認をしたり。

広く設けられたそのスペースは、大会などでも使用され、一度に数組の試合が出来るように、枠がそこそこに設けられているのが特徴だ。

打ち込みの音や掛け声が響く中、更衣室からの扉から各々ジャージやスポーツシャツ、スパッツなどに着替えた女性と少女、合わせて五人が姿を現す。

アリーナの敷居をまたぐ際、スポーツマンらしく、場に挨拶を真面目にしていた。

 

「さって…と、んじゃあ軽く準備運動するか。柔軟を念入りにしとけよ~…って言うのも今更だけどな。」

 

「大丈夫だよノーヴェ。何事も基本が第一!だよね?」

 

「そうそう。解しとかないと、今は上手く動けないもん。」

 

「お、おう。まぁそれが日常化してるなら良いんだよ。」

 

(どうにもコイツらは真面目すぎなんだよな。まぁ、悪いことじゃないから良いけどさ。)

 

「ところでコロナ。頭、大丈夫?」

 

「柱にぶつけたとか言ってたけど…?」

 

「だ、大丈夫だよ~。ちょっと余所見してただけだし。」

 

悲惨なタンコブが頭頂部に膨らませ、手首を解すコロナ。痛々しいそれは、周囲の人は初見で一瞬『ギョッ』としている。

 

「お~…なかなか盛大にやってるなぁ。」

 

右肩をゴキゴキ言わせて解しながら、タンコブの元凶が入場してくる。三角巾である程度固定して過ごしていたからか、少し凝っていたようである。半袖と半ズボンのスポーツ用ジャージで、湿布を固定していた包帯などは取り外され、ほぼ治っているようにも見える。

 

「レオン君、松葉杖は?」

 

「リハトレなんだからいらねぇって。それに、今回は組み手しないで筋トレやウォーキング重視だ。今回は枠外で見学させて貰うよ。」

 

右足首には黒いサポーターを取り付けて、変な動きや負荷が入らないように保護している。その恩恵か、多少ぎこちなさがあるものの、杖無しで歩くには問題は無いまでにまでなっていた。

 

「まぁ無理だけはすんなよ?痛みが出たら止めておけ。」

 

「OK~。」

 

そう言うと、レオンは外周をゆっくりとだが、歩き始める。

それを見送った五人。

そのうち、最後まで見送っていたのは、ヴィヴィオと、そしてアインハルトだった。

チラッと、銀碧の髪をした先輩を横目で見ると、その表情はどこか物憂げで、それでいて心配そうなものだった。

 

「レオン君が心配ですか?」

 

声を掛けられて、ようやくぼぉっと彼を見ていたことを自覚したアインハルト。

 

「い、いえ。心配…とはまた別、だと思います。」

 

少し驚いたのか、一瞬だけ焦ったようには見えたが、すぐに元の表情に戻り皆の輪に戻っていく。

彼女のその意図が分からず、ヴィヴィオは首を傾げるばかりだった。

 

 

 

「そんじゃ、今から軽く組み手でもすっか。…と、その前に、だ。」

 

準備運動を終え、少し型の確認をした一行。そこでノーヴェは3周してきたレオンの首元を引っ掴んで輪に入れる。一瞬、『ぐぇっ』とか、変な声が聞こえたのは気のせいだろう。

 

「アインハルト。そろそろ切り出さなきゃずるずると言い出しにくくなるんじゃないか?」

 

「は、はい…わかりました…」

 

怯えた小動物のように縮こまりながら、ノーヴェの傍らに。全員の、特にヴィヴィオとレオンが見える位置に移動する。

ジッと集まる十個五対の視線。ここは少しアインハルトも緊張してしまうが、どうしても伝えなきゃならないことがある。それを意識していくと、自然と胸の鼓動の速さも治まってくる。

 

「…レオンさん。…前日の襲撃の件…改めて謝罪させて頂きます。…すいませんでした!」

 

見事なまでに90°の角度に背を曲げての謝罪。その勢いが強いのか、追って宙を舞う結われたツインテールが、鞭のようにしなやかに唸り、ベシッとレオンの顔に直撃する。

 

「おぅふ!」

 

「あ、あわわ…すいません!他意は無いんです!」

 

軽くレオンは仰け反るが、何とか踏ん張る。まさか謝罪して、更に謝る要素を作ろうなどとは誰も予想だにしないものだ。

 

「それで…その…襲撃って?」

 

「…レオンさんに怪我をさせたのは…私なんです。」

 

 

……

 

………

 

「いやいや、ちょっと待ってくだせえ?俺を襲撃した奴は…確かに先輩と同じ髪色だったけど、体格が全然………ぁ…。」

 

「もしかして、変身魔法、ですか?」

 

「はい…その通り、です。私はあの時、正体を隠すために武装形態…つまり、肉体が最高の状態になるように変化させて…戦っていたんです。」

 

魔力を使い、一時的に身体を成長させる。しかしそれには念密な術式構築と、高度な魔力制御を要されるもの。身体に魔力を循環させ、常にそれをある程度キープしなければならない。つまり、所謂『大人モードを使用する』ということは、『魔力制御の高さ』を表している。冷静に考えてみれば、声とかもよく似ている。髪色はともかく、声まで一致しているとなると、大体は限られてくるものなのに。

 

「…えっと…つまり?」

 

「アインハルトさんが、おにーさんの怪我の原因…なんですか?」

 

ただ何も言わず、そしてその後悔と唇を噛み締めつつ、コクリと頷く。恐らく、これから皆からの非難を浴びるのだろう。それを予想してアインハルトは心構えをする。

しかし…

 

「まぁ先輩はどこまでも強くなりたいって言う、向上心溢れる人だ。まぁ脳筋の俺じゃ歯が立たなかった。まぁ怪我は…心配掛けたくないから言わなかったんだけど、あくまでも手合わせした上での事故に過ぎないからな。どっかにストライクアーツが大好きで、強くなりたいって奴はいないかな~っと。」

 

「あ、あの…レオンさん…?」

 

「お、そういえばヴィヴィオは結構ストライクアーツ、腕が立つよな?よかったらアインハルトと組み手をしてみないか?」

 

レオンのちょっと嘘を交えた暴露にノーヴェもその意図が解ったみたいで便乗する。ヴィヴィオはというと、二人の間で戸惑うアインハルトを見て、何か隠していると思い、ジト目で睨む。

 

あ、ヤバい。バレそう…。

 

ノーヴェ姉…!ここはポーカーフェイスだよ!

 

そんなアイコンタクトを交わす二人の額には脂汗だか冷や汗だかがジワリジワリと分泌され、頬を伝い流れていく。

 

「いいですよ!やりましょう、アインハルトさん!」

 

「おぉ!受けてくれるか!」

 

「サンキューな!ヴィヴィオ!」

 

「あ。あとでノーヴェとレオン君、お は な し、しようか?」

 

にっこりと頬笑む10歳児の裏に圧倒的な威圧感。

あぁ…子は親の背を見て育つ、と言うのは本当だったようだ、と納得しながらも、この後の惨事に血の気が引く二人だった。

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