魔法少女リリカルなのはVivid『閃光の獅子』 作:ロシアよ永遠に
家族団らん、と言うのも長らく経験したことは無かったように思う。いつもは姉との二人だけでの食事。稀に一人の時もあるが、まぁどうとでもなった。
しかし、こうして家族ともに料理を囲んで食べられる食事、と言うのはやはり感慨深い物がある。
自然と溢れる笑顔。
尽きない話題。
減っていくのは料理。
過ぎていく時間。
食器に盛りつけられた料理が無くなってもなお、皆が席を立つことは無かった。
「しかしまぁ…レオンも初等科最後の年か。早いもんだな。こないだまでこんなに小さかったのによ。」
「いやいや、月並みだけどそんな卵くらいのサイズじゃ無いだろ?…てか、生まれたときからそのサイズ越えてるし。」
「ヒカリももう23だものね。なのはちゃんやフェイトちゃん、はやてちゃんと言い、いい人は見つかったのかしら?」
「あ~、ボクは当分そう言った色恋沙汰はないよ。そもそも、仕事で忙しいし。」
雄造もティナも、泡の出る麦茶を飲んで顔を赤らめている。500mlの空き缶も軽くそれぞれ3本空けており、その口数も多弁となってきている。特にティナに関しては、若干目が据わっており、焦点も呂律も少し怪しいものとなってきているが。
「だめよぉ?そんなんじゃいき遅れちゃうんだから。これじゃ、レオンに先を越されちゃうかもねぇ?」
「は?なんでそこに俺の名前が出て来るのさ?」
まさかこんな話題に自分が振られるとは微塵にも思ってなかったレオンは、思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。
「聞いたわよ?ヴィヴィオちゃんにリオちゃん、あとコロナちゃんだったかしら?年下に囲まれてるそうじゃない?」
「ん?あぁ、あの三人ね。ヴィヴィオに関しては昔馴染みだし、二人に関してはそのヴィヴィオの友達だからな。」
なにも変なことは言ってない、断じてない。それなのに、ティナの顔付きはニヤケを増すばかりである。こうなったときの母親は、何かしら絡んで、そして弄ってくるものなのは昔から嫌と言うほど身を以て知っているものである。
「さらに一人追加かしら?えっと…アインハルトちゃん…だったかしら?まさかまさかの年上とはねぇ?」
レオンは飲んでいたオレンジジュースを吹き出しかけた。無理に飛び出すのを防いだため、変なとこに入ったのか、ゴホゴホと噎せ返る。
「女の子ばかりねぇ?より取り見取り…って奴かしら?誰のルートを選ぶの?…まさかハーレムとか?」
…酒が入っているとは言え、ここまで饒舌になるものなのか?…しかも考え方がコロナと同じという…でっていう…。
「ハーレムかぁ!うらやましいぞチクショウ!男の浪漫だからな!夢だからな!誰しも一度は憧れるってもんだ!女の園に放り込まれた一人の男!羊の群れに放り込まれた一匹の狼!クゥーッ!堪んねぇなオイ!」
誰だこの男は?いつもの父はここまで口数は多くは無い。酒の勢い、と言う物なのか?酔うと人は変わると言うが、目の前の二人はまさにそれだろう。そう…二人、だ。
「ハーレムですか…?それに憧れますか?」
「おうよ!男はいつだって夢と浪漫を追う生き…も…の………」
その言葉の続きが紡がれることは無かった。それは正面に座る娘と息子、二人にも同様。
「その話、詳しく…話しましょうか?……二人っきりで…」
この威圧感、恐らくは現場に立つヒカリですら味わったことの無いものだ。頬を伝う汗。肌をなぞるような感触が、今は小気味悪い。
「ま、待つんだティナ…!今のは…そう!幼き日の……」
「場所を変えましょう?…………ね?」
真鍮の眼鏡のレンズが光により妖しく反射する。目元は見えないが、しかし口元は三日月を思わせるかのように不気味に釣り上がっている。
雄造の歯の音が合わなくなっている。ガチガチと歯を鳴らしながら震える様は、蛇に睨まれた蛙の如く。どこからともなく
┣″┣″┣″┣″┣″┣″…
とか、そんな威圧感や何かが迫る音が聞こえてくる。
哀れ、一家の大黒柱である(ハズの)男は抵抗空しく、妻である女性に首根っこを捕まれて自室へと姿を消していった。
残されたのは、先程の二人の愛の結晶たる子供二人。片や目を丸くし、片や父への複雑な気持ちを放ちながら、過ぎ去った嵐の余韻に浸らざるを得なかった。
「そ、そういえば、レオン。」
「な、何?姉ちゃん。」
ヒカリが我を取り戻して口を開いた。それをスイッチか何かのようにして、レオンも向こう側から戻ってくる。ごそごそと自分の座る椅子の脇に置いておいたバッグから、20㎝角の立方体の厚紙で出来た簡素な箱を取り出す。それをテーブルの上にちょこんと置いた。
「まぁ開けてみて。二人とボクからのプレゼント。」
「プレゼント?何さ薮から棒に…。」
「小等科の最高学年でしょ?…まぁ進級祝い、ってことで。」
「ん…そーいうことか。」
ややこじつけ気味な理由ではあるが、箱を手にとって蓋に手を掛ける。
若干、釈然としないプレゼントではあったが、それでも中に何が入っているか楽しみにしているのが、本人的にポーカーフェイスで隠していても丸わかりである。そんな愛しい弟に、ヒカリも思わず頬笑んでしまう。
プレゼントに高望みはしないが、何が入っているのかを、蓋が開くまでに妄想が膨らんでいく。
錘付きリストバンド?
ダンベル?
…は持ったときの重さでは有り得ないか。
だとすると、
新作のプロテインか?
…11という齢にしては、想像の働くベクトルがおかしいものだ。
しかし、一つ年上で最近知り合った少女にも同じような匂いがするのは気のせいではない。
「くちゅん!!」
『お?なんだ、アインハルト。風邪か?』
「い、いえ…。」
『まだ若干冷えるからな。寝冷えには気を付けろよ?』
「は、はい。」
「…シルバーアクセ?」
箱の中に入っていたのは、銀を用いたアクセサリーだった。4~50㎝ほどのチェーンに結わえ付けられているペンダントトップは、2×10㎝ほどに整えられたエメラルドにも似た宝石。またその周囲を包み込むように銀が施されている。簡素ながらも、できの良さを伺うことの出来るペンダントだ。
「それもただのシルバーアクセじゃないんだよねぇ、これが。」
「へ?」
「まぁまぁ。とりあえず手に取ってみてよ。」
言われるがままに、ペンダントトップを掌に乗せて目の高さまで。やはり蛍光灯の光に照らされ、息を呑むような光沢を放っている。
『問おう。』
「ん?」
『貴方が私のマスターか。』
「………。」
『この静寂が、私は凄く悲しい。』
てかてかと光を点灯させるシルバーアクセ。コテコテの台詞に憤慨し投げ捨てなかっただけ、レオンの気の長さを賞賛すべきなのだろうか。
『僭越ながら仕切り直しまして…、初めまして主。ブリュンヒルデと申します。以後お見知りおきを…。』
「…まぁ、挨拶はアレだったけど、改めてレオン、キミのデバイスだよ。」
「俺の…デバイス…。」
『いやいやいや、当機のような優秀且つ美しいデバイスが宛がわれ、言葉を失うほどの感動を覚えるのも無理はありません。なんなら写真を撮って頂いても…』
「なぁ姉ちゃん。明日って燃えるゴミだっけ?ちょっとカレンダー確認してくるわ。」
『Noooooo!!主っ!?言うに事欠いてゴミ扱い!?ゴミでは有りません断じて!燃えないのは正解ですが!!』
「明日は燃えるゴミだったと思うよ?…多分。」
おかしいなぁ…こんなに軽い性格のAIにした覚えは無いのに…。
若干、違和感を感じつつも、目の前のコンビが広げるコントに苦笑い。
「ねぇ、ヴァルキリー。AI設定って、ヴァルキリーがしてくれたよね?」
『肯定。』
「もしかして、何か参考にしたの?」
AIに性格というのも何だが、自立している以上、思考回路と言う物が存在する。それだけに、インテリジェントやアームド等、意志を持つデバイスにもかなりの差が出てくる。それは勿論、使用する過程である程度左右されてくる。
『………。』
「ちょっとヴァルキリー?」
『何でしょうかサージェント。』
「…メモリーを調べさせてね。」
『サージェント!?』
仮想ディスプレイを展開して、ヴァルキリーに内蔵されたメモリーを閲覧していく。あれやこれやと調べる内に、気になるフォルダーを発見した。
題名は、
『SECRET』
…おかしい。こんなフォルダーを制作した覚えも無い。タップしてみても、認証パスを入力しなければ閲覧できないようにされている。
「ヴァルキリー、これなに?」
『記憶にございません。』
「ホントに?」
『………モチロンです。当機に秘密など有りませんですとも。』
今の間が途轍もなく胡散臭く感じた。
ぎらりとヒカリの目が妖しく光ると、この事態を打破すべく最終手段に講じた。
「マスター権限を行使。データの開示を命ずる。」
『っ!?』
【マスター認証確認。データベース開示を許可します。】
ヴァルキリーの管制AIとは別の無機質な機械音声が、彼?の意志とは別に『SECRET』フォルダーの内部を投影していく。
「…ナニコレ。」
目を疑った。否、認めたくなかった。
【魔法少女モノ】
開示したフォルダーにあったのは、この題目のファイル。
目をこすっても、視線を外して一息ついてから戻しても、それは変わることは無かった。
【魔法少女モノ】
「………。」
『さ…さぁじぇんと…?』
AIにも恐怖を与えんばかりの無言の重圧。ゆらりゆらめく金髪と、待機状態のヴァルキリーを掴む手に込める力が、およそ悪魔か何かを彷彿させる。
レオンも、そしてブリュンヒルデですら、その形相に気圧されて言葉を失ってしまった。
「………。」
おもむろに、再生ボタンをタップ。
【プリズマ☆イリ《ブツッ!!》
再生を停止した。
次のファイルを開いてみる。
【さぁ!願いを叶えてよ!インキュ《ブツッ!!》
再生を停止した。やはり見てはいけないモノなのか。
次のファイル…
【リリカルマジカル!シリアルⅩⅩ!封い《ブツッ!!》
何故だろう…、どこかで見たような少女だった。…これは…もしかしなくても教導材料と共に、管理局のプロパガンダも兼ねて作られたとかいう…?
「…ヴァルキリー…?」
『は、はいぃっ!?』
「削除、しても、いいよね?」
『さ、削除!?さぁじぇんと!それは!それだけは御容赦を!!』
「ボクの質問にはッ!ハイかYesで答えろッ!このポンコツがッ!」
『サー!イエスサー!!』
威圧感とか、そう言った物を天元突破し、もっと恐ろしい何かを身体から滲み出す姉に、レオンは震えが止まらない。敬愛する姉が、デバイスを罵るなどと…。
教導隊仕込みの教育用語ともいうものなのだろうか。本気で管理局という職場が心配になる。
【
『………。』
無機質に表示される非情な作業完了の文字。それを見ているかのように点滅するヴァルキリーのコア。なぜか…彼?の背中が噎び泣いているように見える。
「つまり、だ。ブリュンヒルデのAIの基盤に、さっき全滅した物の中から参考になった性格が有るかも知れない、って言うことだね。」
『いぇす、さぁじぇんと。』
「…まぁ、出来上がったものは仕方がないとして。性格はともかく、機能に問題は無いんだよね?」
『いぇす、さぁじぇんと。』
まるで鍛えられた軍人かなにかのように無機質な返事を繰り返すヴァルキリー。よほどさっきの叱責と、データの削除が響いたのだろう。まぁ明日になれば元に戻っているだろうが。
「ハァ……ごめんねレオン。まさかこんな事になってたなんて。」
「あ~いや、これくらいユーモアのある方が堅っ苦しくなくて良いかも、うん。」
『ちょっと欠点あるくらいが良いんですよ!結果オーライです!』
「物事には限度があるって事も忘れないで欲しいけどな。」
『Oh…。』
機械的すぎる物も考えようだが、軽すぎるノリと言うのも一考すべきだと、少々後悔する姉弟だった。
肌寒い夜風が、如月家の裏庭を吹き抜ける。未だ抜けきらない寒さが身体を刺激する。温かい料理て、若干火照った身体を涼ませるには丁度良いかもしれない。
庭に植え込まれ、一定の長さに切り揃えられた芝生の上で、レオンは肩幅に足を開く。そして深く、深く深呼吸。ドクンドクンと胸の鼓動が高まるのが、手を当てずとも感じられる。何せ初めて自分のデバイスを宛がわれたのだ。緊張と高揚が無いという方がおかしい。
「魔力同調開始…リンカーコア…魔力循環…問題なし。」
『術式置換、問題なく稼動中。疑似マスター認証、ヒカリ・如月から、マスター登録をレオン・如月に変更。バリアジャケット…展開準備完了。主。』
「OK。じゃ…始めるぞ、ブリュンヒルデ。」
『ドライブ…スタート!!』
脳に直接流れ込むブリュンヒルデの情報を処理。そして溢れ出す金色の魔力。初めて魔法資質の検査をした際に、フェイトと同じくレアカラーの金色だったのを知ったのは物心付き始めた四歳くらいの時か。レア度で言えば最高の次点と言ったところか。勿論最高のレアカラーはヴィヴィオの
近代ベルカの術式を展開させ、レオンの身体が光に包まれる。着用していた学院制服は霧散・量子化し、黒いボディスーツに身を包む。上はハイネックに二の腕までの袖。腹部はなぜかヘソ出しで、11の齢ながらも割れた腹筋を覗かせる。ズボンも膝までのフィットタイプの物だ。靴は姉のジャケット素体の物とお揃いの白銀の装甲を装着したものとなっている。
これだけの物ならばさして特筆するほどのものではないだろう。防御機能という物も有って無いような見た目でもあり、下手をすればスポーツか何かをするような服装にしか見えない。
『ボディスーツ展開完了。』
「次いで、装甲展開。」
そう、デバイス本体の展開。それが防御も兼ねたブリュンヒルデと言うデバイス。両の腕を真横に突き出す。手首、そして手の甲に黒金の装甲が包むように装着され、前腕の外側にリボルバータイプのカートリッジ。スバルの扱うリボルバーナックルほどのホイール等の重々しさはなく、シンプルなまでに手の周りとカートリッジ周辺の装甲のみの物。装甲の各所にレオン魔力の循環を示すように金の光が走っている。脚部も踵部に腕部と同じくリボルバータイプのカートリッジが装着され、臑までのこれまた黒金の装甲がレガースを思わせる形で纏われていく。
『腕部、脚部共に問題なくリンク。胸部装甲展開。』
満を持したかのように胸部にプレートアーマーを彷彿させる装甲。腕の動きを妨げることがないよう、その形もそこまで重厚なものではないが、材質は薄いながらも防御を持たせられる物である。中央に当たる部位に、恐らくはブリュンヒルデのコアであろう、碧の球体が埋め込まれる。
装甲が全て展開し終わった彼のその姿には、どこか中世の騎士を思わせる装いだ。
「…よし。展開完了、だな。ブリュンヒルデ、状態は?」
『大丈夫です、問題ありません。有るはずがありましょうか!?いやありません!…反語。』
「問題はAIだな。一度その辺りをフォーマットしないと。」
『…どうやら主はツンデレさんですね。男子のそれは、中々レア度が高いですよ。』
「デレは未来永劫来ないかも知れないけど大丈夫か?」
「一時はどうなるかと思ったけど、どうやら良いコンビになりそうだね。」
『そう思うのでしたら、さぁじぇんと。先ほどのデータのサルベージを…。』
「それとこれとは話が別。…道理で武装の展開がコンマ5秒遅かったわけだよ。動画データがメモリの圧迫していたのなら説明付くし。こうなったら認証がなければネットワークに接続できないように、フィルタリングするって言う手も…。」
漫才コンビのような弟とその相棒のやりとりを見て、悪くないと思う姉。そしてそれにかこつけて自分を正当化せんとするその相棒。どうやら姉弟揃って、ボケとツッコミの役回りは同じだと知る者は、今ここに誰も居なかった。
「うふふふ……貴方がハーレムだのなんだのと宣うことが出来ないように、今日は徹底的にしてあげます。」
「テ、ティナ!?駄目だ!そこはっ!アッ!アッー!?」
「ほらほら、ここが良いのでしょう?」
「ンギモッチイィッ!!」
「こんな所をアレされて気持ちいいなんて…とんだ変態だわ。」
「…ふぅ。やはりこの事後の脱力感はティナ、キミにして貰うからこそだよ。」
「…全く、いつもいつもこんなプレイじゃないといけないのですか?
…たかだか指圧マッサージなのに。」
最後の、誰得。