魔法少女リリカルなのはVivid『閃光の獅子』 作:ロシアよ永遠に
寂れた真紅の煉瓦造りの港地区にある倉庫街。
所々、倉庫沿いに落ちて砕けている煉瓦を見るに、整備は愚か、人の出入りが少ない区画なのは想像できる。窓ガラスも曇るどころかヒビも入り、中には割れている物も有るほどだ。
そんな場所に、十人を超える…ほぼ全員女性という、ある意味珍妙な集団。その中で男は一人。…男、と言うよりも未だ少年だ。
「ルールは射砲撃なしの5分間一本勝負。…2人とも、準備は良いな?」
開けた場所で2人の女性が相対し、その審判を務める赤毛の女性であるノーヴェは両者…高町ヴィヴィオと、アインハルト・ストラトスに真剣な面持ちで尋ねる。互いにそれぞれ、大人モードと武装形態へと姿を変え、身体能力を存分に行使できる、最高の状態になっていた。ノーヴェの問いに応じて力強い四色二対の眼差しで、コクリと頷く2人。それを確認したノーヴェは、右手を空へと掲げる。
今日は、市民会館で約束した2人の再試合の日である。
「そんじゃ…試合、開始!!」
手を振り下ろすと同時に、一気に踏み込んだ両者の拳同士が打ち合わされた。
瞬間、破裂音のような甲高い音と共に、周囲に微弱ながらも衝撃が走る。
先ずは挨拶、とでも言わんばかりに拳を打ち付け合った後、同じようにバックステップで距離を置くと、互いに基本の構えへと移す。
片やストライクアーツ。軽く身体を揺らしながらリズムを取って、打ち出しのタイミングを見計らう。
片や覇王流。前者とは対照的に、静かに、呼吸以外で動ずるともなく、ただ相手を見据えて動向を伺う。
言うなれば静と動と言うものだろうか。
そして、先手を取るべく飛び出したのはヴィヴィオだ。姿勢を低く、まるで狩りをする猛獣の様に、瞬発力を活かして間合いを詰める。しゃがんだその屈伸の勢いと共に、顎を狙って空を切るアッパーカットが振り上げられる。しかし応ずるアインハルトは、それを予期していた。格闘技の達人たる彼女において、低い姿勢を取っていた地点で。身体を引くと同時に、顎をあげることで被弾の確率を下げるのだ。その後、何のこともなくバックステップで距離を取る。
「きゃわした!?」
「いや…。」
回避したと思ったコロナだったが、下がって審判をしながら観戦していた師たるノーヴェがそれを否定する。躱したはずのアインハルトが、若干ながら顔をしかめていたからである。
少しのふらつきを見せながらも、ワンステップで距離をとる。その顎は先端部分のみながらも、赤く腫れ上がっていた。
「少しばかり回避が遅れたみたいだな。しかも顎に喰らっているだけ、少しばっかり響きそうだぞ。」
顎にダメージが入ったことにより、少なからず脳に予期せぬ振動が入る。それによって軽い脳震盪を引き起こされたことにより、アインハルトは後退にふらつきを見せたのだ。
(チャンス…!)
これ好機と言わんばかりに、再びステップで踏み込む。先程よりも速い。彼女の得意とする魔法による高速ステップであるジェットステップだ。大体はラッシュを仕掛けるときにヴィヴィオが使用する物だが、開始早々に使うと言うことは、早期決着を臨んでいるともとれる。が、顎を掠めることでアドバンテージを得たにしても、それは時期尚早と言う物だ。
踏み込みと共に、未だダメージの抜けきらないアインハルトのボディを狙い右拳を一閃。しかし、彼女は右脚を軸にして左へ旋回。それと同時に平手によって、ヴィヴィオの右ストレートをいなし、更には体勢を崩させる。
(ヤバッ…!)
「覇王…!」
右手に魔力を纏わせていく。荒れ狂う風が右手を覆い、やがてそれは拳に集束する。
「断空拳!」
そしてそれは容赦なく振り下ろされる。
このままではヴィヴィオにクリーンヒットして、敢えなく試合終了となるだろう。体力がほぼ満タンでも、まともに喰らえば一撃で意識を刈り取られる。其程までの威力を持っているのだ。
しかし、それは命中することはなかった。
いなされた勢いそのままに、身体を捻ったヴィヴィオは、足を着かないままに一回転。振り返りながら右足で上段回し蹴りを放った。意図してか否か、それは振り下ろされるアインハルトの右腕の側面を捉え、逸らされた右腕は辛くも眼前を拳が空を切る事で難を逃れた。
しかし、これでヴィヴィオの攻撃は終わらない。右足の次に、回転の勢いで着いてくる左脚が、アインハルトに迫る。
(
突き出した右手は空を切り、伸びきった状態。それ即ち、その根元、懐がガラ空きだ。それにつけ込み、蹴りの応酬を決めに掛かる。
乾いた音が周囲に響いた。
二段の回し蹴りを決めたヴィヴィオは、着地して一呼吸。そしてワンテンポ置いた後、再び仕掛ける。
確かに脇腹に左脚は命中した。アレで決着が付くとは思えない。それだけに、顎のダメージも重ねて残る今だからこそ畳みかけていこうとヴィヴィオは思考する。相手は実戦経験豊富な格上の相手。得たチャンスを最大限に活かせなければ、逆に打ち負かされてしまう。
しかし、畳み掛けようと蹴り出して踏み込んだ瞬間、ぞくりと背筋を撫でるような悪寒を感じた。
勿論実際に撫でられたわけではない。しかし、その次には、嫌な汗が汗腺から分泌され、じわりと背を湿らせる。
悪寒の原因、それは目の前に居る相手、アインハルト。
その眼。
ギラリと、まるで獲物を仕留めるかのように、見せようとする隙を見抜くように、鋭く、そして力強い眼光。
ダメージからすればアドバンテージはこちらにあるにも関わらず、目の前の相手からはそれを感じさせないほどにのし掛かる闘志。そして威圧感。
(やばっ!?)
勢いよく踏み込んだだけに、その身体は慣性に従い、後悔しても意図せずしてアインハルトへと飛び込んでいく。
コンパクトに攻め続ける。
相手に見切りが出来ないように、小さく、そして細かく手数を重ねるつもりが、先制的なダメージを与えたことで畳み掛けようとしたことによって大振りになってしまった。
そしてそれをアインハルトは見逃すわけもなく、ヴィヴィオの踏み込みに合わせて着いた左足、そこから練り上げた力を溜め込んで右の掌底のカウンター。ヴィヴィオの軽装甲に纏われた腹部へと打ち込まれる。
「か…はっ……!?」
胃が文字通りねじ曲げられ、得も知れぬ違和感と不快感にめヴィヴィオの目は限界まで見開かれる。体内にあった空気も無理矢理吐き出させられ、カウンターも合わさって上乗せされたその威力は、安々と彼女を吹き飛ばす。軽く数メートルは吹き飛んで、コンクリの地面に、まるでやすりのようにこすられながら転がっていく。
「「ヴィヴィオ!」」
「「陛下!?」」
教会から来ていたオットーとディード、そして同い年の二人が駆け寄ろうとするが、その前にいたレオンが両手を広げて阻む。
「なっ…なぜ拒むのですか!?」
「なぜって…そりゃ本人にまだやる気があるのに、外野が止めるなんてもってのほかだろ?」
「で、でも…」
「レオン君の、言うとおりだよ…!」
俯せに倒れながらも、手を着いて、ゆっくりとながら立ち上がるヴィヴィオ。羽織っている白いジャケットと、紺のボディスーツの大腿部に少しすり切れた後が出来ているが、それも問題ないと言わんばかりに。
「まだ…まだ、決着はついていませんよ、アインハルトさん…!」
「…どうやらその様ですね。」
余り表情を変えないアインハルトだが、内心は少し感心していた。奥義である断空ではないにせよ、相手の勢いを利用したカウンターを腹に打ち込んだ。その確かな手応えは感じて、これで決着と思っていただけに、立ち上がってきたヴィヴィオの、その根性に少々舌を巻く。
「まだ、やります。いいよね?ノーヴェ。」
「いいよ。…再開!!」
再び交差した手を皮切りに、二人は踏み出した。
「…ダメージ的にはほぼ互角…いや、ヴィヴィオが少し大きいか。」
「だろうな。…ヴィヴィオは確かにアインハルトの脇腹に一撃を入れたけど、逆にはカウンター込みの一撃だからな。」
目の前で繰り広げられる格闘の応酬に、レオンとノーヴェはヴィヴィオの僅かな動きの鈍りを見逃さない。今でこそ何とか食らいついてはいるものの、ダメージに加えて、基礎体力や技量が上回る相手だけに、その差がジワジワと現れ始めた。最初の意表を突いた一撃。それが差を埋めていただけに、徐々にヴィヴィオは押され始める。
「そろそろ…決着かな?」
「どうかな…。」
「…なんだよ、その意味ありげな笑いは…」
「別に?…ただ。」
「ただ…何だよ?」
「アイツは何をやらかすか分かんないよ。…根性と度胸は…遙かにずば抜けているんで。」
ヴィヴィオの中で、どう打ち崩すか、どう逆転するか。それだけが未だ渦巻いている。
(まだだ!
まだ、
アインハルトさんに、私の全てを見せていない!!!)
技量差は以前のスパーで身に染みている。自分が勝ると言えば、母から教わったこの不屈の心。それだけは誰にも負けない自信がある。
この戦いで…自分の全力を、彼女に、アインハルトにぶつける。それだけがヴィヴィオの原動力。勝つか負けるか、それらは二の次だ。
「全力…全開ぃ!!」
ならばこの気持ち、心を一撃に乗せてぶつける!
魔力循環を強め、その溢れ出た魔力が色として視覚化する。
聖王の証であるそれに、アインハルトは一瞬目を奪われると共に、記憶のフラッシュバックが引き起こされる。
もちろん、アインハルト自身のではない。
数百年前に古代ベルカで見た覇王クラウスとしての記憶。
オリヴィエ
エレミア
クロゼルグ
そして…金髪の少年。
名前が思い出せない違和感が、脳内に駆け巡るが、今は試合に集中しなければならない、と、それを無理矢理頭から引き剥がす。
向こうが全力を宣言してきているのだ。
ならばこちらも全力で応じてこそ。
「全開…参ります。」
一呼吸
吐き出す息と共に、アインハルトもその魔力を全開へとギアを上げる。
だれもが、これで悟った。
『次の一撃で決まる』
と。
だが二人は、時が止まったかの様に動かず、魔力を纏い、そして唯相手を見つめる。
得も知れぬ緊張が、二人だけではなく、周囲にも伝染し、誰もがゴクリと固唾を呑み込むまでに。
長い
永い沈黙。
ただ風だけが、時の流れを証明するかのように、二人の長い髪をそっと撫でる。
そして…風が止んだ。
「いきますっ!」「参ります!」
どちらからともなく、同時に駆ける。
万感の思いと力、そして魔力を込めて、この一撃を最後とするために。
「アクセル!!」
ステップと同時に加速を掛けたのはヴィヴィオだった。姿勢を低く、そして速く。発動によってアインハルトの間合いに踏み込むタイミングをずらして、先程のカウンターを打たせない算段だろう。
「覇王…!」
だが、アインハルト自身も同じ事を考えていたのか。未だ断空拳にしては遠い間合いでの前振りとなる。踏み込み、そしてそれを止める為に脚へと込める力を、右拳へと込める。
端から見れば、際どい、どちらが先になるか分からないほどのタイミングに、皆は息を止めて見守るまでになる。
そして…
「スマァッシュ!!」「断空拳!!!」
二人の陰が、重なった。
鈍い音が、煉瓦造りの倉庫街に響き渡る。
どちらが勝ったか?
どちらの拳が届いた?
無音という静寂が、妙に重苦しく、まるで時が静止したと思うまでに区域を包み込む。
やがて…
1つの影が、ドサリと音を立てて、コンクリートで出来た道路へと倒れ込んだ。
「勝者!アインハルト!!」
そして…手を上げたノーヴェから勝者の判定が下された。
「それで…最後の一撃って、如何だったんですか?」
敗北し、気を失ったヴィヴィオを寝かせて介抱しながら、今一決め手が飲み込めないコロナが口を開いた。それに関しては、リオも意見を同じくするらしく、首を縦に振っている。
「簡単な話だ。ヴィヴィオの一撃も入って、覇王先輩の一撃も入った。覇王先輩のカウンターが入ったように見えて、ヴィヴィオの拳も届いてたんだ。」
「じゃあ…アインハルトさんが勝ったのって…」
「耐え抜いた。それだけだな。体力の差が、最終的にヴィヴィオとアインハルトの勝敗を分けたんだ。」
レオンとノーヴェが説明すると、二人は納得したような表情へと変えた。
「それでアインハルト。どうだった?ヴィヴィオは。」
「強かった…です。正直…最後はギリギリの勝利でしたから。…彼女には謝らなければなりませんね。」
「だったら、目が覚めたら言ってやれよ。」
未だ気を失っているヴィヴィオ。ディードの膝枕によって、今は眠ったのか、ぐっすりと静かな寝息を立てている。
ここまで自分に対して本気で向き合ってくれたのだろうか?
ギブアップすることも無く、自身が気を失うまで…ただひたすらに。
「本当に…レオンさんの言ったとおりでしたね。」
「ん?何が?」
「ヴィヴィオさんの覚悟と…その直向きさは…正直私には鬼気迫るものを感じました。下手をすれば…倒れていたのは私の方だったかも知れません。」
「そう言って貰える、と言うことは、ヴィヴィオのことを認めてくれるって事で?」
「…認めるのではなく…謝罪を、しないといけない。」
未だダメージの残るその華奢な身体に鞭打ち、未だ目覚めぬヴィヴィオにそっと寄り添って、小さな彼女の手を取ってアインハルトは紡いだ。
「
自身と違い、平和な中での拳を振るってきたヴィヴィオを、何処か認められなかったアインハルトの中で、ようやく彼女と向き合い、歩み始めた一歩。その言葉が紡がれたのだった。
ぐぁぁ…戦闘描写が…上手く出来ないぃ…!