IS学園にペンギンが入学した   作:猿のタイプライター

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招かれざる操縦者

 諸君はペンギンが好きだろうか?

 俺は可もなく不可もなくといった感じだ。もっと端的に言ってしまえば無関心というものだろう。水族館などで一度だけ見たことがある程度の生き物に一定以上の感情を抱くというのも難しい話だと思う。

 とにかく言えることは多くの日本人にとって身近な生物ではないということだ。

 

 俺の名前は織斑一夏。この春、高校生になったばかりの15歳だ。

 新しい環境に身を置くことに希望を持っている人も不安で仕方ない人もいる時期だろう。俺はと言うと夢も希望もなく不安でいっぱいな新生活を迎えている。

 

 ……だって俺以外のクラスメイトが全員女子なんだもん。

 

 遊び感覚で女子校を受験したら受かっちゃった――なんて愉快なことを俺はしてない。俺がここにいるのはある特殊な事情があるからだ。

 ここはIS学園。IS(インフィニット・ストラトス)というスゴく強いパワードスーツを扱う操縦者を育成する、世界でただ1つの教育機関である。ISを動かすことが出来るのは女性だけであり、必然的に生徒は女子しかいない。

 なぜ俺がここにいるのか。その答えは簡単なようで難しい。

 

 どうして俺は男のくせにISを動かしてしまったんだ!

 

 思い出されるのは受験の日。俺は間違えてIS学園の受験会場に迷い込んで試験用に置かれていたISに触ってしまった。なぜ触ったのかについては割愛。ともかく俺はISを試験官の前で動かしてしまい、色々と面倒に巻き込まれて今に至る。

 俺の将来設計が全てパーだ。

 中学時代の友人、特に五反田弾辺りは俺のことを羨ましいとか思ってるはずだが俺はこんなことを望んでない。ISや女子に興味がないわけはないけど、まだまだ俺は男連中とバカをやるような学校生活を送りたかった。

 

「ハァ……何かの間違いでもう一人の男性操縦者とか入学してきたりしないかなぁ」

 

 ぼそりと力なく呟く。叶わぬ願いであることは知っている。俺の事実が発覚した直後から世界中で調査が行われて空振りに終わっているのだ。

 それでも愚痴くらいは言ってないと頭がおかしくなりそうだった。周囲の女子の視線が刺さってきて俺の精神はもう弱っているよ。俺は動物園のパンダかっての。

 生徒全員が着席している中、教室の前側の扉が開く。このタイミングでやってくるのは十中八九、担任教師だ。メガネをかけた童顔の教師は身体の一部を除いてかなり子供っぽい印象を与える。

 

「このクラスの副担任になった山田真耶です。よろしくお願いしますね、皆さん」

 

 教卓で自己紹介をする山田先生。副担任ということはまだ後から担任も顔を見せることになるのだろう。うん、それはわかる。

 ところで山田先生の後ろをついてきているあの生物に関する説明はないの? 黒い毛並みでやたらと口が尖っているんだけど。どう見てもペンギンなんだけど。

 

「ではこれから簡単にですが皆さんには自己紹介をしてもらいましょうか」

 

 新生活の最初のイベントとして自己紹介は避けられないものだ。俺がこのクラスメイトの前で自己紹介をすること自体は運命として受け入れている。何もおかしなことはない。普通だ。

 教卓周辺をペンギンが彷徨(うろつ)いていなければ、な。

 

「と、その前に皆さんにお知らせがあります」

 

 自己紹介の流れをぶった切って山田先生が豊満な胸を張る。

 

「実は織斑一夏くんの他にも男性操縦者が見つかったんです! そして彼はこの1組に入ることになりました!」

「え? 二人目の男がこの組に!?」

「織斑くんへの一極集中が避けられた。この争いは二分化されそうね」

「とりあえず男を抹殺したいですわ」

「ぜひともお近づきになりたい! ううん、織斑くんと近づいてるところをほんわかと眺めていたい!」

 

 山田先生の言葉でクラス内はにわかに騒がしくなる。一部不穏な声が聞こえたような気がしたけど……そっとしておこう。

 何はともあれ吉報だ。俺はこのクラスを男一人で過ごさなくていいことになる。少しだけ先の未来に希望を持つことが出来た。後少しで涙が出てきそうなくらいには俺は感激している。

 

「せんせー! その男子はいつ来るんですかー?」

 

 俺としてもそれは気になっている。早ければ早い方がいい。女子からの暴力的な視線をカットするためには男同士の空間でバリアを張るのが効果的なのだから、その連携をとるために早いところ仲良くなる必要はある。

 

「じゃあ、先に紹介しましょうか」

 

 山田先生の返答を理解するまで若干の時間を要した。

 

 Q.もう一人の男子はいつやってくるのか?

 A.今から紹介する。

 

 つまり、もう一人の男子はすぐ近くにいる。

 俺の視線は自然と廊下へと向いていた。しかし廊下には誰も立っている気配がない。

 

「ではよろしくお願いしますね、降雨亭(こううてい)くん」

 

 山田先生がそう言って声をかけたのはさっきから教室にいたペンギンだった。

 

「そいつかよ!? 男かもしれんけど人間じゃねぇ!」

 

 俺の叫びは教室中から総スルーされる。

 あれ、俺の方が変なのか? クラス内が静かすぎるし、山田先生から静かにしろという無言の圧力が感じられる。黙るしかない。

 教卓の上に飛び乗ったペンギンがその口を開く。

 

「我が名は降雨亭筆銀(ふでがね)。気軽に『陛下』と呼ぶが良い」

 

 喋ったぁ!? え、何なの、これ!? ペンギンって喋るものなのか!?

 周囲を見回す。クラスメイト一同はそれほど驚いていないようだ。こちらもかなりの謎だ。

 

「我から語るのは面倒だ。質問をするが良い」

 

 そう言われて質問するのは難しいんだけどな。まあ、このクラスは結構エネルギッシュな人材も集まっているようで質問者はすぐに現れる。

 

「どうして人の言葉を話せるんですか?」

 

 ナイスな質問だ。目に見えて驚いてなかったけど気になるのには変わらないってことか。クラス全体に動揺が見られないのはきっと優秀なIS学園生だからだろう。

 

「言葉はISから学んだ。発声もISを通じて行っている」

 

 ペンギンの発声器官で人間の言葉を喋られないからISを使っているということらしい。つまり、どう考えてもこのペンギンはISを使っているということになる。

 ISを使えるならこのペンギンがIS学園に入学するのはおかしくない。

 ……おかしくない? マジでか?

 

「降雨亭くんは男? 女?」

「男だ。でなければISを使えるというだけでこのような女の園に連れてこられるはずもない。あと、陛下と呼ぶが良い」

「ということはやっぱり男性操縦者! それも二人目!」

 

 なにやらガッツポーズを取っているクラスメイトがいるけど、訂正したい。

 奴が男性操縦者というのはあながち間違いではないかもしれないが、二人目ではないだろう。一羽目だ。

 

「陛下の具体的な種族は何なのー?」

「コウテイペンギンと呼ばれている。出身は南極だ」

 

 コウテイペンギンだから皇帝で陛下になるわけね。ってかさっきの落語家みたいな名前も降雨亭(こうてい)(pen)(ぎん)でしかねぇ!

 

 そんなこんなでペンギンの自己紹介時間が終わった。

 山田先生の言っていた男性操縦者はマジでこのペンギンのことらしい。念願の男だと言ってもちっとも嬉しくない。せめて喋らなければペット的な癒しにはなったかもしれないのに。

 

「じゃあ、どんどん自己紹介をしていきましょう。まずは織斑くんから」

「え、俺ですか?」

「やっぱり注目されてる人からの方が皆の頭に入りやすいですし」

 

 順番については山田先生の一存でしかないらしい。だったら俺が異を唱えるだけ無駄だから素直に立ち上がる。

 クラスの視線が一気に集まる。それこそさっきのペンギンと同じくらいには。

 

「俺は織斑一夏だ」

 

 さて、とりあえず名前は言ったけど、言うことを何も用意してないぞ。

 仕方ない。さっきのペンギンの真似をするのは癪だが同じ手を使おう。

 

「聞きたいことを質問してくれ。答えられることは答えるよ」

 

 これなら俺が内容を考える必要はないから楽だ。こういうときに質問がないとものすごく冷めた空気になるんだけど、喋るペンギンにすら平然と質問ができるこのクラスなら問題ない。セクハラな質問は無視すればいい。

 早速、一人の女子が挙手して質問を飛ばしてくる。

 

「どうして人の言葉を話せるんですか?」

「人だからだよっ!」

 

 どういう意図だよ、この質問!? 俺って人間扱いされてないの!? マジで動物園のパンダ扱い、もといIS学園のペンギン扱いされてね?

 え、何、この空気? どうして皆、若干引き気味なの?

 

「もしかして怒ってるのかな?」

「織斑くんって怖い感じ」

「やはり男は野蛮ですわね」

「日本男児として落ち着きが足りていない」

 

 誰のせいで大声出してると思ってるんだよ! そりゃ怒るよ! 初対面の人に『わぁ、日本語がお上手ですねー』って日本人が言われたら普通はバカにされてると思うだろ! それより遙かに酷い質問だっての!

 だが怖がられてるのは事実だ。落ち着け、俺。女の子を怯えさせるのは男として格好良くない。俺はIS業界においては元世界最強の織斑千冬の弟という立場だ。無様な姿を見せていては千冬姉に申し訳ないだろう。

 よし。抗議の声は飲み込んだ。今の俺は至極冷静だ。次の質問よ、来るがいい!

 

「織斑くんは男? 女?」

「女だったらここにはいないって。見た目通りの男だ」

 

 見てわからないのだろうか。別に俺、中性的な見た目ではないよなぁ。今まで間違われたことなんてないし、声変わりもすんでるのに。

 

「織斑くんの具体的な種族は何なのー?」

「人間じゃダメなんですかねぇ!」

 

 やっとわかった。コイツら、俺にさっきのペンギンと同じ質問をしてきてやがる。

 くそっ。これが女尊男卑の世の中って奴か。この自己紹介の時点で男の俺を全員でいびりに来てる。

 負けてたまるか。俺は織斑千冬の弟。まだ国家代表になっていない女子に膝を屈するわけにはいかない。

 結局、俺への質問はペンギンに対するものと全く同じだった。質問を受け付けずに何も言わなければ良かったと後悔している。

 

 全員の自己紹介が終わる。遅れている担任教師はHRが終わってもやってくることはなくて、そのまま山田先生が最初の授業を始めることとなった。

 

 

  ◆◇◆

 

 

 休み時間。俺の周りには寄ってたかってきたクラスメイトの女子で溢れてる……なんてことはなくて遠くからジロジロと見られていた。あの自己紹介で怖がらせたから近寄りがたいと思われてしまったのだろう。それでなくとも彼女たちにとって男は未知な存在で接し方がわからないのかもしれない。

 その証拠と言っていいものだろうか。例のペンギンにも誰も近寄ろうとしていない。それこそ水族館のペンギンと同じくらい注目だけは集めているが話しかけようとする勇者は誰もいなかった。やっぱり『喋るペンギンがあなたたちのクラスメイトです』とか言われてもすぐには受け入れられないよな。

 と思っていたら1人だけペンギンに近寄っていく。このクラスの中で唯一俺が知っている顔だ。

 

「ちょっといいか?」

 

 彼女は俺の幼馴染み、篠ノ之箒。6年前まで家同士が近かったから家族ぐるみの付き合いをしていた。見ない間に女性らしく成長していて、文句なしの美人になったと思う。

 箒はあのペンギンを廊下に連れ出していった。何やら教室では話せないことを話そうとしているらしい。

 

 ……しかし何だろう。この胸のモヤモヤは。

 この四面楚歌な教室の中で唯一の知り合いが俺に話しかけてきてくれないのがショックなのか。うん、たぶんそうだ。

 

「ねぇ、織斑くん。ちょっと話をしてもいいかな?」

 

 少し黄昏ていると後ろの席から声をかけられた。真後ろの席のメガネをかけた子の名前はえーと…………

 とにかく、メガネ女子に声をかけられた。

 

「いいぜ。遠慮はいらない」

 

 早くも孤立気味だった俺にとって嬉しい救いの手だった。俺の方から動きづらかったからこういう気遣いは本当に助かる。四面楚歌だと思ってたけど俺の勘違いだったんだな。

 

「織斑くんの故郷の話を聞きたいと思って」

「俺の故郷? いいけど、そんな変わった話はできないと思うぞ」

 

 メガネ女子も日本人だ。国際色豊かなIS学園で日本人同士が故郷の話をしてもそれほど目立った違いはないと思う。

 ……だなんて真面目に考えた俺がバカだった。

 

「そんなことないよー。南極の話なんて普段聞かないし」

「俺はペンギンじゃねえ!」

 

 何なの、この女子? 俺に南極要素なんて欠片もないだろ!

 俺とメガネ女子の話に誘われて他の女子まで寄ってきた。

 

「好きな食べ物は? イワシ? アジ?」

「丸飲み前提の魚をチョイスしてくるなよ!」

「日本の夏は暑いから覚悟しておきなよー」

「知ってるよ! 俺はずっと日本育ちだっての!」

「織斑くんって空中戦より水中戦の方が得意そうだよね」

「俺の泳ぎは良く悪くも人並みだ! いいか! “人”並みだぞ!」

「くちばしは整形手術かなんかで取ったの?」

「生まれてこの方顔をいじってないし、くちばしなんて最初っからない!」

 

 なんでコイツら俺をペンギン扱いしてくんの? もしかして男と関わりがなさすぎて男=ペンギンだとでも勘違いしてんの!?

 このタイミングでチャイムが鳴る。群がってきていた女子連中は大人しく自分たちの席へと帰って行った。もちろん俺の扱いを訂正してくれることはなかった。

 ……ああ、中学時代に帰りたい。何が悲しくてクラスメイトにペンギン扱いされなくてはならないのか。

 

 廊下からは箒が帰ってきた。見るからに不機嫌になっている。あのペンギンと何かあったのだろうか。

 様子を見守っていると箒と目が合う。ギロリと睨まれた。すごく怖い。

 味方は誰もいないのか。

 次の授業が始まる時間となって先生がやってきた。今度は山田先生だけでなく担任教師もようやく姿を見せる。

 

「あ……ああ……」

 

 どうしよう。あまりにも感激して涙が出そう。

 山田先生の後ろから姿を見せたのは俺がよく知ってる人。文武両道の才女で凛々しい目つきが俺の誇りにもなっている――

 千冬姉だ。千冬姉がこのクラスの担任だったんだ!

 俺は席を立って千冬姉に駆け寄る。

 

「千冬姉ェ!」

「織斑先生と呼べ、馬鹿者!」

 

 俺の頭に出席簿が振り下ろされる。ものすごく痛い。

 

「席に着け、織斑」

「すみません、織斑先生」

 

 涙目になって自分の席に戻る。姉弟の久しぶりの再会なんだから少し優しくしてくれてもいいじゃないか。もう今の俺はペンギンのせいで精神的にボロボロなんだよ。

 でも厳しい扱いはされていても千冬姉は俺を一夏として見てくれている。ペンギン扱いされないってだけでかなり気が楽になった。

 

 

  ◆◇◆

 

 

 一日目の授業が終わった。山田先生から受け取った鍵を持って学生寮に向かう。寮の中は基本的に2人部屋となっているらしいが俺の相部屋の人なんているはずもない。俺は自分一人の部屋であるはずの部屋の鍵を開けて中に入る。

 

「おお! ここ、本当に高校の寮か!?」

 

 視界に飛び込んできた景色は豪華絢爛の一言。ベッドや照明、その他家具や壁に至るまで一流のホテルと言わんばかりである。

 自宅の自室よりも広い2人部屋をこれからしばらくの間、俺が1人で使うことになるのか。女子ばかりの学校生活、1人部屋であるこの空間だけが俺の癒しになるんだろう。

 

 だがここでふと異変に気づく。

 

「シャワールームに明かりが点いてる……?」

 

 部屋ごとにシャワールームがあるなんてのは驚くべきところじゃない。IS学園とはそういう場所だ。

 今問題とすべきは俺の部屋であるはずの場所でシャワールームを使う何者かがいること。明かりが点いてるだけじゃなくて水音も聞こえている。消し忘れの類でないことは明白。

 水音が止んだ。

 中で戸が開く音がする。

 

 このままこの部屋にいるとマズいことになる。そう頭では理解していてもすぐに動くことはできなかった。

 俺だって健全な高校生男子だ。今の状況がもしかしたらラッキースケベにつながるかもしれないという期待を持ってしまうさ。女子ばかりで辟易していてもそこだけは変わらないんだよ。

 そして、いよいよ脱衣所の戸も開けられる。

 

「ふむ、同室の者か。これからよろしく頼む」

 

 出てきたのはコウテイペンギンだった。

 

「お前かよっ!」

「ほほう。我でなければ誰だと思ったのだ? 正直に述べてみよ」

「ぐぬっ――」

 

 邪な考えをしていた俺は何も言えなくなった。ペンギンの表情なんてわからないがどうやらニヤニヤと笑っているらしい。

 

「思春期の男ならば仕方があるまい。恥じることはないぞ、少年」

「何のことだよ?」

「都合良く女子がルームメイトだと思っていたのであろう? お主の置かれた特異な状況を鑑みればそれくらいの役得はあっても不思議ではない、と考えるのも無理はなかろうて」

「その通りだけど、お前に見透かされてるのはめっちゃ腹立つ! あと、特異な存在でお前の右に出る奴はいねえ!」

 

 自分で言っていてなんだけど、今の俺の存在はかなり霞んでしまっている。世界初の男性操縦者なんかよりもペンギンがISを動かしたことの方がニュースとしてのインパクトが勝るし、今後のIS研究にも役立つと思われていても仕方がない。

 今日のクラスメイトの反応も無理はない……だなんて絶対に思わないけど、ペンギンの方が注目されて当たり前なんだよな。

 

 シャワーを浴び終えたペンギンはとてとてと窓際のベッドにまで移動した。

 俺と相談する前からベッドを決めてやがった。ってかコイツ、ベッドで寝るのかよ。

 ペンギンはベッドの上でゴロゴロしている。自分の方から俺と会話する気はないらしい。このまま黙っているのは俺の方が気が持たない。

 何か話題はないか……そうだ!

 

「そういえば、ペンギン」

「なんだ、人間?」

「お前って箒と知り合いなのか?」

「箒? 知らぬ名だ」

 

 あれ? それはおかしくないか?

 

「休み時間に箒に連れられて廊下に出てったときがあったろ?」

「ああ、あの妙な娘か」

「妙?」

「初対面の我に向かって『6年ぶりだ』とか(のたま)ったのだ。奇妙以外の何者でもないだろう」

 

 考えること数秒。俺の中で一つの答えが出た。

 

「箒まで俺とペンギンをごっちゃにしてるのかよォ!」

 

 やべぇ……今日一番のショックだ。俺の頬を伝ってる液体は間違いなく涙だと断言できる。我慢するつもりはなかった。

 

「『お主は何者だ?』と問いかけたのだが、なぜか我を睨みつけて立ち去ってしまった。非礼があったのなら詫びなくてはならないのだが理由が我にはわからん。困ったものだ」

 

 お前は悪くないぞ、ペンギン。きっとこの世界が悪いんだ。

 

「あ、そうそう。たまに『織斑くん』と呼びかけられたので代わりに返事をしておいた」

 

 ん? どういうこと?

 

「我も男だ。彼女らの過激なスキンシップには逆らえぬ。我に前尻尾がないことがこれほど悔しいとは思わなんだ」

「待て。お前は何をした? しかもそれって俺だと思われてるんだよな?」

 

 携帯がメールの着信を告げる。ただちに確認すると差出人は千冬姉。

 

『すぐに寮長室に来い。家族会議を始める』

 

 前言撤回。この畜生ペンギン、俺名義でセクハラして回ってやがった!

 ってかなんでペンギンが俺に成り代われるんだよ! 気付けよ! 頭、おかしいだろ!

 

「これからよろしく頼むぞ、人間」

「ただの身代わりとしてだよな、このクソペンギン!」

 

 諸君はペンギンが好きだろうか?

 

 俺は大っ嫌いだ。




ボツ原稿の供養。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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