MAD MAX 怒りのデス・ゲーム   作:AMDer

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1話

世界が崩壊し

「鈴木君、聞いているのかね」

誰もがおかしくなった。

「何度同じミスをしたらわかるんだ」

狂ってるのはどっちだ。

「今月に入ってもう3度目だぞ」

世界か。

「どうかしてるんじゃないか」

俺か。

「スンマセン、気分がすぐれないので帰ります」

 

MAD MAX 怒りのデス・ゲーム

 

「フォォオオオオオオオオ!!」

たった今、ケツを掘ってやった車が減速しきれずに、進路上の岩へと突っ込み派手な爆炎を上げた。バックミラー越しに見えるそれは、下手な花火よりも心躍る憧憬であり、思わず歓声をあげてしまう。こんな砂だらけの世界でも、このためだけにバックミラーだけはいつもピカピカにしている。

 

俺は今、VRMMO『FURY LOAD』をプレイしている。VRMMOといえば軟弱な連中は羽とか生やしてキャッキャウフフしてるみたいだが、俺はここがいい。ここが好きだ。肌を焼く日差し。見渡す限りの荒野。生命の感じられない大地に一人放り出されたときの孤独感は、リアルのそれとは違って実に心地がいい。そしてこれだ。

『FURY LOAD』にはいくつかのゲームモード、ルールが存在する。勿論ルール無しのフリーダムもしょっちゅうだ。だが、今やってる『デス・ロード』には明確なルールが存在する。いやルールとすら呼べないかもしれない。何故なら目的地だけ設定してあって、あとはやりたい放題だ。そこにちょっとした制限(スパイス)が加わる程度、その制限とは燃料だ。このゲームが開始した時点で燃料は目的地までもたない程度に減らされる。じゃあ、どうやって目的地に行くのかって?そりゃ勿論奪うのさ。

 

「ハッハー!、あとはなめプでもゴールは頂きだな!」

ガソリンの目盛りがドンドン上がると同時に俺の頭も沸騰し、ハンドルに頭を叩きつけご機嫌にクラクションを鳴らす。それから車を自動運転にして窓から身を乗り出す。

 

燃料であるガソリンの補給は他の車またはプレイヤーを潰すことによって補給される。それ以外の補給方法はない。ざっとゲームに参加した半数以上はゴールにすら辿り着けない。独走でぶっちぎりしようものなら、途中でガス欠を起こして、後ろから来る連中に蜂の巣にされるだけだ。

 

「カマ野郎どもー!、ママのおっぱいはここだぜー、ヘヘヘ」

「ヤロー!待ってろ、てめえのその汚え口にナニ突っ込んで歯磨いてやっからよ!」

身を乗り出して胸を揉む素振りで挑発してやるが、相手の見事な返しに大爆笑する。車に戻るとステレオを操作し、BUCK CHERRYを流す。やつらへの鎮魂歌だ。後ろを見ると真っ赤なボディーの先端に太い杭がついた、自己主張の激しいアメ車がつけてきているのに気付いた。よく見るとホイールにも鋭いスパイクを打ち込んであり近づけないようにしてある。これでは迂闊に横からアタックもかけらない。もっとも既に対策も出回っている枯れた装備だ。少しハンドルを横に切りスピードを落とす。そしてやつが俺の横に着けようとした瞬間すかさず"アタック"をする。思いっきりだ。

「ジャストフィットだ」

こちらの後輪にアメ車の前輪のスパイクがガッチリと食い込み、ホールド、直結状態となる。

「本日はマックス交通をご利用いただきありがとうございます」

そういいながら、シートベルトを締める。

「当車は間もなく、急ブレーキを踏みます。ご利用のお客様はシートベルトを着用し、衝撃にお備えください」

言い終わるとすかさずブレーキを踏み込む。

 

このゲームには多くのパラメータやスキルが設定されている。その種類は大きく分けて3つ。車体、武装、肉体。俺はその中でも車体のポピュラーなスキル、”殺人ブレーキ”を発動する。その能力は急制動、絶対安定。

 

身体にすさまじいGが襲い掛かる。急に前輪がロックされ、アメ車のやつはケツを上げて喜びのあまり転げまわる。絶対安定によりピクリとも動かない俺の車からスパイクが引き剥がされて吹っ飛ぶさまは、さながらフレンチキスの最中に引き離されたヒステリックな女のようだ。奴がまき散らす砂塵が、Gに耐えて汗の浮かぶ俺の肌を叩きつける。目の前でスクラップとなったクソ野郎を見て思わず頬が緩む。

「俺は生きてる」

そうつぶやき、ギアを操作して車を発進させる。

 

あのあとは特に何事もなく目的地まで着いた。結果は1位。もっとも順位自体にはさほど意味がない。ゴールした時点でそれなりの報酬が約束されており、それにキル数に応じて報奨が出る。それを元手に車の改造などを行っていくのだ。

ああ、その目的地はあれだ、あのでかい町。このゲームで最大の規模を誇る都市にして最初の街”デトロイト”。ひねりも何もないクソみたいなネーミングのこの町には大体のやつが毎日顔を出す。それは何故か。ログインボーナスのためだ。

「ちっ、あの野郎、あんだけふかしといてクソみたいなボーナスだったら、今日こそ捻りつぶしてやる」

普通ログインボーナスはログインした時点で手に入るんじゃ?ああ、普通ならそうだろう。だが、あの野郎曰く

『ログインしただけで手に入るとか、ありがたみが無さすぎる。少し苦労しろ。そしてこの俺様を敬え』

だ、そうだ。おかげでこの街で一日に一回、しかも時間指定でやつのところまでいかないといけない。くそったれが。

 

降車スペースに着くと車を降り、格納する。格納といっても個々のガレージにここから転送される。この街のプレイヤーが全員、車を駐車していたら町のほとんどのスペースが駐車スペースになっちまう。車を転送するとアイテムリストから桶を出す。ログインボーナスは水なのだ。このゲームで水は貴重だ。俺らプレーヤーにも空腹度が設定されているし、車を走らせるのにも必要だ。そしてその供給をやつが意図的に絞ってやがる。あの野郎曰く

『ログインボーナスの内容がどうでもいいやつとか、ありがたみが無さすぎる。もらえるものは貴重なものの方が嬉しいだろう。そしてこの俺様を敬え』

だそうだ。大層な水門をこしらえてるくせに、ひどいときは水風船を投げてきやがった。くそったれが。

 

受け取り場所の広場につくと人でごった返していた。

「おい!、イモータン・ショウ!ファン大感謝祭で大盤振る舞いとか抜かしてたが、ちゃんと足りるんだろうなー!」

おそらく、この場にいる全員の気持ちを代弁しているだろう野次が聞こえる。しばらくしてやつが水門の上に現れる。

「いいかーお前ら。水は飲んでも呑まれるな。これぞイモータン・ジョーク。なんつって」

「能書きはいいからとっとと水門開けろー!」

「てめえの息はマスク越しでもくせえんだよー!」

尻ごみしたやつは、おずおずと水門を開ける。

「おお、水だー」

「ヒャッハー」

桶を掲げた無法者どもが歓喜の声を上げる。やつは水門を開けたらそそくさと退場していった。皆がホクホク顔で手に入れた水をアイテムリストに格納していく。しかし、ほとんどのやつがボーナスを受け取っても帰ろうともしない。しばらくするとある男とクソをのっけたようなモヒカン頭の男が出てきた。

「ヒューマンカズより諸君に挨拶がある」

広場は一瞬にして静寂に包まれる。

「偉大なるヒューマンカズ、荒野の勇敢なる戦士、ロックンローラの最高指導者ーっ!!」

大仰な手振りでもったいぶるクソ男に誰も文句を言わない。ヒューマンカズが居るからだ。荒野の勇敢なる戦士、ロックンローラの最高指導者。このゲームにおいて広告塔であり、絶対的な存在。そして圧倒的なカリスマであるヒューマンカズ。群衆の中にはたまらずV8サインをするものまでいる。イモータン・ショウの羽振りがいいときは大抵、彼が何かしらのイベントの告知を行うのが定番となっていた。ヒューマンカズがマイクを手に取り演説を始める。

「リアルには失望した。おかげでこのゲームにこもる毎日だ。見ろお前たちの周りを、社会の身勝手に振り回されたあげくここに放り出された者たちだ。その挙句に今朝、会社に運営差し止めの通知が来た。反社会的だからだそうだ」

ヒューマンカズの演説を皆が黙って聞いている。その内容にカズと同じく怒りに身を震わせているものも居る。俺自身、動悸がはげしくなってきた。

「自分たちの視野で物事を判断して、俺達の居場所を奪おうなんて勝手すぎる」

「そうだー」

「奴等をぶちのめしてやる」

同意する声がそこここで起こる。

「そこで抗議のデス・ゲームを行うことにした。すでにお前らはログアウトもできない」

その言葉に広場がまたも静寂に包まれる。しかし一瞬間をおき

「うおおーっしゃー!!」

歓声が沸き起こる。

「期間は」

「今度こそてめえをぶち殺す」

「明日より3日間」

「てめえの顔もこれで見納めとは胸がスースーするぜ」

「場所は」

「借りは返してもらう。てめえのタマでな」

「本当に人殺せるのかよー、俺このゲームやってて良かったー」

ヒューマンカズが詳しい日程などを説明しているが、誰も聞いていない。旧友との仲を深めている者も多数いる。

「静まれ、辞めるんだ!」

ヒューマンカズの怒鳴り声に皆が話を辞める。

「いいかこのデス・ゲームは抗議の意味があっても、FURY LOADを生きながらえさせるためではない。血の出ないFURY LOADをしたいものがいるか?四肢が飛び散らない死体を見たいものが居るか?村人もひき殺せない車を運転したいものはいるか?いいか、このデス・ゲームはFURY LOADを殺すためでもあるのだ。そしてお前たちには死に場所も用意した。生き残る手段も用意した。死にゆくものはよく死ね。生きるものは本能に従え」

そう言い残すとヒューマンカズはその場を辞した。広場にはV8サインをし黙祷をささげる群衆のみが残された。

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