後に残された私達の間には気まずい雰囲気が流れていた。
「……どうしてあそこで見逃したんですか? あのエアウルフ、いつか復讐に来るかもしれないのに」
彼女は言葉に険を隠さなかった。が、それで怯むほど軟弱ではない私は肩をすくめてみせた。
私があのエアウルフを見逃したのは、あの獣が可哀そうだとかいう甘い理由ではもちろんない。
追いつめられた獣ほど、怖いものはないのだ。
あれは確か2年前だったか、アマゾンの奥地で巨大なアナコンダと戦わざるを得なかった時だ。全長10mにも及ぶその大蛇は、恐るべきスピードで私を追いかけてきた。私は仕方なく手にしていた銃でその顔面を撃った。
蛇はエアウルフと同じようにのたうちまわり、所構わず体をぶつけた。私はその姿を見ているのが忍びなかったので、射撃の腕がよくない私は、確実にとどめの一発を撃ち込むために近付いた。
その判断は間違いだった。
いつの間にか背後に回り込んでいた蛇の尻尾に打たれ、蛇は意識が朦朧とした私に巻き付き、一気に締め上げたのだ。
あの時、近くにいた部族の者が助けてくれなければ、今頃私は墓の下だったろう。
その時の教訓が『手負いの獣に近づくな』というものだ。
私はそのことを彼女に告げた。本当に必要な時以外、殺そうとすべきではないと言外に含ませて。
「なるほど、確かに言うことは一理ありますね。それも経験からくる言葉ならより信用できます」
うん、うん、と頷きつつ納得してくれた。とりあえずあの黒いオーラをもう一度見ることが無くてほっとしている。
「それにしても戦い慣れてましたね。どこか軍隊にでも所属してたんですか?」
今までの冒険の成果だ、と言っておいた。本当はそれだけではないのだが。
「そうなんですか……でも、なんというか。あなたと一緒に戦っていると凄く動きやすかったです。まるで体がもう一個増えたみたい」
それは私も感じたことだ。あのアイコンタクトの時、自然と前衛後衛に分かれられた。それぞれの得意分野を考えれば当然なのだが、あの時はそもそも自分たちの戦闘スタイルを教え合っていなかった。それなのにあれだけの動きができたのは不思議であった。どうしてだろうと考えていると、
「私達って意外と……相性がいいのかもしれませんね」
ウインクしながらそう言われてしまった。
他意はないのだろうが、そんな容姿と態度で言われてしまったら男はみんな勘違いしてしまうのではないかと私は思った。
意識してやっているのか、それとも天然なのか。先の出来事のせいで判断がつかなかった(もっとも、先の出来事がなければ、勘違いしていただろうが)。