一連の騒動が収束し、ようやく一息ついた時には、もう日が暮れていた。
「さて、これからどうするんですか?」
とりあえず今歩いてきた道を地図に書き込んでいると、彼女が聞いてきたので、どうするも何も、とりあえずは「ミストラル」に行くつもりだと答えた。
「『ミストラル』ですか……ここからだと二日は歩かないといけませんよ?」
やはりこの世界の地図はアバウトだと感じた。もしかしたら測量技術も発達していないのかもしれない。ある程度学問が発達して初めて利用させる技術なので、技術が未発達なこの世界では仕方ないのかもしれない。
「とりあえず今日は『ボーラ』に行きませんか?私の家もありますから、歓迎しますよ!」
それは有難かった。野宿に慣れているとはいえ、やはりしっかりとした建物の中で寝られるのは安心感が違う。野宿をすると、どうしても野生の動物に対して警戒しなければならない。しかも天界では、夜になると魔物たちが凶暴になり、より一層の警戒を必要とする。その上、火を恐れない魔物がいるので、焚き火をしていればひとまず安心というわけでもない。むしろ、自分の居場所を教えているようなものだ。
その他もろもろの理由で近くに町があるのなら迷わず行きたいのである。その時の私の心境も似たようなものであったので、二つ返事で提案を受けることにした。
「決まりですね。今日はごちそうを用意しましょう!」
不意に背筋に冷たいものが走った。
……なぜだろう、私は思った。彼女がご馳走を用意すると言った瞬間、先ほどのエアウルフに襲われた時と同じ悪寒がしたのだ。
「?どうかしました?」
幸いにも彼女には気づかれていないようだった。私は長年培ってきた勘を信じ、彼女の説得を試みた。今日はいろいろあって疲れているだろうから、食事は店で取ろうと、そう言った。
「あ、大丈夫ですよ。私これでも体力に自信ありますから!帰って料理を作るくらいなんともないです」
一晩世話になるのに、それ以上負担をかけたくはない、食事代は私が持つから店で食事をとろう、と言った。
「そんな、奢ってもらうなんて悪いですよ。あなたはお客さんなんですから、遠慮なんてしなくていいんですよ」
……説得は無理なようだった。私の悪寒は所詮勘であるし、そもそも彼女の厚意を無碍にするわけにもいかないので、折角だからと彼女のもてなしを受けることにした。
振り返ってみるに、私はなぜこの時粘らなかったのだろう。後に悔いると書いて後悔。先に立たないのが恨めしい。