地上探検家の天界探訪記   作:ぞなむす

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小説家になろうのほうで「アリステア王国存亡記」という小説を書いています。よろしければそちらもご覧ください。


一日目:魔法

 購入した荷物を置きに一度宿に戻った後、また街を散策していると見慣れない看板の店があった。

 

 入ってみると、まず感じたのは独特のニオイだった。香草や乾物、中には何かの死骸の臭いも混じっているのもわかったが、多種多様の臭いによってそれ以上のことはわからなかった。

 

 店内は小さい窓から取り入れられるわずかな光のみで満ちていた。そんな中でも、彩り鮮やかな宝石のようなものや、気味の悪い骨董品のような物が置かれているのが見て取れた。

 

 どうやらここが噂に聞く『魔法屋』なのだろう。

 

 魔法屋とは読んで字のごとく、魔法に関する物を扱う店である。魔導書から呪物まで、少しでも魔法に関わるものならば全てこういった店に置かれているそうだ。

 

「いらっしゃい、何が欲しいんだい?」

 

 物珍しさにあちこち見ていると、奥にいた老婆が声をかけてきた。どうやらこの店の主らしい。

 

 歳はいくつだろうか、顔には深いしわが刻まれており、羽も艶を失っているようなに見えた。

 

 私は興味本位で入っただけなので、特段買いたいものがあるわけでもなかった。それを素直に老婆に伝えると、彼女は私を頭のてっぺんからつま先までじろりと眺めて、

 

「……この本を読んでみな。特別に500Gで売ってやるよ」

 

 と言った。

 

 Gというのは「ゴールド」と読み、この世界の体外の場所で使える通貨である。ちなみに、この時の相場は「50円=1G」であり、つまりこの本は日本円にして2万5千円もするという。

 

 流石にそれだけのものを衝動で買うだけの余裕はなかった。しかし無碍に断るというのも躊躇われたので、中を少し見てから決めることにした。

 

 美しい刺繍が施された表紙をめくると、得体の知れない文字が記されていた。

 

 私は天界に来るにあたって、ある程度こちらの言語は学んできたつもりだった。しかし、こんな表記は見たことが無い。

 

 老婆は私の困惑を表情から読み取ったのか、

 

「それはルーン文字だよ。その文字に含まれる意味を知り、正しく理解することで魔法が使えるようになるのさ」

 

 ルーン文字。私は前述したとおり子の文字に全く見覚えが無く、なんと読むのか皆目見当も付かなかった。しかしどうだろう、読めもしないのに意味だけが頭に流れ込んでくるではないか。

 

 私はまだその本を購入してもないというのに、しばらく夢中になって読みふけった。

 

 やがて一つの章を読み終えた時、体の中に力が巡るのを感じた。今までに感じたことの無い感覚に悶えながらも、私の口は勝手に、口笛でも吹く程度の感覚で文字を流した。

 

 

 

 それはルーン。

 

 

 

 気付けば、私の手から風が吹き、目の前にあったなにかの骨でできた置物を吹き飛ばしていた。

 

 私は驚きで頭が一瞬真っ白になってしまった。しばらくしてようやく一つの実感を伴う確証を得た。これが『魔法』なのだと。

 

「そう、それが魔法だよ」

 

 老婆はにたりと笑みながら短く言葉を紡いだ。すると、先ほど私が吹き飛ばし破壊した骨の置物がみるみるうちに修復されていく。これもやはり魔法なのだろう、なんとなく力の流れのようなものを感じることができた。

 

 新たに生まれた感覚、視覚聴覚嗅覚触覚味覚のどれをも超越した、第六感とも違うそれに戸惑っていると、老婆が一枚の紙切れを投げてよこした。

 

「その力はきっとあんたの助けになるよ」

 

 彼女はそう言うと、部屋の闇に紛れて消えた。いや、まだそこにいたのかもしれないが、少なくとも肉眼では確認できなくなってしまった。

 

 私は部屋の闇に一礼をして、本の代金を置いてその店を後にすることにした。

 

 その後、特に物珍しい光景に出くわすこともなく、宿に戻った。

 

 荷物を整理しながら今日の出来事を反芻する。まさか私が魔法を使うことになろうとは思いもよらなかった。

 

 老婆のよこした紙切れを見る。それによれば知識を得て、鍛錬すればもっと大きく様々な力が使えるとのことらしい。

 

 しかし私は勉学のほうはあまり芳しくなく、加えて鍛錬する時間も惜しいので、時間があれば魔道書を読み返すにとどめることにした。

 

 それから私は明日の準備を整え終えると、質素なベッドに体を横たえた。

 

 さて、明日からいよいよ天界探検が始まるのだ。私は胸を期待に踊らせながら眠りについた。

 

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