西暦2032年9月23日、天界暦1531年火の月第13日
カーテンの隙間から陽光が差し込み、朝の訪れを告げる。自然の呼びかけに答え目覚めた目は、寝起きとは思えないほど冴えていた。
それはそうだろう、今日から私の冒険が始まるのだ。
未知との出会いを前にして心が震えない人間はいないだろう。人に備わる知的探究心はそう易々とは抗えないものだ。
着替えを済ませ、きしむ廊下を歩いて階段に向かう、その動作さえわずらわしく思えた。一刻も早く冒険に出発したかった。
だが、飯を食わねばなんとやら。私は一階に併設された酒場で軽い朝食を頼んだ。
出てきたのは、地上世界を旅した私でさえも見たことの無い料理であった(まぁ、当然といえば当然なのだが)。
パンのようなものにトカゲのような生き物の姿焼き、そしてとろりとした真っ黒なスープ。これはなんなのかと店主に問うと、どうもこの地方ではよく食べられている朝食らしい。恐る恐るそれらを口に運ぶと、意外にも美味であった。
朝食を済ませた私は部屋に戻り、荷物をまとめた。といっても、リュックサックに最低限外に出してあった物を詰め込むだけなのでさほど時間はかからなかった。
期待と不安が入り混じるこの独特の感覚はいまだに飽きることがない。そういった点でも私は探検家に向いているのだろう。
宿の店主に別れを告げ、針路を北に取った。
天界は人間界のように町と町を繋ぐ道路が舗装されているということは無く、あってもせいぜい石畳ぐらいである。酷い場所では、道が途中で途切れていて、見渡す限りに草原が広がっている。
また、天界には正確な地図が存在しない。正確な距離を測る術が開発されていないためである。
別に私にとってはさほど苦という訳ではない。様々な遺跡を探検した私にとってこの程度の道は難なく渡っていけるし、方位磁針と適当な地図を合わせれば寸分の狂いも無く街に辿り着けるので問題は無い。
しかし、そういったスキルの無い一般の市民は、お互い大体の場所しか分からないので、毎年行方不明者が後を絶たないそうである。
そこで今回の旅の目的の一つに『地図の製作』がある。正確な距離を図ることは出来なくとも、私には世界を渡り歩いてきた経験がある。自分の歩幅の正確さは知っているし、方角を知るためのコンパスも、辺りを見回すだけでだいたいの距離、勾配を知ることが出来るだけの目もある。
そんな適当な物でも、あるとないとではまた随分と違ってくるだろう。本当に正確な地図は測量士にでも任せればいい。