西暦2032年9月24日、天界暦1531年火の月第14日
朝、私はやわらかな陽の光で目を覚ました。
すがすがしい朝であった。空気は澄み渡り、草木や土のにおいが意識の覚醒を促しくれる、そんな朝であった。
だというのに私の寝起きは最悪だった。いまだに自分の不用心さを悔いていたのだ。
私はあまり過ぎてしまったことを引きずらない性質なのだが、そう言っていられない時もある。
なんせ自分の命の危機に直結するのだから。
……だがいつまでも引きずっていても仕方がないのも事実である。いくら悩んだところで手持ちの道具が増えるわけではないし、少年漫画の如くいきなり強くなったりもしない。
どんな事態に遭遇したとて今ある全ての中で対処しなければならないのだ。そう割り切ることにした。
そうと決まればさっさと支度をしてしまおう。幾分か軽くなった心持ちで朝食をとった。
昨夜眠ったところから数時間ほど歩くと、それなりに大きな川に着いた。
幅は大体50メートルくらい、深さは一番深い所でも1メートルもなく、ほとんどが30センチくらいであったし、流れもそれほど速くなかった。川縁には小魚が泳いでおり、きれいな水であることが分かった。普通なら歩いて渡りきれるだろう。
そう、普通の川ならば。
ここは天界。このような川にも得体のしれない生き物が住んでいるかもしれない。私は思った。昨日の一件で学んだ私は、この世界が油断ならないものであることを理解していた。
ならばそのまま川に入り渡る愚は犯すまいと辺りを見回した。
そこで都合よく人が見つかれば良かったのだが、あいにくそんな都合のいいことは起きるはずもなく。結局は自力で調査せねばならなかった。
まずしなければならないこと、それは観察である。人体で最も鋭敏な知覚器官は視覚であるといわれている。故にどんな物事もまず見なければおぼろげにしかわからない。
川をじっと見た。川縁から川の中央まで、浅い所も深い所も余す所なく観尽くした。が、特に異常は見られなかった。
次に河原にあった石を投げ込んでみた。
ひゅーん、ぽちゃ。……ざっぱーん!
……唖然とせざるを得なかった。川の中央付近に石を投げ込んだら、明らかに全長3メートルはあるナマズが出てきたのだから。
いや、あれはナマズと言ってよいのだろうか?形こそはナマズに似ていたが、あんな生物は少なくとも地球上には存在しなかったはずだ。
捕獲して調査してみたいとも思ったが、さすがに自重しておいた。私の危機感知が、こっちの命がいくつあっても足りないと警報を鳴らしていたからだ。第一、私の本業は遺跡調査であって生態調査ではない。
さて、そうはいっても目の前の問題は依然としてあるわけで、とりあえずは近くの橋を探してみることにした。
しかし今立っているところから見える範囲で橋は見つからなかった。だから私はとりあえず下流に向かって歩くことにした(こういった川の上流は高確率で森林となっているので)。