私はすかさず体勢を立て直し、彼女を後ろに庇った。いくら体調が悪いといっても女性を盾にするほど私は礼儀を欠いてはいない。そうしてから彼女に注意を促した。
「え? あ!?」
私が声をかけたことでやっと気がついたようだった。彼女も体勢を整えた。
「気を付けてください。あれは『エアウルフ』といって、下級の魔物ながら風の魔法を行使する厄介な相手です」
幸いにも相手は一匹しかいないようですが、と彼女は呟いた。
エアウルフ、後で聞いた話だが、彼女の言った通り風の魔法を使う下級魔物である。全長はおよそ1.5mにおよび、その生態はほとんど狼と同じで、一匹のボスを中心に2,30匹で集団を作る魔物である。一匹一匹の強さはさほどでもないが、集団で現れた時は非常に厄介な存在と成りうる。ボスのもとで統制された動きを見せ、見事なコンビネーションで獲物を狩る。時には中級の魔物でさえ餌となるほどそのコンビネーションは凄まじく、一人のときはなるべく接触を避けたほうがよいとのことだ。
しかし今回は、こちらが二人であり、かつ相手のエアウルフは一匹だ。周りに仲間がいる様子もなかったし、恐らく集団からはぐれたのだろう。
だからといって油断できる相手ではない。できる限り無傷で仕留めたいものだ。
私と彼女はアイコンタクトをとり、私が自然と前に出て、彼女は後ろに下がった。前衛、後衛の立ち位置だった。私と彼女は今日会ったばかりなのに、まるで幾度も共に戦った戦友のように自分の役目を把握した。
私はサラマンドラを右手で逆手に持ち、左手を柄頭に添える構えをとった。彼女もまた、いつでも魔法を発動できるように、両手を前に突き出す構えをとった。
エアウルフが雄叫びを上げると、風の刃を生み出された。私は身を低くして避け、エアウルフに向かって駆けた。
エアウルフはサラマンドラから出る炎に怯えもせず、更に風の刃を生み出そうと雄叫びを上げようとした。しかし、その動作を読んでいたフローラが牽制に氷の刃を生み出し、エアウルフに放った。エアウルフは予想していなかったのだろう、突然の攻撃に驚き、体勢を崩しながらも回避した。
当然、私はその隙を見逃さなかった。右の足で深く踏み込み、体勢の崩れたエアウルフに、体のひねりを加えた一閃を放った。
私のナイフはエアウルフの目を深く抉り込み、両の目を潰した。あまりの激痛にエアウルフは悲鳴を上げ、のたうちまわった。フローラが追撃をかけようとしたが、私がフローラとエアウルフの間に入り、エアウルフから目を離さぬように後ろに下がった。
「ちょっと! 邪魔です、どいてください!!」
私は了承できなかった。ここは止めをさす場面ではないと判断した。
だから私は言った。これ以上私達に危害を加えないのならば見逃してやる、と。
言葉が通じるわけではないが、人間は言葉に出すことで、言葉に出した通りの雰囲気を纏うことができる。殺すと言えば殺気が伝わるように。
その雰囲気を察知したのか、はたまた本能で私達に勝てないことを悟ったのか、エアウルフは一目散に逃げ出した。